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物流DX・トレンド 2026年6月8日

株式会社日新と株式会社Shippioが6月8日貿易DX準備委設立、標準化加速

株式会社日新と株式会社Shippioが6月8日貿易DX準備委設立、標準化加速

グローバルサプライチェーンの複雑化や地政学的リスクの高まりを背景に、国際物流の最前線では「貿易実務のデジタル化」が極めて切実な課題となっています。しかし、従来の貿易手続きは、いまだに膨大な紙の書類、手作業でのExcel入力、PDFのメール添付といったアナログな手法に大きく依存しています。企業が個別でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進しようとしても、企業間におけるデータ連携のセキュリティやプライバシーに対する不安、そして何より業界全体の統一された声を政府や行政に届ける「窓口」が存在しないことが、DXの加速を阻む最大の壁となっていました。

このような状況の中、2024年6月8日、日本の国際物流を牽引するメガフォワーダーの「株式会社日新」、新進気鋭のデジタルフォワーダー「株式会社Shippio」、そして貿易手続きの標準化やJASTPROコード(輸出者符号・輸入者符号)の発行を担う「一般財団法人日本貿易関係手続簡易化協会(JASTPRO)」らが中心となり、貿易DXの普及と標準化を推進する業界団体の設立に向けた「準備委員会」を発足させました。

本委員会が掲げるのは、業界全体の「競争と協調」の両立です。単なる一企業の効率化に留まらず、日本企業全体のグローバル競争力を底上げするための「新たな国際貿易基盤づくり」が始動したという点で、今回の準備委員会発足は物流・貿易業界における歴史的な一歩と言えます。本記事では、このニュースの背景、業界への多大なインパクト、そして今後の貿易DXがもたらす構造的変化を、実務者視点で徹底解説します。


貿易DX推進準備委員会発足の背景と5W1H

今回の発表は、これまでの個別企業が取り組む部分最適な「自社DX」の限界を突破し、業界全体で「協調領域」としてのデータ基盤を構築するための極めて具体的なアクションです。まずは、準備委員会の基本情報と、発足の契機となった「3つの構造的課題」を整理します。

貿易DX準備委員会の基本概要

準備委員会の発足から正式団体設立までのタイムラインと基本情報を以下のテーブルに整理しました。

項目 詳細内容 実務への直接的な意義
発足日 2024年6月8日 貿易DXの「標準化」と「提言窓口の創設」に向けた公式なスタートライン。
発表主体 株式会社日新、株式会社Shippio、JASTPRO、その他関係事業者 メガフォワーダー、スタートアップ、標準化権威の3者が強力にタッグ。
初期の検討期間 発足から3か月程度 団体のミッション、理念、名称、事業内容、定款、規約、会費等について議論。
正式団体の設立予定 発足から半年後を目途 2024年12月頃を目途に正式団体を立ち上げ、具体的な事業活動と政策提言を開始。

現状の貿易実務が抱える「3つの構造的課題」

なぜ今、この強力なプレイヤーたちが手を組み、業界団体を設立する必要があったのでしょうか。その背景には、個社単位ではどうしても解決できなかった以下の3つの課題が存在します。

1. サプライチェーンの複雑化とリードタイムの長期化

近年の米中対立、地政学的紛争に伴うスエズ運河・パナマ運河の通航制限、さらに気候変動による異常気象などにより、国際輸送のスケジュール(ETD/ETA)は極めて不安定化しています。これに伴い、荷主やフォワーダーは頻繁な本船スケジュールの変更やロールオーバー(積み残し)の調整に追われています。アナログな進捗管理では、関係者への情報伝達に多大なタイムラグが発生し、結果として港湾部でのコンテナ滞留や高額なデマレージ(超過保管料)が発生する原因となっていました。

参考記事: フォワーダーとは?国際物流の実務担当者が知るべき基礎知識と最新トレンド

2. 企業間データ連携に対する「セキュリティ・プライバシーの不安」

多くの荷主企業やフォワーダーが貿易DXの必要性を感じつつも、他社システムとのAPI連携やデータ共有に二の足を踏んでいた最大の理由は、「自社の機密情報(仕入原価、顧客情報、サプライチェーンの構成等)が競合他社に漏洩するのではないか」という懸念です。

信頼できる標準的な接続プロトコルや、データ共有における法的・技術的なセキュリティガイドラインが策定されていなかったことが、オープンなデータ連携を阻害する足かせとなっていました。

3. 「統一された政策提言の窓口」の不在による法整備の遅れ

電子船荷証券(eB/L)の普及や、税関申告プロセスにおける他法令手続きのさらなる電子化・簡素化を進めるためには、政府や関係省庁(財務省、経済産業省、国土交通省など)に対する強力な働きかけが必要です。しかし、これまでは各フォワーダーやITベンダーが個別に要望を伝えていたため、業界全体の総意として政策に反映されにくいという状況が続いていました。官民を挙げて貿易手続きを近代化するための「統一窓口」の設立は、業界積年の悲願であったといえます。


貿易DXの標準化が各プレイヤーに与える具体的な影響

日新、Shippio、JASTPROが主導する準備委員会は、3ヶ月間の議論を経て団体の骨組みを固め、半年後を目標に正式団体を設立します。この一連の動きは、国際貿易エコシステムに関わる多様なプレイヤーに対して、極めて具体的かつポジティブな変化をもたらすことになります。

SaaS・テクノロジーベンダー:最新SaaSとレガシーを結ぶ「標準API」の策定

Shippioのようなデジタルフォワーダーが提供する最新の貿易管理SaaSと、JASTPROが管理する貿易手続きシステムやJASTPROコードなどのレガシーなインフラがシームレスに接続するための「標準プロトコル(API規格)」の策定が急速に加速します。

これにより、ITテクノロジーベンダーは独自の接続仕様を個社ごとに開発する必要がなくなり、標準規格に準拠した開発を行うだけで、多くのフォワーダーや荷主のシステムと容易にデータを繋ぐことができるようになります。これは、輸出入管理システムやWMS(倉庫管理システム)を提供するベンダーにとって、サービス開発コストを大幅に抑制し、新しいイノベーションにリソースを集中できる好機となります。

参考記事: 輸出入管理システム完全ガイド|導入メリットと失敗しない選び方

行政・規制当局:統一窓口による法的整備の加速と他法令システムとの連携

バラバラだった業界の要望が1つの団体として集約されることで、行政にとっても政策提言の受け皿が明確になります。これにより、以下のような法制度・官民システムの近代化が強力に後押しされます。

  • 電子船荷証券(B/L)の完全電子化に向けた商法の早期法改正と運用ルールの整備
  • デジタルインボイス(商業送り状)の普及に向けたデータフォーマットの標準化
  • 税関申告システム「NACCS(ナックス)」と他省庁システム(食品衛生法や植物防疫法など)のAPI連携機能のさらなる高度化

行政側にとっても、現場の実務に即した精度の高い政策決定を迅速に行えるようになるため、日本の貿易手続きそのものの国際的な地位(シングルウィンドウ化の進展)の向上に繋がります。

参考記事: インボイス(商業送り状)とは?基礎知識から実務での書き方・電子化の最新トレンドまで徹底解説

倉庫事業者・3PL:自社完結型から「オープンデータ連携」による業務の平準化

これまでの倉庫事業者や3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者は、荷主やフォワーダーから「いつ・どのコンテナが到着するか」を直前まで把握しづらく、港から倉庫へのドレージ輸送や、デバンニング(荷下ろし)作業の人員配置を効率的に行えませんでした。

今回の標準化プロセスにより、船のETA(到着予定日)、通関のステータス、搬入許可などの国際物流データが、倉庫側のWMSにリアルタイムかつ自動で同期される「オープンDX」の環境が整備されます。予測可能性が極めて高まることで、倉庫現場でのドライバーの荷待ち時間が削減され、庫内作業の平準化による「現場のホワイト化」と収益性の飛躍的向上が実現します。

業界全体の構造的変化:「個社DX」から国家レベルの「共創型DX」へのパラダイムシフト

これまでの日本の物流DXは、個々の企業が自社のコスト削減や囲い込みのために行う「部分最適」がほとんどでした。しかし、ドライバーの労働時間規制が強化される「物流2024年問題」や、それに伴う「物流2026年問題(改正物流効率化法の本格施行)」を乗り切るためには、国際物流と国内物流をシームレスにデータで繋ぎ、無駄な配送や待機時間を徹底的に削ぎ落とす「全体最適」への転換が急務となっています。

今回の準備委員会設立は、物流が個別企業の競争領域から、国全体の強靭な「産業基盤(社会インフラ)」へと再定義され、競合他社とも手を取り合う「共創型DX」へのシフトが鮮明になったことを示しています。

参考記事: 物流標準化推進とは?実務担当者が知るべき基礎知識と最新トレンド

参考記事: 物流2026年問題とは?2024年問題との違いや法改正、実務で必要な対策を徹底解説


LogiShiftの視点|「競争と協調」の狭間で進む貿易基盤の再定義

今回の「日新」「Shippio」「JASTPRO」による強力なタッグと準備委員会の発足は、単なる一過性のニュースではありません。これからの日本の国際物流におけるデファクトスタンダード(業界標準)がどこに向かうのか、LogiShift独自の視点で深く考察します。

老舗・メガ・スタートアップの「トライアングル」が持つ真の価値

本準備委員会の発足メンバーの顔ぶれを見ると、その構成は国際貿易DXを進める上で「極めて合理的かつ補完的なトライアングル」を形成していることがわかります。

  • 株式会社日新(老舗・総合物流企業):世界的な輸送アセット、強固な顧客基盤、何十年にもわたり培われた泥臭い貿易実務の圧倒的なノウハウ。
  • 株式会社Shippio(新興デジタルフォワーダー):アジャイルなシステム開発力、美しいUI/UX、テクノロジーによる国際物流の可視化をリードする俊敏性。
  • JASTPRO(標準化の権威):輸出者・輸入者符号の管理、EDI標準の普及など、官民の結節点としての中立的な立ち位置と信頼性。

この3者が手を組んだことで、「実務上の実現可能性」「最先端のシステム開発力」「公的な中立性と標準化への強制力」がすべて揃いました。これまでの調整型にとどまる研究会とは異なり、非常に実効性の高い「真の標準化ルールメイキング」が急速に進むと考えられます。

標準化を乗り遅れたフォワーダーや荷主が直面する「デジタルデバイド」

この新団体が提示する「貿易データの連携標準規格」が、半年後の正式団体設立以降、急速に普及していくと予測されます。その際、フォワーダーや荷主企業が直面するのが、標準化されたデータプラットフォームに「合流できるか、取り残されるか」という致命的な格差(デジタルデバイド)です。

データ連携を拒み、従来のアナログな伝票作成やExcel管理、FAXに依存し続けるフォワーダーは、顧客である荷主企業から「進捗がリアルタイムで見えず、デマレージリスクが高い業者」として排除されるリスクが高まります。また、荷主企業側にとっても、フォワーダーと自動でデータ連携ができない場合、自社のWMSやERPへの二重入力の工数が膨らみ続け、グローバル競争における著しいコストハンデを背負うことになります。

貿易プラットフォーム普及を見据えた企業のデータ戦略

今後、企業が生き残るための鍵は、独自のシステム構築に固執することではなく、「業界のデファクトスタンダードにいつでも適合できる、柔軟なデータ戦略」を今すぐ立ち上げることです。

特に、商品マスター(JANコードやHSコードの紐付け)、JASTPROコード(輸出者符号・輸入者符号)の正確な整備、インボイスに記載すべき必要項目のデジタル化など、データの「基礎体力(マスターデータ管理:MDM)」を強固に構築しておく必要があります。基礎となるデータが汚れていれば、どれほど優れた標準プラットフォームが誕生しても、APIエラーや通関保留(カスタマイズ・ホールド)を防ぐことはできません。


まとめ|持続可能なグローバルサプライチェーンに向けて明日から始めるべきこと

日新、Shippio、JASTPROらによる貿易DX普及と標準化に向けた準備委員会の発足は、日本企業がグローバル市場で戦うための「新たな共通言語(データ規格)」を定義する歴史的な動きです。

国際物流に携わる経営層や現場リーダーが、この大きな変革の潮流をチャンスに変えるために、明日から取り組むべき3つの実践アクションを提案します。

  1. 自社の貿易関連データの「標準化」と「マスタ整備」に着手する
    • 自社で取り扱う品目のHSコード(税番)やJASTPROコード、インボイスデータが手動入力や曖昧な状態のままになっていないかを確認してください。システム連携に備え、商品マスターデータ(MDM)を正しくクレンジングし、属人性を排除するプロセスを開始しましょう。
  2. 既存のレガシーなシステム環境を見直し、API接続の親和性を確認する
    • 現在使用している輸出入管理システムやERP、WMSが、将来的に外部の共同プラットフォームやデジタルフォワーダーのシステムとAPIでシームレスに接続できる拡張性(クラウド親和性)を備えているかをシステム部門と検証してください。
  3. 「非競争領域(協調)」としての貿易DXを社内に啓蒙する
    • 「システムやデータは自社だけで囲い込むもの」という古い認識を改め、データ規格の標準化や外部連携は、業務効率化とデマレージ等のペナルティリスクを低減するための「非競争領域の生存インフラ」であるという共通認識を、全社(営業、購買、物流、IT部門)で醸成してください。

貿易の危機は、個社での小手先の努力で解決できるものではありません。業界全体が「共創」の精神で一体となり、強靭なデジタル貿易基盤を構築すること。その大きな波をベンチマークし、自社のオペレーションを速やかに標準へとアジャストさせる決断力こそが、今後のロジスティクスを制する最大の鍵となります。


出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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