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Home > サプライチェーン> 生産主導の脱却へ!花王が国内31拠点を新体制で統括しSCM改革が加速
サプライチェーン 2026年8月3日

生産主導の脱却へ!花王が国内31拠点を新体制で統括しSCM改革が加速

生産主導の脱却へ!花王が国内31拠点を新体制で統括しSCM改革が加速

花王は2026年1月、ロジスティクス部門を独立新設して最高物流責任者(CLO)を配置し、これまで生産部門の下部組織にあった物流機能を経営戦略の独立した柱へ格上げした。老朽化や取扱品目の激増、改正物流効率化法への対応が迫る中、自社で一気通貫の流通網を持つ大手の組織変革は、日本製造業のSCM再構築に向けた強力な先行モデルとなる。

ニュースの背景・詳細:30〜40年経過した物流基盤の限界と組織構造の抜本改革

消費財メーカー大手である花王は、自社でメーカー物流から販売物流までを直接コントロールする国内でも極めて稀有なサプライチェーン体制を築いてきた。しかし、同社が抱える物流インフラと組織構造は、長期にわたる市場環境の変化と需要構造の多様化に伴い、深刻な構造的ペインに直面していた。

設備スペックの限界とアイテム数「3倍」の壁

花王は国内に10の生産工場と31の物流拠点(家庭品24拠点、化粧品7拠点)を展開している。これらの製品は、同社が100%出資する販売会社「花王グループカスタマーマーケティング株式会社」を通じて、全国の共配センターや小売店の店頭へ卸されている。同社の国内における年間取扱貨物量は約170万トンに達し、これはヤマト運輸の宅急便事業(年間約19億個)にも匹敵する極めて広大かつ高密度な輸送ネットワークである。

しかし、全国各地に点在する31の物流拠点の多くは、構築から30年〜40年が経過しており、建屋やマテハン設備の老朽化が顕著になっていた。さらに、顧客のニーズが細分化した結果、扱われる商品アイテム数は物流拠点構築当時と比較して約3倍に膨れ上がっていた。

従来の設備スペックでは、急増したアイテム数のピッキングや保管スペース、出荷バースのキャパシティに対応しきれず、現場のオペレーション負荷と保管効率の低下が限界に達していたのである。

「生産が先、物流が後」という組織的サイロの打破

こうした拠点スペックの限界を破るためには、全国の拠点に対して一律に予算を投じるのではなく、どの拠点を自社投資で最新鋭化し、どの拠点を外部委託(アウトソーシング)へ切り替えるかという経営主導の「選択と集中」が不可欠であった。

しかし、同社における従来の組織体制では、物流機能が「生産部門」の下部組織(傘下)として位置づけられていたことが構造的な障害となっていた。この体制下では、以下のような過課題が発生していた。

  • 物流部門が生産部門の下部にあったため、販売部門との物理的・組織的な距離が遠く、需要変動に対する即応性が阻害されていた。
  • 経営資源の配分において「生産設備への投資が優先され、物流設備への投資が後回しになる」という不均衡が定着していた。
  • 物流現場で発生する負荷やコストが、生産や販売の意思決定プロセスに直接反映されにくいガバナンス構造になっていた。

サプライチェーン全体を最適化するには、生産・販売・物流の3者が完全に対等な立場で議論し、意思決定を下す組織構造への転換が急務であった。

森信介氏のCLO就任と改革の時系列

この課題に対処すべく、花王は他産業での大規模物流改革で実績を持つ外部人材を招聘した。1997年にヤマト運輸入社後、巨大物流基盤「羽田クロノゲート」の構築や全国ネットワーク改革を主導した森信介氏が、2024年10月に執行役員(ロジスティクス改革担当)として着任。その後、2026年1月付けでロジスティクス部門を生産部門から独立して新設し、森氏が執行役員ロジスティクス部門統括 兼 CLO(最高物流責任者)に就任した。

森CLOの就任以降、花王が進めてきたSCM改革および関連する外部展開の時系列と定量成果は以下の通りである。

年月 実施事項・体制変更 具体的取組・改革内容 狙いおよび定量的成果
2024年10月 森信介氏が花王に着任 執行役員ロジスティクス改革担当として参画。現場視察と全社SCMの構造課題を抽出。 ヤマト運輸での大規模拠点構築ノウハウを花王の自社物流網へ注入。
2026年1月 ロジスティクス部門の独立新設・CLO設置 物流機能を生産部門から独立させ、生産・販売・物流が対等に連携する三本柱体制を確立。 経営資源配分の適正化と、拠点の自社投資・アウトソース判断を迅速化。
2026年1月〜 豊橋工場等の次世代拠点での現場改善推進 自動倉庫、バース予約システム、自動運転フォークリフト、仕分けロボットを先行導入。 トラックドライバーの拘束時間を従来比で約50%削減する成果を達成。
2026年4月 共同配送コンソーシアム「CODE」の発足 三菱食品や日用品・食品・医薬品等の荷主9社とデータ連携による共同配送組織を結成。 花王の物流データ解析技術を活かし、他社・他業界との幹線輸送の共同化を推進。
2026年7月 「CLOオブザイヤー2026」大賞を受賞 日経ビジネス主催の表彰制度にて、経営一体型のSCM改革とCODEの先進性が評価され最高賞を受賞。 荷主企業における物流統括管理者の模範的モデルとして業界内外から高い評価を獲得。

また、この改革の背後には、2026年に本格施行される「改正物流効率化法(新物効法)」の存在がある。同法では年間貨物取扱重量9万トン以上の「特定荷主」に対し、役員級のCLO選任や中長期計画の策定、定期報告が義務付けられている。年間170万トンを取り扱う花王にとって、CLOの設置と物流機能の独立は、法令適合を超えた「企業価値向上」のための必然的な経営判断であった。

参考記事: 改正物流効率化法で特定荷主3000社超に2026年4月CLO選任が義務化へ

業界への具体的な影響:全社ガバナンスと商慣習適正化への波及効果

花王という日本を代表する消費財メーカーが、物流を生産部門から切り離して独立組織化し、役員級CLOのもとで全社改革を進める動きは、物流業界の各プレイヤーに対して極めて大きなインパクトを与えている。

行政・規制当局:実効性の高い「CLO設置モデル」の提示

行政(国土交通省・経済産業省・農林水産省)が改正物流効率化法において最も懸念しているのは、企業が形式的に既存の物流部長などの肩書きを「CLO」に変更するだけの「名ばかりCLO」の蔓延である。

名ばかりのCLOでは、営業部門の「突発的な即日配送の要求」や、生産部門の「工場都合による押し出し出荷」を抑止する権限を持てず、法改正が狙う輸送効率化(荷待ち時間削減、積載率向上)が達成できないためである。

花王が示した「生産部門からの独立」と「執行役員級CLOへの全社ガバナンス権限の付与」という組織モデルは、規制当局が求める「経営トップ主導による実効性ある物流統括体制」の模範解答となる。年間170万トンを動かす巨大荷主がこの体制で定量成果(豊橋工場でのドライバー拘束時間50%削減など)を出した実績は、今後、行政が他社へ是正指導を行う際の重要なベンチマークとなる。

製造業者・メーカー:「コストセンター」意識の解体とP/Lガバナンスの転換

多くの日本の製造業者において、物流部門は長年「削るべき経費(コストセンター)」であり、「工場で製造された製品を言われた通りに運ぶ下請け組織」として扱われてきた。そのため、工場側の都合による生産波動や、営業側の無理な納品条件の提示によって発生する物流コストと現場負荷は、すべて物流部門が吸収させられていた。

花王の改革は、この旧態依然としたメーカーの組織構造に対する強力な批判と処方箋を示している。

経営資源配分のイコールフッティング

物流部門を独立させ、生産・販売と対当な立場に据えることで、設備投資の優先順位において「工場機器の刷新」と「物流倉庫のマテハン自動化」が同じ経営のテーブルで比較検証されるようになる。

商慣習と商品設計へのフィードバック

CLOが全社横断の権限を持つことで、物流現場の負荷(段ボールのサイズ、パレット積載効率、トラック荷待ち時間)を、商品の外箱設計や販売リードタイムの交渉へダイレクトにフィードバックすることが可能になる。

日清食品など先進企業においてもCLO主導による「物流改善命令権」の行使が進んでいるが、花王の事例は製造・卸・販売までを一気通貫で手掛ける企業において、物流が経営戦略の主軸になり得ることを証明している。

参考記事: 2026年4月法改正へ日清食品のCLO選任後アクションで物流効率化が加速

運送事業者・倉庫事業者:「選ばれる荷主」への進化と取引適正化の加速

ドライバー不足が深刻化する中、運送事業者は長時間の荷待ちや過酷な手荷役を強いる荷主から優先的に撤退する「荷主の選別」を強めている。荷主企業にとって最大の生存リスクは、自社製品を運んでもらえなくなる「物流難民化」である。

花王が物流拠点の老朽化対応や自動化投資、バース予約システムの導入を急速に進めることは、運送事業者にとっても多大なメリットをもたらす。

  • 豊橋工場でのドライバー拘束時間50%削減に見られるように、トラックの回転率が向上し、運送会社の収益性とドライバーの労働環境が直接的に改善される。
  • 2026年4月に発足したコンソーシアム「CODE」を通じて、花王が持つ物量データと他社の物量がマッチングされることで、運送会社は長距離の空車回送(実車率の低下)を回避し、安定した幹線輸送の物量を確保できる。

荷主側が自発的に「運送会社にとって働きやすい環境」を整えるアプローチは、運送事業者との長期的パートナーシップを強固にし、輸送力の優先的な確保に結びついている。

参考記事: 改正物流効率化法2026年義務化!特定荷主に課される3大義務と生存リスク

LogiShiftの視点(独自考察):自社一気通貫モデルと「標準化」の高度な融合

今回の花王のSCM改革は、自社単独の効率化(個社最適)から、業界全体の輸配送網の維持(全体最適)へと経営の枠組みを拡張させた点に最大の本質がある。

自社モデルの強みを活かした段階的改革のロードマップ

花王の流通システムは、メーカー物流から販売物流までを自社100%出資の販売会社(花王グループカスタマーマーケティング)経由で一括コントロールする特有の強みを持っている。この構造は、従来であれば「自社閉じたブラックボックス」になりがちであった。

しかし森CLOのもとで進められたアプローチは、以下の2段階で極めて論理的に展開されている。

ステージ1:自社内の「サイロ破壊」とデータの可視化

まず、ロジスティクス部門を独立させ、生産・販売と同等の権限を与えた。その上で、31拠点の中から投資拠点とアウトソース拠点を選別し、豊橋工場などの重要拠点に先端テクノロジー(バース予約、自動フォークリフト)を導入して自社内のデータを完全に可視化した。

ステージ2:プラットフォーム(CODE)を通じた「非競争領域の共有」

自社内の基盤が整った段階で、三菱食品をはじめとする異業種・競合荷主9社とのコンソーシアム「CODE」を立ち上げ、自社のデータ解析技術を開放した。年170万トンという自社物量だけではカバーしきれない地域や時間帯の輸配送密度を、他社物量とのマッチングによって補完する戦略である。

独りよがりの「自社最適」から脱却できない企業への警鐘

多くの特定荷主企業が、「自社倉庫の自動化」や「自社専用パレットの導入」といった自社閉じた投資に留まり、2026年以降の物流崩壊リスクに対応しきれていない。

花王の事例が示しているのは、「自社に特化した効率化」だけでは、ドライバー人口が激減する2030年までの輸送力不足(全国で約25%〜34%の貨物が運びきれなくなると推定される危機)を乗り越えられないという事実である。自社の物流組織に強力なガバナンス(CLO)を持たせ、社内の意思決定を迅速化した上で、他社との共同配送や業界標準規格へ柔軟に適応できる構造を作ることこそが、これからの製造業に求められる真のSCM戦略である。

参考記事: 年9万トン超の荷主に改正物流効率化法での物流統括管理者選任が必須対応に

まとめ:明日から経営層と現場リーダーが実践すべき即時アクション

花王が実行した大規模な組織改編とCLO主導のSCM改革は、改正物流効率化法の本格施行を迎えたすべての荷主企業にとって、今すぐに取り組むべき実務的なロードマップを示している。企業の持続的な成長とサプライチェーンの維持に向け、明日から経営層および現場リーダーが取るべき具体アクションを提示する。

  1. 物流部門の組織的位置づけとCLOの職務権限規定を即時見直す
    既存の物流部署が生産や営業の下部組織になっていないかを検証する。
    取締役会レベルの意思決定に参画できる役員・執行役員クラスをCLOに任命し、社内の職務権限規定に「他部門に対する物流改善命令権」や「物流コストの発生元部門(営業・生産)へのP/L配賦ルール」を明文化して全社ガバナンスを確立する。

  2. 拠点の老朽化データと取扱アイテム数のミスマッチを定量数値で可視化する
    自社が管理・利用する全物流拠点について、建設年数、保管効率、出荷バースの稼働率、そして過去5〜10年間の取扱SKU(アイテム数)の推移を一元的に算定する。
    一律の予算配分を廃止し、自社で先端技術を集中投資する「コア拠点」と、外部の3PL事業者へ委託・集約する「サテライト拠点」の投資判断基準(選択と集中)を策定する。

  3. 自社データ基盤の整備と他社共同配送コンソーシアムへの参画準備を進める
    バース予約システムやWMS(倉庫管理システム)から得られる荷待ち・荷役時間のタイムスタンプデータをデジタル化し、国への定期報告書に耐えうるデータ基盤を構築する。
    単独での効率化に限界が見込まれる幹線輸送ルートについては、同業・異業種とのデータ共有による共同配送ネットワークや標準パレット(T11型)の利用に向けた実証実験(スモールスタート)へ早期に着手する。

参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策

出典: JBpress Innovation Review
出典: MONOist
出典: 花王株式会社 ニュースリリース

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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