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ニュース・海外 2026年6月19日

ペルシャ湾緊迫で日本船主協会が警告する38隻滞在が燃料高騰に直結

ペルシャ湾緊迫で日本船主協会が警告する38隻滞在が燃料高騰に直結

日本船主協会の長澤仁志会長(日本郵船会長)は2024年6月18日、米国とイランが戦闘終結に向けた覚書を締結したことを受け、声明を発表しました。この合意は事態収束に向けた大きな一歩と歓迎され、日本政府のこれまでの熱心な支援に対する感謝が示されました。しかし、ペルシャ湾内には依然として日本に関連する船舶が38隻、乗員約900人が留まったままであり、彼らの安全確保と早期脱出という喫緊の課題が残されています。

長澤会長は、船舶が円滑に脱出できるよう、日本を含む関係国政府に対してペルシャ湾内の機雷除去などの協力を強く要請しました。また、覚書に盛り込まれた「今後60日間のホルムズ海峡通航料の無料化」が終了した後も、以前と同様に「自由かつ安全で無料の通航」が継続されることを海運業界として強く求めています。

なぜ、このペルシャ湾の動向が、日本のすべての企業、特に国内配送をメインとするトラック事業者や製造業の経営層、DX推進担当者にとって「自分ごと」なのでしょうか。日本は原油輸入の約9割を中東に依存しており、シーレーン(海上輸送路)の不安定化は、国内の燃料費高騰に直結します。

さらに国内に目を向ければ、長距離ドライバーの時間外労働上限規制に伴う「2024年問題」の本格化に加え、2026年4月には「改正物流効率化法」が施行され、一定規模の荷主企業に役員クラスの「物流統括管理者(CLO)」の選任や中長期計画の策定が義務付けられました。

グローバルな海運の乱高下とサーチャージの増大という「外の脅威」と、国内陸運の供給能力低下と法規制という「内の圧力」の二重負荷、いわば「内憂外患」の状況に日本企業は置かれています。これまでのように「荷動きが鈍いから交渉で買い叩ける」「年間固定運賃だから安心だ」といった静的な商習慣や効率重視のジャスト・イン・タイム(JIT)依存は、たちまちサプライチェーンを停止させ、「物流難民化」を招きかねません。

今こそ、予期せぬショックに動的に適応する「レジリエンス(回復力)」と「物流DX」の海外先進事例を学び、自社のサプライチェーンを強靭化するときです。

参考記事: 地政学リスクとは?意味やサプライチェーンへの影響、企業が取るべき対策を徹底解説
参考記事: Sea-Intelligenceが示す1092ドル急騰と物流難民化回避への必須対応

緊迫するペルシャ湾・ホルムズ海峡と世界の物流再編トレンド

中東情勢の緊迫化は、海運航路の大幅な迂回(スエズ運河を避けてアフリカ南端の喜望峰を通るルートなど)を余儀なくさせています。この迂回によってアジア〜欧州・中東間の航海日数は往復で12日〜18日も長期化し、燃料費が30%〜50%も激増しました。さらに、船腹の供給逼迫によりコンテナスポット運賃の急騰が発生。これに加えて、戦争危険付加運賃(WRS)や緊急燃油付加運賃(EBS)の即時適用がグローバルキャリアの間で相次いでいます。

このような海上ルートの機能不全に対し、世界各国の政府およびグローバル企業は、それぞれ異なる国家レベルのサプライチェーン防衛戦略を展開しています。

欧州や中国では中東を迂回し、ロシアやイランも通らずに、中央アジアからカスピ海を抜けて欧州に至る「中回廊(ミドル・コリドー)」へのルートシフトが急速に進んでいます。これは陸路や鉄道、フェリーを組み合わせたマルチモーダル輸送(複合一貫輸送)への巨額の投資によるものです。

米国では、グローバルなエネルギー市場の乱高下やインフレ再燃の懸念から、中南米やメキシコを活用したニアショアリング(供給網の国内・近隣回帰)を推進し、サプライチェーンの物理的距離自体を短縮させる動きが進んでいます。

以下は、米国・中国・欧州の地政学リスク対応を比較したテーブルです。

地域 直面する主要課題 地政学的対応策 物流戦略への影響
欧州 中東経由の海上輸送リスク増大。スエズ運河からホルムズ海峡までの広域な不安定化。 脱中東依存と代替エネルギー調達の多角化。再生可能エネルギーへの投資加速。 アジアからの輸入において「中回廊」など陸路や鉄道ルートへのシフトが急拡大。
中国 欧州および中東向け輸出ルートの断絶リスク。海上輸送網の脆弱性露呈。 一帯一路構想に基づく周辺国へのインフラ投資。中央アジア諸国との連携強化。 中欧班列の増便。カスピ海を経由する複合一貫輸送の確立。
米国 グローバルなエネルギー市場の価格乱高下。インフレ再燃の懸念。 戦略石油備蓄の放出。中東における軍事プレゼンスの維持。 中南米やメキシコを活用したニアショアリングの推進。供給網の国内および近隣回帰。

参考記事: ホルムズ海峡20カ国声明の衝撃。次世代BCPと燃料高騰に備える日本の物流防衛策

地政学リスクを克服するグローバル3社の最新アプローチ

「不確実性の常態化」に対し、民間のグローバル企業はデジタルテクノロジーを駆使した「予測なき適応」を実現しています。ここでは先進3社の取り組みを紹介します。

① A.P. モラー・マースク(海運大手):デジタルツインによるリアルタイムシミュレーション

世界的な海運大手であるA.P. モラー・マースクは、中東海域の緊迫化を背景に主要定期船サービスの一部を無期限停止するという強硬な決断を下しました。同社の真の強みは、この物理的な回避にとどまらず、サプライチェーン全体を仮想空間上に再現する「デジタルツイン」技術を実用化している点にあります。

機雷や攻撃のニュースが報じられた瞬間、あるいは船主協会が警告を発した時点で、デジタルツインシステムが自動で代替港湾の処理能力、内陸輸送の空き状況、追加で発生する燃油コストをリアルタイムでシミュレーションします。

荷主に対して「荷物が遅れている」という事後報告をするのではなく、「AルートならコストXドル増で3日遅延」「BルートならYドル増で5日遅延」という、エビデンスに基づいた具体的な選択肢を即座に提示。荷主が事業停止を防ぐための能動的で迅速な意思決定を可能にしています。

② Flexport(デジタルフォワーダー):AIダイナミックルーティングと自己修復型サプライチェーン

米国サンフランシスコに拠点を置くFlexportは、自社のデジタルプラットフォームを活用し、AIとリアルタイムデータによる「ダイナミックルーティング(動的経路最適化)」を展開しています。

ペルシャ湾の奥へ入る滞留リスクを検知すると、プラットフォームが自律的に「紅海ルートをキャンセルしてオマーンのサラーラ港まで海上輸送し、そこから空輸へ切り替える(シー・アンド・エア)」などのマルチモーダルな代替案を瞬時に計算し、顧客へ提示します。

トラブル発生後にアナログな電話やメールで代替スペースを手配するのではなく、システム自身が自律的に供給網の綻びを検知し、瞬時に修復プロセスを実行する「自己修復型サプライチェーン」を体現しています。

③ Target(米小売大手):実店舗の小規模配送ハブ化と在庫の地域分散

米国の小売大手Targetは、グローバルな海運遅延やコンテナ不足による「店舗での欠品」という致命的なリスクに対抗するため、従来の巨大な中央集中型配送センター(DC)モデルからパラダイムシフトを起こしました。同社は、全米に広がる既存の実店舗を地域の小規模配送ハブ(Sortation Center)として機能させる分散型物流ネットワークへ巨額の投資を行いました。

供給網が寸断されても、消費地に近い店舗に「戦略的バッファ(分散在庫)」をあらかじめ配備しておくことでショックを吸収。

高度な経路最適化アルゴリズムにより、最寄りの実店舗から高頻度かつ短距離で配送を行う仕組みを確立しました。この結果、中東危機によるグローバル物流の混乱下においても、翌日配送比率を飛躍的に向上させ、顧客の信頼を確固たるものにしています。

参考記事: 需要なき運賃高騰を生き抜く!米Flexportに学ぶ2つの物流防衛策
参考記事: 原油6%急騰の衝撃!物流寸断の危機を乗り越える米Target流3つの防衛策

日本固有の障壁を打破する3つの実行可能な生存戦略

これら海外の先進事例は、日本の経営層やDX推進担当者にとって極めて示唆に富んでいます。しかし、これをそのまま日本に適用するには、日本固有の障壁を突破しなければなりません。日本の物流業界における最大の障壁は、以下の3点です。

  1. 固定運賃の慣習と「オールイン契約(どんぶり勘定)」: 燃料費や追加のサーチャージを基本運賃にすべて含めてしまい、外部コストの急激なボラティリティを運賃に転嫁できない商習慣。
  2. 補助金依存による経営の「仮初めの平穏」: 政府は累計9兆円規模に達する「燃料油価格激変緩和対策事業」によってレギュラーガソリンや軽油の小売価格を170円台等に抑え込んでいますが、これは時限措置に過ぎません。補助金が縮小・撤廃された瞬間、日本の物流現場は突如として過酷な「本物の燃料ショック」に晒されます。
  3. 法規制への対応遅れ: 2026年4月の改正物流効率化法により、大手荷主企業はCLO(物流統括管理者)の設置と中長期計画の報告が法的義務となりました。しかし、多くの日本企業では、法規制を満たすためだけに既存の物流部長を横滑りさせる「名ばかりCLO」が誕生しており、営業や調達部門、顧客に対して抜本的な交渉を行う権限が与えられていません。

この「内憂外患」とも言える過酷な経営環境下で、日本の物流企業および荷主企業が「物流難民化」を回避するために今すぐ取るべき3つの生存戦略を提示します。

アクション1:ジャスト・イン・タイムから「戦略的バッファ」の確保へ転換

日本の製造現場や流通が誇りとしてきた「ジャスト・イン・タイム(JIT)」は、平時の超低コスト・極小在庫には最適ですが、ペルシャ湾に38隻が滞留し、リードタイムが半月以上平然と延びる現代の地政学リスク下においては「致命的な脆さ」に他なりません。今後は、効率性と回復力のバランスをとる「ジャスト・イン・ケース(万が一への備え)」への切り替えが必要です。

具体的には、すべての部品ではなく、代替が一切効かない海外調達の「コア部品」を特定し、これらに絞って意図的に数週間〜数ヶ月分の「戦略的バッファ(安全在庫)」を自社国内に保有します。さらに、米Targetの事例のように、中央集中型の倉庫だけでなく、地域ごとに在庫を分散配置する強靭なネットワークを再設計すべきです。

アクション2:オールイン契約の打破と「燃料サーチャージ制の別建て・透明化」

燃料価格の高騰を運送業者だけの努力目標として押し付ける商習慣は、日本の物流インフラそのものを自ら破壊することに繋がります。CLOが主導すべきは、基本運賃と燃料サーチャージ(さらに附帯作業費や待機料金など)を明確に契約上で切り分ける「別建て契約」への移行です。

これを実現するためには、自社の平均燃費、走行距離、現在の燃料市況の推移をダッシュボード化し、エビデンス(事実情報)に基づいて「なぜ、このタイミングでこれだけのコスト改定が必要なのか」を相互に納得できる形で交渉する仕組み(フレイトフォーミュラ)を確立することです。

アクション3:リアルタイム供給網の可視化と「マルチモーダル輸送(Plan B)」の平時テスト運行

トラブルが起きてから右往左往する「実行ギャップ」をなくすため、自社の調達貨物が現在、世界のどのコンテナ船に積まれており、どこの港で滞留しているのかをリアルタイムで一元管理できるダッシュボード(TMSやビジビリティツール)へのDX投資を加速させます。

さらに、ペルシャ湾やスエズ運河の封鎖など「Plan A」が遮断された際、即座に機能させられる代替ルート(例:カスピ海を経由する「中回廊」、特定のバイパス港を活用した「シー・アンド・エア」など)を、平時からあえて小ロットで実際に動かしておく(テスト運行)ことが決定的に重要です。有事の際に「スイッチを入れるだけ」でスムーズに運用できる多重ネットワークを平時に整備しておくことこそが、次世代BCPの核となります。

参考記事: ホルムズ危機が招く燃料高騰!補助金終了に備える物流防衛3つの対策
参考記事: 燃料サーチャージとは?仕組みや計算方法から実務での価格交渉術まで徹底解説

不確実性を勝ち抜く「予測なき適応」へのパラダイムシフト

日本船主協会長澤会長の「ペルシャ湾内に日本関係船38隻・乗員900人滞留」という警告は、日本の経済安全保障がいかに極めて薄い氷の上に成り立っているかを改めて白日の下に晒しました。

地政学的な分断やそれに伴う燃料高、運賃の激しいボラティリティ、季節性の完全な崩壊は、一時的な一過性のノイズではありません。私たちは、今後数年から数十年にわたってこれらが毎年のように発生する「常態化(ニューノーマル)」した不確実性の時代を生きているのです。

今後、サプライチェーン管理の優先順位は、部分的な「コスト削減(効率)」から、企業の存続を賭けた「レジリエンス(回復力と事業継続性)」へと完全に構造シフトしました。

日本の経営層、新規事業担当者、そして物流DXの推進リーダーは、物流を単に「少しでも安く削るべきコストセンター」と見なす古い認識を即座に捨て、企業の命運を握る「戦略的投資分野」として捉え直すべきです。データの可視化を急ぎ、代替手段としての「ネットワークの多重化」を推進すること。それこそが、2026年問題の法規制への対応と、中東危機に端を発する燃料高という「二重の負荷」を乗り越え、不確実性の荒波が押し寄せる世界市場において自社を守り、確固たる競争優位性を築くための最大の鍵となるでしょう。

出典: LOGI-BIZ online(ロジビズ・オンライン)

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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