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輸配送・TMS 2026年4月16日

トラック適正化二法「健全化措置」3つの努力義務と運送事業者が講じるべき対策

トラック適正化二法「健全化措置」3つの努力義務と運送事業者が講じるべき対策

物流業界に歴史的な転換をもたらす「トラック適正化二法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律)」。2026年の本格施行を控え、国土交通省が更新した「改正貨物自動車運送事業法Q&A」により、運送事業者に課される「健全化措置」の具体的な内容が明示されました。

本改正の核心は、元請けや利用運送事業者が他の事業者に業務を委託する際、ただ荷物を横流しするのではなく「委託先の健全な運営を阻害しないよう配慮すること」を法的に義務付ける点にあります。長年、物流業界を蝕んできた多重下請け構造と、それに伴う運賃のダンピング(不当な値下がり)に対し、国が本格的なメスを入れたと言えます。

本記事では、最新のQ&Aで示された健全化措置の3つの柱を解剖し、荷主、元請、実運送事業者それぞれのビジネスにどのような影響を与えるのか、そして企業が今すぐ取るべき実務対応について徹底的に解説します。

健全化措置が導入された背景と法的根拠

多重下請け構造が生む「適正運賃」の消失

日本のトラック運送業界は、約6万社の事業者のうち大半を中小・零細企業が占めています。そのため、大手運送会社や利用運送事業者が引き受けた荷物が、一次下請け、二次下請け、さらには三次下請けへと流れていく「多重下請け構造」が常態化してきました。

この構造の最大の弊害は、階層が深くなるごとに手数料(中抜き)が引かれ、実際にトラックを走らせる末端の「実運送事業者」に適正な運賃が届かないことです。燃料費の高騰や「物流の2024年問題」による人件費の上昇が叫ばれる中、実運送事業者が不当に低い運賃で走らざるを得ない状況は、ドライバーの長時間労働や過労運転を引き起こす根本原因となっていました。

2026年施行の改正貨物自動車運送事業法第24条

こうした悪循環を断ち切るため、2026年に施行される改正貨物自動車運送事業法(第24条第1項)では、新たに「健全化措置」という努力義務が規定されました。これは、運送事業者が別の運送事業者に業務を委託する際、相手の健全な経営を脅かすような無責任な丸投げを禁止するものです。

これまでは「下請けが納得して引き受けたのだから問題ない」という市場原理がまかり通っていましたが、今後は元請け側が能動的に下請けのコスト事情を把握し、適正な取引環境を整備する責任を負うことになります。

国交省Q&Aが示す「健全化措置」の3つの努力義務

国土交通省が3月31日に更新したQ&A(問3-2)において、健全化措置として講ずるべき3つの具体的なアクションが明示されました。

措置の名称 実行すべき具体的なアクション 対象となる取引フェーズ
概算費用の把握と勘案 利用する運送に要する費用の概算額を把握した上で、その額を勘案して委託の申し込みをする 運送委託の申し込み時
荷主への運賃交渉申し出 荷主の提示運賃が概算額を下回る場合、荷主に対して運賃・料金の交渉を申し出る 荷主からの運送引き受け時
委託条件の付与 再々委託の制限や、それに代わる柔軟な条件(費用を聞き取る場の設定など)を付与する 下請けへの委託契約時

委託費用の概算額把握による「どんぶり勘定」の廃止

第一の柱は、元請事業者が下請けに依頼する際、あらかじめ「この運行にはどれくらいの人件費と燃料費がかかるのか」という費用の概算額を把握することです。
これまでの業界の悪習であった「とりあえず予算〇〇円で走れる業者を探す」といったオークション形式の発注や、元請けの利益から逆算した叩き売りは、コンプライアンス違反のリスクを伴うようになります。

荷主に対する強力な運賃交渉の義務化

第二の柱は、荷主との力関係を是正するための措置です。元請事業者が算出した「下請けが健全に走るための概算費用」に対し、荷主から提示された運賃がそれを下回る場合、元請けは荷主に対して「この運賃では委託先が適切な収益を得られないため、価格交渉をしたい」と申し出ることが求められます。
これは、元請けが「荷主の予算が厳しいから仕方ない」と下請けに泣き寝入りを強いることを防ぐ強力な牽制となります。

再々委託の制限と「その他の条件」が意味するもの

第三の柱は、委託先の事業者がさらに別の業者へ丸投げすること(再々委託)を制限する条件を付与することです。しかし、国交省のQ&Aでは、元請け以外の事業者に対しては「その他の条件」による柔軟な対応も許容されています。

例えば、「A社(元請)→B社(下請)→C社(孫請)」と荷物が流れる場合、単純に再々委託を全面禁止するのではなく、「B社がC社を利用する際は、B社がC社の運行費用を聞き取る場を設けた上で委託を申し込むこと」といった条件付けが認められています。これは、突発的な車両トラブルや緊急対応などでやむを得ず孫請けが発生する現場の実態に配慮しつつ、コストのブラックボックス化を防ぐための現実的な措置と言えます。

参考記事: トラック新法を攻めの機会に!2026年問題に打ち勝つ3つの成長戦略

健全化措置が物流業界の各プレイヤーに与える影響

健全化措置の導入は、サプライチェーンを構成するすべての企業に意識改革と業務プロセスの変更を迫ります。

元請・利用運送事業者が直面する構造的変革

元請けや利用運送事業者(水屋など)にとって、今回の措置はビジネスモデルの根本的な見直しを意味します。下請けの実運送コストを精緻に把握するためには、自社の配車システム(TMS)と下請け企業との間でのデータ連携が不可欠になります。
また、荷主に対して「下請けのコストが合わないから値上げしてほしい」と交渉する営業力が問われるため、ただ荷物を右から左へ流してマージンを抜くだけの企業は、市場からの退場を余儀なくされるでしょう。

実運送事業者が手にする「適正運賃」という果実

末端で実際にトラックを走らせる実運送事業者にとっては、これ以上ない追い風となります。元請け側から「費用を聞き取る場」を設けられるため、これまではタブー視されがちだった「原価割れによる運行拒否」や「適正運賃の要求」が堂々と行えるようになります。
ただし、恩恵を受けるためには自社の運行原価(時間あたりの労務費や走行距離あたりの燃料費)を正確に計算し、説得力のあるデータとして元請けに提示する社内体制の構築が急務です。

参考記事: 労務費100%転嫁を実現!統計と自動計算で運賃交渉を成功させる3つのデータ活用術

荷主企業に突きつけられるコスト転嫁の現実

荷主企業は、物流会社からの「運賃交渉の申し出」が飛躍的に増加することを覚悟しなければなりません。元請けからの交渉要請を不当に拒絶し、従来通りの低い運賃に据え置く行為は、国交省の「トラックGメン」による監視網に引っかかり、荷主勧告制度の対象となるリスクを極めて高くします。
物流コストの上昇を自社の製品価格へどう転嫁するか、あるいは物流の無駄(待機時間や非効率な納品ルール)をどう削減するかという、全社的なロジスティクス改革が求められます。

LogiShiftの視点:努力義務を「攻めのカード」に変える戦略

本ニュースに対するLogiShiftの独自の考察として、企業がこの「健全化措置」を単なる負担と捉えず、自社の競争力を高めるための「攻めのカード」としてどう活用すべきかを提言します。

「費用を聞き取る場」を価格交渉のエビデンスにする

今回、Q&Aで示された「費用を聞き取る場を設けること」という柔軟な条件付けは、実務において非常に強力な武器となります。元請事業者は、下請けから聞き取ったリアルなコストデータ(待機時間に伴う労務費の増加や、パレット積み替えの作業費など)を詳細なエビデンスとして蓄積してください。
これを荷主に提示し、「このままでは実運送事業者が倒産し、御社の荷物を運ぶトラックが確保できなくなる」というロジカルな交渉材料に変換することで、感情論ではないデータドリブンな運賃改定を実現することが可能になります。

実運送体制の可視化がもたらすプライム企業への道

多重下請けの制限とコストの可視化は、アナログな管理を行っている企業にとっては致命傷ですが、いち早く物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業にとっては最大のチャンスです。
クラウド型の配車システムや電子受領書を導入し、自社の荷物がどこで誰によって適正なコストで運ばれているかを透明化できれば、法令遵守に敏感な大手荷主から「安心して直接契約できるプライム運送会社」として選ばれる確率が飛躍的に高まります。

明日から意識すべきこと(まとめ)

2026年施行のトラック適正化二法による健全化措置は、物流業界の長年のタブーであった「運賃のブラックボックス」をこじ開ける決定的な一撃となります。企業が明日から直ちに取り組むべきアクションを以下の表にまとめました。

対象プレイヤー 直面する課題とリスク 明日から実行すべき実務アクション
荷主企業 運賃交渉の激増と荷主勧告リスク 自社の提示運賃が実運送のコストを賄えるか再検証し価格転嫁の準備をする
元請事業者 下請コスト把握義務と荷主交渉の板挟み 下請けとの対話の場を定期的に設け原価データを共有・蓄積する仕組みを作る
実運送事業者 コストの言語化と説得力のある提示 自社の運行原価を正確に算出し「標準的な運賃」をベースにした交渉力を磨く

物流業界は今、不透明な多重構造から、データとコンプライアンスに基づく透明で持続可能な産業へと生まれ変わろうとしています。この変化を前向きに捉え、自社のオペレーションをいち早く適応させた企業だけが、2026年以降の新たな物流市場を牽引していくことになるでしょう。


出典: トラックニュース
出典: 国土交通省|貨物自動車運送事業法改正について
出典: 全日本トラック協会|物流関連二法改正のポイント

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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