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ニュース・海外 2026年5月27日

三菱倉庫、2026年6月に通関料金25%値上げ|荷主企業の国際物流コスト再計算が加速

三菱倉庫、2026年6月に通関料金25%値上げ|荷主企業の国際物流コスト再計算が加速

国際物流の現場に、かつてない地殻変動が起きようとしています。日本の倉庫・フォワーディング業界のメガプレーヤーである三菱倉庫は、2026年6月1日より、輸出入の通関手続きおよび保税関連業務における各種基本料金を約25%値上げすることを発表しました。

通関手続きは、これまで「輸出入に付随する不可避な、しかしほぼ一定の固定化された事務コスト」として捉えられがちでした。しかし、業界大手である同社が「自助努力のみでコスト増を吸収することが困難な状況に達した」と公式に表明し、25%もの大幅な価格転嫁に踏み切ったことは、国際サプライチェーンを構築するすべての企業に深刻な影響を与えます。

本記事では、今回の発表の背景にある深刻な構造的課題、各業界プレイヤーに及ぼす多角的なインパクト、そして「物流2026年問題」とも共鳴する物流コストの正常化プロセスについて、専門的かつ実践的な視点から徹底的に解説します。


ニュースの背景・詳細:2026年6月適用の改定事実と料金表

今回の三菱倉庫の決定は、単なる一企業の料金改定に留まりません。深刻な労働力不足と、世界的な地政学リスクや法規制変更に伴う実務の複雑化が、物流企業のバックオフィス機能を圧迫している実態を浮き彫りにしています。

通関業務におけるコスト急騰の構造的要因

三菱倉庫が料金改定に踏み切った背景には、大きく分けて3つの要因が存在します。

  • 深刻な人手不足による人件費の高騰:
    通関業務を統括・実行する「通関士」は、専門的な国家資格と豊富な貿易実務の知識が必要とされるプロフェッショナル職です。しかし、業界全体の高齢化と新規若手人材の獲得競争の激化により、採用・育成コストおよび基本人件費が爆発的に上昇しています。
  • 輸入手続きの複雑化と対応業務の増加:
    EPA(経済連携協定)の普及や原産地規則の厳格化に伴い、申告書類の審査や成分表の確認、HSコード(税番)の特定作業といった実務の負担が飛躍的に増大しています。単なる「データ入力」ではなく、高度なコンプライアンス判定業務としての工数が無視できないレベルに達しています。
  • 自助努力による効率化の限界:
    同社はこれまで、AI-OCRの導入やNACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)とのシステム連携などによる効率化を進めてきましたが、増え続ける業務工数と人件費の上昇が、デジタル投資によるコスト削減効果を上回ってしまったとしています。

改定される料金体系の具体的一覧

2026年6月1日より適用される、各種通関申告および保税関連申請の具体的な料金は以下の通りです。

通関業務の種類 改定後の料金(円 / 1件)
① 輸出(積戻し)申告 7,400
少額貨物簡易通関扱い 5,300
② 輸入申告(申告納税、予備申告含む) 14,800
少額貨物簡易通関扱い(申告納税) 10,800
輸入申告(賦課課税) 13,100
少額貨物簡易通関扱い(賦課課税) 9,800
保税蔵置場蔵出・総合保税地域総保出(注) 8,800
少額貨物簡易通関扱い(蔵出等) 6,400
③ 保税蔵置場蔵入申請 8,800
④ 保税工場移入申請 8,800
⑤ 保税展示場蔵置等承認申請 8,800
⑥ 総合保税地域総保入申請 8,800
⑦ 輸入許可前貨物引取申請 6,400
⑧ 外国貨物船(機)用品積込申告 6,400
⑨ 外国貨物運送申告 6,400
⑩ その他の申告・申請又は届 4,000
⑪ 諸申告又は許可承認書写作成 200

(注)加工・製造・展示品を除く。

これらの料金は、これまで長年にわたり維持されてきた業界のデファクトスタンダード(事実上の標準)に対する挑戦であり、通関実務の「真の価値」に見合った適正対価への見直しと言えます。

参考記事: 通関とは?輸出入ビジネスの基礎から実務の全体像まで徹底解説


業界プレイヤー別にみる通関料金改定の多角的インパクト

今回の25%値上げというインパクトは、輸出入を行うメーカーから、競合他社、ITベンダーまで、サプライチェーンに直接・間接に関わるすべてのプレイヤーに影響を及ぼします。

製造業者・メーカー:通関費用を「固定費」から「変動リスク」へ

これまで多くの製造業者やECメーカーにとって、通関料金は国際運賃(フレート)や海上サーチャージの乱高下に比べれば、「1申告あたり数千円」で済む、予算管理が容易な固定費に近い扱いでした。しかし、今後はこの前提が覆ります。

トータル調達コスト(Total Landed Cost)の再計算

多品種小ロットの調達や、毎日多数のインボイスを処理する「細切れ輸入」を行っている荷主企業の場合、通関申告の回数に比例して物流事務コストが累積的に跳ね上がります。従来の「関税や運賃さえ管理しておけばよい」という考え方から脱却し、商品1個あたり、あるいは1コンテナあたりの調達コストに通関手数料の上昇分を正しく按分・反映させる必要が生じます。

調達ルート・出荷頻度の適正化

荷主企業は、物流コストの増加を抑制するために、出荷頻度のコントロール(まとめ買い・大口化)や、インボイスの名寄せによる申告件数の削減を迫られます。無計画な分割出荷は、通関費用の高騰という罰則的なコスト増となって企業財務を圧迫することになります。

参考記事: 関税とは?基礎知識から計算方法・実務のリアルと物流DXまで徹底解説

倉庫事業者・3PL:大手による「自助努力の限界」宣言を交渉の武器に

中小の通関業者や3PL事業者にとって、人手不足と人件費の高騰は三菱倉庫以上に深刻な問題でした。しかし、これまでは荷主企業からの強い値下げ圧力や、競合との激しい価格競争から、自社の持ち出し(サービス労働)で耐え忍んできたのが実態です。

業界全体での「追随値上げ」の根拠に

日本の通関・保税業界のリーダーである三菱倉庫が、公式に「人手不足と人件費高騰を理由とする約25%の値上げ」を断行したことは、競合他社が適正価格への交渉を進めるうえでの極めて強力なベンチマーク(基準)となります。「業界最大手でも自助努力で維持できないものを、我々が耐えられるはずがない」という、論理的かつ揺るぎない交渉材料が生まれたのです。

サービス品質の維持と「顧客の選別」

適正な価格交渉に応じない、または著しく複雑で不完全なインボイスを持ち込んで通関現場に過剰な手間を強いる荷主企業に対しては、3PL事業者側から取引を辞退する、あるいは「例外対応手数料(マニュアル作業費)」を別途請求する動きが本格化するとみられます。

SaaS・テクノロジーベンダー:25%の値上げが後押しする通関DXのROI劇的向上

今回の25%の値上げは、マニュアルで行われている通関・貿易事務をシステム化、またはデジタル置換しようとする企業に対する強力な「追い風」となります。

投資対効果(ROI)のシミュレーション変化

これまでは、紙のインボイスを電子化するAI-OCRシステムや、荷主のERPとNACCSを直結するAPI連携システムの導入を検討する際、「手動で通関書類を作成した方が、現行の安い通関料金を払うよりも投資回収が早い」として却下されるケースが多々ありました。しかし、通関の基本料金が1件あたり数千円単位で値上がりすることにより、デジタル技術の導入によるコスト削減効果が劇的に向上します。

データ連携の標準化に対する需要の爆発

荷主から送られてくる不揃いなPDFインボイスを手動でクレンジングし、NACCSに再入力する作業は、通関現場の最大のボトルネックです。このボトルネックを解消する、貿易データの標準化・共有プラットフォームを提供するSaaSベンダーは、市場シェアを一気に拡大する千載一遇の好機を迎えています。

参考記事: 送料無料崩壊の危機!中東情勢と物流2026年問題がECに与える3つの衝撃と対策


LogiShiftの視点:物流の「不可視なサービス」から「適正な専門労働」への再定義

LogiShift独自の分析として、今回の三菱倉庫の料金改定は、単なる一過性のインフレ対策やコスト転嫁の動きではありません。日本国内で加速する「物流2026年問題」や、世界的なコンプライアンス管理の厳格化と完全に通底する、「物流の労働価値とコスト構造の透明化を巡る構造的変革」の決定的なシグナルであると捉えています。

「物流2026年問題」と「取適法」が迫る、運賃・事務作業の明確な切り離し

国内物流の領域では、2026年1月に施行される「取適法(中小受託取引適正化法)」や改正物流効率化法により、これまで「運送会社の善意のサービス」として無償で行われてきた棚入れ、ラベル貼り、検品といった「付帯作業」や「長時間の荷待ち」が厳格に取り締まられ、有償化・実費化される流れが進んでいます。

事務労働としての通関業務の可視化

国内における「トラックドライバーのタダ働き防止」と同じ現象が、今まさに「通関士・通関事務員」という国際物流のバックオフィスにおいても起きているのです。これまでの日本の商習慣では、輸送や倉庫保管(フィジカル)を契約してくれた荷主に対する「おまけの事務サービス」として、通関手数料が安価に据え置かれたり、複雑なイレギュラー作業の工数がどんぶり勘定で処理されたりしてきました。

「適正価格を支払うべき専門労働」への格上げ

三菱倉庫の25%値上げは、通関業務が単純なデータ入力作業ではなく、高度な貿易コンプライアンス、法律判断、および厳格な税関対応を要する「プロフェッショナルな専門労働」であることを社会的に再定義する行為です。今後は、この労働価値に対する適切な対価(コスト)を負担することが、持続可能な国際サプライチェーンを維持するための必須要件となります。

参考記事: 物流2026年問題とは?2024年問題との違いや法改正、実務で必要な対策を徹底解説

参考記事: 公正取引委員会がセンコーに勧告、2026年の取適法による無償作業摘発への必須対応

米FedEx集団訴訟から学ぶ「国際物流コストの透明性」と説明責任

国際的な視点に目を向けると、米国では現在、過去に政府が徴収した不当な輸入関税の無効化(IEEPA無効判決)を巡り、FedExやUPSといった国際物流大手が「通関手数料」を含めた総額20兆円規模の返還を求められる前代未聞の集団訴訟に直面しています。

手数料ビジネスに対する厳しい顧客の目

この米国の事例が我々に突きつけているのは、「物流会社が徴収する手数料の法的根拠と、その内訳(作業実績)の徹底的な透明化」です。ただでさえ為替変動やサーチャージの変更(フレートの不透明化)に悩まされている荷主企業にとって、通関基本料金の25%もの一律値上げは、当然ながら「その値上げ幅の具体的な根拠(どのような作業にどれだけの工数が追加で発生しているのか)」を厳しく問い質すきっかけとなります。

どんぶり勘定からの脱却と「説明責任(アカウンタビリティ)」

通関業者側も、「一律で25%上げる」だけで終わらせるのではなく、自社システムにおける作業時間のトラッキングデータや、EPA適用時における書類精査のログなど、客観的な実態ログ(エビデンス)を顧客に示すデジタル基盤の構築が必要です。これができなければ、信頼できるビジネスパートナーとしての関係を維持することは困難になります。

参考記事: 米FedEx集団訴訟に学ぶ。20兆円返還騒動が問う「物流コストの透明性」

参考記事: フレート(Freight)とは?計算方法からサーチャージ、最新の物流DXまで徹底解説

デジタルと人を融合する「次世代通関モデル」への移行

この危機的な価格高騰を「単なるコスト増」という負のイベントで終わらせないためには、荷主企業と通関業者がデータ連携を通じて互いの業務効率を高め合う、真の通関DXへと舵を切らなければなりません。

荷主が果たすべき「データクレンジング」の責任

通関料金が上がる最大の理由は、荷主から渡される情報(インボイスや仕様書)が不完全で、通関士が「人の目で確認し、解釈し、時には海外サプライヤーに確認する」というアナログな作業に多大な時間を費やしているからです。荷主企業が自社の商品マスタを整理し、正確なHSコード情報、成分組成、インコタームズ条件などを事前にデータ連携(API等を活用)できれば、通関士の作業工数は劇的に削減され、エラーによる税関審査の遅延(区分3への指定など)も防ぐことができます。

相互利益を生むパートナーシップの構築

今後は、単に「価格交渉で通関業者を叩く」のではなく、「自社のデータ品質を高めることで、相手の通関作業コストを引き下げ、適正な特約料金(ボリュームディスカウントやスピード通関の約束)を引き出す」という、建設的なパートナーシップへのシフトが、グローバル競争を勝ち抜く荷主企業の必須戦略となります。


まとめ:明日から荷主企業・物流事業者が意識すべきこと

三菱倉庫が2026年6月から断行する「通関基本料金25%値上げ」は、長年続いてきた物流事務における「どんぶり勘定」の商慣習に終わりを告げる、象徴的な転換点です。

激変する国際物流環境に適応し、自社のサプライチェーンと競争力を守るため、明日から経営層や現場リーダーが意識して取り組むべき優先タスクは以下の3点です。

  • 国際調達・輸出コストの予算再試算:
    自社の輸出入申告頻度と保税申請の発生件数を直ちに棚卸しし、2026年6月以降のトータル landed cost(着地価格)に与える財務的影響をシミュレーションし、予算枠を再設計する。
  • 商品マスターデータの「クレンジング」:
    通関業者に提供するインボイスデータの標準化を推進する。特にHSコード、成分構成比率、重量などのデータの正確性を高め、通関業者側での不要な確認工数(コスト発生源)を根絶する。
  • 通関DXに向けたIT投資の再評価:
    基本料金の上昇に伴い、AI-OCR、EDI連携、クラウド型の貿易管理システムといった、貿易実務をデジタル化するテクノロジー投資のROI(費用対効果)を再度計算し、現場の属人化作業を解消する投資プロジェクトを加速させる。

「物流は可視化され、適正な対価を支払うべき限られた資源である」という世界的な潮流を正しく理解し、単なる値上げを嘆くのではなく、データ統制とテクノロジーの活用によってサプライチェーンの強靭化(レジリエンス)を達成する好機に変えていきましょう。


出典: 物流ニュース LNEWS

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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