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輸配送・TMS 2026年6月5日

花王株式会社など9社が配送効率20%向上へ、データ標準化が必須対応に

花王株式会社など9社が配送効率20%向上へ、データ標準化が必須対応に

2026年6月、日本の物流業界は極めて大きな転換期を迎えました。花王株式会社をはじめとする、従来は競合関係や異なる商流にあった大手9社が、業界の垣根を超えて「共同配送」の拡大に向けた本格的な連携を発表したためです。これまで「呉越同舟」とも言える関係性だった企業群が手を取り合った背景には、深刻化する物流リソースの不足(物流2024年問題・2030年問題)と、法規制による効率化の義務付けがあります。

今回の取り組みが特に照準を合わせているのは、物流網の末端にあたる「支線配送(ラストワンマイル手前の配送)」の課題解決です。幹線輸送に比べて積載率が著しく低くなりがちな支線配送において、各社でバラバラだった物流データを標準化し、クラウドシステム上で荷物の情報を共有・マッチングさせることで、高度な「混載」の実現を目指します。これにより、1台のトラックに複数メーカーの荷物を効率よく積み込み、配送密度を劇的に高めることが可能になります。

本ニュースは、単なる企業のコスト削減策に留まりません。物流を「自社で抱え、競い合うコスト」から「業界全体で維持すべきインフラ」へと捉え直す、パラダイムシフトの象徴です。特に、物理的な共同配送を実現するための前提条件として「データの標準化(物流DX)」が位置づけられた点は、今後の物流経営において極めて重要な示唆を与えています。本記事では、この歴史的な取り組みの全容を整理し、サプライチェーンを構成する各プレイヤーに与える具体的な影響と、目指すべき未来予測について専門的な知見から徹底解説します。


1. 物流データの標準化で挑む「支線配送」共同化の背景

今回の共同配送拡大の動きは、2026年4月に本格施行された「改正物流効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律)」と密接に結びついています。この法改正により、一定規模以上の荷主企業には物流統括管理者(CLO)の選任や、中長期的な物流効率化計画の策定、定期的な実績報告が義務付けられました。もはや、物流の効率化は一企業の任意活動ではなく、コンプライアンス遵守における「必須事項」へと変化したのです。

このような法的圧力と慢性的なドライバー不足が極限に達する中、花王と三菱食品株式会社が幹事となり、異業種大手9社が参画する共同配送コンソーシアム「CODE(Cargo Owners’ Data-driven Ecosystem)」が本格始動しました。

まずは、本プロジェクトの基本構成を以下のテーブルで整理します。

共同配送コンソーシアム「CODE」の基本概要

項目 詳細内容 解決を目指す物流課題 運営体制・特徴
幹事企業 花王株式会社、三菱食品株式会社 慢性的なトラックドライバーなどの担い手不足の解消 当面は幹事企業が主導して実務やコストを牽引
参画企業 旭食品、あらた、トーハン、日本出版販売、PALTAC、三井物産流通グループ、メディセオ 個社単独での車両確保の限界と配送コストの削減 食品、日用品、出版、医薬という業界を超えた連携
対象領域 「支線配送」領域(物流拠点から店舗や納品先までの近中距離配送) 小売店舗などの納品先での長時間の荷待ちと積載率の低下 ローカルルールが複雑で共同化が最も困難な領域
核心技術 外部クラウド「Snowflake」とコースマッチングツールの活用 競争法(独占禁止法)遵守とデータ標準化の壁の突破 セキュアな環境での多対多のダイナミック配車

「幹線輸送」から「支線配送」へのパラダイムシフト

従来、共同配送や帰り便の活用が積極的に進められてきたのは、工場から大型物流拠点へと大量の荷物を運ぶ「幹線輸送」領域でした。長距離かつルートが固定化されているため、スケールメリットを出しやすいからです。

一方で、拠点から小売店や各納品先へ向かう「支線配送」領域は、店舗ごとの細かな時間指定、納品先バックヤードの狭さによる車両サイズ制限、検品ルールの違いといった独自のローカルルールが絡み合っているため、共同化が極めて困難な「聖域」とされてきました。CODEは、あえてこの最も非効率の温床となっていた領域に、データの標準化という武器を持って切り込んでいます。

幹線輸送と支線配送の違い、および今回のCODEによるアプローチを以下に整理します。

配送区分における輸送特徴と共同化の難易度比較

配送区分 輸送の特徴 共同化における課題 今回のCODEによる対応
幹線輸送 大量長距離輸送、中継輸送や帰り便の活用が比較的容易 荷主企業ごとのスケジュール調整程度で協調可能 既に多くの企業で先行導入が進んでいる領域
支線配送 中近距離配送、多頻度小口、納品条件が極めて複雑 店舗ごとの納品時間指定や車両制限、高い調整コスト 出荷データを共通基盤に集約し、AIで最適コースを可視化

参考記事: 花王ら異業種9社でCODE始動!支線配送を根本から変革する3つの影響


2. 異業種混載「CODE」がサプライチェーン各プレイヤーに与える影響

日本最大級とも言える、業界の垣根を越えた共同配送網の構築は、参画する9社だけに留まらず、サプライチェーンに関わる全てのプレイヤーの経営・実務オペレーションに重大な影響を及ぼします。

2-1. 製造業者・メーカー:自社のこだわりを捨てる「非競争領域」の覚悟

メーカーや荷主企業にとって、「物流は競争領域ではない」という強い合意形成とマインドセットの変革が求められます。これまで、各社は「自社専用のトラックで、どこよりも早く、細やかに納品する」ことを営業上の強みとして差別化を図ってきました。

しかし、その個別最適が、結果としてトラックの積載率を低下させ、ドライバーの待機時間を増大させる要因となっていました。これからは、自社固有の納品時間指定や梱包、パレットなどの商慣習を捨て、業界標準のフォーマットへと適合させることが生き残りの条件となります。

2-2. SaaS・テクノロジーベンダー:企業間の「データの壁」を壊すインターフェース構築

企業同士が物流データを共有するにあたり、最大の障壁となるのが「システムやデータの互換性」です。各社で異なる商品コード、伝票フォーマット、納品先マスターの粒度を、いかにシームレスに連携させるかが問われます。

テクノロジーベンダーにとっては、単なる一企業向けの管理ツール(個別WMSや個別TMS)を販売するビジネスモデルから、企業間の「データの壁」を壊し、安全かつセキュアにマッチングを行う統合インターフェースやマッチングエンジンの開発・提供こそが最大の商機となります。

参考記事: 卸大手9社が共同配送へ!効率20%増を実現する異業種連携と3つの影響

2-3. 運送事業者:「多社混載」オペレーションへの転換と積載率の可視化

実運行を担う運送事業者にとっては、従来の「1社専属」または「単一荷主の荷物のみを運ぶ」モデルから、「多社混載」を前提とした高密度な配送オペレーションへの転換が必須です。複数のメーカーや卸から荷物を預かり、1台のトラックに効率的に積み合わせて運行するためには、リアルタイムな積載率の可視化が不可欠となります。

このオペレーション転換は一時的な業務負荷を伴うものの、積載率と実車率(走行距離に対する実車距離の割合)を極限まで高めることで、運送事業者の収益性を大幅に改善させます。さらに、配送先が一括されることで、ドライバーを最も疲弊させる要因である「荷待ち(待機)時間」の劇的な削減にも直結します。

2-4. 倉庫・卸事業者:異業種クロスドック(積み替え)を実現する「超・高機能ハブ拠点」の要請

物流センターを運営する倉庫・卸事業者においては、日用品、食品、医薬品、書籍といった異なる管理基準や荷姿を持つ商材を、一つの拠点で高速に仕分け・積み替える(クロスドック)ための「超・高機能ハブ拠点」の構築が急務となります。

食品の厳格な温度帯管理や、医薬品に求められる高度なトレーサビリティ、多様な形状を持つ日用品の荷崩れ防止ピッキングなどを同時に処理するためには、高度なWMS(倉庫管理システム)と、作業員の負荷を軽減する自動化マテハン機器(自律走行搬送ロボットAMRや立体自動倉庫など)への戦略的な投資が成功の成否を分けることになります。

参考記事: 花王に学ぶ都市部倉庫 of 自動化投資!競争力を高める3つの実践手順


3. LogiShiftの視点:フィジカルインターネットの試金石と構造的変化

今回のニュースは、単なる企業のコスト削減や一時的な環境負荷低減の施策ではありません。国が2030年に向けて強力に推進している、物流網をインターネットの通信規格のように共有・標準化する「フィジカルインターネット」の実現に向けた、日本最大級の社会実装事例として歴史に刻まれるべきものです。

以下、専門的な視点から、このプロジェクトが持つ真の価値と将来予測について考察します。

3-1. 容積と重量を補完し合う「異業種混載」の物理的最適化

同業種同士の共同配送は、荷姿や納品プロセスが似ていて連携しやすい一方で、繁忙期や需要のピーク(お中元、お歳暮、年末年始、季節の変わり目など)が完全に重なってしまい、結局はトラックが不足するという致命的な弱点がありました。

しかし、異業種が手を組むことで、需要の波を年間を通じて平準化させることが可能になります。
さらに、物理的な混載の観点からも、以下のような劇的なメリットが生まれます。

  • 容積と重量のパズルの解決:
    日用品や衛生用品のような「かさばるが軽い(容積勝ち)」商材と、飲料・調味料や書籍のような「小さくて重い(重量勝ち)」商材を同じトラックに組み合わせます。
    これにより、車両の最大容積制限と最大積載重量制限の双方を無駄なく限界まで使い切り、空気ばかりを運ぶ「空気輸送」を極限まで解消できます。

国土交通省のデータによると、日本の営業用トラックの平均積載率は約38%台と極めて低い水準で低迷しています。CODEが実証した、異業種混載による配送効率の約20%向上という成果は、まさにこの物理的な組み合わせの妙によって成し遂げられたものです。

参考記事: 積載率38%台を脱却する三菱食品らの共同配送は2026年必須対応

3-2. 競争法(独占禁止法)をクリアするSnowflakeによるデータガバナンス

他社とのデータ共有において、常に経営上の大きな懸念となるのが「競争法(独占禁止法)」への抵触や、機密情報(売れ行きデータ、新商品の出荷計画、個別運賃など)の他社への漏洩リスクです。

CODEが画期的なのは、物理的なトラックのシェアに先んじて、データガバナンスの壁を「テクノロジー」で解決した点にあります。外部のセキュアなクラウドデータプラットフォームである「Snowflake」をシステム基盤に据え、参加企業のデータを安全に格納。データ分析や配車マッチングは、お互いの生データを直接閲覧できないようにマスキングを施したブラックボックス環境下で実行されます。このセキュアなデータ連携の仕組みは、今後の物流DXにおける事実上の標準(デファクトスタンダード)となる可能性を秘めています。

3-3. 予測:中堅・中小企業を巻き込むオープンプラットフォームへの進化

CODEは発足時、大手9社による任意団体としてスタートしましたが、将来的には法人化や会費制の導入、そして他企業の参画を積極的に受け入れる方針を明言しています。これは、限られた巨大企業だけのクローズドなネットワークを作るのではなく、社会インフラとしての「オープンプラットフォーム」を創り出すという決意の表れです。

今後は、先行する大手企業が整備したこの標準データ基盤と共同配送網に、自社単独での物流維持が不可能となった中堅・中小の荷主企業や地方の運送事業者が、まるでインターネットに接続するかのように、次々と「相乗り」していく展開が加速すると予測されます。

参考記事: 共同配送コンソーシアムCODEで効率20%増を実現し物流維持に直結


4. まとめ:持続可能な物流網の構築に向けて明日から実務者が意識すべきこと

花王、三菱食品をはじめとする業界トップ9社による共同配送コンソーシアム「CODE」の本格始動は、「自社の荷物は自社専用のトラックで運ぶ」というサイロ化された古い物流モデルの終焉を明確に示しています。この物流大変革期を乗り越えるため、一般の物流実務者や経営層が明日から意識し、即実行すべきアクションは以下の3点です。

  • 自社物流のオープン化と協調領域の探索:
    競合他社や異業種を単なるライバルとして遠ざけるのではなく、同じ「物理インフラをシェアするパートナー」として捉え直し、共同配送や中継輸送の可能性をゼロベースで模索する。
  • データ規格と荷姿の標準化(先行投資):
    いつでも共同プラットフォームに合流できるよう、社内のデータ、伝票フォーマット、商品マスター、パレットサイズ(11型など)の標準化を進める。標準化こそが、共同物流というインフラへの乗車切符(パスポート)となる。
  • 納品サービスレベル(SLA)の全社的な見直しと交渉:
    支線配送の共同化や混載効率を高めるためには、過度な多頻度小口配送や、厳格すぎる時間指定(SLA)の緩和が不可欠。営業部門と物流部門が固く連携し、小売店や取引先に対してリードタイムの延長や計画的な発注への移行を促す交渉をスタートさせる。

物流は、もはや単なるコストセンターではありません。企業の社会的責任(ESG・CO2削減)を果たし、事業継続性(BCP)を担保する、最重要の経営戦略領域です。他社との「共創(協調)」を進め、持続可能なサプライチェーンを自らの手で築き上げていきましょう。

参考記事: フィジカルインターネットとは?2024年問題と物流崩壊を救う革新モデルの全貌


出典: 日経ビジネス電子版
出典: 花王株式会社 ニュースリリース
出典: 三菱食品株式会社 ニュースリリース
出典: 株式会社トーハン ニュースリリース
出典: 国土交通省 自動車輸送統計調査

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監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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