1. 物流現場を疲弊させる「部門間の壁」と蓄積する課題
倉庫管理者や実務担当者の皆様は、日々このような壁に突き当たっていませんか。
- 「時間外労働を減らすように指示されたが、具体的な削減方法が見つからない」
- 「営業部門からの急な特急便の手配要請や、調達部門の過剰な在庫に現場が振り回されている」
- 「荷待ち時間が長すぎて、運送会社から契約を打ち切られないか不安だ」
- 「現場が疲弊した結果、誤出荷などのヒューマンエラーが頻発している」
これらの課題は、現場の努力不足が原因ではありません。
最大の原因は、社内の「部門間の壁(サイロ化)」にあります。
従来の物流部長の権限では、他部門の業務プロセスにまでメスを入れることは困難でした。
しかし、このままアナログで非効率な現場を放置すれば、2026年の法改正に対応できません。
運送会社から選ばれない「物流難民」へと転落するリスクも高まります。
2. CLO選任後のアクションと物流事業者の対応
こうした危機を打破する鍵となるのが、2026年4月に本格施行される「改正物流総合効率化法」です。
この法律により、年間輸送量が一定基準を超える「特定荷主」に対し、物流統括管理者(CLO)の選任が義務化されました。
CLOは、従来の物流部長とは異なります。
役員クラスの強力な権限を持ち、サプライチェーン全体の「全体最適」を実行する責任者です。
物流専門メディア『LOGISTICS TODAY』の連載では、CLO選任後の具体的なアクションが活発に議論されています。
それが、今回のテーマである「CLO特集/対談【後編】CLO選任後のアクション、物流事業者の対応は―」です。
経営トップ直轄で推進する「物流改善命令権」の行使
CLOが機能するための最大の武器は「物流改善命令権」です。
営業部門による無理な即日納品の強要や、生産部門による過剰な見込み生産を規制します。
「商流」と「物流」を切り離す「商物分離」を徹底し、全社的な最適解を導き出します。
日清食品に学ぶ「6割の完成度」で走り出すアジャイル改革
多くの企業が、完璧な計画を作ろうとして身動きが取れなくなります。
しかし、日清食品の深井CLOは「業界全体で6割も進めば十分」というアジャイルな姿勢を提言しています。
100%の合意を待つのではなく、まずは特定の拠点や配送ルートに絞ってスモールスタートします。
そこで得られた成果をもとに全社へ展開していくアプローチが、最も実効性が高いのです。
参考記事: 日清食品CLOが語る!物流部門を成長の核へ変える3つの実践任務
3. 現場主導で進めるCLO導入の実践3ステップ
それでは、実際にCLOを機能させ、現場の課題を解決するためには、どのように実践すればよいのでしょうか。
倉庫管理者や実務担当者が明日から取り組むべき3つのステップを、以下のテーブルに整理しました。
| ステップ | 実行する具体的な内容 | 期待される現場の変化 | 必要なデジタルツールの導入 |
|---|---|---|---|
| ステップ1 | トラックの到着時間や荷待ち時間のデータを正確に測定する | 現場の曖昧な感覚を客観的なデータへ可視化 | トラック予約受付システム(バース予約) |
| ステップ2 | 社内の職務権限規定にCLOの物流改善命令権を明文化する | 営業や製造部門への強制的な改善指示が可能に | 共通のデータ可視化ダッシュボード |
| ステップ3 | 蓄積されたデータをもとに運送会社と対等な運賃交渉や条件改定を行う | 今後の物流難民化を防ぎパートナーシップを強固にする | クラウド型の輸配送管理システム(TMS) |
ステップ1:現状の可視化とデジタルデータの蓄積
データがなければ、他部門や運送会社との交渉は単なる水掛け論に終わります。
まずは、現場で日常的に発生しているトラックの「荷待ち時間」や「荷役時間」をデジタル化します。
紙の受付簿を廃止し、クラウドツールを活用して正確なエビデンスを蓄積しましょう。
ステップ2:社内の「職務権限規定」の策定と部門間連携
CLOに名ばかりの肩書きを与えるだけでは、改革は進みません。
「CLO의承認を得ない基準外の特急配送は行わない」などのルールを社内規定に明記します。
物流コストの超過分を、原因となった営業部門の損益(P/L)へ配賦する仕組みも有効です。
参考記事: CLOが担う「物流の経営課題化」と組織改革のステップ【2026年05月版】
ステップ3:運送会社との持続可能なパートナーシップ構築
CLOの役割は、自社の利益を追求することだけではありません。
物流効率化で浮いたコストや利益を運送会社に適正な運賃として還元します。
これにより、長時間の荷待ちや無償 of 付帯作業によるドライバーの疲弊を防ぎます。
運送会社から「選ばれる荷主」になることが、物流難民化を防ぐ唯一の手段です。
4. CLO導入が現場にもたらす定量的・定性的効果
CLO主導の改革を実行することで、物流現場には劇的な変化が生まれます。
ホクシン株式会社の事例では、クラウドツール「MOVO」を導入したスモールスタートにより、大きな成果を上げています。
CLO導入前(Before)と導入後(After)の比較を、以下のテーブルにまとめました。
| 比較項目 | 導入前(Before)の課題 | 導入後(After)の効果 | 経営・財務へのインパクト |
|---|---|---|---|
| トラックの待機時間 | 特定の時間帯に車両が集中し長時間の荷待ちが発生 | トラック予約システムの活用で待機時間を60分未満に短縮 | 庸車費や残業代の削減と適正運賃の維持 |
| 事務員の連絡業務 | 電話やFAXによる煩雑な確認や転記作業に追われる | デジタル化により連絡業務を月間50時間削減 | 業務効率化とヒューマンエラーの撲滅 |
| 部門間の連携 | 営業部門の無理な特急便要請に物流現場が疲弊 | 物流改善命令権により納品リードタイムを標準化 | 在庫の圧縮とキャッシュフローの改善 |
| ESG評価とBCP | 無駄なトラック走行や待機によるCO2排出量の増加 | 積載率向上やルート最適化でスコープ3のCO2削減 | 企業ブランド価値の向上と事業継続性の強化 |
長時間待機の解消による「ホワイト物流」の実現
トラックの到着時間を分散させることで、倉庫のバース(積み降ろし場)の稼働率が均等化されます。
ドライバーの待機時間が大幅に削減され、倉庫スタッフの荷役作業も計画的に進めることができます。
連絡業務の削減と誤出荷の防止
電話やFAXによるアナログな伝達を廃止し、データを一元管理することで、事務作業が劇的に削減されます。
「勘と経験」に頼る属人化を排除し、WMSなどのシステムを導入することで、誤出荷などのミスを撲滅できます。
参考記事: 【2026年義務化】CLO(物流統括管理者)設置で企業価値を高める3つの対策
5. 成功の秘訣は完璧を求めない「6割のスタート」
CLO選任後のアクションを成功させるための秘訣は、最初から「100%完璧な体制」を求めないことです。
サプライチェーンには、社内だけでなく、運送会社や取引先など、多くのステークホルダーが関わっています。
最初から全員の合意を得ようとすれば、計画は必ず頓挫します。
日清食品やホクシン株式会社の事例が示すように、まずは「特定の配送ルート」や「主要な1拠点」に絞り、6割の完成度でアジャイルにスタートすることが重要です。
そこで小さな成功事例(モデルケース)を作り、具体的なデータで効果を実証しましょう。
成果が目に見える形になれば、社内の抵抗勢力や取引先も自然と協力的な姿勢に変わっていきます。
物流を単なる「削るべきコスト(コストセンター)」から「価値創造の源泉」へと転換させるのは、現場リーダーや経営陣の「覚悟」です。
法改正をリスクと捉えるのではない、自社のサプライチェーンを強靭化する最大のチャンスとして捉え、明日から最初のアクションを起こしましょう。
出典: 国土交通省 物流統括管理者(CLO)のあるべき姿に関するワークショップ
出典: 国土交通省 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正について
出典: LOGISTICS TODAY


