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Home > ニュース・海外> 電話もAIが代行。米Penskeが実証した「自律型」の衝撃と実利
ニュース・海外 2026年1月15日

電話もAIが代行。米Penskeが実証した「自律型」の衝撃と実利

Penske Logistics is moving from AI experimentation to execution

「AIで物流を変える」という言葉は、もはや聞き飽きたという方も多いかもしれません。しかし、米国の物流最前線では、そのフェーズが明確に「実験(Experimentation)」から「実行(Execution)」へと移行しています。

その象徴的な出来事が、米物流大手Penske Logistics(ペンスキー・ロジスティクス)による、Augment社の「エージェンティックAI(Agentic AI)」の全社導入です。

これは単なるデータ分析ツールではありません。AIが「自ら電話をかけ、メールを打ち、テキストを送信して」貨物の状況を確認する――まるで人間のオペレーターのように振る舞うシステムです。

日本の物流現場でも、「電話対応に追われて本来の業務ができない」「ドライバーとの連絡がつかない」といった悩みは尽きません。Penskeの事例は、こうした「泥臭いアナログ業務」こそが、実はAIの最大の活躍場所であることを示唆しています。

本記事では、30〜40%もの生産性向上を見込むPenskeの最新事例を深掘りし、日本企業が今すぐ参考にすべき「実利重視」のAI活用術を解説します。

なぜ「実験」から「実行」への移行が重要なのか

これまで多くの企業が取り組んできた「AI実証実験(PoC)」の多くは、華々しい成果発表の裏で、現場への定着に失敗してきました。その原因の多くは、「現場のオペレーションを変えようとしすぎた」ことにあります。

しかし、2025年以降のトレンドは異なります。既存の業務プロセスを破壊せず、AIがその隙間に入り込んで実務をこなすアプローチが主流になりつつあります。

詳しくは以下の記事でも解説していますが、物流DXは今、「技術の先進性」よりも「確実なコスト削減と実利」を求めるフェーズに入っています。

See also: 「AI導入」の95%は失敗?2026年、物流DXは「実利」へ回帰する

Penskeの事例が注目されるのは、まさにこの「実利」を、最も負荷の高い「貨物追跡(トラッキング)」という領域で証明した点にあります。

米Penske Logisticsが導入した「エージェンティックAI」の正体

Penske Logisticsは、北米を中心に倉庫管理や輸配送管理(TMS)を提供する3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の巨人です。彼らが導入を決めたAugment社のAIプラットフォームは、従来型のアシスタントAIとは一線を画す「エージェンティック(自律型)AI」としての性質を持っています。

以下の記事で触れたように、これからのAIは単にデータを「見る」だけでなく、自律的に業務を「指揮・実行」する存在へと進化しています。

See also: 物流AIは「見る」から「指揮する」へ。2026年、自律エージェントの衝撃

6ヶ月で60万件。AIが「電話・メール」で自律追跡

Penskeが実施した6ヶ月間のパイロットプログラム(実証実験)の内容は、非常に具体的かつ大規模なものでした。

  • 対象業務: 貨物のステータス確認(チェックコール)、集荷・配送予定の確認
  • 処理件数: 約600,000件の貨物ステータス更新
  • AIのアクション:
    • ドライバーや運送会社に対し、AIが自律的にメール、テキストメッセージ(SMS)、そして電話を行う。
    • 相手からの返信内容を解読し、システム上のデータを自動更新する。

特筆すべきは、AIが能動的に「電話」までかけている点です。相手がデジタルツール(アプリやポータルサイト)を使っていなくても、従来通りの電話で会話ができれば、AIが情報を吸い上げてくれるのです。

現場を変えない「物流ネイティブ」なアプローチ

PenskeとAugmentのアプローチが優れているのは、「運送業者側に新しいアプリの導入を強制しない」という点です。

これまで多くのデジタル化プロジェクトが、「全ドライバーに専用アプリを入れてもらう」というハードルの前で挫折してきました。しかし、このAIは相手が好む通信手段(メールでも電話でも)に合わせてアプローチします。

これは、既存の資産や運用を活かす「後付けDX」の思想とも共通しています。

See also: WMS入替なしで誤出荷ゼロへ。米物流の「後付けDX」が凄い

30〜40%の生産性向上を生むメカニズム

PenskeはこのAI導入により、手動による追跡業務を大幅に削減し、30〜40%の生産性向上を見込んでいます。では、具体的にどのようなメカニズムでこの数字が達成されるのでしょうか。

ルーチンワークの排除と人間が集中すべき業務

物流オペレーションにおいて、「荷物は今どこですか?」「予定通り着きますか?」という確認作業は、付加価値は低いものの、絶対に欠かせない業務です。これに膨大な人件費が割かれています。

AIがこの「定型確認」を肩代わりすることで、人間の担当者は以下のような「例外対応」に集中できるようになります。

  1. トラブルシューティング: AIが「遅延発生」や「トラブル」を検知した案件のみ、人間が介入して対応策を練る。
  2. 関係構築: 定型的な確認連絡が減る分、顧客やパートナー企業との戦略的なコミュニケーションに時間を使う。
  3. 複雑な意思決定: 代替ルートの選定や、コストと納期のトレードオフ判断など。

さらにPenskeは、この技術を動態管理だけでなく、見積もり、配車、予約、請求といった「オーダー・ツー・キャッシュ(受注から入金まで)」の全工程に拡大することを視野に入れています。

日本企業への示唆:アナログな現場こそAIの出番

「アメリカだからできた」と考えるのは早計です。むしろ、電話やFAXがいまだに根強い日本の物流現場こそ、この種のエージェンティックAIが最も効果を発揮する土壌があります。

以下の表に、日米の状況とAI導入のポイントを整理しました。

項目 米国の状況 (Penske事例) 日本の状況 日本企業への示唆
通信手段 メール、SMS、EDIが主流だが電話も残る 電話、FAXへの依存度が極めて高い 相手にDXを強いるより、AIに電話・FAXを扱わせる方が早い
ドライバー ギグワーカー含め多様。アプリ利用率も向上中 高齢化が進み、新ツール導入への抵抗感が強い スマホ操作不要のボイスボット(AI電話)活用が鍵
導入障壁 データの標準化、システム連携 現場の「あうんの呼吸」や暗黙知 定型業務(到着確認など)から切り出してAI化する

「電話文化」はDXの敵か、味方か

日本では「電話をなくすこと」がDXの目的になりがちですが、Penskeの事例は逆転の発想を教えてくれます。「電話というインターフェースを残したまま、裏側をデジタル化する」のです。

例えば、以下のようなシナリオは日本の現場でも十分に実現可能です。

  • AI: (運送会社へ電話)「〇〇商事の配送案件について、明日の集荷予定に変更はありますか?」
  • 配車担当者: 「いや、予定通りだよ。13時に行く。」
  • AI: 「承知しました。システムを更新します。」(TMSへ自動入力)

これなら、相手側の負担はゼロです。日本特有の「丁寧な対応」も、生成AIの口調設定(トーン&マナー)を調整することでクリアできます。

日本企業がエージェンティックAIを導入するためのステップ

いきなり全社導入するのではなく、Penskeのように以下のステップを踏むことが重要です。

  1. 対象業務の選定:
    • 「判断」が不要で、「情報のやり取り」だけで完結する業務をリストアップする(例:着荷確認、納品予定の再確認)。
  2. スモールスタート(実験):
    • 特定のルートや運送会社に限定して、AIエージェントによる自動連絡を試行する。この際、従来のスタッフも並走し、AIの対話精度をチェックする。
  3. ハイブリッド運用(実行):
    • AIが処理しきれない「曖昧な回答」や「クレーム」だけを人間にエスカレーションする仕組みを構築する。
    • Penskeも6ヶ月の実証期間を経て、自信を持って「実行」フェーズへ移行しました。

まとめ:AIを「同僚」として迎える準備はできているか

Penske Logisticsの事例が示す最大の教訓は、「AIはツールの枠を超え、チームの一員(エージェント)になりつつある」ということです。

もはや「AIをどう使うか」と悩む段階は過ぎ、「AIにどの仕事を任せ、人間は何に特化するか」という組織設計の段階に入っています。

  • 実験から実行へ: PoCで終わらせず、現場の生産性を直接上げる領域にAIを投入する。
  • 泥臭さの解消: キラキラした分析ではなく、電話や確認連絡といった「一番面倒な作業」こそAIに任せる。
  • 相手を変えない: パートナー企業に負担をかけない「やさしいDX」が、結果として最も速く成果を出す。

2026年に向けて、物流業界は「人手不足」という慢性的な課題に対し、遂に具体的な「解」を手にしようとしています。Penskeの動きは、その号砲に過ぎません。日本企業も、現場のアナログ文化を嘆くのではなく、それを逆手に取る「AI同僚」の採用を検討すべき時が来ています。

See also: 2026年「攻めの物流」5つの潮流。USMCAと自律AIが分ける勝敗

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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