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サプライチェーン 2026年8月21日

日本ロジスティクスシステム協会、34%輸送不能にCLO主導改革を提言

日本ロジスティクスシステム協会、34%輸送不能にCLO主導改革を提言

公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)の大橋徹二会長(コマツ特別顧問)は、物流を単なるコスト削減の対象ではなく社会と企業の存続に関わる経営インフラと位置付け、抜本的な構造改革の必要性を提言しました。2030年に国内荷物の約34%が運べなくなる試算が現実味を帯びる中、荷主企業の経営層が物流統括管理者(CLO)を中心に据えて他社・異業種との全体最適に踏み出せるかが、日本経済の命運を左右します。

輸送力34%不足の衝撃と大橋会長が警鐘を鳴らす構造的危機

日本の物流網は、少子高齢化に伴う労働力不足と旧来の取引慣行の歪みによって維持が困難な局面に達しています。建設機械大手コマツの経営トップを歴任し、日本経済団体連合会(経団連)で経営労働政策特別委員長を務めたJILSの大橋徹二会長は、現状のままでは製造業をはじめとする産業基盤そのものが破綻しかねないと危機感を示しています。

日本の産業を支える物流の現在地と人手不足の試算

日本の物流産業は国内総生産(GDP)の約1割を占め、就業者数は約230万人にのぼります。これは国内の生産年齢人口(約6,000万人)の約4%に相当する巨大な規模です。また、一般企業が支払う物流費は売上高の約5%を占めており、これは日本企業の平均売上高営業利益率(約5%)に匹敵する重要な経営要素です。

しかし、2024年4月に適用されたトラックドライバーの時間外労働上限規制(年960時間)を経てなお、根本的な労働力不足は解消されていません。国の検討会やNX総合研究所の試算によると、現状の非効率な輸送体制を放置した場合、2030年には国内荷物の約34%(約9億トン相当)が物理的に運べなくなると予測されています。

ドライバーの深刻な高齢化と労働環境の実態は以下の通りです。

項目 統計データ・実態 20年前・他産業との比較 経営・現場への影響
大型トラック運転手の平均年齢 50.2歳(中小型は47.8歳) 20年前は42.7歳(20年間で7.5歳上昇) 今後10年で大量離職が発生する危機
若年層(40歳未満)の比率 全体の約25%(4分の1) 2000年時点は46% 若手人材の流入が著しく停滞
年間総労働時間(規制前2022年) 大型平均2,568時間 全産業平均(2,124時間)より約444時間長い 拘束時間の長さが採用難の主要因
物流業界の構造的課題 多重下請け構造と低い実車率 大手から中小への直接発注は全体の約2割 中小事業者の収益悪化と廃業リスク増大

大橋会長は、大型トラック運転手の平均年齢が直近7年間だけでも2.9歳上昇している急速な高齢化を指摘し、物流業界の魅力向上と待遇改善を行わなければ、製造業の調達・出荷網のみならず地域の食料供給網すら維持できなくなると警告しています。

参考記事: 改正物流効率化法と野村総合研究所が示す輸送費34%増への必須対応

2026年4月施行「改正物流効率化法」と特定荷主の義務化要件

こうした事態を受け、2026年4月1日より「改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)」が本格施行されました。国はこれまでの努力義務から踏み込み、影響力の大きい荷主企業に対して法的拘束力を持つ規制的措置を開始しています。

法改正に基づき、年間取扱貨物重量が9万トン以上の事業者は「特定荷主」(全国で約3,200社)に指定され、経営層直結の体制整備が義務付けられました。

制度区分 法的要件・対象基準 課される具体的義務 不履行時のリスク・ペナルティ
特定荷主の指定 年間取扱貨物重量9万トン以上の発荷主・着荷主 物流統括管理者(CLO)の選任届出 指定漏れ・虚偽報告に対する行政処分
計画策定と報告 5年を1期とする中長期計画の策定 初回計画の提出および年1回の定期報告 勧告・是正命令に従わない場合最大100万円の罰金
荷待ち・荷役削減 1運行あたり荷待ち等の2時間以内圧縮 ドライバー1人あたり年125時間の拘束削減 取組不十分な企業に対する企業名の公表
組織体制の改編 役員・執行役員クラスの選任 営業・製造部門への物流改善命令権の行使 運送事業者からの契約解除(物流難民化)

特定荷主は荷待ち時間や積載率などのデータを集計・可視化し、KPIに基づく中長期計画を策定して国へ提出しなければなりません。大橋会長は、メーカーであれば経済産業省、食品企業であれば農林水産省というように省庁横断で規制が進められている点に触れ、物流問題が国全体の最重要政策に位置付けられたと説明しています。

参考記事: 改正物流効率化法、年間9万トン以上の特定荷主にCLO選任を義務化の必須対応

JILSが主導する産学官プラットフォーム「J-CLOP」の始動

特定荷主への法規制が進む一方で、多くの企業ではCLOにどのような権限を持たせ、具体的にどう他社連携を進めるべきか手探りの状態が続いています。公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)は、特定荷主の実務支援と企業間連携を促進するため「物流統括管理者連携推進会議(J-CLOP)」を創設しました。

J-CLOPには、発荷主・着荷主のメーカーや流通企業、運送会社、鉄道・海運事業者、倉庫会社、物流機器・フォークリフトメーカーが幅広く参画しています。さらに、一橋大学の山内弘隆名誉教授、流通経済大学の矢野裕児教授、立教大学の首藤若菜教授といった物流および労働問題の専門家が理事・アドバイザーとして加わり、中立的な立場からソリューションを創出します。

JILSは2026年5月の情報交換会に続き、2026年9月10日に東京ビッグサイト会議棟にて「第1回物流統括管理者連携推進会議」を開催し、特定荷主の中長期計画策定支援や業界の枠を越えた共同配送モデルの構築を加速させる計画です。

参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策

業界各プレイヤーに求められる構造転換と具体的影響

大橋会長の提言および改正物流効率化法の本格稼働は、荷主企業、運送事業者、SaaSベンダーの役割関係を根本から作り変えています。

製造業者・メーカー:自社最適の脱却と「商物分離」の断行

製造業者においてCLOが果たすべき中核機能は、自社の営業部門や生産部門の都合で設計されてきた非効率な商慣行の解体です。

これまで現場では、営業部門による無理な即日納品(D+1)の確約や、顧客ごとの細かい特殊仕様への個別対応、工場の稼働率を最優先した過剰な押し出し生産が横行していました。これらは倉庫の保管スペースを圧迫し、トラックの手荷役や突発的な特急便を増やして物流コストを高騰させる元凶でした。

CLOが役員級の権限を持ち、商流と物流を切り離す「商物分離」を推進することで、納品リードタイムの標準化や最小発注ロット(MOQ)の引き上げが進みます。自社単独での効率化に限界がある場合でも、日清食品とサントリーによる飲料・食品の混載輸送や、SUBARUと西濃運輸による部品調達網の統合のように、競合や異業種とトラックの空きスペースを共有する協調領域へのシフトが加速します。

参考記事: 2026年4月法改正へ日清食品のCLO選任後アクションで物流効率化が加速

運送事業者・3PL:下請け脱却と「選ばれるパートナー」への進化

トラック運送事業者や3PLにとって、荷主企業側にCLOが設置されたことは、長年の力関係を是正する大きな好機です。

従来は現場の配車担当者レベルで揉み消されていた「長時間の荷待ち」や「無償でのラベル貼り・仕分けといった付帯作業」の実態を、荷主の経営層(CLO)に対して直接改善要求できるようになりました。荷主側も法的なKPI達成や社名公表ペナルティの回避が急務となっているため、客観的な運行実績データを提示する運送会社からの交渉には応じざるを得ません。

運送会社は、単なる受託者から脱皮し、荷待ち時間の短縮や帰り荷を活用したラウンド輸送の提案を行う「ロジスティクスプロデューサー」へと進化することが求められます。一方で、多重下請けの下層に位置する中小事業者においては、適正運賃の収受とドライバーの賃金引き上げを実現できなければ事業継続が困難となり、業界内の淘汰・再編が進むことになります。

参考記事: 選任が迫る物流統括管理者と改正物流総合効率化法2026年への必須対応

SaaS・テクノロジーベンダー:定期報告を支えるデータ基盤の必須化

物流テック企業やSaaSベンダーにとって、改正物流効率化法の施行は市場ニーズの質的転換を意味します。現場の作業効率化ツールにとどまらず、CLOが経営判断や国の定期報告に使用する「統合データ基盤」の提供が必須要件となりました。

具体的には、トラック予約受付(バース予約)システムによって荷待ち・荷役時間を1分単位でデジタル記録し、TMS(輸配送管理システム)によって車両積載率や実車率、CO2排出量をダッシュボード上で一元管理する仕組みです。

改ざん不能なタイムスタンプや客観的データを自動集計できるソリューションは、特定荷主3,200社にとって法規制を遵守するためのインフラとなり、ベンダー各社にはサプライチェーン横断のAPI連携とデータ標準化への対応が求められています。

参考記事: フィジカルインターネットセンターが示す2026年4月CLO義務化への必須対応

LogiShiftの視点(独自考察):物流をコストから「資本」へと再定義する経営戦略

大橋会長が投げかけた「物流はインフラそのものであり、国の安全保障に関わる経営課題である」という指摘は、従来の日本企業が囚われてきた「物流費=削減すべきコスト」という固定観念に対する決定的な引導です。LogiShiftでは、CLO制度の実効性を高め、2030年の輸送力34%不足を乗り越えるために企業が直面する本質的課題を以下のように考察します。

「名ばかりCLO」を防ぐ社内P/L配賦ルールの確立

CLOの設置で最も警戒すべきは、既存の物流部門長に役員の肩書を与えただけで、営業部門や製造部門に口出しできない「名ばかりCLO」の形骸化です。

実効性を持たせるためには、社内の職務権限規定を改定し、CLOに「物流改善命令権」を付与するだけでなく、コスト発生の責任を明確にする財務ガバナンスの構築が不可欠です。例えば、営業部門が顧客維持のために突発的な即日出荷や小口配送を強行した場合、その割増輸配送コストを物流部門の予算ではなく営業部門の損益計算書(P/L)へ直接課金するルールを導入すべきです。自部門の業績評価に直接跳ね返る仕組みを作って初めて、他部門の自発的な行動変容が生まれます。

個社最適の限界とフィジカルインターネットへの接続

自社専用のオーダーメイド仕様(独自パレットサイズや個別伝票フォーマット)に固執する企業は、今後急速に共同輸送ネットワークから孤立します。トラックの積載率を上げ、帰り荷の空車運行を無くすためには、JPRなどが推進する標準T11型パレットの採用や事前出荷情報(ASN)の電子化といった「協調領域の標準化」が前提となります。

インターネット通信のように、標準化されたコンテナやパレットを複数社で共有して最適ルートで運ぶ「フィジカルインターネット」への適合度こそが、2030年以降もモノを運び続けられる企業の参入障壁となります。CLOの真のミッションは、自社の個別仕様を削ぎ落とし、オープンな共同物流プラットフォームへ自社を接続させるトランスフォーメーションを主導することにあります。

参考記事: 改正物流効率化法による特定事業者の年間9万トン基準とCLO選任の必須対応

まとめ:持続可能なサプライチェーン構築への即時アクション

改正物流効率化法の本格施行と2030年危機の到来は、物流を現場任せにしてきた昭和型経営の終焉を告げています。特定荷主のみならず、サプライチェーンに関わるすべての経営層と現場リーダーは、明日から以下の3点を行動に移すべきです。

  1. 自社および調達網における年間貨物量の正確な把握
    自社が発荷主・着荷主として扱う貨物重量を集計し、年間9万トンの基準該当性を確認するとともに、バース予約システム等を用いて現在の平均荷待ち時間を定量化する。
  2. CLOへの物流改善命令権の付与と社内規定の改定
    経営幹部からCLOを選任し、営業部門や生産部門に対して納品条件の緩和やロット集約を指示できる権限と、非効率コストの発生部門配賦ルールを明文化する。
  3. 主要ルートにおける共同輸配送とパレット標準化のスモールスタート
    100%の完成度を待たず、J-CLOPなどの枠組みや異業種パートナーを活用し、特定拠点・特定ルートでの標準仕様(T11型パレット等)を用いた共同輸送をアジャイルに試行する。

物流を制する企業が、不確実性の高い時代において確固たる供給責任を果たし、持続的な競争優位性を確立することができます。

出典: TECH+(テックプラス)
出典: 財界オンライン
出典: 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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