一般社団法人フィジカルインターネットセンター(JPIC)は2026年9月3日、都内で2026年度「第1回CLO協議会」を開催しました。会場には特定荷主や物流事業者など約100人が集まり、改正物流効率化法に基づく10月末の中長期計画提出に向けた共同物流の推進策を議論しました。
特定荷主3,299社の届出完了と問われるCLO制度の「実効性」
2026年4月に全面施行された改正物流効率化法(流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正)により、荷主企業に対する規制的措置が本格始動しました。国土交通省が公表したデータによると、2026年7月9日時点で特定荷主および特定連鎖化事業者として届け出を行った企業は3,299社に達し、政府が当初想定していた約3,200社を上回る規模となっています。各社で役員クラスの物流統括管理者(CLO)の選任手続きが進められていますが、制度が形式的な法令対応にとどまる懸念が浮き彫りになっています。
こうした状況を踏まえ、JPICは2026年9月3日にTKP新橋カンファレンスセンターで「第1回CLO協議会」を開催しました。当日は荷主企業のCLOや物流担当役員をはじめ、運送・倉庫事業者、不動産デベロッパー、IT・マテリアルハンドリングベンダーなど約100人が参加しました。協議会では、参加者が11の班に分かれて少人数制のラウンドテーブルを実施し、自社単独での改善の限界や、企業間連携を阻む具体的な要因について率直な意見交換が行われました。
法改正施行から協議会開催に至る経緯と重要スケジュール
改正物流効率化法の公布から現在に至るまで、荷主および物流事業者の責務は段階的に強化されてきました。法制度の施行スケジュールおよび関連する主要な出来事は以下の通りです。
| 年月日 | 主体 | 主な出来事・決定事項 | サプライチェーンへの実務影響 |
|---|---|---|---|
| 2022年6月 | JPIC | 一般社団法人フィジカルインターネットセンター発足 | 産官学によるフィジカルインターネット実現基盤の構築開始 |
| 2024年5月 | 国会 | 改正物流関連2法(物流効率化法・貨物自動車運送事業法)成立 | 荷主企業および物流事業者への規制的措置の導入が決定 |
| 2025年4月 | 国土交通省・経済産業省 | 判断基準(努力義務規定)の先行施行 | 全荷主に対し荷待ち時間短縮や積載率向上の計画策定を要請 |
| 2026年2月9日 | JPIC・野村総合研究所 | フィジカルインターネット成熟度モデル(PIMM)発表 | 企業の物流標準化や共同化の進捗度を評価する指標を公表 |
| 2026年4月1日 | 国土交通省・経済産業省 | 改正物流効率化法が全面施行 | 年間9万トン以上の特定荷主へCLO選任・中長期計画策定を義務化 |
| 2026年7月3日 | JPIC | 「CLOカンファレンス2026」開催・PIMM認証審査受付開始 | 共同物流や標準化の客観的評価制度「PIMM v1.0」の運用開始 |
| 2026年7月14日 | 物流政策推進関係者会議 | 特定事業者の届出状況公表(7月9日時点集計) | 特定荷主3,299社、特定トラック事業者867社等の届出を確認 |
| 2026年9月3日 | JPIC | 2026年度「第1回CLO協議会」開催 | 「CLO×LPD」連携による共同物流の実装方針を議論 |
| 2026年10月末 | 特定事業者(荷主等) | 初年度「中長期計画」の主務官庁への提出期限 | 2028年度KPI(積載効率向上等)に向けた具体的施策の提出 |
参考記事: 年9万トン超の荷主に改正物流効率化法での物流統括管理者選任が必須対応に
制度対応の現在地と特定事業者の届出実績
国が定めた特定事業者の指定基準と、2026年7月時点における届出件数の実績は以下の通りです。
| 事業者区分 | 主な指定基準 | 想定事業者数 | 届出社数(2026年7月時点) | 主な法的義務 |
|---|---|---|---|---|
| 特定荷主・特定連鎖化事業者 | 年間取扱貨物量9万トン以上 | 約3,200社 | 3,299社 | 役員級CLO選任、中長期計画提出、定期報告 |
| 特定貨物自動車運送事業者 | 保有事業用トラック150台以上 | 約790社 | 867社 | 中長期計画提出、毎年度の運行効率化定期報告 |
| 特定倉庫業者 | 年間入庫貨物量70万トン以上 | 約70社 | 58社 | 入出庫整流化、中長期計画提出、定期報告 |
届出社数が想定を超えた荷主企業では、CLOのポストが設置されたものの、「選任自体が目的化している」「社内の営業部門や生産部門を巻き込めない」「共同物流を進めようにも相手が見つからない」といった実務上の課題が噴出しています。また、デジタルトランスフォーメーション(DX)を標榜しながらも、ツールの導入そのものが自己目的化し、サプライチェーン全体の積載率改善につながっていない事例も報告されています。
協議会で提示された「CLO×LPD」と「PIMM」の両輪戦略
こうした「個社最適の限界」を突破するため、JPICの森隆行理事長および経済産業省商務・サービスグループ流通政策課長兼物流企画室長の佐藤猛行氏らは、協議会においてCLOの役割の再定義と、物流事業者との新たな協業関係を提示しました。
森氏は、「CLOの選任はゴールではなくスタートである」と前置きしたうえで、フィジカルインターネット構想の本質は1社ですべてを抱え込まず、企業や業界の垣根を越えて物流資産や情報を共有することにあると強調しました。
また、経済産業省の佐藤氏は、CLOに対して単なる法令遵守の責任者にとどまらず、「経営視点で物流改革を主導する司令塔」となることを求めました。佐藤氏が提示したCLOの柱となる役割は以下の2点です。
- 社内横断的な変革の主導: 調達、生産、販売など物流に関連する部門の利害を調整し、全社的な商慣行の見直しを牽引すること
- サプライチェーン全体の最適化: 自社だけでなく取引先や物流事業者と連携し、業界や社会全体の物流効率化を推進すること
さらにJPIC事務局長の奥住智洋氏からは、今年度のCLO協議会における基本コンセプトとして「CLO×LPD」の枠組みが示されました。荷主側の最高責任者であるCLOに対し、倉庫事業者や運送事業者、サービスプロバイダー側で改革を支えるリーダーを「LPD(ロジスティクス・プロデューサー)」と定義しました。
従来のように、荷主が提示した仕様書に基づいて作業を受託する関係ではなく、LPDがCLOと共に初期の課題抽出から入り、サプライチェーン全体の戦略を共に組み立てるパートナーシップの構築を提唱しています。
この企業間連携を実務レベルで機能させる「共通の羅針盤」として運用されるのが、フィジカルインターネット成熟度モデル「PIMM(Physical Internet Maturity Model)」です。PIMMは、標準化、オープン化、共同化、デジタル活用、エコシステム形成、人材育成などの評価軸に基づき、企業のサプライチェーンの成熟度を客観的に測定するフレームワークです。JPICは、CLO協議会における対話の場と、PIMMによる現在地・目標値の可視化を両輪として推進し、10月末に提出期限を迎える中長期計画の実効性を高める方針を明確にしました。
参考記事: フィジカルインターネット成熟度モデル「PIMM」2026年7月3日認証開始でCLO改革が加速
参考記事: フィジカルインターネットセンターが示す2026年4月CLO義務化への必須対応
荷主・物流事業者・テクノロジーベンダーに迫る構造変化
第1回CLO協議会で示された「CLO×LPD」の連携とPIMMの普及は、サプライチェーンに携わる各事業者のビジネスモデルや組織体制に直接的な変革を促します。
製造業者・メーカー:個社完結型改善の限界と「CLOチーム」による部門横断統治
製造業や流通業などの荷主企業にとって、自社単独での積載効率改善やリードタイム短縮は限界に達しています。これまでは物流部門が現場の工夫や運送事業者への要請によってコストを抑え込んできましたが、車両積載率の向上や荷待ち時間の削減(原則2時間以内、目標1時間以内)を達成するには、営業部門の販売条件や生産工場の出荷スケジュールにメスを入れざるを得ません。
特定荷主企業は、1人のCLOに過度な負担を集中させるのではなく、経営企画・営業・生産・IT部門を巻き込んだ「CLOチーム」を組織することが不可欠です。社内規定においてCLOに「物流改善命令権」を付与し、営業部門が勝手に設定した過剰な多頻度小口配送や緊急出荷を抑制できるガバナンス体制を敷く必要があります。
さらに、2026年10月末に提出が義務付けられている「中長期計画」においては、自社拠点内の合理化にとどまらず、PIMMの指標に沿ったパレットの標準化(T11型への統一等)や、同業他社・異業種との共同輸送スキームを盛り込むことが求められます。他社と資産を共有する前提で業務プロセスを再構築できるかどうかが、今後の輸送力確保を左右します。
参考記事: 船井総研SCコンサル新刊、特定荷主3200社が直面するCLO改革の要諦
参考記事: 改正物流効率化法で100万円の罰金も!特定荷主が備えるべきCLO対策
倉庫事業者・3PL:下請けオペレーターから戦略パートナー「LPD」への脱皮
倉庫事業者や3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者には、荷主からの指示を忠実にこなす従来の受託型ビジネスからの脱却が求められています。荷主企業のCLOが最も苦慮しているのは「社内調整の論理武装」と「共同物流の連携相手の選定」であり、ここに物流事業者側の大きなビジネスチャンスが存在します。
物流事業者は、自らを荷主の改革に伴走する「LPD(ロジスティクス・プロデューサー)」と位置付け、複数荷主の荷物特性(容積、重量、繁閑の波動)を分析した共同配送スキームを自ら設計・提案する能力が問われます。例えば、消費財メーカーと飲料メーカーのアソート輸送や、復路を活用したラウンドユース運行など、具体的なネットワーク再編を能動的に提示できるかが差別化の分岐点となります。
また、物流事業者自身がPIMMの認証を取得し、自社の倉庫や輸配送網のオープン性・標準化レベルを数値で証明することは、荷主CLOに対する強力な営業提案材料となります。荷主と対等な立場でサプライチェーンの設計に参画できる事業者のみが、適正な料金収受と安定した荷量の確保を両立できます。
参考記事: 共同配送とは?仕組みと混載便との違い・導入メリットをわかりやすく解説
SaaS・テクノロジーベンダー:個別最適ツールの提供から「企業間データ連携インフラ」へ
トラック予約受付システムや動態管理システム(TMS)、倉庫管理システム(WMS)などを提供するSaaS・ITベンダーにとっても、プロダクト戦略の根本的な見直しが必要です。これまでの「単一企業内の作業効率化」や「個別拠点の待機時間可視化」といった個社最適の機能提供だけでは、フィジカルインターネット時代の要請に応えられなくなっています。
特定荷主企業がPIMMの評価レベルを引き上げ、実効性のある中長期計画を実行するためには、異なるシステム間でのデータ連携が前提となります。出荷予定情報(ASNデータ)の業界標準フォーマットへの対応や、共同配送プラットフォームとのAPI連携、CO2排出量(スコープ3)の客観的算定機能など、複数企業をまたぐ物流データをシームレスに結合するインターフェースとしての機能が不可欠です。
テクノロジーベンダーには、自社ツールで顧客を囲い込む姿勢を改め、標準化されたデータ基盤を通じてCLOやLPDが迅速に意思決定を行える「経営ダッシュボード」を提供する役割が求められています。
参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策
LogiShiftの視点(独自考察):10月末の中長期計画提出が突きつける「個社最適の終焉」
2026年9月の第1回CLO協議会が示したメッセージは、日本の産業界における物流が「現場のコスト削減活動」から「経営陣が社外と協調して取り組む共創アセット」へと決定的に移行したという事実です。
特定荷主3,299社に課された2026年10月末の「初年度中長期計画」提出は、各社がこの構造変化にどう向き合っているかを問う試金石となります。国が掲げる2028年度までの重要目標(荷待ち・荷役時間の削減、積載効率向上による輸送能力16%増加)は、自社倉庫のレイアウト変更や単独での配送ルート見直しといった「個社内の努力」だけでは物理的に達成不可能です。
今後、中長期計画の審査や毎年度の定期報告を通じて、行政は各社が策定した計画の実効性を精査します。単なるスローガンや自社完結の施策しか並んでいない計画書は、改善命令の対象となり、最悪の場合は「企業名の公表」という重大なレピュテーションリスクに直面します。
CLOが生き残るための道筋は明確です。それは、PIMMの客観的な評価指標をベースに自社の物流プロセスの現在地を測定し、非競争領域における標準化を進め、LPDをはじめとする社外パートナーと共同物流を早期に実装することです。自社の物流仕様に固執し、他社との接続を拒む企業は、輸送ネットワークの維持そのものが困難になります。物流を「他社と共有すべき社会インフラ」と捉え直す覚悟を持った企業こそが、持続可能なサプライチェーンを構築できます。
参考記事: フィジカルインターネットとは?インターネットの仕組みを物流に応用する次世代インフラと導入ステップを解説
まとめ:明日から経営層と実務リーダーが実践すべきアクション
改正物流効率化法の規制的措置が本格稼働し、10月末の中長期計画提出が迫るなか、特定荷主および物流事業者は即座に実務を移行させる必要があります。明日から着手すべきアクションは以下の3点です。
- 1. PIMMの評価項目を用いた自社物流の客観的診断
自社のデータ標準化状況や荷姿仕様が、他社と連携可能な状態にあるかをPIMMのフレームワークに照らして棚卸しします。自社の強みと弱みをスコア化し、役員会や経営会議で共有できる定量的エビデンスを整えます。
- 2. CLOを中心とする部門横断タスクフォースの公式組成
物流部門の担当者だけでなく、営業・調達・生産・情報システムの各責任者を組み込んだ「CLO推進チーム」を設置します。職務権限規定を見直し、物流負荷を高める取引条件に対してCLOが是正を指示できるガバナンス体制を明文化します。
- 3. 提携物流事業者(LPD候補)との共同化シナリオの検討
既存の物流委託先と「発注者・受注者」の関係を超えた対話の場を設け、特定の配送路線やエリアにおける他社荷物との混載・共同配送の可能性を協議します。10月末の中長期計画に盛り込むべき具体的な企業間連携モデルを1つ以上選定し、実証実験に向けた計画を策定します。
出典: LOGISTICS TODAY
出典: LNEWS
出典: カーゴニュース



