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事例・インタビュー 2026年8月5日

トラック受付を最大40分から2分未満へ短縮した川崎重工業の物効法対応モデル

トラック受付を最大40分から2分未満へ短縮した川崎重工業の物効法対応モデル

川崎重工業は主力拠点である坂出工場(香川県坂出市)において、2025年1月よりトラック予約受付システムを導入し、従来最大40分を要していた車両受付手続きを2分未満へ短縮するとともに業務の「ほぼ無人化」を達成しました。複雑かつ大規模な資材調達を伴う造船現場での本取り組みは、改正物流効率化法(物効法)の施行に伴い荷主責任の徹底が求められる製造業界において、法的リスクの回避と現場の生産性向上を両立させる画期的な先行モデルとなります。

ニュースの背景と詳細:坂出工場におけるトラック受付無人化の全貌

今回、トラック受付の大幅な効率化とほぼ無人化を実現した背景には、過酷を極めていた現場窓口の現状と、2025年以降本格化している物流関連の法的規制が存在します。事象の全体像を5W1Hの観点から整理すると以下の通りです。

  • When(いつ): 2024年中の検討・検証および取引先への案内を経て、2025年1月に本格導入・運用を開始しました。
  • Where(どこで): 川崎重工業株式会社 船舶海洋ディビジョン 坂出工場(香川県坂出市川崎町)にて実施されました。
  • Who(誰が): 川崎重工業のコストエンジニアリング部および坂出工場工作部物流管理課が主導し、取引先約200社および運送事業者と連携して推進しました。
  • What(何を): クラウド型トラック予約受付システム(Hacobu提供の「MOVO Berth」)を導入し、車両受付業務の「ほぼ無人化」と滞在時間の激減を達成しました。
  • Why(なぜ): トラックドライバーの残業時間上限規制(2024年問題)への対応に加え、荷主・着荷主企業に対して荷待ち・荷役時間の削減やデジタルデータの記録を求める「改正物流効率化法(物効法)」への適合、ならびに現場窓口の極度な混雑を解消するためです。
  • How(どのように): 事前予約制の導入、約200社の取引先に対する現場での伴走指導、敷地内7か所の荷受けバースのデジタル一元管理、到着・荷卸完了ログの自動蓄積により実現しました。

「さながら戦場」と化していた車両受付窓口と造船現場固有の特殊性

川崎重工業の坂出工場は、大型液化天然ガス(LNG)運搬船や大型超大型油槽船(VLCC)などを建造する、日本有数の巨大造船拠点です。敷地内には広大な作業エリアが存在し、資材の搬入場所として7か所の荷受けバースが分散配置されています。

同工場に搬入される物品は、一般的な物流倉庫で扱われる箱物や標準パレット荷物とは大きく異なります。大型の造船用機械品、長尺の鋼管やパイプ、船の巨大な錨(いかり)、さらには救命艇に至るまで、形状や重量が特殊な「規格外の大型・超重量貨物」が毎日大量に運び込まれます。これらの資材を安全に荷降ろしするためには、事前に大型クレーンを手配し、国家資格を持つ玉掛け作業員を適切なバースへ配置する綿密な事前段取りが不可欠でした。

しかしシステム導入以前は、ドライバーが到着順に受付窓口へ並び、紙の伝票を手作業で確認するアナログな運用が行われていました。納品予定の物品が具体的に何であり、どのバースで降ろすべきかの照合に時間がかかり、確認の電話が構内に飛び交う状況が常態化していました。窓口にはドライバーの長い行列ができ、到着の遅れや待機に対するクレームが相次ぐなど、受付担当者にとって窓口業務は「さながら戦場」のような過酷な環境でした。結果として、受付手続きだけで最大40分もの時間を費やし、構内滞在時間も長時間に及んでいたのです。

2025年1月のシステム導入と「現場主導DX」のプロセス

この危機的な状況を打破するため、2024年から川崎重工業のコストエンジニアリング部と坂出工場の現場(工作部物流管理課)が一体となり、物流現場の抜本的改革に着手しました。そこで採用されたのが、株式会社Hacobuが提供するクラウド型トラック予約受付システム「MOVO Berth(ムーボ・バース)」です(※川崎重工業と株式会社Hacobuとの間に資本・支配関係はなく、ソリューション提供者と導入企業の関係です)。

改革成功の鍵となったのは、ツールを導入するだけに留まらない「現場主導の伴走支援」でした。造船所に資材を納品する取引先は約200社にのぼり、ITツールの導入に慣れていない中小事業者も含まれていました。川崎重工業の担当者は、改正物効法をはじめとする法改正の社会的背景やシステム導入の目的を丁寧に説明し、予約方法や操作手順について個別の指導や問い合わせ対応を徹底しました。

こうした泥臭い運用の定着化を図った結果、2025年1月に本運用を開始すると、あれほど苛烈だった受付窓口のトラック行列が瞬く間に消滅しました。窓口業務はほぼ完全に自動化・無人化され、ドライバーは到着後わずか2分足らずで受付を完了して指定のバースへ向かえる体制が整いました。

導入前後における作業効率および運用データの詳細比較

システム導入によって坂出工場の車両受付・物流オペレーションがどのように変化したのか、その対比構造を以下のテーブルに整理します。

評価項目 導入前(〜2024年) 導入後(2025年1月〜) 現場および業務への定量的・定性的インパクト
受付対応体制 対面・手書き伝票・電話確認(窓口は激しい混雑とクレームが常態化) トラック予約受付システムによる「ほぼ無人化」 窓口の事務作業負担が激減し現場担当者のストレスが解消
受付所要時間 最大40分 2分足らず(2分未満) 受付待ちの行列が完全に消滅しスムーズな構内進入を実現
構内滞在時間 長時間の待機・停泊が恒常化 約20分 クレーンや玉掛け作業員の事前配置により荷卸し業務が劇的平準化
データ管理・法適合 紙台帳によるアナログ管理(客観データなし) 到着・荷卸完了ログの自動蓄積 改正物効法が求める荷待ち時間の客観的エビデンス取得を完了

時系列で見る坂出工場の物流DXと全社・未来展開

坂出工場での物流改革は単発の現場改善に留まらず、川崎重工業全体のDX戦略および次世代造船所構想へと連動しています。その時系列的な進展は以下の通りです。

  • 2024年: コストエンジニアリング部主導による坂出工場の課題抽出、システム(MOVO Berth)の検証、約200社の取引先に対する説明と導入準備を推進。
  • 2025年1月: 坂出工場にてトラック予約受付システムの本運用を開始。受付時間を最大40分から2分未満へ、構内滞在時間を約20分へ短縮し、受付業務の「ほぼ無人化」を達成。
  • 2025年〜2026年: 坂出工場での現場主導DXの成果を受け、社内の「物流情報交換会」などを通じて、川崎重工業の他工場や他事業部(車両、航空宇宙、エネルギー等)へ同システムおよびノウハウの横展開を加速。
  • 2026年7月以降: 坂出工場をマザーシップとして、NVIDIAのフィジカルAIやデジタルツイン技術を活用した「次世代デジタルシップヤード」プロジェクトが本格始動。物流DXで得られた入出荷データを造船工程全体とリアルタイム連携させる取り組みへ発展。

参考記事: 2028年度に1万1500拠点へ、矢野経済研究所が示すバース予約システム導入加速

業界への具体的な影響:荷主・運送・ドライバーに波及する「構造変化」

川崎重工業坂出工場における物流改革の成果は、単に一企業の成功事例にとどまりません。サプライチェーンを構成する「製造業者(荷主)」「運送事業者」「トラックドライバー」の各プレイヤーに対して、それぞれ決定的な地殻変動をもたらしています。

製造業者・メーカー(荷主):物効法対応を「防衛」から「生産性向上の武器」へ転換

製造業やメーカーにとって、2025年4月に施行された「改正物流効率化法(物効法)」への対応は喫緊の経営課題です。特に2026年4月からは、年間取扱貨物重量が9万トンを超える企業が「特定荷主」として指定され、役員級の「物流統括管理者(CLO)」の選任や中長期計画の策定、さらには荷待ち・荷役時間の年1回国への定期報告が本格的に義務付けられています。違反時には是正命令や最大100万円の罰金、さらには社会的ダメージの大きい「企業名の公表」という厳格なペナルティが存在します。

多くのメーカーがこの法改正を「単なるコンプライアンス維持のためのコスト」と捉えて防衛的な対応に終始する中、川崎重工業は「現場の長年の混乱(戦場化した窓口)を鎮めるための有効なツール」としてデジタル技術を活用しました。

トラック予約受付システムを導入することで、法的に求められる「1分単位の到着・荷卸しログ」が一切の手間なく自動的にデジタルデータとして蓄積されます。これにより、法令順守のリスクを回避しながら、自社工場のスループット(処理能力)向上と事務工数の大幅削減という二重の果実を手に入れることができると証明しました。

参考記事: 改正物流効率化法が2026年に義務化、9万トン超の荷主が取るべき必須対応

運送事業者:車両回転率の向上と「デジタル先進荷主」への優先配車

運送事業者にとって、納品先工場での不透明な長時間待機は、ドライバーの労働時間制限(年960時間)や人件費の高騰が叫ばれる中で最大の経営リスクでした。

坂出工場のように受付時間が40分から2分未満へと短縮され、構内滞在時間が約20分で確定することは、自社車両の稼働率・回転率を飛躍的に高めることを意味します。これまで1日1回しか運行できなかったトラックが、確実な時間管理のもとで2回転、3回転と稼働できるようになり、輸送効率と採算性が劇的に改善します。

2026年現在の厳しい人手不足環境下において、運送会社は自社の限られた車両とドライバーをどの荷主へ割り振るかを選択する立場にあります。川崎重工業のようにDXに積極的で、ドライバーを待たせない「ホワイトな納品環境」を提供する荷主は、運送事業者から優先的に選ばれる存在となり、将来にわたる輸送力の確実な確保につながります。

トラックドライバー:非生産的な「待機ストレス」からの解放と専門業務への集中

トラックドライバーにとって、納品先での「受付待ちの行列」は、寒空や炎天下の中で長時間拘束される精神的・肉体的な大苦痛でした。納品資材の特定や書類の不備で窓口担当者と押し問答になり、確認電話を待つために何十分も拘束される日常は、職種としての魅力を大きく低下させていました。

デジタルの導入によって受付待ちそのものが消滅したことで、ドライバーはスマートフォンなどから事前予約された時間通りに構内へ入り、計画的に待機しているクレーンやスタッフによってスムーズに荷卸しを完了できるようになります。

不合理な待機時間や窓口でのトラブルから完全に解放され、プロのドライバーとして「安全かつ確実に貨物を運ぶ」という本元業務に集中できる環境が整備されることは、ドライバーの離職防止や労働環境の健全化に直結します。

参考記事: 荷待ち時間とは?荷役時間との定義の違いや削減に向けた実務対策を分かりやすく解説

LogiShiftの視点:荷主主導の「共存共栄型」物流インフラの構築

川崎重工業坂出工場の事例が物流業界に与えた真の衝撃は、単なる「受付システムの成功」ではなく、「重工業・造船という極めて標準化が困難な現場においてもDXによるほぼ無人化が可能である」と証明した点にあります。

造船・重工業という「非標準貨物」の現場が示したDXの適用可能性

これまでトラック予約受付システムやバース管理のデジタル化は、食品、消費財、EC物流といった、箱のサイズが統一されパレット化が進んだ流通倉庫・配送センターを中心に普及してきました。一方、重工業や造船、建設現場などは、「扱う資材がすべて特注品であり、形状も重量もバラバラである」「天候や前工程の遅れで荷卸し順が頻繁に変わる」といった理由から、長年にわたりデジタルの導入が最も難しい領域とされてきました。

しかし坂出工場は、7か所のバースに搬入される長尺パイプや超重量物、特殊構造物であっても、データ管理と事前の作業人員配置を組み合わせることで、受付2分・滞在20分という驚異的な効率化を達成しました。「自社の扱う貨物は特殊だから予約制やデジタル化は馴染まない」という従来の言い訳は、本事例の成功によってもはや通用しなくなったと言えます。

パワーバランスの変化と荷主による「インフラ提供型」関係の確立

従来の物流業界では、「発荷主・着荷主が強い立場に立ち、運送会社やドライバーに長時間待機や無償の附帯作業を強いる」という一方的な不適合構造が長年続いてきました。しかし、2024年問題以降のトラック輸送力不足と、改正物効法による荷主責任の法的義務化により、このパワーバランスは根本から覆りつつあります。

今回の川崎重工業の取り組みで特筆すべきは、同社が取引先約200社に対してシステムの利用を一方的に義務付けるのではなく、担当者が泥臭く伴走指導を行い、使いやすい運用ルールを共に作り上げた点です。

これからの物流 DXにおいて勝ち残る荷主企業とは、自社の都合を押し付けるのではなく、運送効率化とコンプライアンス遵守のための「デジタルインフラ(予約・受付基盤)」を荷主側が率先して整備・提供し、取引先や運送会社を巻き込んで共存共栄のエコシステムを構築できる企業です。物流を単なる「削減すべきコストセンター」から「企業の存続をかけた戦略的プラットフォーム」として再定義できるかどうかが、2026年以降のサプライチェーンの成否を分けることになります。

参考記事: 経産省CLO事例から解説!トラック待機時間を削減する3つの実践ステップ

まとめ:明日から経営層と現場リーダーが取り組むべきアクション

改正物流効率化法の本格施行に伴い、日本の製造業・物流現場は「努力目標」から「法的義務とペナルティ」の時代へと完全にシフトしました。川崎重工業坂出工場の成功事例を自社の経営改革に活かすため、明日から経営層および現場リーダーが実践すべき3つのアクションプランを提示します。

明日から意識すべき3つの実践アクション

  1. 入居・自社拠点の受付待機時間を可視化し「荷主リスク」の現状を把握する
    自社工場や物流センターにおいて、トラックが受付やバース接車までに何分待機しているかを客観データで即座に抽出し、2026年4月施行の改正物効法(特定荷主義務)に対する自社のリスクと立ち位置を明確にする。

  2. 「現場の泥臭い伴走」を組み込んだシステム選定と運用ルールを策定する
    多機能なITシステムを導入するだけでなく、川崎重工業が約200社の取引先に対して実施したように、ドライバーや納品業者が迷わず利用できる現場目線のUI/UXを選定し、導入初期の講習や問い合わせ対応を行うサポート体制を社内に組織する。

  3. 物流DXの成果を全社・他拠点へ横展開するガバナンス(CLO体制)を整える
    単一拠点の成功体験で終わらせず、物流統括管理者(CLO)の強力なイニシアチブのもと、他工場やグループ企業全体へ予約受付システムや標準オペレーションを水平展開し、サプライチェーン全体の生産性と透明性を一気に引き上げる。

物流のデジタル化と無人化は、単なる省人化の手法ではありません。ドライバーに選ばれ、法的なコンプライアンスを完全に満たした強靭なサプライチェーンを構築するための最重要投資です。今すぐ、足元の現場受付の見直しから第一歩を踏み出しましょう。


出典: 日経クロステック(xTECH)
出典: LOGI-TODAY
出典: 川崎重工業株式会社 坂出工場
出典: 株式会社Hacobu 導入事例

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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