重量物搬送による現場作業員の身体的負荷が限界に達し、募集をかけても必要な人員が集まらない倉庫現場が増加しています。東電物流中央支社が実現したMujinの知能ロボット導入事例は、わずか6%の主要品目に絞り込んで出荷数の9割を自動化する「実務的な割り切り」によって、ピッキング作業員を4人から1人へ削減しつつ過酷な現場負荷の解消を両立させました。
東電物流が実現したケース品90%自動化とMujinRCPの基礎知識
物流拠点の省人化を進める際、多くの現場が直面するのが「多品種少量で荷姿が揃わない荷物をいかに自動化するか」という壁です。東京電力パワーグリッドグループで物流事業を担う東電物流株式会社は、東京都大田区に構える中央支社において、株式会社Mujinの知能ロボットシステムを導入し、ケース品の取扱量の90%を自動化することに成功しました。
プロジェクトの全体像とシステム構成
本プロジェクトは、NX商事株式会社の協力・統括の下で導入が進められ、2026年5月に本格稼働を迎えました。導入された中核ソリューションは、Mujinのロボットケースピッキング自動化システム「MujinRCP(Robotics Case Picking)」です。
本システムは、知能ロボットコントローラー兼プラットフォームである「MujinOS」を中枢とし、以下の設備群を有機的に統合・制御しています。
- 知能アームロボット(1基): 3Dビジョンカメラと自律制御アルゴリズムを搭載し、混載されたパレットから対象ケースを自動でピッキング・積み付けします。
- 無人搬送車(AGV 17台): ロボットと保管エリア、出荷バース間を行き来し、パレットの搬送を完全に自動化しています。
- パレットストッカー: 空パレットや実パレットの供給・回収を自動化し、作業の中断を防ぎます。
- デジタルツイン連動システム: 仮想空間上に現場設備と荷物の動きをリアルタイムで再現し、干渉防止や搬送効率の最適化を支援します。
以下の表は、東電物流中央支社における自動化プロジェクトの基本スペックを整理したものです。
| 項目 | 詳細情報 | 現場運用上のポイント |
|---|---|---|
| 導入拠点 | 東電物流株式会社 中央支社(東京都大田区) | 電力インフラを支える基幹物流拠点 |
| 取扱品目規模 | 約860品目(年間出荷約10万ケース) | 電線、ケーブル資材などの産業用重量物 |
| 中核システム | MujinRCP(知能アーム1基、AGV 17台) | MujinOSによる統合自律制御 |
| 導入支援 | NX商事株式会社 | 全体統括およびエンジニアリング協力 |
成功の中核にある「データ分析に基づく割り切り」
東電物流の中央支社では、電力インフラを支える多種多様な資材約860品目を取り扱っています。従来の自動化手法では、860品目すべてをロボットにハンドリングさせようとして設計が複雑化し、莫大な設備投資費用に対して十分な採算が取れないという事態に陥りがちでした。
そこで東電物流は、過去1年間の全出荷データを詳細に分析しました。その結果、以下の事実が明らかになりました。
- 出荷の集中: 年間約10万個の出荷ケースのうち、わずか50品目(全品目の約6%)が出荷個数の9割(約9万個)を占めていた。
- 特定資材の突出: 特定のケーブル資材1品目だけで、年間1万2000箱(全体の約12%)に達していた。
この分析結果を受け、同社は「1日1箱しか出ないような残りの94%の低頻度品は、あえて人手作業のまま残す」という大胆な意思決定を行いました。全品目の無人化を追わず、全体の9割を占める高頻度な50品目だけをMujinRCPで処理する「ハイブリッド運用」へと舵を切ったことが、投資対効果を劇的に高める鍵となりました。
参考記事: ケース品90%自動化を果たす東電物流に学ぶ倉庫省人化の必須対応
なぜ今「割り切り型」の知能ロボット自動化が重要なのか
物流業界では、労働力不足がかつてない深刻度で進行しています。特に電設資材や建材、飲料、加工食品などを扱う現場では、重いケース品を1日何千回と積み降ろす過酷な労働環境が作業員の定着を著しく阻害しています。
「完全自動化」を目指す過剰投資の罠
これまでの倉庫自動化において、多くの企業が「人手をゼロにする完全無人化」をゴールに設定してきました。しかし、物流現場で扱う商材には、季節変動や荷主の変更、不規則なダンボール形状や劣化によるたわみなど、無数のイレギュラーが存在します。
例外的な数パーセントの低頻度品や特殊荷姿までロボットに対応させようとすると、センサーやハンド機構の追加、複雑な例外処理プログラムの開発が必要となり、初期費用が跳ね上がります。結果として投資回収期間が長期化し、荷主の契約変更や物量変動に追従できず、プロジェクト自体が暗礁に乗り上げるケースが後を絶ちませんでした。
東電物流が直面していたインフラ資材特有の課題
東電物流が扱う資材は、同一の品目であっても製造メーカーによって梱包資材の外寸やダンボールの材質が全く異なるという特有の課題を抱えていました。事前のティーチング(位置や動作のプログラミング)に依存する従来の産業用ロボットでは、梱包仕様が変わるたびにシステムを止めて調整する必要があり、実質的に導入が不可能でした。
こうした不揃いなケース品を高速で認識し、自律的に把持位置を判断できるMujinの3Dビジョン技術と、パレートの法則(80:20の法則)をさらに突き詰めた「上位6%の品目で9割の物量をさばく」現実的な設計思想が合致したことで、実用性の高い自動化が結実しました。
参考記事: DHC川崎ロジスティクスセンター約3万6000㎡の自動化が省人化加速に直結
東電物流の事例から見る定量的・定性的な導入メリット
東電物流中央支社における自動化は、現場の省人化にとどまらず、作業品質の向上や組織体制の変革など多面的な効果をもたらしました。
定量効果:作業人員を4分の1に圧縮し検品作業をゼロ化
定量面における最大の成果は、ピッキング作業人員の大幅な削減と検査工程の完全自動化です。
| 指標・対象工程 | 導入前の状態 | 導入後の状態 | 達成された効果 |
|---|---|---|---|
| ピッキング作業人員 | 4人体制で重量物を搬送 | 1人体制での監視・例外対応 | ピッキング要員を75%削減 |
| 対象工程の出荷検品作業 | 作業員による目視・スキャン | システムによる自動照合 | 対象工程の検品作業をゼロ化 |
| 自動化カバー率 | 人手作業依存 | 年間約9万箱をロボット処理 | ケース取扱量の90%を自動化 |
| 搬送工程の人車混在 | フォークリフトと作業員が交錯 | AGV専用レーンで完全分離 | 接触事故リスクを低減 |
従来は4人がかりで行っていた重量ケースのピッキング作業が、わずか1人の監視・対応要員で回る体制へと移行しました。さらに、ロボットが把持した時点で正確に商品と数量がデータ照合されるため、対象工程における人手での出荷検品作業は完全にゼロ化されました。
定性効果:重量物からの解放と現場作業員の意識変革
現場の作業員にとって、腰痛のリスクを伴う重量物の積み降ろしから解放された意義は極めて大きいものがあります。
導入当初、現場の一部からは「ロボットに仕事が奪われるのではないか」という懸念の声も上がっていました。しかし、稼働後の調整作業のためにシステムを2週間停止させた際、現場作業員から「いつ復旧するのか、早くロボットを動かしてほしい」と懇願されたといいます。過酷な肉体労働から一度解放された現場は、もはや旧来の過重な手作業環境に戻ることはできません。人とフォークリフト等の車両動線を明確に分離したことで、構内事故の危険性も大幅に減少しました。
副次的効果:ロボット指示から生まれた「暗黙知の構造化」
今回の導入プロセスにおいて、事前の計画にはなかった大きな副次的効果が得られました。それが「業務マニュアルの劇的な進化」です。
ロボットは人間と異なり、曖昧な指示では一切動作しません。「重い箱を下にする」「バーコードをカメラの読み取りやすい向きに整える」といった、ベテラン作業員が長年の勘と経験で培ってきた暗黙知を、すべて論理的な言葉とルールに落とし込んでロボットに指示する必要がありました。
この「1から100まで論理的に構造化された手順」は、結果として人間にとっても極めて理解しやすい業務標準書となりました。ベテラン作業員が書く従来のマニュアルにあった「感覚的な説明の抜け漏れ」が完全に排除されたことで、新しく現場に入ったスタッフの教育期間が大幅に短縮され、組織全体の作業品質が均一化されるという知的資産の蓄積をもたらしました。
参考記事: 物流自動化とは?導入メリットや主要設備・失敗しない進め方を徹底解説
失敗しない倉庫自動化を推進する4つの実践ステップ
東電物流の成功プロセスは、多品種少量や重量物に悩む他の物流拠点にとっても極めて再現性の高いモデルです。自動化を成功へ導く実践ステップを解説します。
ステップ1:過去1年分の出荷データに基づくABC分析の徹底
自動化の検討において最初に行うべきは、勘や感覚を排除したデータ分析です。最低でも過去1年分の全出荷実績をWMS(倉庫管理システム)等から抽出し、品目別の出荷頻度と出荷個数の累計構成比を算出します。
- Aランク品(上位数%〜十数%): 出荷量の大半を占める品目。自動化設備(ロボットやAGV)の専用対象として設計します。
- B・Cランク品(残り大半の品目): 出荷頻度が低い品目。既存の固定棚や手作業ピッキングゾーンに残し、設備投資の対象から切り離します。
この明確な線引きを行うことで、設備仕様がシンプルになり、設備停止トラブルの要因を最小化できます。
ステップ2:3Dビジョンとティーチングレス技術の選定
サイズや荷姿が不揃いなケース品を自動化する場合、従来の固定型産業ロボットでは対応できません。東電物流が採用したMujinのように、以下の機能を備えた知能ロボットを選択することが必須条件となります。
- リアルタイム3D認識: カメラでケースの高さ、傾き、位置のズレを瞬時に検出できること。
- 自律的な動作生成: 荷姿や積載状態に応じて、アームの軌道や吸着・把持ポイントをリアルタイムで自動計算できること。
- デジタルツイン環境: 設備を導入する前に、仮想空間上で荷役スピードやAGVの渋滞シミュレーションを行い、ボトルネックを事前に潰し込めること。
参考記事: EXOTECとMujinが8月19日提携、保管荷役の統合でサイロ化打破へ
ステップ3:例外を許容する「人間介在型(Human-in-the-loop)」の運用構築
自動化率90%を達成するためには、残りの10%の例外処理をいかにスマートに設計するかが重要です。
- 段ボール破損・規格外荷姿: ロボットが無理に掴もうとせず、エラーを検知して安全に停止、または別ラインへ排出する設計にします。
- リカバリーの迅速化: 現場作業員や遠隔監視者がタブレット等からワンタッチで復旧指示を出せるUI(ユーザーインターフェース)を整えます。
機械に100%の完璧を求めず、人と機械の得意領域を分担させる「人間介在型」の思想こそが、ラインの稼働率99%以上を維持する現実的なアプローチです。
ステップ4:サプライチェーン上流への荷姿標準化アプローチ
東電物流は、自社拠点内での自動化にとどまらず、将来的な展望としてメーカーや荷主に対する「ロボットフレンドリーな荷姿標準化」の働きかけを見据えています。
同一商材であってもメーカーごとに外箱サイズや強度が異なると、パレット積載時の容積効率が落ち、ロボットのハンドリング難易度も上がります。物流拠点側で取得した荷姿データやロボットの稼働実績をエビデンスとして川上のメーカーや発注元へフィードバックし、梱包形状やパレット仕様の標準化を協調して進めることが、物流業界全体の持続可能性を高める決定打となります。
参考記事: 物流標準化推進とは?2024年問題に対応するロードマップと現場での実践手順
まとめ:明日から自社倉庫で検討すべきアクション
東電物流の事例が証明したのは、最新の知能ロボット技術と、データに基づく徹底した「割り切り」を掛け合わせることで、莫大なコストをかけずに倉庫の出荷数9割を自動化できるという事実です。
現場の省人化と業務改善を任されたリーダーは、以下のステップから検討を開始してください。
- 直近1年間の出荷データを集計し、上位5〜10%の品目が出荷総量に占める割合を可視化する
まず自社倉庫の品目別出荷データを抽出し、パレートの法則がどの程度成り立っているかを把握します。全品目を一律に扱う前提を捨て、自動化すべきコア領域を特定します。
- 重量物かつ高頻度に出荷されている商材の「サイズ・重量・梱包仕様」をリスト化する
現場で最も作業員の身体的負荷になっている重量ケース品を洗い出し、外箱寸法や段ボール材質のばらつきを調査します。これが知能ロボット選定時の要件定義となります。
- ベテラン作業員が持つ「荷物の積み方・扱い方」の暗黙知を言語化してみる
作業員が普段無意識に行っている「重いものの下積み」や「ラベルの向きの統一」などのルールを箇条書きで書き出します。この作業自体が作業標準化と新人マニュアルの刷新に直結します。
自動化は「人を減らすための敵」ではなく、「過酷な労働から人を守り、持続可能な現場を作るためのインフラ」です。現実的な割り切りとデータ分析を武器に、自社倉庫に最適な自動化の一歩を踏み出してください。
出典: MONOist
出典: 株式会社Mujin Japan プレスリリース
出典: LOGISTICS TODAY
出典: 物流ウィークリー



