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輸配送・TMS 2026年7月21日

国土交通省が2028年6月適正原価を全面施行、取引見直しが必須に

国土交通省が2028年6月適正原価を全面施行、取引見直しが必須に

日本の物流業界において、長年続いてきた「運賃の叩き合い」という不健全な競争に、ついに強力な法的楔が打ち込まれようとしています。国土交通省は2026年7月17日、トラック適正化二法(流通業務総合効率化法および貨物自動車運送事業法の改正)に基づき、新たに導入される「適正原価」の制度設計案を公表しました。

本制度は、公布から3年以内に本格施行される「5年ごとの事業許可更新制度」の根幹をなすものであり、事業者が「適正原価」を下回る運賃・料金で契約を継続することを法的に制限するものです。

特筆すべきは、元請事業者に対して「自らが収受する運賃」だけでなく、「下請への支払(委託運賃)」においても適正原価を下回らないようにする法的義務を課した点にあります。違反した荷主企業にはトラック・物流Gメンによる厳しい是正指導が行われ、運送事業者に対しては行政処分や、最悪の場合は事業許可の更新不許可(事実上の市場退場)という極めて強力なペナルティが講じられます。

従来の目安であった「標準的運賃」から、許可更新を人質にした「義務」としての「適正原価」へ。この抜本的な方針転換は、運送事業者と荷主企業(製造業・流通業等)の取引のあり方を根底から覆し、物流をコンプライアンス最優先のインフラへとアップデートすることを強制します。本記事では、この「適正原価」の決定的な制度設計の詳細と、業界全体に生じる地殻変動を専門的見地から網羅的に解説します。

ニュースの背景・詳細

国土交通省が設置した第1回「適正原価の設定に向けた有識者検討会」において提示された「適正原価」の全体像は、従来の運賃制度とは一線を画す精緻な設計となっています。

本制度の背景には、2024年4月に適用されたドライバーの時間外労働上限規制(年960時間)に伴う「物流2024年問題」があり、さらにそこから移行した「2026年問題」の解決が不可欠であるという政府の強い危機感があります。安全確保や人件費などのコストが、運賃に正しく反映されないまま「買い叩き」が行われ続ければ、輸送網そのものが崩壊するというシナリオを回避するための措置です。

適正原価の制度設計における決定的な時系列ロードマップと要点は以下のテーブルの通りです。

実施時期・スケジュール 決定・検討された重要ファクト 制度が狙う背景と目的 対象者と科される責任・リスク
2025年6月 トラック適正化二法の成立。 法的規制強化の土台を構築。 全ての一般貨物自動車運送事業者。
2026年7月17日 適正原価の制度設計案を公表。有識者検討会がスタート。 算定式や安全確保費用、事業継続投資などの構成要素の提示。 荷主企業。元請事業者。下請実運送事業者。
2026年12月 検討会による提言取りまとめ予定。 具体的な適正原価の基準づくりに向けた骨子確定。 物流プロセスに関わる全ての事業者。
2027年中 国土交通省による適正原価の告示・公布予定。 約1年間の十分な周知期間と移行準備期間を確保。 運賃設定の見直しを迫られる全プレイヤー。
2028年6月まで 「適正原価制度」の全面施行(予定)。 5年ごとの事業許可更新制度とのセット運用による強力な外圧。 適正原価未達の運送事業者は事業許可を更新できず退場。

参考記事: 国土交通省が2028年6月までに適正原価を全面施行へ、運賃未達で事業許可更新拒否に直結

「標準的運賃」と「適正原価」の決定的な違い:利潤の有無

実務担当者がまず最も理解すべきは、従来の「標準的運賃」と、今回の「適正原価」との定義における決定的な違いです。

従来の「標準的運賃」は、能率的な経営を前提とした原価に「適正な利潤(事業報酬)」を加えた「収受すべき推奨運賃」として示されていました。しかし、これはあくまで「目安」であり、法的な拘束力を欠いていたため、現場ではなかなか浸透しませんでした。

一方、新たに導入される「適正原価」は、法令を遵守して事業を最低限運営するために必要な原価、すなわち「適正な利潤」を一切含まない最低限のコストラインとして位置づけられています。

これは「この原価を下回って取引することは、法令で義務づけられた安全対策の費用を削るか、人件費を不当に買い叩いていることと同義である」と国が法的に定義することを意味します。したがって、実際の取引においては、この「適正原価」に「適正な利益」を上乗せして運賃を設定することが大前提となり、適正原価そのものが「これ以下は違法」とする床(フロア)となります。なお、適正原価制度の全面施行に伴い、従来の「標準的運賃」は廃止される方向で調整されています。

参考記事: 標準的な運賃とは?2024年4月改定の5大ポイントと実務対応を徹底解説

タリフ表から「実績データを代入する算定式」へのシフト

適正原価の具体的な提示方法についても、これまでの「標準的運賃」のような固定的なタリフ(運賃率表)は採用されません。

国が提示する「算定式」に対し、個々の事業者が自社の総稼働時間や総走行距離、稼働日数といった「実績データ」を代入して適正原価を導出する仕組みが採用されます。

具体的には、時間当たりの固定費やキロ当たりの変動費等の「単価」が、地域、車種、車格ごとに提示される予定です。事業者は、実車率が実態と乖離しないように見直された基準のもとで、実際の運行実績をインプットすることで、適法な「自社独自の適正原価」を算出します。

さらに、この義務が履行されているかの確認は、「一度のスポット取引で下回ったから即違法」とするのではなく、一定期間(事業者の決算期等を考慮し、「該当期間を1年間」とする案が検討中)において「継続して」下回っている状態が認められた場合に違法とする、実務に配慮した設計が検討されています。

新たに盛り込まれる構成要素:安全確保費用と事業継続投資

「適正原価」の構成要素(固定費+変動費)には、従来の基本的なコスト(燃料費、人件費、減価償却費等)に加え、新たに法的な意義を持つ以下の2つの独立した要素が明示的に盛り込まれます。

  • 輸送の安全確保のために必要な経費
    • 貨物自動車運送事業輸送安全規則等の法令遵守に必要な費用(車検・点検費、講習費用等)に加え、法令上すべての事業者に義務付けられているわけではないものの、安全確保に不可欠とされる「任意保険料」「ドライブレコーダー」「デジタルタコグラフ(デジタコ)」等の導入・運用維持費用を独立の要素として確保。
  • 事業を継続して遂行するために必要不可欠な投資の原資
    • 貨物自動車運送事業法上の許可基準を継続的に充足するために要請される投資を確保。人件費や一般的な減価償却費とは別枠で、将来にわたる事業継続のために経常的に必要となる「人材確保・育成費用」「労働環境改善費用」「BCP(事業継続計画)に係る投資」を指すことで整理。

これにより、デフレ期のダンピング競争で真っ先に削られてきた「安全性への投資」や「将来の事業継続投資」を原価として法的に切り離し、担保することを目指しています。

業界への具体的な影響

今回の適正原価制度設計案の発表は、物流市場を支える主要プレイヤーのそれぞれに、これまでのビジネスモデルやコンプライアンス管理の根本的な見直しを突きつけています。

1. 行政・規制当局:市場の「退場者」を決定する強硬なガバナンス

行政および規制当局は、これまでの「ガイドライン提示」や「標準的運賃の推奨」といったソフトロー(努力義務)の段階を完全に脱し、ハードロー(罰則・強制)による市場の直接統制へと移行します。

取引実態の監査には、国土交通省の「トラック適正化機関」が主導する巡回指導、および「トラック・物流Gメン」が全面的に稼働します。荷主企業による安値の押し付けに対しては「不当な取引原因行為」として、定期的かつ実効性のある是正指導や要請、最終的には「社名公表」という深刻なレピュテーションリスクを伴う処分を行います。

また、運送事業者に対するガバナンスはより厳格です。運行データや契約書の監査を通じて「適正原価を下回る取引を継続して行っていた」と判断された場合、行政処分が下されるだけでなく、5年ごとの「事業許可の更新」において「不許可」が言い渡されます。これは運送免許の失効、すなわち法的強制力による「ダンピング事業者の強制市場退場」を意味します。規制当局は、物流を「自由競争の市場」から「公的に守られた維持すべきインフラ」として再定義し、その存続を阻害する不適法者を冷徹に排除する体制を整えています。

2. 運送事業者:運行実績のデータ管理が「経営権」そのものを左右する時代へ

運送事業者にとって、適正原価制度は自社の適正な利益を守るための盾となる一方で、自社の経営体制そのものを徹底的に「透明化」「デジタル化」しなければ生き残れないという、強力な踏み絵となります。

これまでの「他社がこの価格だから」「昔からの付き合いだから」という曖昧などんぶり勘定は通用しなくなります。運行実績に基づく「算定式」を立証するためには、デジタコや動態管理システム(TMS等)によって、「何時間稼働し、何キロ走行し、いかなる費用が発生したか」を示す客観的なエビデンスを常に蓄積しておかなければなりません。これができない事業者は、自社の適法性を証明できず、事業許可を更新できません。

また、元請事業者は下請(実運送事業者)への支払においても適正原価を維持する法的義務を負います。これにより、自社で車両を持たないノンアセット型の利用運送事業者や大手元請は、下請の不利益になるような手数料の「中抜き」や「不当な買いたたき」によって、支払う運賃・料金が適正原価を下回ることが禁止されます。契約時に運賃と付帯作業料(荷役、検品、待機など)を厳格に別建て表記し、それをデジタルで管理する体制への移行が必要です。

参考記事: ロジテック25アプリで2026年義務化の実運送体制管理簿作成を効率化

参考記事: 下請法(物流業の適用)とは?配車担当者が押さえるべき資本金基準と取引の注意点

参考記事: 貨物利用運送事業とは?第一種・第二種の違いや登録要件、法改正への実務対応をわかりやすく解説

3. 製造業者・メーカー(荷主企業):「物流の維持」が最優先のコンプライアンス

製造業や小売業、流通業といった荷主企業において、物流費を「削れるだけ削る外部費用」として扱う昭和型の調達姿勢は、名実ともに完全に崩壊します。

仮に運送事業者に無理な運賃買い叩きを強行し、適正原価を下回る水準で契約させ続けた場合、その運送事業者は5年後にライセンスを失って廃業します。これは、荷主企業にとっては「自社の調達・販売ネットワークの輸送能力が突如として遮断される」という、事業継続における壊滅的なリスク(物流難民化)に直結します。

また、2026年4月に特定荷主に設置が義務付けられた「物流統括管理者(CLO)」の存在が極めて重要になります。役員級のCLOを設置し、サプライチェーン全体のデータ(荷待ち時間や積載率、配送頻度など)を可視化し、無償で行わせていた手荷役などの付帯作業を是正し、コンプライアンス(法令遵守)に即した適正な運賃改定を受け入れる必要があります。もはや、物流は調達や営業の単なるコストセンターではなく、経営陣が直接コミットして維持しなければならない「社会的インフラの維持責任」へと昇格したのです。

参考記事: 改正物流効率化法で特定荷主3000社超に2026年4月CLO選任が義務化へ

参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策

4. 構造的変化:自由競争の終焉と「準公的インフラ」への強制アップデート

日本の物流は、1990年の規制緩和以降、事業者が急増して激しい低価格競争にさらされてきました。荷主の厳しいサービス水準を満たすために、多重下請けの最末端にいるドライバーが、長時間の過酷な労働と不当な低賃金を甘んじて受け入れることで高品質な物流ネットワークが担保されていました。

しかし、今回の「適正原価制度」の導入は、この昭和〜平成型モデルの完全なる終焉を意味します。国が安全対策費や事業継続のための投資(DXや労働環境改善など)をあらかじめ「原価」として法的に織り込むことを義務化し、それ以下の価格での取引を禁じたことで、物流市場は「安さ」を競う自由競争のステージを終えました。

これからの物流業界は、法的に守られた「最低限の原価(適正原価)」をフロアとし、その上で「いかにデータを活用して積載率や稼働効率を高められるか」「いかにドライバーの労働環境を整え、優秀な人材を獲得できるか」という、効率性と信頼性を競う「準公的な社会インフラ産業」へと強制的に再編されていきます。

LogiShiftの視点(独自考察)

LogiShiftでは、今回の「適正原価」制度の具体化と「5年ごとの事業許可更新拒否」という極めて強力な法的ペナルティの導入は、日本の物流産業を健全化するための「劇薬」であると分析します。

適正原価は「生存ライン」であり「利潤(利益)」ではない

最も警戒すべきは、運送事業者や荷主企業が、国が示す「適正原価」をそのまま「推奨運賃」として捉え、その金額で契約を結んで満足してしまうことです。

前述の通り、適正原価には事業者が会社として持続可能であるために必要な「適正な利潤(利益)」が含まれていません。あくまで「これ以下で走らせると、安全義務を怠っているか、労働基準法を無視していると見なされる最低ライン」にすぎないのです。

したがって、運送事業者は、国が提示する算定式に基づいて自社の適正原価を正確に導き出し、それに自社の企業活動に必要な「適正な利益」を乗せた運賃(従来の標準的運賃を超える水準)を、根拠のあるエビデンス(動態データやコスト計算書)とともに荷主企業に提示しなければなりません。これができなければ、企業としては法的処分を免れたとしても、最終的には赤字や資金繰りの悪化によって「黒字倒産」や「資金枯渇による廃業」に至ることになります。

経営トップによるガバナンス改革が不可欠:名ばかりCLOを排除せよ

荷主企業において最も失敗しやすいパターンは、既存の物流部長の肩書きだけを「CLO(物流統括管理者)」に掛け替え、実質的な調整権限を営業や生産部門に対して持たせない「名ばかりCLO」を誕生させてしまうことです。

これでは、営業部門の「顧客最優先」に基づく無理な即日配送や、製造部門の「押し出し生産」に伴う倉庫の圧迫、長時間の待機時間を是正することは不可能です。経営トップは、CLOに取締役・執行役員クラスをアサインし、他部門に対する強力な「物流改善命令権」を職務規程に明記しなければなりません。

営業が無理な小口多頻度配送を要求した場合、それに伴う適正原価以上の割増運賃コストは、物流部門ではなく、原因となった営業部門のP/L(営業利益)に直接付け替える。これほどの強制力を伴うガバナンス体制を全社的に構築して初めて、調達・製造・営業を巻き込んだ本当の物流改革が実現します。

デジタル依存に伴う「通信障害・サーバーダウン時のBCP」

また、適正原価の証明、さらには2026年4月に本格施行された「実運送体制管理簿」の運用(多重下請けの可視化)において、配車管理システムやスマートフォンアプリ等のデジタルツールの活用は不可避となっています。

しかし、ここで物流のプロフェッショナルとして絶対に怠ってはならないのが、通信障害やクラウドサーバーのダウンといったシステム障害時に備えた「BCP(事業継続計画)」の策定です。

業務のすべてをデジタルへ一極集中させた結果、システムが一時的に停止しただけで全ての配車指示や運行記録が麻痺し、工場出荷が完全に停止するような事態になれば、サプライチェーンにおける大打撃となります。

「システム障害時には、直ちに緊急用のExcel台帳、あるいはホワイトボードでの手書き管理に切り替えて現場の運行と最低限の出荷を維持し、システム復旧後に実績データを一括登録する」といったエスカレーションルールをあらかじめ策定し、防災訓練のように現場で稼働テストを実施しておくことが、CLOや現場リーダーの重要な責務です。

まとめ

2028年6月までの「適正原価制度」および「許可更新制」の全面施行に向け、法的な強制力を持った「市場の選別」はすでに始まっています。

物流に関わる全ての経営層、現場リーダーが明日から直ちに取り組むべき実務アクションを提示します。

1. 自社の運行データと「原単価」の精緻な算出・デジタル化

感覚的な運賃設定(標準的運賃のタリフへの依存など)を直ちに廃止し、自社のデジタコデータや固定費、変動費、労務費を徹底的に洗い出し、「自社のトラックを1時間、1キロ稼働させるのに最低いくらのコストがかかっているか」を1円単位で自動計算できるデータ管理体制を早期に構築してください。

2. すべての契約において「運賃」と「付帯作業・待機時間」の完全分離

これまで「サービス」や「暗黙の了解」として片付けられていた、長時間の荷待ち、手荷役、ラベル貼り、検品などの「付帯作業」を、契約上から明確に分離してください。運賃とは別個に「付帯作業料」「待機料金」を適正な単価で書面化し、荷主に対して支払いや作業の自社スタッフへの移管を交渉するためのエビデンスを可視化することが、最大の事業防衛となります。

3. 現場で使えるデジタルツールのテスト導入と、コンプライアンス最優先のガバナンス体制への移行

「ロジテック25アプリ」をはじめとする、現場の末端ドライバーや高齢ドライバーでも直感的に操作できるシンプルなUI/UXを持つ配車・運行連携ツールを早期に選定し、スモールスタートで導入・テストを行ってください。
また、経営層自らが「コンプライアンスの遵守は、売上や納期要求よりも優先される」という確固たるメッセージを社内外に発信し、2028年の本格施行に向けた自社のコンプライアンスを全社一丸となって最適化していく体制の基盤を整えましょう。

昭和、平成と続いてきた「安く高品質な物流の切り売り」という幻影は、法的強制力をもって完全に瓦解しました。
この「適正原価」という劇薬を、事業の存続を脅かす「逆風」と捉えて守りに回るか、それとも不公正な価格競争が是正され、データと安全性で評価される「千載一遇のチャンス」と捉えて攻めのデジタル投資を決断するか。
明日からの決断のスピードと行動の迅速さが、2028年以降の御社の生存を決定づけることになります。


出典: トラックニュース
出典: 国土交通省(検討会資料等)
出典: LNEWS(Logi-Biz On-Line)
出典: 運送バント

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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