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Home > 物流用語辞典 > 環境・サステナビリティ> 脱炭素経営

脱炭素経営とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:脱炭素経営とは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を自社のビジネス戦略の核とし、事業全体を再構築する実行プロセスのことです。単なる環境貢献に留まらず、企業の持続的な成長と利益確保を両立させるために不可欠な経営手法です。
  • 実務への関わり:物流の現場においては、大手取引先からサプライチェーン全体の排出量削減を求められるケースが増えています。配送ルートの効率化や電気自動車(EV)の導入、共同配送などの取り組みを行うことで、取引先との契約維持や燃料コストの削減、金融機関からの評価向上といった具体的なメリットが得られます。
  • トレンド/将来予測:今後は炭素税の導入が本格化し、国際基準であるSBTなどの認定取得が取引を継続する上での標準的な条件になると予測されます。自社の排出量だけでなく、原材料の調達から配送までを含めたサプライチェーン全体で連携し、排出量を「見える化」して削減する取り組みがさらに加速していく見込みです。

世界の温室効果ガス(GHG)排出量のうち、約2割が国内外の貨物輸送・流通システムを内包する物流・サプライチェーン分野から生じています。企業活動において、この排出削減をどのように進めるかは、単なるボランティア的な環境貢献ではありません。サプライチェーンから排除されないための「取引継続条件」であり、中長期的な燃料・電気コストを最適化するための「財務戦略」そのものです。この気候変動への適応と持続的な利益確保を両立させる具体的な手法が「脱炭素経営」です。

目次
  • 脱炭素経営とカーボンニュートラルの違い|企業が今取り組むべき定義の整理
  • カーボンニュートラルと脱炭素経営の決定的な違い
  • SBT・RE100・TCFDの役割と自社が選ぶべき基準
  • なぜ今、脱炭素経営なのか?経営層が直面する3つの「持続不可能なリスク」
  • 大手取引先からのサプライチェーン排出量削減要求と受注維持の条件
  • 金融機関や投資家から評価されるESG投資のメリットと資金調達力
  • 迫る炭素税導入とエネルギーコスト削減の直結性
  • Scope1・2・3の基礎知識と物流・サプライチェーン排出量の算定方法
  • Scope1・2・3の分類と算定における境界線の引き方
  • 【Scope3計算方法】特に複雑な「物流(カテゴリ4・9)」の算定アプローチ
  • 自社で始める脱炭素経営の具体的な4ステップとSBT認定の取得プロセス
  • 排出量の「見える化」から削減目標設定までの標準フロー
  • SBT認定の取得プロセスと中小企業向け緩和策の活用
  • 脱炭素経営を成長軌道に乗せるための実践アクションチェックリスト
  • 明日から着手すべき自社排出量把握の初期アクション
  • サプライチェーン全体で連携するためのパートナー選定基準

脱炭素経営とカーボンニュートラルの違い|企業が今取り組むべき定義の整理

脱炭素へのアプローチを誤らないためには、まず混同されやすい基本用語を整理する必要があります。特に事業計画書やアニュアルレポートなどで多用される「カーボンニュートラル」と「脱炭素経営」は、概念としての階層が異なります。

カーボンニュートラルと脱炭素経営の決定的な違い

これら2つの違いは、目指すべき「状態(ゴール)」と、それを達成するための「具体的な経営プロセス」という関係性にあります。

カーボンニュートラルとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量を、森林吸収や炭素回収技術などによる吸収・除去量と差し引きして、実質的にゼロにした「状態」を指します。

これに対して、脱炭素経営とは、このカーボンニュートラルの達成を自社のビジネスモデルや経営戦略の中心に据え、事業活動全体を再構築していく「実行プロセス」を意味します。

例えば、年間10万トンの製品を出荷する物流・製造企業において、単に排出されたCO2に対してカーボンオフセット(排出権購入)を行うだけでは、本質的な脱炭素経営とは言えません。自社の配送網にEV(電気自動車)を導入する、拠点に自家消費型の太陽光発電設備を設置する、さらにはサプライチェーン上の取引先と協働して製品ライフサイクル全体の排出量を削減する、といった事業活動の抜本的な見直しを行うことが、脱炭素経営の本質です。このアプローチをとることで、将来的な化石燃料の価格高騰リスクを回避し、エネルギーコストの削減に直結するという実利が得られます。

SBT・RE100・TCFDの役割と自社が選ぶべき基準

脱炭素経営を推進するにあたり、企業は国際的な基準や枠組みに準拠することが求められます。代表的な枠組みである「SBT(Science Based Targets)」「RE100」「TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」は、それぞれ対象とする範囲や目的が異なります。

枠組み 概要と主な要件 自社が選択すべき基準・推奨される企業像
SBT (Science Based Targets) パリ協定が求める水準(1.5℃目標など)と整合した、5年〜10年先を見据えた企業の温室効果ガス削減目標。Scope1、2だけでなく、サプライチェーン全体の排出量(Scope3)の削減も求められます。 グローバル企業や、それらの一次サプライヤー(主要取引先)となっている中小企業。SBT認定を取得することで、取引先に対する環境配慮の信頼性を客観的に証明できます。
RE100 事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的なイニシアチブ。 消費電力量が多く、自社で再生可能エネルギーの調達(PPAモデルの導入など)を主導できる大企業や、特定の再生可能エネルギー要件を課されているサプライチェーン企業。
TCFD 気候変動による「リスク」と「機会」が、自社の財務に与える影響を評価・開示するためのフレームワーク。 国内外の株式市場に上場している企業や、機関投資家からの直接的な資金調達を行う企業。TCFDに沿った情報開示は、融資や投資を呼び込むための重要な判断材料となります。

自社がどの枠組みに注力すべきかを判断する最大の基準は、「主要な取引先からどのような要請を受けているか」および「資金調達をどこから行っているか」にあります。

例えば、東証プライム市場の上場企業と年間数億円規模の直接取引がある、従業員数50人の物流企業の場合、取引先からサプライチェーン排出量の開示や削減目標の提示を求められるケースが増えています。この場合、まずは「SBT認定」の基準に沿った目標設定を検討するのが適切です。SBTでは、中小企業向けに申請プロセスが簡素化された「中小企業版SBT」が用意されており、専門的なリソースが限られる企業でも取り組みやすくなっています。

また、自社の排出量を正確に把握するためには、自社内の直接・間接排出(Scope1・2)だけでなく、原材料調達や輸送、廃棄といった他社に関連する「Scope3の算定方法」の理解と導入が欠かせません。具体的には、環境省が提供する排出原単位データベースなどを活用し、自社の貨物輸送量(トンキロ法)や購買金額から間接的な排出量を算出する体制を整えます。

これらの国際基準への対応を急ぐ背景には、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資を呼び込むメリットの獲得があります。現在、主要な金融機関は融資や投資の判断基準として、財務情報だけでなく企業の気候変動への対応状況を厳しく審査しています。国際基準に裏付けられた脱炭素経営を実践することで、資金調達における金利の優遇措置や、安定的な投資資金の確保といった具体的な経営上のメリットを享受することができます。

なぜ今、脱炭素経営なのか?経営層が直面する3つの「持続不可能なリスク」

これまで環境への取り組みは「企業の社会的責任(CSR)」の一環、あるいは「推奨される社会貢献活動」と捉えられがちでした。しかし現在、脱炭素への対応は、企業が市場から淘汰されないための「生存戦略」へと劇的に変化しています。脱炭素を経営の中核に据えなければ、取引先を失い、資金を調達できず、高騰するエネルギーコストに圧迫され続けるという「持続不可能なリスク」に直面することになります。

大手取引先からのサプライチェーン排出量削減要求と受注維持の条件

現在、国内外のグローバル企業が相次いで「SBT認定(科学的根拠に基づいた温室効果ガス削減目標)」を取得し、自社だけでなくサプライヤーを含めたサプライチェーン排出量の削減要求を強めています。例えば、トヨタ自動車は主要な部品メーカーに対して前年比3%のCO2削減を求めており、Appleは2030年までにサプライチェーン全体での炭素排出量を実質ゼロにする方針を掲げています。

ここで留意すべきは、従来一般的だった「カーボンニュートラル(他社から購入した排出権や森林吸収量と相殺すること)」と、SBTが求める「ネットゼロ(直接的な排出量自体を極限まで削減すること)」の違いです。取引先が求めるのは、単なる「カーボンクレジットの購入による相殺」ではなく、自社事業のプロセスそのものの脱炭素化です。

特に中小企業や物流事業者の多くは、大手企業にとっての「Scope3(その他の間接排出量)」に該当します。そのため、取引先から排出データの提示を求められた際、適切なScope3の計算方法(活動量に排出原単位を乗じる算定手法など)を理解し、根拠のある数値を提示できなければ、新規案件の入札から除外されたり、既存の取引を打ち切られたりするリスクが現実化しています。これらScope1・2・3の具体的な分類と管理手法は、次の章で詳細に解説します。

金融機関や投資家から評価されるESG投資のメリットと資金調達力

脱炭素経営への不対応は、金融機関からの融資審査や資金調達コストにも直結します。世界の主要な投資機関が環境・社会・ガバナンスを重視する「ESG投資」へと舵を切るなか、その波は地方金融機関の融資方針にも波及しています。

地方銀行や信用金庫は、融資先が明確な脱炭素目標を持っている場合、金利を通常より引き下げる「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」や「グリーンローン」の提供を活発化させています。これにより、企業は資金調達の金利を年0.1%〜0.2%程度優遇されるという明確なメリットを享受できます。

一方で、化石燃料への依存度が高く、脱炭素に向けた具体的な計画や排出量の開示を行わない企業は、将来的な「座礁資産リスク(環境規制強化により価値が失われるリスク)」が高いとみなされます。その結果、新規融資の謝絶や、リスクプレミアム分を上乗せされた高金利での融資提示など、資金調達力が著しく低下するリスクに直面しています。

例えば、自社倉庫の照明をLED化し、屋根に太陽光発電設備を導入する場合、地元金融機関からグリーンローンの適用を受け、通常の設備ローンよりも金利を0.1%〜0.2%程度抑えて融資を受けるケースが生まれています。金融機関からの確実な資金調達経路を確保するためには、もはや財務情報だけでなく、脱炭素への取り組みという非財務情報の開示が事実上の必須条件となっています。

迫る炭素税導入とエネルギーコスト削減の直結性

日本政府が推進する「GX推進法」に基づき、2028年度からは「化石燃料賦課金(炭素税に相当)」の徴収が開始され、2033年度からは発電部門に対する「排出量取引(有償オークション)」が導入されるロードマップが既に確定しています。これにより、温室効果ガスを排出するすべての事業者に対して、排出量に応じた金銭的負担(カーボンプライシング)が段階的に課されます。

この制度導入は、電気料金や燃料価格に直接上乗せされるため、企業の固定費を押し上げる直接的な要因になります。例えば、月間1,000トンの貨物を輸送し、月間3万リットルの軽油を消費する一般貨物自動車運送事業者の場合、炭素負荷の上昇に伴う燃料単価の上昇は、年間で数十万〜数百万円規模の直接的な利益圧縮に繋がります。

脱炭素経営に取り組み、配送ルートの最適化システムやエコドライブの徹底、低炭素車両(EV・HV)の計画的導入、倉庫への省エネ機器導入を進めることは、排出量を削減するだけでなく、そのまま化石燃料への依存度を低減させ、将来のエネルギーコスト高騰への強固な耐性を備えることと同義です。規制が本格化する前にエネルギー効率を改善させた企業と、対策を先送りした企業とでは、営業利益率において数パーセント以上の格差が生まれることになります。

Scope1・2・3の基礎知識と物流・サプライチェーン排出量の算定方法

サプライチェーン排出量の算定は、国際基準である「GHGプロトコル」に準拠して進めます。SBT認定を目指す場合、自社単体の直接排出(Scope1・2)だけでなく、原材料調達から配送、廃棄に至る間接排出(Scope3)までをカバーすることが必須要件です。この算定結果を適切に開示することは、地方銀行からの融資金利優遇といった具体的なメリットを獲得するための前提条件となります。特に「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」では算定対象とするScope3の範囲が異なるため、まずは自社に関係する境界線の明確化から着手します。

Scope1・2・3の分類と算定における境界線の引き方

サプライチェーン排出量を正確に測定するための第一歩は、自社の活動による温室効果ガスの排出を、発生源に応じてScope1、Scope2、Scope3の3つに分類することです。これらは以下のように定義されます。

区分 定義 物流・製造業における具体例
Scope 1(直接排出) 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出 自社保有のトラックや営業車での燃料消費、自社工場のボイラー使用など
Scope 2(間接排出) 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出 自社オフィスや自社管理倉庫で消費する購入電力、外部から供給される熱の使用など
Scope 3(その他の間接排出) Scope1・2以外のサプライチェーン全体の他社の排出(15のカテゴリに分類) 外部委託した配送(3PL等)、原材料の調達、販売した製品の廃棄など

実務において最も多くの担当者が突き当たる壁が、自社がどこまでを直接排出(Scope1・2)とし、どこからを他社排出(Scope3)とするかという「境界線の引き方(バウンダリ設定)」です。GHGプロトコルでは、支配権の基準として「出資比率基準」または「支配力基準(財務上の支配または業務上の支配)」のいずれかを選択して境界を引くことを規定しています。

特に物流部門において混乱が生じやすいのが、自社で保有・リースしている車両と、外部の運送会社(3PL事業者など)に委託している車両の切り分けです。例えば、自社がリース契約を結び、運行管理を自社で行っているトラックによる配送は、実質的な支配力が自社にあるため「Scope1」に該当します。一方で、スポット便や路線便、3PL事業者にすべての共同配送業務を委託している場合は、車両の運行管理権および燃料費の直接負担が委託先にあるため、自社にとっては「Scope3(カテゴリ4:上流の輸送・配送)」として整理しなければなりません。この区分を誤ると、二重計上や算定漏れが発生し、第三者保証の獲得やSBT認定の審査で不適合となる要因になります。

【Scope3計算方法】特に複雑な「物流(カテゴリ4・9)」の算定アプローチ

物流分野におけるScope3計算方法は、調達・出荷段階の輸送を指す「カテゴリ4(輸送・配送:上流)」と、販売した製品がエンドユーザーに届くまでの輸送を指す「カテゴリ9(輸送・配送:下流)」に分かれます。この算定における基本式は、以下の通りシンプルです。

排出量 = 活動量 × 排出原単位

しかし、物流業務を外部委託している荷主企業の場合、この「活動量」のデータをどのように収集するかが実務上の最大の課題となります。実務で採用されるScope3計算方法には、データの精度と収集の難易度に応じて、主に以下の3つのアプローチが存在します。

  • 燃料法(高精度):委託先トラックが実際に消費した燃料量(軽油などのリッター数)を直接把握し、燃料ごとのCO2排出係数を乗じる方法。
  • 改良トンキロ法(中精度):輸送した貨物の重量(トン)と輸送距離(キロメートル)の積(トンキロ)に対し、車種や積載率を考慮した原単位を乗じる方法。
  • 従来型トンキロ法(低精度):輸送重量(トン)と輸送距離(キロメートル)の積に対し、一律のモード別(トラック、鉄道、船舶など)原単位を乗じる方法。

3PL事業者などの物流委託先との具体的な連携方法としては、まず自社がインコタームズ(貿易条件)や国内取引条件に基づき、どの運送区間の運賃を支払っているか(=荷主としての支配権・支払責任があるか)を整理します。自社が運賃を負担している区間が「カテゴリ4」の算定対象です。

実務的なデータ連携の第一ステップとして、月間または年間の輸送実績データを3PL事業者からCSV形式などで取得します。例えば、年間で合計1,000トンの貨物を、平均300キロメートルの距離を走行して配送した実績がある場合を考えます。このとき、詳細な車種や積載率が把握できない場合は、国土交通省が公表している「改良トンキロ法」用の原単位データベースを活用します。最大積載量10トンの営業用トラック(積載率50%想定)の排出原単位が「116g-CO2/トンキロ」である場合、計算式は以下のようになります。

1,000トン × 300キロメートル = 300,000トンキロ
300,000トンキロ × 116g-CO2/トンキロ = 34.8t-CO2

さらに算定の精度を高め、具体的なCO2削減アクション(モーダルシフトや共同配送の導入など)を反映させるためには、3PL事業者に対して「実燃費データ」や「正確な積載率データ」の月次提出を委託要件(SLA:サービスレベル合意書)に組み込むことが有効です。これにより、単なる統計値による机上計算から、実態に即した一次データ主導の算定へと移行でき、自社の配送効率化努力がそのままScope3の削減数値として可視化される仕組みを構築できます。

自社で始める脱炭素経営の具体的な4ステップとSBT認定の取得プロセス

脱炭素経営を推進するにあたり、環境省が推奨するロードマップをベースに、より実務者が迷わずに実行できる4つのステップに再構築して解説します。自社の現状を把握することから始まり、最終的には国際的な基準に適合した目標開示までをシームレスにつなぐ必要があります。

排出量の「見える化」から削減目標設定までの標準フロー

脱炭素経営の第一歩は、自社がどれだけの温室効果ガス(GHG)を排出しているかを数値化することです。標準的な推進フローは、以下の4つのステップで構成されます。

  • ステップ1:現状把握(排出量の可視化)
    前セクションで解説したScope1・2・3の算定が、まさにこのステップ1に該当します。自社内の直接排出(Scope1)や他社から供給された電気の使用(Scope2)だけでなく、原材料調達から配送、廃棄に至る「サプライチェーン排出量」全体を特定します。特に、サプライヤーからデータを回収して算出する「Scope3の算定プロセス」の確立が、この段階での最も重要な実務となります。
  • ステップ2:削減目標の設定
    現状の排出量が把握できたら、次は「いつまでに、どれだけ削減するか」の中長期目標を定めます。ここで重要となるのが、パリ協定が求める「1.5℃目標」に整合した科学的根拠のある目標設計です。単に「前年比1%削減」のような積み上げ式の目標ではなく、逆算型のバックキャスティング手法で目標を設定します。
  • ステップ3:削減施策の策定と実行
    設定した目標を達成するため、具体的なアクションプランに落とし込みます。例えば、年間3,000MWhの電力を消費する拠点において、再エネ由来の電力プラン(PPAモデルなど)へ切り替えることで、Scope2の排出量を年間約1,300t-CO2削減するといった、投資対効果を伴うロードマップを策定して実行に移します。
  • ステップ4:情報開示と進捗管理
    実行した結果と進捗状況を、自社のウェブサイトやアニュアルレポートを通じて外部に開示します。透明性の高い情報開示を行うことで、資金調達の選択肢が広がる「ESG投資における金利優遇などのメリット」を享受できるようになり、機関投資家や大手取引先からの評価向上に直結します。

ここで、混同されやすい「脱炭素経営」と「カーボンニュートラルの違い」について整理しておきます。カーボンニュートラルは「温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすること」という状態そのものを指す言葉です。一方で脱炭素経営とは、その状態を目指す過程において、企業の競争力向上やイノベーション創出、取引先との強固なサプライチェーン構築などを経営戦略に組み込み、持続的な成長を実現する「経営手法」を指します。つまり、手段(経営)と目的(状態)という関係性があります。

SBT認定の取得プロセスと中小企業向け緩和策の活用

取引先から信頼される削減目標を対外的に示すための最も有効な手段が、国際イニシアチブである「SBT認定(Science Based Targets)」の取得です。しかし、「大企業でなければ取得できないのではないか」「膨大なScope3の算定コストがかかるのではないか」と懸念する担当者も少なくありません。SBTでは、従業員数が500人未満の中小企業に対して、申請プロセスや要件を大幅に簡略化した「中小企業向けルート(SMEルート)」を設けています。

通常枠(大手企業向け)と中小企業向けルートの主な違いは以下の通りです。

比較項目 通常枠(一般企業向け) 中小企業向けルート(SME)
対象企業の基準 従業員数 500人以上 従業員数 500人未満(かつ特定の要件を満たす企業)
Scope3の算定・目標設定 全Scope3の算定および削減目標の設定が必須 Scope3の算定・目標設定は免除(ただしScope1・2の目標設定は必須)
申請・審査費用 9,500 USD 1,250 USD(※特定国向けの免除措置等あり)
申請手続き コミットメント書の提出から最長24ヶ月以内に詳細な目標を提出して審査 簡易的なオンライン申請フォームから対象目標を選択して即時申請可能

この比較からも明らかなように、中小企業向けルートを活用すれば、多大な負荷がかかる「Scope3計算方法」の構築をスキップして、まずは自社が直接管理できるScope1・2の削減目標(例えば、2030年までに2020年比で温室効果ガスを42%削減するなど)を掲げるだけで、国際的な「SBT認定」を取得できます。これにより、大手企業から「サプライチェーン排出量」の削減協力を求められた際にも、すでにSBT認定を取得している企業として選定プロセスにおいて優位に立つことが可能です。

中小企業向けSBT認定を取得する具体的な申請ステップは、以下の通りです。

  • ステップ1:申請要件の確認と登録アカウントの作成
    SBTの公式サイト(英語)から、中小企業向け申請プラットフォームにアクセスし、自社の基本情報を登録してアカウントを作成します。
  • ステップ2:削減目標の選択
    プラットフォーム上で提示される選択肢(1.5℃目標に整合する、基準年から一定割合を削減する目標)から、自社が合意する目標案を選択します。多くの企業は「2030年までにScope1・2を42%削減する」を選択しています。
  • ステップ3:申請書のオンライン提出と費用の支払い
    必要事項を記入した申請書をオンラインで送信し、申請費用(1,250米ドル)を支払います。
  • ステップ4:認定完了と公開
    SBT事務局による書類審査が行われ、問題がなければ数週間から数ヶ月で正式に認定されます。認定された企業名と目標内容は、SBT公式サイト上でグローバルに公開されます。

このように、制度上の緩和策を賢く活用することで、リソースの限られた中小企業であっても、確実に脱炭素経営の軌道に乗せ、取引先や投資家からの評価を早期に高めることができます。

脱炭素経営を成長軌道に乗せるための実践アクションチェックリスト

脱炭素経営を単なる理念で終わらせず、企業の成長エンジンとして機能させるためには、具体的な推進タスクをいつまでに、誰が、どのように実行するかを明確に定義する必要があります。以下は、社内会議やパートナー企業との交渉の場ですぐに活用できる、明日から着手すべきアクションチェックリストです。

明日から着手すべき自社排出量把握 of 初期アクション

脱炭素経営の第一歩は、自社がどれだけの温室効果ガスを排出しているかを可視化することです。ここで重要となるのが、対象となるガスの範囲です。CO2のみを対象とする脱炭素と、メタンやフロン類などすべての温室効果ガスを対象とする「カーボンニュートラルの違い」を正しく認識し、算定対象から主要なガスが漏れないようにします。まずは以下のチェックリストをもとに、自社の排出状況の整理と計画策定を進めてください。

  • Scope1(直接排出)データの収集開始:自社で保有するトラックの軽油消費量や、オフィス・倉庫で使用する灯油、ガスなどの燃料使用量(リットルや立方メートル単位)を過去1年分、領収書や請求書から回収・集計する。
  • Scope2(間接排出)データの収集開始:自社倉庫やオフィスが電力会社から購入している電気使用量(kWh単位)を過去1年分集計する。その際、契約している電力会社の「排出係数」を最新の公表値(環境省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度」等)から特定する。
  • SBT認定(Science Based Targets)のロードマップ策定:中小企業版SBTであれば、Scope1・2の温室効果ガス排出量を2030年までに2020年比で42%削減する等の目標設定が必要です。SBT認定の取得に向け、現状値から毎年何%削減すべきかのシミュレーションシートを作成し、役員会で合意形成を図る。
タスク 具体的な実行項目 担当部署の目安
排出源の特定 本社、営業所、保有車両、契約倉庫のエネルギー契約書の洗い出し 総務部・施設管理部
データの数値化 過去12ヶ月分の電力・燃料使用量のスプレッドシートへの一元化 経理部・調達部
目標設定 SBTの基準に沿った、2030年および2050年目標のドラフト作成 経営企画部・サステナビリティ推進室

サプライチェーン全体で連携するためのパートナー選定基準

自社のみの削減には限界があります。荷主企業にとって「調達物流」や「販売物流」はScope3のカテゴリ4、9に該当し、これを削減するには委託先である物流企業との共同取り組みが必須です。サプライチェーン排出量を正確に把握し削減へとつなげるためには、適切な「Scope3計算方法」に対応できる能力を持ったパートナーを識別・選定する必要があります。また、こうした先進的なサプライチェーンの構築は、機関投資家や金融機関から高く評価され、金利優遇措置を受けるなど「ESG投資における優遇メリット」を最大限に享受することにも直結します。

  • データ提供能力の有無(Scope3の算出対応):トンキロ法(輸送貨物の重量×輸送距離)や燃料法(運行に要した燃料消費量)を用いて、自社貨物分のCO2排出量を具体的な数値(t-CO2など)で月次算出・開示できる体制が整っているかを確認する。
  • 共同改善提案の実行力:単に運ぶだけでなく、共同配送やモーダルシフト(鉄道・内航船へのシフト)、車両の大型化による運行便数削減など、排出量を削減するための具体的な提案(モーダルシフト実行時の削減率試算など)を行える専門知識を有しているかを評価する。
  • 環境配慮型車両の導入計画:保有車両におけるEV、FCV、ハイブリッド車、または低燃費基準適合車の導入比率と、今後のリプレイス計画が文書化されているかをヒアリングする。

具体的な選定基準を以下の評価シートとして整理し、次回以降のコンペや物流パートナーの定期評価の議題に組み込んでください。

評価項目 優良(Aランク)の基準 標準(Bランク)の基準
CO2算出・開示 トンキロ法または燃料法に基づき、月次で荷主ごとの排出量データを自動出力・提供できる。 年間ベースでの概算値、または荷主全体の平均値としてのデータ提供に留まる。
低炭素輸送の提案 共同配送の提案や、モーダルシフトによるCO2削減効果を定量的にシミュレーションして提示できる。 要請があればモーダルシフト等の検討を行うが、能動的な提案や数値シミュレーションは行わない。
環境適合車両의割合 全保有車両のうち、次世代自動車(EV・HV等)または最新の排出ガス規制適合車が50%以上を占める。 次世代自動車の割合が10%未満、または具体的な導入ロードマップが策定されていない。

このように自社の実態把握からパートナーの選定・評価までを一気通貫で進めることで、サプライチェーン全体での着実な排出量削減が可能となり、取引先や投資家からの信頼を強固なものにできます。

よくある質問(FAQ)

Q. 「脱炭素経営」と「カーボンニュートラル」の違いは何ですか?

A. 「カーボンニュートラル」が温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする「状態や目標」を指すのに対し、「脱炭素経営」はその目標を企業の財務戦略や成長プロセスに組み込んで実践する「経営手法」を指します。単なるボランティア的な環境貢献ではなく、気候変動への適応と持続的な利益確保を両立させる点が最大の特徴です。

Q. 企業が脱炭素経営に取り組むメリットや必要性は何ですか?

A. 主なメリットは、大手取引先からの削減要求に応えることでの「取引継続(受注維持)」、ESG投資を重視する金融機関からの「資金調達力の向上」、そして省エネによる「エネルギーコストの最適化」です。取り組まない場合、サプライチェーンから排除されるリスクや、炭素税導入による財務リスクに直面します。

Q. 脱炭素経営で求められる「Scope3(スコープ3)」とは何ですか?

A. 「Scope3」とは、自社以外のサプライチェーン全体で発生する温室効果ガスの排出量のことです。特に物流分野においては、原材料調達時の輸送(カテゴリ4)や製品出荷時の輸送(カテゴリ9)が該当します。これを正確に算定し削減することが、大手企業からの削減要求に対応する鍵となります。

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