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輸配送・TMS 2026年5月29日

東京都が最大100万円を助成、エコ運送事業者選定が荷主のコスト削減に直結

東京都が最大100万円を助成、エコ運送事業者選定が荷主のコスト削減に直結

物流業界は今、深刻な人手不足や2024年問題への対応に追われる一方で、国際的な潮流である「温室効果ガス(GHG)排出量の可視化と削減」、すなわち脱炭素経営というもう一つの歴史的転換点に直面しています。

特にサプライチェーン全体の排出量である「Scope3」の中でも、最もコントロールが難しいとされるのが物流領域(輸送・配送)です。荷主企業にとって、取引先や投資家から求められる脱炭素対応と、運賃上昇や燃料費高騰によるコスト増をどのように両立させるかは、事業の存続を左右する最重要アジェンダとなっています。

こうした中、東京都は物流分野における脱炭素化を荷主と運送事業者の双方から強力に後押しするため、「企業のScope3(物流分野)対策促進事業(陸上輸送)」(旧:運輸・物流分野における脱炭素化支援事業)の令和8年度(2026年度)分の申請受付を2026年5月27日より開始しました。

本事業は、中小企業者等の荷主が脱炭素化に取り組む運送事業者を利用した際の「運送費」を最大100万円助成するほか、運送事業者が「グリーン経営認証」などの環境認証を新規取得する際の費用を最大50万円支援するものです。今回の最大の特徴は、助成要件に「東京都貨物輸送評価制度における5年連続評価等」が新たに追加されたことです。これにより、単発的な環境配慮ではなく、長期的・継続的にCO2削減に取り組む「優良な運送パートナー」を選定・維持することが、荷主側にとって直接的なコストメリットに直結する仕組みが強化されました。

経営層や物流現場のリーダーにとって、本制度は脱炭素対応に伴うコスト増を回避し、強靭で持続可能なサプライチェーンを構築するための「戦略的なパートナー選定」へと昇華させる絶好の機会といえます。


2. 「企業のScope3対策促進事業(陸上輸送)」の概要と変更点

本事業が、このタイミングで支援要件の拡充を伴って令和8年度分の公募を開始した背景には、国の規制強化の動きと連動した、サプライチェーン全体のグリーン化促進という東京都の強い意図があります。まずは、本制度の事実関係と具体的な変更点を整理します。

助成制度の全体像と変更点の整理

本事業は、荷主向けの「運送費支援」と、運送事業者向けの「認証取得支援」の二本柱で構成されています。今年度の変更点として、荷主が利用すべき運送事業者の要件に「東京都貨物輸送評価制度における5年連続評価等」が追加され、継続的な環境経営を行っている事業者への評価がより重視されるようになりました。

要件や助成内容の詳細は以下のテーブルの通りです。

支援対象 助成要件(対象となる取り組み) 助成対象経費・助成率・助成上限 令和8年度 申請・助成期間
中小企業者等である荷主 グリーン経営認証、ISO14001の認証、東京都貨物輸送評価制度の「三つ星」評価または「5年連続評価等」のいずれかを取得している貨物自動車運送事業者を利用した輸送 輸送にかかる運送経費。助成率:2分の1。助成上限:100万円。 助成対象期間:令和8年4月1日〜令和9年3月31日。申請期間:令和8年5月27日〜令和9年3月31日。
新規に環境認証を取得する運輸事業者 グリーン経営認証、ISO14001の認証のいずれかを新規に取得した運輸事業者(トラック、バス等) 認証の審査および認証登録経費。助成率:2分の1。助成上限:50万円。 助成対象期間:令和8年4月1日〜令和9年3月31日。申請期間:令和8年5月27日〜令和9年3月31日。

5W1Hで見る事実関係の整理

  • 【Who(発表・受付主体)】 東京都(産業労働局)、公益財団法人東京都環境公社、クール・ネット東京(東京都地球温暖化防止活動推進センター)
  • 【What(事業名)】 企業のScope3(物流分野)対策促進事業(陸上輸送) ※(旧)運輸・物流分野における脱炭素化支援事業
  • 【When(期間・期日)】 申請期間は令和8年(2026年)5月27日(水)〜令和9年(2027年)3月31日(水)。助成対象となる輸送・認証取得の期間は、令和8年4月1日〜令和9年3月31日の同年度内。
  • 【Where(申請窓口)】 クール・ネット東京(東京都新宿区西新宿)への申請受付
  • 【Why(狙い・背景)】 「2050年ゼロエミッション東京」の実現に向け、企業のScope3(物流分野)の削減を荷主・運送事業者の両面から支援し、陸上輸送のグリーン化を強力に後押しする。

新たな要件「東京都貨物輸送評価制度における5年連続評価等」が持つ意味

東京都貨物輸送評価制度とは、トラック事業者の日常のCO2削減の取り組み(エコドライブや燃費管理など)を東京都が評価・公表する制度です。
今回、荷主の運送費助成の要件として、従来の「三つ星(最高評価)」に加え、「5年連続評価等」が追加されたことは実務上、極めて大きな意味を持ちます。

三つ星評価の獲得には、車両仕様や燃費管理などにおいて極めて高いハードルが存在し、中小規模の運送事業者にとっては取得が困難なケースがありました。しかし、今回の改定により、「最高ランクの評価はなくとも、長年にわたり真面目に燃費改善や環境対策を継続している(5年以上連続で評価を受けている)優良な地場運送会社」を利用した場合でも、荷主が助成金を受け取れるようになりました。これにより、荷主側のパートナー選定の選択肢が実質的に広がり、より地域に根ざした運送事業者との継続的な脱炭素連携が可能となりました。


3. サプライチェーンを構成する各プレイヤーへの具体的影響

今回の東京都による助成制度の開始と要件の拡充は、物流に関わる各プレイヤーにどのような変化を迫るのでしょうか。荷主、運送事業者、そして業界全体の構造的変化の3つの視点から詳細に解説します。

中小企業である荷主:環境対応への「最初の一歩」とコストの最適化

中小規模の荷主企業にとって、物流の脱炭素対応は「取り組まなければならないが、コストがかかる」というジレンマの象徴でした。運送会社に対してEVトラックの導入を求めたり、環境価値の高い輸送サービス(バイオ燃料の活用など)を委託したりすれば、当然ながら運賃にそのコストが転嫁されます。

しかし、本助成金を活用すれば、環境配慮型運送事業者を利用した際の運送費の一部(最大100万円、1/2)が戻ってくるため、脱炭素対応を理由とする一時的な「コストの壁」を大幅に下げることができます。

荷主が直面するメリットとアクション

  • 取引先(大手企業)からの開示要請への回答力向上: 自社が利用する運送会社を「グリーン経営認証」や「東京都貨物輸送評価制度」を取得している企業へシフトすることで、大手取引先から求められる「Scope3(カテゴリ4・9)の排出削減実績」を論理的、かつ高いエビデンス性をもって提示できるようになります。
  • 運送会社選定基準のアップデート: これまで「1円でも安い運賃」だけで選定していた傭車先を、本助成金の還流(最大100万円)を前提とした「環境価値を持つ運送会社」へと見直す、健全なパートナー選定の契機とすることができます。

参考記事: Scope 1, 2, 3とは?物流・サプライチェーン実務担当者が知るべき基礎知識と算定ガイド

運送事業者:環境認証が「荷主に選ばれる最強の営業武器」へ昇華

運送事業者にとって、グリーン経営認証やISO14001の取得、さらには評価制度への参加は、これまでは「多大な審査費用と、日々の運行日報への燃費手入力など、現場への泥臭い負荷ばかりがかかる単なる管理コスト」として敬遠されがちでした。

しかし、本制度によってその構造は180度変化します。自社が「グリーン経営認証」や「東京都の連続評価」を保有していること自体が、荷主に対して「当社を利用すれば、東京都から運送費が最大100万円(半額)助成されます」という、競合他社に対して圧倒的な差をつける「最強の営業武器」となるからです。

運送事業者が得る実利と戦略

  • 認証取得コストの半減: 新規にグリーン経営認証やISO14001を取得する際、審査・登録にかかる経費の2分の1(最大50万円)が支援されるため、実質的に初期投資を抑えて環境ライセンスを獲得できます。
  • 下請け構造からの脱却と荷主との対等な関係構築: 環境対応力があることを公的に証明できれば、単なる「運賃叩き」に遭いやすい多重下請けの末端から脱却し、荷主のサステナビリティ推進に直接貢献する「戦略的パートナー」として、適正な運賃での長期契約を勝ち取ることが可能になります。

業界の構造的シフト:「価格・品質」から「環境価値」を内包する三軸評価へ

日本の物流市場は、長らく「価格(運賃)」と「リードタイム(品質・利便性)」の二軸が、運送事業者を選定する絶対的な基準でした。

しかし、国が進めるコンプライアンスの厳格化に加え、自治体(東京都)が荷主と事業者の双方に直接的な金銭的メリット(助成金)を提供する仕組みを構築したことで、選定基準に「環境価値(脱炭素対応力)」を含めた「三軸評価」へと、物流選定のゲームルールが構造的にシフトし始めています。

環境への取り組みを怠り、データ開示に対応できない運送会社は、たとえ価格が安くても「荷主が助成金を受け取れない」「荷主自身のScope3削減に寄与しない」という理由から、サプライチェーンから除外されるリスクが現実的なものとなってきています。


4. LogiShiftの視点:2026年(令和8年)の法規制強化とScope3対策の融合

ここからは、数々の物流脱炭素プロジェクトや業界動向を分析してきた専門的視点から、今回の東京都の助成事業を、単なる「一時的なコスト補填」に終わらせないための長期的なロードマップを提言します。

改正物流効率化法とCLO選任義務化への備え

今年度(2026年度、令和8年度)は、日本の物流業界全体にとって極めて重要な意味を持つマイルストーンの年です。

2024年に改正され、2025年4月から段階的に施行されている改正「物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)」により、すべての荷主および物流事業者に対して積載効率の向上や荷待ち時間の短縮といった「努力義務」が課されています。

さらに2026年度からは、一定規模以上の事業者が「特定事業者(特定荷主、特定運送事業者、特定倉庫業者)」として指定され、中長期計画の作成や定期報告、法的拘束力のある義務が課せられます。特に、年間9万トン以上の貨物を取り扱う「特定荷主」に対しては、「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務化され、万が一取組状況が不十分な場合には勧告や命令、最悪の場合は罰金が科せられる仕組みが始まります。

東京都のこの事業は、特定荷主のような大企業だけでなく、中小荷主に対しても「Scope3対策としての運送パートナーの選定見直し」を促す強力なメッセージです。CLOのミッションは、自社のコスト削減だけでなく、サプライチェーン全体の脱炭素化を統括することです。経営層は、この助成金を活用して、自社の物流ネットワークの現状を棚卸しし、規制強化に対するレジリエンスを固めるべきです。

参考記事: 最大1000万円補助で自動化!物流効率化推進事業と2026年法規制への3つの対策

サプライヤーエンゲージメントを通じた「部分最適」から「全体最適」への転換

荷主企業が自社のScope3(カテゴリ4・9)を削減しようとする際、最も犯しやすい間違いが、運送会社に対する「一方的なデータ提出要請」や「削減の押し付け」です。日本の運送会社の多くは中小零細企業であり、日々の配車に追われる中で高度なCO2計算やシステム投資を行う余力はありません。一方的な要請は、運送会社との関係を悪化させ、最悪の場合は「配送拒否(トラックの手配難)」というブーメランとなって自社に戻ってきます。

これからの脱炭素経営に求められるのは、荷主と運送会社が共にリスクと果実を分け合う「サプライヤーエンゲージメント」の構築です。

荷主は、東京都の助成金を活用して運送パートナーの環境認証取得(最大50万円)を側面支援したり、グリーン経営認証を持つ運送会社を優先的に利用して得た運送費助成(最大100万円)の一部を「データ管理手数料」として運賃に上乗せして運送会社に還元したりする。このような「三方よし」のエコシステムを構築することこそが、長期にわたり持続可能なグリーンサプライチェーンを実現する唯一の道です。

参考記事: 脱炭素経営とは?物流現場の課題から実践ロードマップまで徹底解説

助成金による浮いた原資を「排出量可視化ツール」などのITインフラに再投資する

助成金の活用によって浮いた予算は、単なる「経費削減」として処理するのではなく、今後のサステナビリティ情報開示義務化を見据えた「可視化ITインフラ」への再投資に充てるべきです。

これからの時代、監査に耐えうる高精度な「一次データ(実際の燃料使用量や積載率)」を、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)と連携して自動抽出し、荷主とシームレスにデータ連携(API連携)できる能力そのものが、企業の資産となります。

システム連携に投資し、属人的な「手作業のExcel集計(バケツリレー)」から早期に脱却することが、現場の業務負荷(見えない人件費)を抑え、経営の確実性を担保する絶対条件です。


5. 明日から経営層と現場リーダーが実践すべきアクションプラン

東京都の「企業のScope3(物流分野)対策促進事業(陸上輸送)」の申請期限は令和9年3月31日までとなっていますが、予算には上限があり、要件を満たした実現性の高い事業から早期に受付が終了する可能性があります。明日から直ちに着手すべきアクションを以下に提示します。

  • 1. 取引のある主要な運送会社の「環境認証状況」の総点検
    • 現在委託しているすべての運送会社に対し、グリーン経営認証、ISO14001の取得状況、および「東京都貨物輸送評価制度」への参加実績(星の数や継続年数)をヒアリングし、棚卸しを行います。
  • 2. 運送会社との脱炭素共同プロジェクトの即時打診
    • 認証を未取得の優良な協力運送会社に対しては、運輸事業者向けの助成金(上限50万円)を紹介し、認証取得を促します。
    • 取得済みの運送会社に対しては、自社の運送費助成(上限100万円)を共同で申請するための運送実務のスキーム(対象ルートの選定、実証輸送の計画など)を構築します。
  • 3. 「CLO(物流統括管理者)」の設置に向けた社内体制の構築とIT投資の開始
    • 物流部門、経営企画部門、サステナビリティ推進部門を横断する「脱炭素物流タスクフォース」を即座に立ち上げます。
    • 2026年度の特定荷主指定に備えてCLO候補を決定し、運送費助成で削減できた予算を、将来的な「排出量可視化システム(SaaS)」や「WMS/TMSのAPI連携開発」への投資原資として計画的にプールします。

2026年問題という歴史的な物流制度の変革期において、東京都が用意したこの強力な助成制度は、自社の物流体制を「コスト要因」から「他社に先駆けた最強の競争力(エコシステム)」へとアップデートする最後のチャンスかもしれません。迅速な意思決定とパートナー企業との強固なスクラムが、激動の時代を勝ち抜く最大の武器となるでしょう。


出典: My TOKYO

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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