株式会社ブレイズによる四輪特定小型原付「e-CARGO」の増産決定や、三菱ふそうの商用プラットフォーム多用途展開に見られるように、ラストワンマイル現場における「モビリティの最適サイジング」と「既存プラットフォームの多目的化」が世界的に加速しています。人手不足や2026年問題に直面する日本企業にとって、海外で急速に普及する超小型EVやプラットフォーム流用モデルの動向を把握することは、持続可能な配送網の再構築に向けた極めて重要な羅針盤となります。
海外における商用モビリティの最新動向と市場構造
世界各国の物流現場では、従来の大型トラックや1.5トンクラスの商用バン一辺倒だった配送体制から、商材の大きさや都市の道路環境に応じた「モビリティの最適サイジング(過剰スペックからの脱却)」へとシフトが進んでいます。
欧米や中国を中心に、都市部の進入規制(低排出ゾーン:LEZ)や慢性的なドライバー不足への対応策として、超小型EVや特定小型モビリティの導入、さらには確立された商用車プラットフォームの多用途展開が活発化しています。主要な国・地域における商用モビリティの推進動向を以下のテーブルに整理しました。
| 国・地域 | 主な展開モビリティ・技術 | インフラ・法規制の状況 | 主な用途・ビジネスモデル |
|---|---|---|---|
| 米国 | 小型EVバンおよび歩道・車道兼用超小型モビリティ | カリフォルニア州等でのZEV規制およびラストワンマイル特区 | マイクロフルフィルメント拠点からの短距離高密度配送 |
| 中国 | 小型電動トラック・電池交換(スワップ)式超小型EV | 3,000拠点の給電網整備や特定小型車両の公道走行解禁 | 高速配送、工場・倉庫内の資材運搬、飲食移動販売 |
| 欧州 | 運転席レス小型Pod・特定小型原付クラスの電動サイクル | 都市部(LEZ:低排出ゾーン)でのガソリン車進入規制 | レストラン宅配、ポスト投函型小型荷物の都市部巡回配送 |
米国:バン+マイクロモビリティによる多段階輸送の拡大
米国では、広大な都市郊外でのバン輸送と、人口密度の高い都心部におけるマイクロモビリティ輸送を組み合わせた「多段階(マルチモーダル)ラストワンマイル網」の構築が進んでいます。
大型の配送バンを都市周辺のマイクロフルフィルメントセンター(MFC)や移動式中継拠点(ハブ)に停め、そこから先の細い路地や住宅街へは、超小型の電動カートや特定小型モビリティで巡回する運用が定着しつつあります。これにより、大型車両の路上駐車による渋滞や駐車違反リスクを回避しつつ、1日あたりの小口荷物の配達完了数を最大化するモデルが確立されています。
中国:給電・電池交換網と超小型EVによる高密度エリア配送
中国市場では、政府主導による強力なインフラ支援と法緩和を背景に、商用モビリティの電動化・超小型化が異次元のスピードで展開されています。中国交通運輸部が発表した3,000拠点におよぶ給電・電池交換ステーション整備構想に代表されるように、補給インフラのネットワーク化が完了しつつあります。
都市部では、大手EC・宅配企業が数万台規模の超小型3輪・4輪EVを投入しており、住宅街の狭い路地や広大な物流倉庫・工場敷地内での資材運搬において日常的なインフラとして定着しています。2026年上半期には新エネルギー大型・中小型トラックの販売台数が大幅に増加しており、特定ルートの短距離輸送では電動化率が80%を超えるエリアも出現しています。
欧州:環境規制強化に伴う「脱・大型化」と超小型電動モビリティの定着
欧州では、パリやロンドンなどの主要都市でガソリン・ディーゼル車の市内進入を制限・課金する低排出ゾーン(LEZ)の運用が厳格化されています。この規制に対応するため、大手物流キャリアは化石燃料を使用する軽バンから、ペダル付き電動サイクルや特定小型原付と同等区分の超小型モビリティへの切り替えを急速に進めています。
特に歴史的な街並みが残り、道路幅が極めて狭い欧州の旧市街地において、1トンを超える車両で数キログラムの小口荷物を運ぶことはエネルギー効率および専有面積の観点から非効率とみなされています。過剰スペックを排し、荷物のサイズに合わせた軽量モビリティを配備することが、ESG投資の観点からも企業評価を左右する重要な指標となっています。
国内外の先進事例から読み解く商用アセット最適化の成功要因
ブランドアイコンの再定義(三菱自動車「パジェロ」シリーズの復活予告等)で自動車市場が活性化する一方で、実益を重視する商用車・モビリティ分野では「信頼性の高い既存プラットフォームの多目的展開」と「規制緩和に対応した新カテゴリー車両の社会実装」という2つの大きな潮流が生まれています。国内外の具体的な事例から、その成功要因を深掘りします。
ケース1:株式会社ブレイズ「e-CARGO」の増産に学ぶ特定小型原付の社会実装
株式会社ブレイズ(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:市川秀幸、株式会社MTGグループ)が展開する四輪特定小型原動機付自転車「BLAZE e-CARGO(ブレイズ イーカーゴ)」は、受注好調に伴い2026年8月10日に増産が決定したニュースとして大きな注目を集めました。
シニア層や構内運搬の需要を捉えた製品スペック
2026年4月13日の販売開始以来、「BLAZE e-CARGO」が急速に市場の支持を獲得した背景には、日本の配送・移動環境に適合させた製品スペックが存在します。
- 車両区分: 特定小型原動機付自転車(四輪・16歳以上は運転免許不要)
- ボディサイズ: 全長1,900mm(特定小型原付規格内の最大サイズクラス)
- 積載性能: 最大積載量30kg(荷台サイズ785mm×500mm、約80cmの長尺物も積載可能)
- 最高速度: 車道モード20km/h/歩道走行モード6km/h(ワンタッチ切替)
- 航続距離: 標準バッテリー(1個)で最大約50km/ダブルバッテリー装着時(オプション)で最大約100km
- 電源・充電: 家庭用100Vコンセント対応(バッテリー着脱充電および車体直接充電の両対応)
受注好調を背景としたラストワンマイル配送と工場・倉庫運搬での活用
本車両の需要が急増している要因は、高齢化が進む地域住民の移動手段としてだけでなく、ラストワンマイル配送事業者、ならびに大型工場や物流倉庫の「構内運搬車両」としてのニーズを確実に取り込んだ点にあります。
2026年8月時点で9月末納品分の残枠がわずかとなるなど現場での導入が加速しており、従来の軽バンでは進入できない狭小路地への配送や、自動車免許を保有しない作業員による倉庫内資材運搬において、劇的な業務効率化と労働環境の改善をもたらしています。
ケース2:三菱ふそう「キャンター・エクストラロングバス」に見るプラットフォームの多用途展開
商用車分野におけるもう一つの重要トピックが、定評のある既存プラットフォームの多目的化による開発・生産効率の向上です。三菱ふそうトラック・バス(MFTBC)の現地販売代理店KTBは、インドネシア・ジャカルタで開催された「GIIAS 2026(GAIKINDOインドネシア国際オートショー2026)」において、小型トラック『キャンター』をベースとした新型「キャンター・エクストラロングバス」を発表しました。
インドネシアGIIAS 2026で発表された4.2mロングホイールベース車両
本モデルは、新興国における観光需要、公共交通、および都市間輸送の拡大に対応するために開発された旅客輸送専用車両です。
- ベース車両: 小型トラック「キャンター」
- 技術的特徴: 4.2mのロングホイールベースを採用し、乗客スペースの拡大と走行安定性を両立
- サービス体制: 車両稼働率を極大化する「Zero Down Time」施策(24時間サービスサポート、拠点近接型の専用整備施設設置)
高信頼性トラックシャーシ流用による開発・整備コストの抑制効果
世界中で莫大な稼働実績とパーツ供給網を持つ「キャンター」のパワートレインおよびシャーシフレームをベースに採用することで、新車種開発にかかる巨額のイニシャルコスト(CAPEX)を激減させています。
さらに、運送・バス事業者は既存の整備メンテナンス網や部品在庫をそのまま共通利用できるため、運行コスト(OPEX)の低減と車両ダウンタイムの最小化を高い次元で両立させています。信頼性の高いアセットを多用途へ水平展開するこのアプローチは、モビリティ事業における収益性の世界的なベンチマークと言えます。
ケース3:欧州・アジアで先行するアセット軽量化と「マルチモーダル配送」
欧州のEinride(スウェーデン)や中国のNeolix(新石器)などの先進企業は、ラストワンマイルにおけるアセット(車両)の「過剰スペック解消」を徹底しています。
従来のラストワンマイルでは、数キログラムの小口荷物を運ぶために1.5トン超のガソリン車を走らせることが一般的でした。しかし海外の先進事例では、親拠点からエリアデポまでは大型・中型車両で一括輸送し、最終末端の数キロメートルは超小型EVや特定小型モビリティで高密度に巡回する「荷役分離・多段階輸送」への移行が進んでいます。これにより、エネルギー消費量を大幅に削減しつつ、車両の調達・維持コストを削減する構造転換に成功しています。
日本の物流企業が直ちに実践すべき戦略的示唆
海外の最新動向およびブレイズ「e-CARGO」や三菱ふそう「キャンター」の事例は、人手不足とコスト高に悩む日本の物流企業に対して、具体的かつ即効性のある解決策を提示しています。自社の配送オペレーションへ落とし込むべき3つの戦略的示唆を解説します。
1. 1.5トン軽バン依存からの脱却と「積載台数2倍」を実現する中継荷役フロー
日本のラストワンマイル配送では、長年「軽貨物自動車(軽バン)」が一律で使われてきました。しかし、EC小口荷物やダイレクトメール、ポスト投函型荷物が急増する中、すべてのルートを1.5トンの鉄の塊でカバーすることは非効率です。
glafit株式会社とセイノーグループ(地区宅便・日祐)が実施している実証実験では、軽自動車にコンパクトな電動サイクル(特定小型原付)を積載して配送エリアまで運び、エリア内を電動モビリティで高密度に巡回するハイブリッド運用を行っています。従来の自転車積載数が最大2台であったのに対し、特定小型原付の導入により軽自動車1台あたりの積載台数を4台(200%向上)へと倍増させ、運搬効率を劇的に改善しています。
自社で扱う荷物のサイズや重量を分析し、軽量荷物エリアには特定小型原付や「e-CARGO」のような四輪小型モビリティを投入する「脱・軽バン」のオペレーションを構築することが、車両調達・燃料コスト削減の特効薬となります。
参考記事: glafitが特定小型原付の配送実証を2026年7月開始、軽自動車への積載台数2倍でラストワンマイル効率化へ
2. 「運転免許不要」区分の活用による未経験者・シニア・主婦層の即戦力化
ドライバーの高齢化と若年層の免許保有率低下が進む中、「運転免許を必須条件とする採用」は募集対象を自ら狭める結果となっています。
2023年7月の改正道路交通法で新設された「特定小型原動機付自転車」区分は、16歳以上であれば運転免許が不要です。ブレイズの「e-CARGO」のように、四輪構造で転倒リスクが極めて低く、ペダルを漕ぐ必要のない電動モビリティを活用することで、これまで「自動車の運転に不安がある」「自転車の坂道移動は体的に厳しい」と敬遠していたシニア層や主婦層、若年層を物流現場の即戦力として採用可能になります。
「誰にでも開かれたインクルーシブな配送体制」を整えることは、2026年問題における労働力不足を根本から解決する強力な経営戦略となります。
参考記事: ラストワンマイル完全ガイド|2024年・2026年問題に向けた実務知識と解決策
3. 定評ある既存トラックプラットフォームの共通化による維持管理コストの最適化
三菱ふそうが「キャンター」のシャーシを小型バスへ多用途展開した事例は、物流事業者の「フリート(所有車両群)管理戦略」にも直結します。
自社で導入する車両のメーカーやプラットフォームがバラバラである場合、予備部品の在庫コストや整備士の教育コスト、整備工場との交渉力が分散してしまいます。キャンターのように、市場で実績と信頼性の確立された共通プラットフォームをベースとする車両群(トラック、EVトラック、多用途車)を選択・構成することで、拠点全体のメンテナンス網を一本化し、ライフサイクルコスト(TCO)を最小化することができます。
参考記事: EVトラック導入のメリット・デメリット|スペック比較から補助金・充電インフラまで徹底解説
参考記事: EV物流の競争軸が激変!三菱ふそうワイヤレス充電の実証から読み解く3つの影響
まとめ:モビリティ最適化で2026年以降の持続可能な配送網を築く
ブレイズ「e-CARGO」の受注好調・増産や三菱ふそうのプラットフォーム多目的化は、モビリティ市場が「一一種類の車両で全用途をカバーする時代」から「用途と荷姿に合わせた最適サイジングの時代」へ完全に移行したことを示しています。海外での先行事例や国内の規制緩和を先取りし、自社の配送網をアップデートすることが競争力の源泉となります。
日本の物流経営層および新規事業・DX推進担当者が、明日から取り組むべき3つの具体アクションは以下の通りです。
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自社配送荷物のサイズ・重量分析による「脱・過剰スペック」の推進
自社で配送している荷物の寸法・重量・配送密度を数値化し、すべてのエリアを1.5トンの軽バンで回る必要があるかを再評価してください。30kg以下の小口商材やポスト投函型荷物の割合が高いエリアを特定し、超小型モビリティや特定小型原付の導入によるコスト削減プランを策定してください。 -
「免許不要車両」の導入を見据えた採用プロセスの再設計
「普通免許保持者」のみを対象とした従来の求人条件を見直し、四輪特定小型原付などの免許不要モビリティの配備を前提とした採用計画を構築してください。地域の主婦層やシニア層、隙間時間で働くギグワーカーを即戦力化する人事・教育オペレーションを整備してください。 -
親拠点からエリア内デポへの「多段階中継オペレーション」の設計
軽トラックやキャンター級の商用車で複数台の小型モビリティをエリア内の中継ポイントまでまとめて運搬し、現場で配達員に引き渡して巡回配送する「荷役分離・中継荷役フロー」の現場マニュアル化に着手してください。
出典: レスポンス(Response.jp)
出典: 三菱ふそうトラック・バス株式会社 公式プレスリリース
出典: レスポンス(e-CARGO増産記事)



