東海運は2026年9月1日、同年10月1日委託分より通関業務における各種申告および保税関連申請の基本料金を現行から約25%引き上げると発表しました。1995年の旧上限料金を約30年にわたり維持してきた同社の改定は、国際物流のバックオフィスを支える専門労働の適正対価回収に向けた業界全体の構造転換を決定づける動きといえます。
東海運による通関料金25%増額の全貌と改定スケジュール
東海運が発表した料金改定は、長年にわたり据え置かれてきた国際貿易手続きの対価を、近年のインフレや法令遵守コストの上昇に合わせて適正化する重要な施策です。
改定内容と基本料金引き上げの骨子
今回の料金改定は、各種通関申告および保税関連申請の基本料金を対象とし、一部の例外を除いて現行水準から約25%の増額を実施するものです。特筆すべき点として、近年取扱量が急増している少額貨物の簡易通関扱いも改定対象に含まれています。
改定の概要と事実関係は以下の通りです。
| 項目 | 詳細内容 | 実務への影響 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 発表主体 | 東海運株式会社 | 国際物流の委託コストおよび予算の再計算が必要 | 港湾運送・国際物流の大手事業者 |
| 発表日・適用日 | 2026年9月1日発表、2026年10月1日委託分より順次適用 | 2026年度下半期の輸出入実務予算に直ちに反映 | 猶予期間1カ月での適用開始 |
| 改定幅(数値) | 現行料金に対して約25%の増額(一部例外を除く) | 通関1件あたりの申告費用および保税申請費用の増加 | 少額貨物の簡易通関扱いも改定対象に含む |
| 主な改定理由 | 労務費上昇、業務の高度化、DX投資、AEO維持管理費の増大 | 安全かつ迅速なサプライチェーン維持コストの分担 | 自社努力によるコスト吸収が限界に達したため |
参考記事: 通関とは?業務の流れ・費用相場からトラブル回避とDX推進まで解説
約30年間に及ぶ「旧上限料金」維持の限界とコスト構造の激変
日本の通関業界では、1995年に通関業法に基づく通関料金の上限金額が改定された後、2017年の法改正によって上限認可制が廃止され、料金設定が自由化されました。しかし、法改正後も荷主企業との価格交渉の難しさや業界慣行から、1995年の旧上限額水準が事実上の基準値として約30年間にわたり据え置かれてきました。
東海運も徹底した業務効率化やコスト削減によってこの料金水準を死守してきましたが、以下の複合的なコスト増により、企業努力のみでの維持が困難となりました。
- 専門人材の労務費高騰: 通関士をはじめとする専門職の不足と高齢化に伴い、人材採用・育成コストおよび人件費が継続的に上昇しています。
- 貿易協定の複雑化による業務負荷: EPA(経済連携協定)の拡大・拡充に伴い、原産地規則の確認や適用税率の判定など、申告書類の審査実務が高度化・複雑化しています。
- コンプライアンスおよびセキュリティ投資の増大: 経済安全保障の強化やテロ対策、不正貨物の流入防止に対応するための情報セキュリティ対策、ならびにAEO(認定事業者)制度の維持管理に伴うシステム投資・運用コストが増大しています。
参考記事: AEO制度とは?国際物流を円滑化する仕組みと認定区分・メリットを解説
大手物流各社における通関料金改定の時系列比較
通関料金の適正化を巡っては、2025年末から大手フォワーダーや倉庫会社による価格改定の発表が相次いでおり、東海運の決定もこの業界潮流に連なるものです。
| 事業者名 | 発表時期 | 改定時期 | 改定幅・対象 |
|---|---|---|---|
| 日本通運 | 2025年12月11日 | 2026年1月1日 | 平均約25%増額、関税立替払いの段階的廃止も推進 |
| 上組 | 2026年3月 | 2026年4月1日 | 約20%増額、通関申告および付帯手続き料金 |
| 丸紅ロジスティクス | 2026年4月 | 2026年5月1日 | 平均約25%増額、輸出入通関基本料金 |
| 三菱倉庫 | 2026年5月 | 2026年6月1日 | 約25%増額、各種通関申告・保税申請料金 |
| 富士物流 | 2026年5月 | 2026年6月15日 | 約25%増額、輸出入通関基本料 |
| 三井倉庫 | 2026年6月22日 | 2026年7月1日 | 平均約25%増額、通関申告および保税関連申請 |
| 伊勢湾海運 | 2026年6月 | 2026年7月1日 | 約25%増額、通関関連業務の基本料金 |
| 東海運 | 2026年9月1日 | 2026年10月1日 | 約25%増額、少額貨物簡易通関を含む各種申告料金 |
参考記事: 三井倉庫株式会社が7月1日から通関料金を25%値上げ、コスト見直しが不可欠に
通関業界が直面する構造的課題とアンケートデータ
業界団体が実施した調査結果からは、通関業者が長年抱えてきた収益性の悪化と、荷主に対する価格転嫁の難しさが浮き彫りになっています。
- 値上げの必要性に対する業界の認識: 名古屋通関業会が実施したアンケート調査では、事業者の96%が「通関業務料金の値上げが必要である」と回答しており、業界内での危機感は極めて高い水準に達していました。
- 価格交渉の実施率の低さ: 東京通関業会のアンケート調査によると、荷主に対して実際に通関業務料金の値上げを求めた事業所は28.2%にとどまっていました。
- 値上げ要請を阻む要因: 同調査において価格転嫁を求めなかった理由として最も多かった回答は、「値上げを求めると契約を切られるおそれがあるため」(63.3%)でした。
- 関税等の立替払い負担: 大阪通関業会のアンケートでは、87%の事業者が関税・消費税の立替払いを行っており、そのうち約9割が立替に伴う資金繰りや貸し倒れリスクを「負担」と感じている実態が明らかになっています。
こうした背景の中、2026年3月31日に閣議決定された「新たな総合物流施策大綱」において、「労務費等のコストを通関業務料金へ適切に転嫁していくことの必要性を広く周知していく」「通関業者の適正な業務運営を確保するための環境整備に向けた取組を推進する」との方針が明記されました。行政の後押しも加わり、大手事業者が相次いで改定に踏み切ったことで、適正対価を収受する環境が整いつつあります。
サプライチェーン各層への具体的な影響と実務課題
東海運による約25%の料金引き上げは、輸出入を行う荷主企業やEC事業者、競合する物流会社に至るまで、サプライチェーンの各層に直接的な実務・財務上の影響を与えます。
製造業者・メーカー:調達コスト再計算と分割出荷見直しの圧力
原材料や部品を海外から輸入している製造業にとって、通関料金の25%増額は調達コスト(Total Landed Cost)を直接的に押し上げます。これまで通関費用は国際運賃(フレート)や関税額に比べて相対的に小さな金額と見なされがちでしたが、申告件数が多いメーカーほど累積的な負担は無視できません。
製造現場や購買部門では、小口で頻繁に輸入する分割出荷を見直し、発注ロットの大型化やインボイスの名寄せによって「通関申告件数そのものを削減する」実務対応が不可欠となります。また、通関書類の作成に必要な品目情報や成分表の提供プロセスの精度を高め、通関現場での確認・修正工数を削減するデータ整備が求められます。
参考記事: 関税の仕組みと計算方法|EPA適用から失敗しない通関実務まで解説
越境EC事業者:少額貨物への料金改定がもたらす薄利モデルの限界
今回の東海運の改定において、「少額貨物の簡易通関扱い」も対象に含まれた点は、越境ECや小口輸入ビジネスを展開する事業者にとって大きな転換点となります。低価格な商品を1件ずつ個別の小包として輸入するビジネスモデルでは、1申告あたりの通関基本料金の上昇がそのまま商品マージンを圧迫します。
欧米を中心に少額免税制度(de minimis)の撤廃や見直しが進む中、日本国内でも通関コストの適正化が進むことで、単に小口配送を繰り返すモデルから、国内倉庫への一括保税搬入・大口通関後に国内配送網へ流す「バルク輸入+フルフィルメント拠点配置」へのモデル転換が加速する見込みです。
参考記事: 欧州連合による3ユーロ課税導入に備えるZigZag提唱の必須対応
倉庫・3PL事業者:サービス労働からの脱却と価格転嫁交渉の本格化
倉庫事業者や3PL(サードパーティ・ロジスティクス)にとって、大手が主導する通関料金改定は、自社の通関部門の収益性を改善するための強力な追い風となります。これまで荷主獲得のための「実質的な無償サービス」や「割安な付帯業務」として扱われがちだった通関手続きについて、正当な対価を請求する大義名分が得られるためです。
一方で、前述の調査データにある通り「契約解除への懸念」から値上げ交渉を躊躇してきた中堅・中小事業者にとっては、荷主に対して業務の専門性やシステム投資の必要性を論理的に説明し、粘り強く価格交渉をまとめ上げる実務能力が問われることになります。
参考記事: フレート(運賃)の仕組みと計算方法を解説|サーチャージやコスト最適化のポイント
行政・規制当局:施策大綱に基づく適正取引推進とDX支援
財務省関税局や公正取引委員会などの規制当局にとっては、2026年3月の総合物流施策大綱で掲げた「通関料金の適正な転嫁」が民間市場で具現化している局面といえます。日本通関業連合会が2026年6月に開設した「通関業務の経営環境の改善に向けた活動に関する目安箱」を通じ、不当な買いたたきや優越的地位の濫用がないかを監視する体制も稼働しています。
当局側には、民間企業のコンプライアンス投資を評価するとともに、NACCS(輸出入・港湾関連情報処理システム)のAPI連携高度化など、官民双方の処理負担を軽減するDX施策のさらなる推進が期待されます。
LogiShiftの視点:30年続いたデフレ型通関の終焉と「専門労働」の再評価
LogiShiftでは、今回の東海運による通関料金改定を、単なる一企業の収益改善策ではなく、「約30年間維持されてきたデフレ型通関料金体系の終焉と、貿易コンプライアンスを担う専門労働の社会的再評価」という構造変化の象徴であると分析しています。
総合物流施策大綱と共鳴する「バックオフィス適正対価」の確立
国内物流では「改正物流効率化法」などの法整備により、トラックドライバーの荷待ち・荷役作業に対する対価の明確化や、適正運賃の収受が進められています。これと同様の構造改革が、国際物流のバックオフィスである通関手続きにおいても本格化しています。
EPAの原産地証明審査や税番(HSコード)の厳密な判定、経済安全保障上の該非判定など、近年の通関業務は高度な法律知識と専門判断を要するコンプライアンス業務へと深化しています。東海運をはじめとする大手事業者の25%増額は、これらの不可視だった専門労働に対して正当なコストを支払うという、健全な商習慣への回帰を意味します。
参考記事: 物流2026年問題とは?2024年問題との違いや法改正、実務で必要な対策を徹底解説
関税立替払い廃止と連動する「物流・商流・金融の分離」
通関料金の改定と並行して進んでいるのが、大手物流各社による「関税・消費税の立替払い廃止(リアルタイム口座振替方式への完全移行)」です。通関業者が無利息・無担保で数千万円から億円単位の納税資金を立て替えてきた商習慣は、実質的な金融機能の無償提供であり、事業者の重大な経営リスクとなっていました。
料金の約25%引き上げと立替払いの廃止が同時に進行することで、物流事業者が負ってきた「不当な事務労働と金融リスク」が切り離され、荷主企業が自社のサプライチェーンに関わる資金とデータの責任を直接負う体制へのシフトが不可逆的に進んでいます。
通関DXとデータガバナンスが分ける今後の企業競争力
通関基本料金の上昇は、荷主企業にとって「デジタル化を先送りするコスト」が増大したことを意味します。紙のインボイスや不完全なエクセルデータを物流会社に丸投げし、通関現場で手修正してもらう従来の手法は、追加の手数料やリードタイム遅延という形で自社に跳ね返ってきます。
今後は、荷主企業自らが商品マスタに正確なHSコードや原産地情報を整備し、基幹システム(ERP)と通関システムをデータ連携させることで、申告手続きの自動化・効率化を共同で進められる企業だけが、国際物流のトータルコストを低く抑えることが可能になります。
まとめ:国際物流に関わる企業が明日から取り組むべき3つの実務アクション
東海運が2026年10月1日委託分から実施する通関基本料金の約25%増額は、国際調達・輸出入実務におけるコスト構造の抜本的な見直しを迫る契機となります。
サプライチェーンの競争力を維持するために、経営層および貿易・物流の実務リーダーが明日から取り組むべき具体的なアクションは以下の3点です。
- 輸出入申告件数と保税申請頻度の総点検を実施する
自社の過去1年間の通関実績データを抽出し、1件あたりの申告ロットや分割出荷の頻度を可視化します。通関料金25%増額による財務的影響額を試算した上で、インボイスの合算(名寄せ)や出荷スケジュールの統合による「申告件数の削減計画」を直ちに策定してください。
- 商品マスタのHSコード・原産地情報のデータクレンジングを完了させる
通関業者への丸投げ体質を脱却し、自社で管理する品目マスタの税番(HSコード)、材質、成分組成、EPA原産地判定データを最新の法令に合わせて精緻に整備します。通関現場での確認工数や手戻りをゼロにすることで、申告リードタイムの短縮と追加費用の発生を抑制します。
- 委託先通関業者のガバナンス体制とDX推進力を再評価する
物流事業者の選定基準を「単なる手数料の安さ」から、「AEO制度に基づく安全管理体制」「NACCS連携などのDX基盤」「関税・貿易コンプライアンスの専門性」へとシフトさせます。適正な対価を支払いつつ、データ連携によって相互の業務効率を高め合えるパートナーシップを構築してください。
出典: 日本海事新聞 電子版
出典: Daily Cargo電子版
出典: LOGISTICS TODAY
出典: カーゴニュース



