国土交通省は2026年8月26日、トラック運送における新たな取引基準の策定に向け「第2回 適正原価の設定に向けた有識者検討会」を開催し、全日本トラック協会や日本商工会議所など主要6団体へのヒアリングを実施します。2028年6月までの全面施行が予定される適正原価制度において、受注側だけでなく発注側(荷主側)の多様な実態を算定基準へいかに反映させるかを左右する極めて重要な会合となります。
適正原価検討会の開催概要と制度具体化へのタイムライン
2025年6月に公布された「改正貨物自動車運送事業法(トラック適正化二法)」に基づき、国土交通省はトラック運送業における事実上の最低運賃基準となる「適正原価」の制度設計を本格化させています。2026年7月17日に開催された第1回検討会に続き、第2回検討会では運送業界および多様な荷主団体の双方を招いた関係者ヒアリングが実施されます。
第2回検討会の開催概要とヒアリング対象
第2回検討会では、運送事業者側の代表組織だけでなく、中小荷主や農畜産分野、構造的な転嫁難に直面する出版業界など、幅広いステークホルダーから実態や課題を聴取します。
| 項目 | 内容・詳細 |
|---|---|
| 開催日時 | 2026年8月26日(水)13:00〜15:00(予定) |
| 開催場所 | 中央合同庁舎3号館10階共用会議室およびWEB会議(ハイブリッド形式) |
| ヒアリング対象団体(受注側) | 公益社団法人 全日本トラック協会、全日本運輸産業労働組合連合会 |
| ヒアリング対象団体(発注・荷主側) | 日本商工会議所、全国商工会連合会、全国農業協同組合中央会(JA全中)、一般財団法人 出版文化産業振興財団 |
| 主な議題 | 関係者ヒアリングの実施、適正原価の個別論点の検討 |
今回のヒアリング対象に日本商工会議所や全国商工会連合会といった中小荷主の代表団体に加え、全国農業協同組合中央会(JA全中)や一般財団法人出版文化産業振興財団が含まれている点は極めて象徴的です。農産品や書籍・雑誌輸送は、季節変動や荷待ち時間の長さ、返本構造などの要因から運賃・料金の適正転嫁が長年遅れてきた分野であり、制度設計における最大のボトルネックを検証する狙いがあります。
適正原価制度の導入に向けたロードマップ
適正原価制度は、2026年年内の提言取りまとめを経て、2027年中の正式告示、そして2028年6月までの全面施行というスケジュールで進められています。
| 年月・時期 | 主な決定事項および検討プロセス | 業界・実務への直接的影響 |
|---|---|---|
| 2025年6月11日 | 改正貨物自動車運送事業法の成立・公布 | 法的拘束力を持つ「適正原価」制度創設の確定 |
| 2026年7月17日 | 第1回 適正原価検討会の開催 | 算定式アプローチや利潤を含まない原価定義の提示 |
| 2026年8月26日 | 第2回 適正原価検討会の開催 | 主要6団体ヒアリングと個別実務論点の深掘り |
| 2026年12月 | 有識者検討会による提言取りまとめ(予定) | 適正原価の骨子および基本算定式の公表 |
| 2027年中 | 国土交通省による「適正原価」の正式告示 | 周知期間の開始と各社原価管理体制の整備要求 |
| 2028年6月まで | 適正原価制度および許可更新制の全面施行 | 適正原価未達の継続取引に対し事業許可更新拒否を適用 |
参考記事: 2028年6月全面施行!国土交通省の適正原価制度で運送事業者の淘汰が加速
参考記事: 国土交通省が2028年6月適正原価を全面施行、取引見直しが必須に
「標準的な運賃」と「適正原価」の構造的相違点
経営層や法務・調達担当者が正確に把握すべきは、これまで運用されてきた「標準的な運賃」と、新設される「適正原価」の制度的相違です。
| 比較項目 | 標準的な運賃(現行・順次廃止予定) | 適正原価(2028年6月までに全面施行) |
|---|---|---|
| 制度上の定義 | 能率的な経営原価 + 適正な利潤(事業報酬) | 適正な事業運営に必要な最低限の原価(利潤は含まない) |
| 法的拘束力 | なし(運賃交渉を促すための目安・ガイドライン) | あり(継続して下回る取引を法令で禁止) |
| 不遵守時の罰則 | 直接的な行政処分なし | 事業許可の更新不許可(運送業免許の失効) |
| 提示形式 | 車種・距離・時間別の一覧タリフ表 | 実績データを代入する「算定式」および基準原単価 |
| 適用範囲 | 自社受託時の目安 | 自ら運送する場合および下請委託(再委託)の両方 |
従来の標準的な運賃は、適切な利潤を上乗せした「目指すべき推奨指標」でしたが、法的拘束力がなかったため取引現場への浸透には限界がありました。一方、適正原価は「法令を守り、安全に事業を継続するための最低コスト(フロア)」と定義されます。これを継続して下回る取引は、人件費の不当な買いたたきや安全経費の削減を前提としているとみなされ、5年ごとの事業許可更新時に不許可処分が下されます。
参考記事: 標準的な運賃の2024年改定ポイント|実務での計算・届出と荷主交渉術
算定式に組み込まれる新たなコスト要素
新制度の適正原価は、画一的なタリフ表ではなく、国が示す基準算定式に各事業者の稼働実績(走行距離、稼働時間など)を代入して導き出す「原単価方式」が採用されます。
算定式の基本構成は「運賃原価(固定費+変動費)+委託手数料+料金原価等+燃料サーチャージ+実費」となります。運賃原価の中には、従来の燃料代や減価償却費だけでなく、以下の要素が明確に組み込まれます。
- 輸送の安全確保に必要な経費: 車検・定期点検費用のほか、ドライブレコーダー、デジタルタコグラフ、任意保険料などの導入・維持費用
- 事業継続に必要な投資原資: 人材確保・育成費用、労働環境改善投資、BCP(事業継続計画)対策費
- 料金原価等: 荷扱い作業料、検品料、待機時間料(運賃とは明確に別建て化)
- 委託手数料: 元請事業者が実運送事業者へ適正に支払うための手配管理費(不当な中抜きの防止)
参考記事: 貨物自動車運送事業法第24条と2026年7月9日の原単価方式転換への必須対応
主要ステークホルダーに迫る構造的影響
第2回検討会における幅広い関係者ヒアリングの実施は、サプライチェーンに関わる各プレイヤーに大きな影響を及ぼします。
1. 運送事業者(実運送・元請):データに基づく「原価営業」への完全移行
運送事業者にとって、適正原価制度への移行は「どんぶり勘定の完全撤廃」を意味します。
これまでは「相場がこのくらいだから」「荷主に言われた金額だから」といった曖昧な価格設定が横行していました。しかし、適正原価制度下では、自社のトラックを1時間・1キロ走らせるためにいくらの固定費・変動費・労務費がかかっているかを、デジタルタコグラフや運行管理データから客観的に証明できなければなりません。自社の原価を立証できない事業者は、荷主との交渉力を失うだけでなく、適正原価割れの継続取引を放置したとして事業許可の更新を拒否される重大なリスクを負います。
また、元請事業者においては、下請け(実運送事業者)に支払う委託運賃が適正原価を下回らないようにする法的義務が課されます。中間マージンを過度に取り、実運送事業者に赤字輸送を強いるビジネスモデルは法的に排除されます。
2. 製造業者・流通業者・荷主企業:「物流費削減」から「インフラ維持責任」への意識改革
JA全中や日本商工会議所、全国商工会連合会、出版文化産業振興財団がヒアリング対象となったことは、あらゆる荷主企業に対して「物流コストの適正負担」が社会的・法的な義務となることを示しています。
従来のように物流費を単なる「削減対象のコスト」と捉え、運送事業者に安値を強いる行為は、トラック・物流Gメンによる是正指導や企業名公表の対象となります。さらに、不当な安値取引によって契約先の運送会社が事業許可を失えば、荷主自身の出荷手段が途絶する「物流難民化」に直結します。
特に特定荷主に選任が義務付けられた物流統括管理者(CLO)は、長時間の荷待ち解消や付帯作業の有償化、燃料サーチャージの導入を前提とした契約見直しを全社主導で推進しなければなりません。
参考記事: トラックGメンとは?行政処分のリスクと荷主企業が講じるべき不当慣行対策
3. 行政・規制当局:合意形成プロセスの構築と「市場退出」の厳格執行
国土交通省をはじめとする規制当局は、2028年の全面施行に向けて、荷主と運送事業者の双方が納得できる客観的な算定式の確立を急いでいます。
今回のヒアリングを通じて、実車率の地域格差や季節波動、業界特有の商慣習(出版物の返本輸送や農産物の集荷待機など)をどこまで算定式や補正係数に織り込めるかが制度の実効性を左右します。
制度施行後は、トラック・物流Gメンの監視網と5年ごとの事業許可更新審査を連動させ、悪質なダンピング事業者や買いたたき荷主を市場から強制退出させる厳格な執行体制が敷かれます。
参考記事: 国土交通省の実車率50%見直し、新タリフ最大半額で収益悪化に直結
LogiShiftの視点(独自考察):ヒアリングが示す業界固有リスクと「適正原価の罠」
第2回検討会におけるヒアリング構成と適正原価の定義から、物流実務において留意すべき2つの論点が浮かび上がります。
業界固有の輸送構造(出版・農産品)が突く「算定式」の限界
今回、JA全中や出版文化産業振興財団がヒアリングに選ばれた背景には、一般工業製品とは異なる「輸送構造の歪み」があります。
農産品輸送では、収穫期の一極集中や地方発・大消費地着の片道運行(帰り荷なし)が常態化しており、実車率の低さが慢性的な課題です。一方の出版流通では、書店の店頭配本と大量の返本(返品)が表裏一体となっており、運賃の価格転嫁が制度的に極めて困難な構造を抱えています。
国が一律の算定式を機械的に適用した場合、こうした業界特有の運行実態と乖離し、現場での取引が成立しなくなる恐れがあります。検討会においては、距離や時間だけでなく、空車回送率や季節波動を吸収する「業界別補正パラメータ」や「待機・荷役料金の厳格な独立請求ルール」がどこまで具体化されるかが焦点となります。
「適正原価=契約運賃」と誤認する経営リスク
実務において最も警戒すべきは、運送事業者や荷主企業が、国が示す適正原価をそのまま「契約運賃の目標額」と誤認してしまうことです。
制度上の適正原価には、企業の成長投資や株主還元、内部留保に充てるべき「適正な利潤(営業利益)」が一切含まれていません。適正原価はあくまで「これを下回れば法令違反となる最低限の安全維持ライン(床)」にすぎません。
運送事業者が適正原価そのものの金額で妥結し続けた場合、法的な免許取消は免れても、営業利益は恒常的にゼロとなり、最終的には設備の更新遅延や人件費高騰に耐え切れず倒産へ向かいます。事業者は、算定式で導き出した適正原価をベースに、自社に必要な「適正利益」を堂々と上乗せして見積提示するエビデンス武装が不可欠です。
まとめ:明日から着手すべき3つの実務アクション
2028年6月の全面施行および2026年内の制度骨子確定を見据え、運送事業者および荷主企業の双方が明日から取り組むべきアクションを提示します。
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運行・労務データをデジタル化し、自社の時間・距離あたり「原単価」を算出する
デジタコや動態管理システムを活用し、車両1台あたりの固定費・変動費・労務費を可視化してください。自社固有の稼働実績データを把握することが、適正原価制度への適合と運賃交渉の第一歩となります。 -
基本運賃と「付帯作業料・待機時間料」を完全分離した契約書面へ改定する
積込・荷卸し、検品、ラベル貼り、長時間の荷待ちを無償サービスとして運賃に含める商慣習を直ちに廃止してください。国交省の算定式に対応できるよう、運賃と料金を別建てで明記する契約改定を荷主・委託先と進めましょう。 -
荷主・運送間で運行実態データを共有し、適正な利益を含めた価格対話を開始する
適正原価の告示を待つのではなく、現在の実車率や待機時間の実態をオープンにし、お互いのサプライチェーンを維持するための持続可能な運賃・料金水準について協議を始めてください。
出典: 国土交通省(報道発表資料)
出典: 国土交通省(第1回検討会報道発表)
出典: LOGISTICS TODAY
出典: CARGO NEWS


