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Home > 輸配送・TMS> 国土交通省、31年DMS義務化へ|3.5秒の視線逸脱も警告する新基準の行方
輸配送・TMS 2026年8月24日

国土交通省、31年DMS義務化へ|3.5秒の視線逸脱も警告する新基準の行方

国土交通省、31年DMS義務化へ|3.5秒の視線逸脱も警告する新基準の行方

国土交通省は2026年8月24日、自動車の運転中にスマートフォンなどを注視する「ながら運転」や居眠り運転を検知して警報を発する「ドライバーモニタリングシステム(DMS)」の搭載を義務付ける方針を固めました。運送事業者にとっては、個人の注意力に依存した従来の安全管理から、車載センサーとAIが走行状態を常時監視して事故を防ぐシステム前提の運行管理体制への移行が迫られます。

国土交通省が打ち出したDMS義務化の全容と適用ロードマップ

車内に設置した高精度カメラや生体センサーで運転者の視線・表情・頭部姿勢を解析し、異常を検知した際に即座に警告を発するDMS(Driver Monitoring System)は、重大交通事故を未然に防ぐ中核技術として位置づけられています。今回の義務化方針は、国産乗用車や商用トラックだけでなく、輸入車も含めた国内で流通する自動車全般を対象としており、日本の車両安全基準が大きく引き上げられることになります。

2026年9月省令改正から2031年新型車適用までのスケジュール

国土交通省は、2026年9月に道路運送車両法に基づく保安基準等の関係省令を改正する予定です。自動車メーカー各社の設計変更や生産ラインの改修期間を考慮し、2段階の猶予期間を設けたロードマップが策定されています。

適用フェーズ 適用開始時期 対象車両 主な対応内容
第1段階(新型車) 2031年9月〜 フルモデルチェンジ車・新規認証車 新車開発段階からDMSを標準搭載して型式指定を取得
第2段階(継続生産車) 2033年9月〜 既存モデルの継続生産車 現行販売モデルのマイナーチェンジ等でDMSを全車標準装備

2031年9月以降に発売される新型車から段階的に適用が開始され、2033年9月には市場に出荷されるすべての新車にDMSの搭載が義務付けられます。これにより、新車市場におけるDMS普及率は100%に向かうことになります。

法令で定められるDMSの作動条件と判定基準

省令改正に伴い策定される技術基準では、どのような走行状態においてDMSが作動・警告を発するべきかが速度域や時間単位で具体的に定義されています。

検知対象 走行速度域 作動・警告条件 検知メカニズム
脇見運転(中低速) 時速20km〜50km 6秒間以上、前方から視線を逸脱 近赤外線カメラによる瞳孔・視線方向のリアルタイム追跡
脇見運転(高速) 時速50km以上 3.5秒間以上、前方から視線を逸脱 高速走行時の制動距離を考慮した早期視線検知
居眠り・眠気 時速70km〜130km まぶたの閉塞、頭部下垂等の兆候検知 まぶた開閉率(PERCLOS)や頭部姿勢の連続モニタリング

特に高速走行時における脇見運転に対しては、わずか3.5秒の視線逸脱で警報を作動させる厳しい基準が設定されます。時速100kmで走行する車両は3.5秒間で約97m進むため、スマートフォンの画面確認やカーナビの注視による追突事故を構造的に抑止する狙いがあります。

2019年道交法改正からガイドライン策定に至る政策の経緯

今回の義務化は単発の施策ではなく、長年にわたる交通安全行政の強化方針の延長線上にあります。2019年12月に施行された改正道路交通法では、運転中の携帯電話使用等に対する罰則が強化され、違反点数の引き上げや反則金の増額、事故発生時の懲役刑導入などが実施されました。

しかし、スマートフォンの普及やアプリの多機能化に伴い、依然として「ながら運転」による死亡・重傷事故が後を絶たない状況が続いていました。2020年12月には国土交通省が「先進安全自動車(ASV)推進検討会」を通じて「ドライバーモニタリングシステム ガイドライン」を策定し、技術的要件の整理を進めてきました。

年月 主体・関係機関 主な出来事・施策内容 業界への影響・位置付け
2019年12月 警察庁 改正道路交通法の施行 「ながら運転」の罰則強化、事故惹起時の即座な免許停止
2020年12月 国土交通省 DMSガイドラインの策定・公表 眠気・脇見検知システムの技術的要件と性能評価指標を明文化
2022年7月 欧州連合(EU) GSR(一般安全規則)の適用開始 新型車へのDMS・注意散漫検知(ADDW)等の装着を先行義務化
2026年8月 国土交通省 DMS搭載義務化の方針を決定 2031年からの新型車義務付けに向け、同年9月の省令改正を準備

2026年3月に新名神高速道路で発生した大型トラックのスマートフォンの注視に起因する6名死亡多重追突事故など、重大事故の発生が安全装置の法制化を後押しする強い要因となりました。

参考記事: 広島労働局、新名神6人死亡事故で17件違反の会社に事業停止処分と点検要請

国際動向:欧州ADDW基準との調和とグローバル展開

欧州連合(EU)では、2022年7月より新型車に対し、先進注意散漫検知システム(ADDW:Advanced Driver Distraction Warning)や居眠り検知システムの装着を義務付ける安全規則(General Safety Regulation)を先行して施行しています。

日本の今回の省令改正は、国際連合の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)における安全基準との整合性を図る目的も兼ねています。国内基準を欧州基準と調和させることで、自動車メーカーの開発コスト重複を抑制しつつ、国際的に統一された高水準の予防安全性能を日本国内のフリート市場にも導入する狙いがあります。

参考記事: Seeing Machinesで漫然事故365件を防ぐ安全管理

物流業界と自動車市場に及ぶ3つの具体的影響

DMSの搭載義務化は、自動車メーカーの車両設計にとどまらず、トラックフリートを運用する運送事業者、監督官庁、運行管理向けテクノロジーベンダーのそれぞれに構造的な変化をもたらします。

運送事業者:安全投資へのパラダイムシフトと車両調達コストの変動

運送事業者にとって、新車導入時のDMS標準搭載は、調達コストの増加要因となる一方で、重大事故リスクを未然に排除するための防壁となります。

DMSの車載カメラやセンサーユニットの部品原価は1台あたり数千円から1万円程度と試算されていますが、車両価格への転嫁は避けられません。特に薄利多売の構造にある中小運送事業者にとっては、車両更新時のイニシャルコスト増が資金繰りに影響を与える懸念があります。

しかし、漫然運転や居眠り運転による衝突事故が1件発生した場合の事業停止リスクや損害賠償額、行政処分による車両使用停止のリスクを考慮すれば、DMSの義務化はフリート全体の安全水準を底上げする投資として機能します。

ドライバーにとっては「常に車内カメラに監視されている」という心理的ストレスが生じる可能性があるため、経営層や運行管理者は「監視ではなくドライバーの命と生活を守るための安全装置である」という社内周知とプライバシー配慮を行う必要があります。

参考記事: 西中国陸運に180日車の車両停止処分、不実記載が招く運行管理リスク

行政・規制当局:事故削減目標の達成と中小運送事業者への支援策

国土交通省および警察庁にとって、DMSの義務化は第11次交通安全基本計画における交通事故死者数削減目標を達成するための切り札です。

漫然運転や運転中の携帯電話注視は、事故直前までブレーキが踏まれないケースが多く、衝突時の相対速度が高いために致命的な人的被害をもたらします。ハードウェアによる自動警告を標準化することで、ヒューマンエラーによる被害を低減させる意図があります。

一方で、2031年の義務化開始までの過渡期において、既存車両への後付けDMS導入やデジタコとの連動システム導入を進めるため、中小運送事業者を対象とした助成金制度(事故防止対策支援推進事業など)の拡充や補助対象機器の要件見直しが行政側の重要施策となります。

SaaS・テクノロジーベンダー:単体アラートから総合運行テレマティクスへの進化

DMSが車両の標準機能として組み込まれることに伴い、運行管理システムやクラウド型テレマティクスを提供するSaaSベンダーの役割も大きく変化します。

従来の「車載カメラが警告音を鳴らす」というスタンドアロン型の機能だけでは市場競争力を失い、DMSが捉えた視線データや疲労兆候のログをクラウド上でリアルタイムに集約・分析するプラットフォーム機能が求められます。

例えば、DMSが居眠りや脇見の警告を発した際、その回数や時間帯、位置情報をデジタルタコグラフ(デジタコ)や動態管理システムへ自動連携し、運行管理者の管理画面に「要注意ドライバー」としてリアルタイム通知するソリューションです。さらには、取得したバイタル・集中度データを活用し、個々のドライバーの疲労蓄積傾向をAIが分析して、適正な休憩スポットやシフト間インターバルの改善を促す高度な労務管理DXの提案が主流となります。

参考記事: デジタコ(デジタルタコグラフ)とは?アナタコとの違い・装着義務や労務管理での活用法を解説

参考記事: テレマティクスとは?デジタコとの違いや物流現場の導入メリットを解説

LogiShiftの視点:属人的な注意から「常時監視の予防安全」への構造転換

今回の国土交通省によるDMS搭載義務化方針は、物流業界における安全確保の概念が「個人の注意力や倫理観」という属人的な領域から、「ハードウェアとデータによる常時監視」というシステム前提のインフラへと完全にシフトしたことを示しています。

事故責任の所在が「個人」から「フリート管理基盤」へ移行

これまでの交通事故対策は、点呼時の安全教育、ドライバーへの注意喚起、乗務記録の事後チェックといった「人対人」の指導に重点が置かれていました。しかし、人間の生理的現象である突発的な睡魔(マイクロスリープ)や、スマートフォンの通知に対する無意識の視線移動を、ドライバー個人の精神論だけで100%抑制することは不可能です。

DMSの義務化によって、車両がドライバーの状態を常時モニタリングし、危険を感知した瞬間にシステムが強制介入する環境が標準となります。これにより、万が一重大事故が発生した場合、事業者は「なぜシステムのアラートを運行管理者がリアルタイムに把握し、休憩指示を出さなかったのか」という、組織的なリアルタイム安全管理体制の不備を問われる時代に突入します。

参考記事: 改善基準告示を完全解説!2024年4月改正のポイントと実務での対応策

走行ログと生体データの統合によるリアルタイム安全ガバナンス

今後、運送企業における競争力の源泉は、「車両が生成するセンサーデータと労務管理をいかに統合できるか」に集約されます。

DMSによって取得される視線データやまぶたの開閉状況は、改善基準告示で定められた拘束時間や連続運転時間の実態と密接にリンクします。走行中に頻繁な脇見や眠気兆候が記録されるドライバーがいる場合、それは単なる運転姿勢の問題ではなく、乗務前の睡眠不足や運行ルートの過密さ、休憩施設の不備といった構造的な労務課題のシグナルとなります。

単なる「警告装置の導入」に終わらせず、DMSの検知データを労務改善や配車計画の最適化に直結させるデータ基盤を構築できた運送会社こそが、荷主からの信頼を獲得し、ドライバーの定着率を高めることができます。

明日から物流企業が取り組むべき安全DXの実務アクション

2031年の新型車義務化を見据え、運送事業者の経営層および運行管理担当者が直ちに着手すべき実務対応を提示します。

  1. 自社保有車両における安全装備の棚卸しと更新計画の策定
    現行のフリートにおける車載カメラ、デジタコ、運転支援機能の搭載状況を一覧化し、2031年以降の車両代替サイクルに合わせたDMS標準車の導入計画を中長期の設備投資計画へ組み込みます。
  2. 既存車両へのAIダッシュカメラ・後付けDMSの先行試行
    新車の義務化を待たずに、事故リスクの高い長距離夜間運行便や新任ドライバーの乗務車両を対象として、視線・居眠り検知機能を備えたAIドラレコのテスト導入を実施し、現場の受容性と警告運用の精度を検証します。
  3. 点呼・労務データと走行中アラートを連携させた管理プロセスの再構築
    走行中のDMS警告ログをデジタコデータやIT点呼システムと連携させ、運行管理者がリアルタイムで疲労状態を把握して休憩指示を出せるエスカレーションフローを策定します。

出典: 福島民報デジタル
出典: 国土交通省
出典: BigGoファイナンス

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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