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物流DX・トレンド 2026年6月21日

日本経済団体連合会が輸送力34.1%不足に提言、共同配送が加速

日本経済団体連合会が輸送力34.1%不足に提言、共同配送が加速

2024年4月に働き方改革関連法が完全施行され、日本の物流業界は「2024年問題」という劇的な転換期を通過しました。しかし、その先にある「2030年問題」は、制度的な適応だけで解決できるほど容易ではありません。深刻な少子高齢化に伴い、2030年には日本の輸送能力が最大で25%から34.1%不足するという極めて危機的な予測が立っています。

こうした未曾有の需給ギャップに対し、一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)は、2030年に向けた日本の物流を「コスト削減の対象」から「価値創造の源泉、すなわち成長産業」へと進化させるための画期的な提言「2030年に向けた物流のあり方」を発表しました。

本提言は、デジタル化を推進する中で生じた「多画面化問題」の解消、共同配送の足かせとなっていた「カルテル(独占禁止法)懸念」の払拭、現場の効率を劇的に改善する「軒先情報」のデジタル化・公開、そして被災地での輸送力確保を阻む「常時選任義務」の緩和など、官民一体となったデジタル基盤整備と規制緩和を求めています。単なる現場の効率化に留まらない、物流を日本のサステナブルな「パブリック・インフラ」へと転換させるためのロードマップを徹底解説します。

参考記事: 2030年問題(物流)とは?2024年問題との違いや3大リスク、乗り越えるための効率化アプローチを解説


2. 経団連が示す「2030年に向けた物流のあり方」提言の全貌

経団連が発表した提言「2030年に向けた物流のあり方」は、現在直面している人手不足と、将来のさらなる供給制約を乗り越えるための「攻めと守りの物流DX」を定義しています。本提言に盛り込まれた4つの重要施策について、その詳細を整理します。

経団連提言「2030年に向けた物流のあり方」の主要な骨子

提言の主要施策 具体的な内容・アプローチ 解決を目指す実務上の課題 期待される導入効果
システム多画面化の解消 荷主企業ごとのシステムのAPI連携。入力フォーマットの標準化。 荷主ごとに異なる複数システムを使い分けるドライバーの事務負担。 現場の入力作業の削減。運送事務の効率化。
データ共有のガイドライン策定 貨物、ルート、車両台数、運賃等の共有においてカルテルに抵触しない具体事例の提示。 共同輸配送時のデータ突き合わせが独占禁止法に抵触するとの懸念。 競合・異業種間における共同輸配送の飛躍的な加速。
軒先情報のデジタル化と公開 受付時間、利用可能なバース数、駐車場所、待機スペース等の行政等による整備・公開。 大型車やトレーラーの駐車場所不足。事前の荷役環境の把握困難。 ドライバーの精神的負担軽減。待機時間の削減。
災害時の常時選任義務の緩和 有事において、一時的に輸送安全規則の「運転者の常時選任義務」の適用を除外。 被災地で他社のトラックを運転できず、緊急物資輸送が滞る硬直的な規制。 被災地での他社車両融通による、迅速かつ柔軟な支援物資の輸送。

多画面化問題:デジタル化が現場の首を絞める「DXの矛盾」

物流現場におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が推進される一方で、実務の現場では新たな問題が発生しています。荷主企業や倉庫、運送事業者がそれぞれ独自のWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)を導入した結果、端末やアプリケーションが乱立。ドライバーは配送先ごとに異なるタブレットやスマートフォンアプリを使い分け、複数の画面に入力・操作を強いられる「多画面化問題」が深刻な負担となっています。

提言では、この個別最適な「多画面」を解消するため、システム間のデータ連携(API連携)を推進し、一つの共通インターフェースで入力が完結する仕組み作りを強く求めています。

共同配送の最大の障壁「カルテル懸念」へのメス

2030年の輸送力不足を乗り越える最も有効な手段の一つが「共同輸配送(共同配送)」です。しかし、異なるメーカーや卸売業者、さらには競合するライバル企業同士が共同でトラックを走らせるためには、貨物の量、ルート、必要な車両台数、そして運賃などの詳細データを突き合わせる必要があります。

ここで問題となるのが、独占禁止法(カルテル・競争制限)への抵触懸念です。かつてデータ共有に関して競争制限を指摘された事業者も存在することから、業界内には「他社と詳細な物流データを共有することはカルテルと見なされるのではないか」という不安が根強く残っていました。

経団連は、共同配送におけるデータ共有が違法なカルテルに該当しない「安全な共有のあり方」を明記した、具体的なガイドラインの策定を政府に要望しました。これにより、企業間における共同配送の取り組みを大きく加速させる狙いがあります。

参考記事: 共同配送とは?仕組みやメリット・デメリット、導入成功のポイントを徹底解説

軒先情報:配送現場のブラックボックスを暴き「平準化」する

トラックドライバーの労働時間を圧迫する最大の要因は、荷主先や配送先での不透明な「待機時間・荷役時間」です。大型トラックやトレーラーを運行する際、配送先の受付時間、利用可能なバース数、駐車場所、待機スペースの有無といった「軒先(のきさき)情報」を事前に把握できれば、効率的な配車と運行が可能になります。

しかし、これらの情報はこれまで配送経験のあるベテランのノウハウ(暗黙知)に依存しており、新人のドライバーにとって現場に行くまで状況がわからない「ブラックボックス」となっていました。行政や関係機関がDXを通じてこれらの軒先情報をデジタル化し、オープンに整理・公開することで、ドライバーの精神的・肉体的負担を劇的に削減する仕組みを提言しています。

災害対策:現行法の硬直化を解きほぐす

激甚化する自然災害において、被災地への輸送力(レジリエンス)の確保は、人命に関わる重要な課題です。しかし、現行の「貨物自動車運送事業輸送安全規則」により、事業用トラックの運転手は「常時選任(特定の事業者に雇用されている運転手のみが、その事業者のトラックを運転できる)」が義務付けられています。

このため、被災地にドライバーが単身で支援に入っても、現地にある他社のトラックを代わりに運転して物資を運ぶことは、法的に不可能です。経団連は、災害時などの有事においては、一時的にこの常時選任義務の適用を除外する超法規的な規制緩和の仕組みを設けることを提言しています。

参考記事: 総合物流施策大綱とは?法改正ロードマップと荷主・事業者が取るべき実務対応を解説


3. 主要プレイヤーが直面する具体的な影響と実務への変化

経団連の提言は、今後の政府の最上位計画である「第8次総合物流施策大綱(2026年度〜2030年度)」の実行スケジュールや、改正物流効率化法の実務対応に対して、極めて直接的な影響を及ぼします。

参考記事: 第8次総合物流施策大綱が決定!2030年の輸送力25%不足を生き残る3つの対策

行政・規制当局への影響:データ共有のガイドライン策定と「共同配送の社会インフラ化」

行政にとっては、「データ共有=カルテル」という現場の懸念を速やかに払拭することが、2030年に向けた物流効率化の成否を分ける最大の鍵となります。

公正取引委員会と国土交通省が連携し、「共同配送を促進するための協調データ共有ガイドライン」を早期に策定することは、日本全体で積載効率を現在の38.5%台から引き上げ、物流をサステナブルな社会インフラ(フィジカルインターネット)へと転換させるための「最大の呼び水」となります。

SaaS・テクノロジーベンダーへの影響:個別最適から「つながるAPIプラットフォーム」へのパラダイムシフト

これまでITシステムベンダーは、各社独自の仕様に合わせたカスタマイズを売りに個別システム(WMS/TMS)を構築してきました。しかし、経団連が指摘する「多画面化問題」の解消に向けては、自社のシステム内だけで完結する「サイロ化された仕様」は市場から敬遠されるようになります。

今後は、他社のシステムや共通プラットフォームとシームレスに接続できる「API連携を前提としたオープンな設計」が必須です。ベンダーにとっては、いかに「つなぎやすいシステム」を開発し、企業間のデータの壁を取り払うことができるかが、今後の生存条件となります。

運送・倉庫事業者への影響:軒先情報の可視化による「ドライバーの早期戦力化」

運送事業者にとって、行政や荷主主導による「軒先情報」のデジタル化・オープン化は、慢性的な人手不足の中で「未経験の若手ドライバーや、経験の浅い乗務員を即戦力化する」ための強力な武器となります。

これまでのように「あの配送先は大型車だとこのルートで入らなければならない」「この時間帯は待機スペースがない」といった現場のローカルルールが事前に車載端末やスマホアプリのマップ上で共有されれば、ドライバーの配車効率は飛躍的に向上し、積載率の改善と待機時間の削減を同時に達成できます。

また、災害時の「常時選任義務の暫定的除外」が実現すれば、万が一の震災時などにおいて、自社の車両が被災・故障した場合でも、現地の他社トラックを活用して被災者へ緊急物資を迅速に届けることが可能になり、運送事業者が果たす社会的価値とBCP(事業継続計画)のレジリエンスが大幅に高まります。

荷主企業への影響:CLO主導による「協調領域」の決断と適正運賃交渉

荷主企業やメーカーにとって、物流はもはや「外部の運送会社に安く丸投げできる作業」ではなくなりました。改正物流効率化法によって役員クラスの「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務付けられる中、経営層は自社独自の配送条件やデータ形式を「非競争領域(協調領域)」として他社と標準化し、共同配送網に相乗りする決断を迫られます。

すでに、花王や三菱食品など大手9社が立ち上げた共同配送コンソーシアム「CODE(Cargo Owners’ Data-driven Ecosystem)」の事例が示すように、競合の垣根を越えてデータを標準化し、積載率を極限まで高める(配送効率を20%向上させる)取り組みが、今後の荷主経営における生存戦略のデファクトスタンダードとなっていきます。

参考記事: 総合物流施策大綱が示す2030年度輸送力25%不足に荷主の経営改革が必須

参考記事: 花王株式会社など9社が配送効率20%向上へ、データ標準化が必須対応に


4. LogiShiftの視点(独自考察):個社最適の聖域から「パブリック・インフラ」への大転換

経団連が打ち出した「2030年に向けた物流のあり方」の提言は、単なる目の前の現場改善や規制緩和の要望ではありません。日本の物流政策の軸足が、これまでの「民間企業がそれぞれの知恵で個社最適を追求する」段階から、「物流を国家全体のパブリック・インフラとして再定義し、競合他社ともデータを共有し合う」というハード・ソフト両面の地殻変動を示唆しています。

自社アセット(車両・倉庫)の多さから「データの協調能力」への競争軸の変化

これまでの物流ビジネスにおいて、強者とは「自社で多くのトラックを保有し、大規模な倉庫(アセット)を抱え、自社独自のネットワークで差別化できる企業」でした。

しかし、2030年の労働力不足(最大で輸送能力の25%〜34.1%が不足する)が目前に迫る中、個社単独の配送網を維持することは物理的に不可能です。今後は、物流が「公の共有インフラ」へと移行していきます。その際、企業の競争軸は「アセットをどれだけ抱えているか」ではなく、「他社と標準化されたデータ基盤(協調領域)に接続し、いかに効率的な共同運行を設計・利活用できるか」という「データの協調能力」へと完全に変化します。

カルテル懸念という「思考停止の言い訳」の終焉

これまで、多くの企業で共同配送やデータの共有が進まなかった裏には、実務担当者や経営層が「独占禁止法やカルテルに抵触する可能性があるから」という防衛策を言い訳に、個社最適の聖域(自社固有の商慣習やシステム)を守り続けてきた側面が少なからずあります。

経団連が、データ共有におけるカルテル抵触を避けるための明確なガイドラインの策定を要望したことは、この「思考停止の言い訳」を封じる効果を持ちます。ガイドラインが提示されれば、「国や経済界が公認するルール」の下でデータ共有を拒む企業は、単に「自社の非効率な体制を維持したいだけの、サステナビリティに欠ける企業」として、荷主や運送事業者、さらには市場から選ばれなくなるでしょう。

システムが「つながる」時代だからこそのフェイルセーフ設計

WMS、TMS、バース予約、さらには行政が公開する軒先情報データがAPIで密に連携し合う「つながるプラットフォーム」が実現した未来において、実務のプロフェッショナルが最も警戒すべきは「大規模なシステム障害時の現場崩壊リスク」です。

全ての運送事務や配車、荷役作業が共通のデジタル基盤に依存すれば、システムや通信のダウンが一瞬にして日本全体の物理的な物流を麻痺させます(食品の腐敗、工場ラインの完全停止など)。

したがって、DX投資を進めてシステムを共通化・自動化する一方で、現場では万が一の障害時に備え、エッジ(ローカル環境)での最低限のデータ保持ロジックや、「スマホが繋がらない時の紙ベースのピッキングリスト・運行指示書の出力手順」といった、実務的で泥臭い「フェイルセーフ(BCP)体制」を完全にマニュアル化しておく必要があります。テクノロジーを使いこなす側としての、この「二の矢(アナログバックアップ)」を持てる企業こそが、真の強靭性を備えたプロフェッショナルです。

参考記事: 新物流大綱が閣議決定!2030年問題に備える5つの集中改革と経営対応策

参考記事: 共同輸配送事業計画完全ガイド|総合効率化計画のメリットからDX戦略まで徹底解説


5. まとめ:持続可能な物流の構築に向けて明日から実務者が意識すべきこと

経団連の提言は、2030年に向けた日本のサプライチェーンを維持するための強力なサバイバルガイドです。効率化、処遇改善、DX、標準化、そして災害時の強靭化は、すべての物流関係者が避けて通れない最重要テーマとなっています。

明日から経営層や現場リーダーが実行すべき具体的なアクションは以下の通りです。

  • 自社システムとデータの「外部接続性(API連携)」の点検

    • 新しいWMSやTMSを導入・リプレイスする際、または現在のシステムにおいて、独自のカスタマイズや囲い込みを前提にせず、他社のシステムと容易に「API連携」できる共通仕様(データフォーマット)になっているかを確認する。
  • 自社独自の「こだわり(非効率な商慣習)」を協調領域として標準化する覚悟

    • 独自の伝票フォーマット、パレットサイズ、細かな指定伝票、過度な時間指定は自社の強みではなく、物流難民化のリスクを高める要因である。T11型パレットなど、業界標準の仕様に適合させる準備を直ちに開始する。
  • 運賃交渉や実務における「データ(エビデンス)」の整備

    • 共同配送や価格交渉、軒先情報の共有に向けて、実際の運行データ、積載率、待機時間、荷役の附帯作業の実態をデジタルデータとして可視化し、エビデンスに基づいて他社や荷主と交渉できる体制を整える。

物流を単なるコストセンターから、社会生活と経済成長を支える最重要の「パブリック・インフラ」へと進化させるために、私たちは今すぐ行動を起こすべきです。


出典: Yahoo!ニュース

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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