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事例・インタビュー 2026年8月21日

カルビー、2026年7月稼働のC-BOSSで需給予測と物流平準化を両立

カルビー、2026年7月稼働のC-BOSSで需給予測と物流平準化を両立

カルビー株式会社は、原料収量の制約や工場稼働状況を可視化してサプライチェーン全体を最適化する新システム「C-BOSS」バージョン1.0の運用を2026年7月に本格化させました。直近2〜3カ月先が限界だった需給見通しを年度末まで拡張したことで、小売業の特売計画に先んじた営業提案と物流の平準化を同時に実現する先進モデルとして注目されています。

カルビー「C-BOSS」本格稼働の全貌と開発の背景

スナック菓子市場を牽引するカルビーにおいて、主原料であるジャガイモ(ばれいしょ)の収量変動や天候リスクは、サプライチェーンマネジメント(SCM)における最大の制約条件でした。従来は直近2〜3カ月先の需給見通しを立てるのが精一杯であり、工場の稼働不足や原料ショートを懸念して販売を抑制するといった後ろ向きな対応が発生していました。

こうした課題を打破するため、カルビーは2024年10月にサプライチェーン最適化・収益シミュレーションシステム「C-BOSS(Calbee Business Optimization Simulation System)」の開発に着手しました。2025年10月に策定された「カルビーグループのDXロードマップ」の中核施策として位置づけられ、約1年3カ月の開発期間を経て2026年1月に完成。順次拠点への導入を進め、2026年7月16日に調達・生産・物流・営業・マーケティング・財務の全関連部門において「Ver.1.0」が正式稼働を迎えました。

プロジェクト項目 詳細内容
発表主体・担当者 カルビー株式会社 DX・S&OP本部 企画部部長 大江智之氏 / S&OP統括部部長 荘司泰臣氏
システム名称 C-BOSS(Calbee Business Optimization Simulation System)Ver.1.0
稼働開始時期 2026年7月本格稼働(開発着手:2024年10月)
可視化の拡張範囲 直近2〜3カ月先から「年度末」まで大幅拡張
現場定着に向けた施策 全国の工場や支店で100回以上の説明会実施、拠点アンバサダー配置、マニュアル整備
今後のロードマップ Ver.2.0以降で包材資材制約の追加、リテールデータ統合、AIによる自律的な最適シナリオ提案

営業活動を「販売制限」から「先回り提案」へ転換

「C-BOSS」の導入により、最も劇的な変革が起きたのは営業部門と生産・物流現場の連携プロセスです。スーパーマーケットをはじめとする小売業では、特売計画をおよそ2カ月前に策定します。従来のカルビーでは、営業担当者が3カ月前に商談を開始し、社内各所へ問い合わせて生産可否を積み上げ計算していたため、迅速な提案が困難でした。

「C-BOSS」によって年度末までの工場稼働余力や原料制約が可視化されたことで、3〜4カ月先の段階で需要予測と稼働状況を照らし合わせ、営業部門へ「攻めの提案」を行う指示を先回りして出せる体制が確立されました。これにより、小売業者が特売計画を固める前の段階で最適なロットの商談をまとめることが可能になりました。

現場の納得感を醸成した100回超の説明会とチェンジマネジメント

高度なITシステムの導入において最大の障壁となるのが、データ入力を担う現場の負担感と心理的抵抗です。SCMシステムは経営層や企画部門が受益者になりやすい一方、入力作業や標準化プロセスの負担は工場や物流現場に集中します。

カルビーはこの距離感を埋めるため、SCM部門主導で全国の工場や支店を巡回し、100回以上の説明会を実施しました。「会社全体が最適化されることで、最終的に現場の業務も円滑になる」という共通認識を醸成するため、各拠点にアンバサダーを配置し、丁寧なマニュアル整備と意見吸い上げを徹底しました。本格稼働を迎えた現在も現場からのフィードバックを基に継続的な改善サイクルを回しています。

参考記事: AI需要予測とは?SCMを変革する仕組み・導入メリット・成功の5ステップを徹底解説

サプライチェーン各プレイヤーに与える波及効果

「C-BOSS」による需給予測の高度化と長期可視化は、メーカー単体にとどまらず、小売業者や運送事業者を含むバリューチェーン全体に波及効果をもたらします。

製造業者・メーカー:原料制約を乗り越えプロフィットセンターへ進化

農産物を主原料とする食品メーカーにとって、気候変動による収量リスクの制御は経営の最重要課題です。「C-BOSS」は、ばれいしょの収量見通しや工場のライン稼働状況、輸送コストなどの制約条件を複雑に組み合わせ、複数の供給シナリオを短時間で比較・シミュレーションします。

これにより、製造部門は単に要求された数量を生産する「コストセンター」から、稼働余力と原料を最大限に利益へ換える「プロフィットセンター」へと役割を進化させることが可能になります。

小売業者:早期商談による棚割り最適化と欠品・廃棄ロスの削減

小売業側にとっては、メーカーから3〜4カ月前に精度の高い供給可能枠が提示されることで、特売計画や棚割り(プラノグラム)の精度が飛躍的に向上します。

直前の計画変更やメーカー都合による納品カット、割り当て制限といったトラブルが未然に防がれ、店頭での欠品リスクと余剰在庫による廃棄ロスを最小限に抑えながら、確実な売上最大化を図ることができます。

運送事業者:3〜4カ月先の物量可視化による車両手配の安定化

物流現場において最も負担となるのは、特売に伴う突発的な物量急増(波動)と直前のスポット便手配です。需給予測が年度末まで可視化され、営業提案が早期に確定することで、運送事業者は数カ月前から幹線輸送や配送ルートの運行計画を安定的に策定できるようになります。

物量の波が平準化されることで、積載効率が極限まで高まり、ドライバーの拘束時間削減や労務管理の遵守が容易になります。これはトラックドライバー不足が常態化する現代の物流環境において、荷主が運送会社から選ばれ続けるための強力なアドバンテージとなります。

参考記事: 生活協同組合コープさっぽろの1日1便化に学ぶ荷量平準化が持続可能な配送を加速

参考記事: DATAFLUCT×伊藤忠食品が受注数予測AIの実証実験完了|発注自動化の衝撃|

LogiShiftの視点:押し込み型から「先回り型」への構造転換

カルビーの「C-BOSS」が示す本質的な革新性は、サプライチェーンの構造を「予測に基づく押し込み型(プッシュ型)」から「制約可視化による先回り型(シンクロナイズド型)」へと完全に転換させた点にあります。

S&OPがもたらす部門間・企業間の情報統合

多くの企業では、営業が売りたい数量、工場が作りたい数量、物流が運べる容量が別々の論理で動いており、部門ごとに異なるExcelシートで管理される「部分最適のサイロ」が生じています。カルビーの取り組みは、実行系システムとは独立した「計画系シミュレーター」を導入し、原料・生産・物流の全制約を一つのプラットフォームに統合した好例です。

さらに同社は、Ver.2.0以降において包材などの副資材制約の追加や、リテール領域(POS・ID-POSデータ)を取り込んだAIによる自律的な最適シナリオ提案(AIの「先生」化)を構想しています。これは欧米で進む「計画(Planning)と実行(Execution)のシームレスな統合」を国内食品産業でいち早く具現化する動きと言えます。

物流平準化の鍵を握る商流側のコントロール

物流危機の克服には、トラックの手配や倉庫内の荷役改善といった物流現場の努力だけでは限界があります。物量の山谷(波動)を生み出している元凶は、商流側(営業の販売タイミングや小売の特売設定)にあるためです。

カルビーのように、商流の商談タイミングを工場の稼働余力や物流キャパシティに合わせて早期にコントロールする仕組みこそが、真の「荷量平準化」をもたらします。2030年3月期に向けた定量成果の創出、さらには同社が掲げる「2035ビジョン(世界のSNACKING COMPANY)」の実現に向けた強固な事業基盤として機能していくことは確実です。

参考記事: 脱「過去の予測」。AIで実現する新時代のサプライチェーン計画と海外物流DX事例

参考記事: ダイキンの製造・物流一体改革に学ぶ!倉庫人員1/4を実現する4ステップ

明日から意識すべきこと

カルビーの「C-BOSS」本格稼働というニュースを受け、物流・SCM部門のリーダーや経営層が直ちに取り組むべき実践的なアクションは以下の3点です。

  1. 自社のサプライチェーンに存在する「制約条件」の棚卸しと数値化
    工場ラインの生産能力、原料調達のリードタイム、倉庫の保管キャパシティ、配送トラックの積載上限など、担当者の暗黙知になっている制約条件を可視化し、システムに組み込めるパラメータとして整理する。
  2. 商流(営業)と物流・生産を接続する情報共有サイクルの見直し
    営業の販売計画がどのタイミングで物流・工場へ伝達されているかを検証し、直前調整による突発手配が発生していないか、商談開始時期を前倒しできる余地がないかを部門横断で協議する。
  3. 現場の心理的ハードルを下げるチェンジマネジメントの設計
    デジタルツールの導入にあたっては、システム性能の追求だけでなく、入力作業を担う現場担当者への丁寧な説明会やアンバサダー配置など、泥臭い合意形成プロセスを計画段階から組み込む。

物流のキャパシティ制約が厳しさを増す中、データを起点に製造・営業・物流を完全に同期させる企業姿勢こそが、次世代のサプライチェーンを勝ち抜く絶対条件となります。


出典: MONOist

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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