佐川急便株式会社は、クラウド型送り状発行サービス「e飛伝III」の機能拡張版である無料サービス「e飛伝IIIEvo」に、通信障害や自然災害時でも送り状を発行できる「緊急送り状発行機能」を搭載し、2026年9月28日に提供を開始しました。本機能はSGホールディングスグループのSGシステム株式会社と共同開発した専用ソフトウェア形式で、障害発生時にオフラインモードへ素早く切り替えることで、外部通信が途絶した条件下でも出荷伝票の出力を維持します。
e飛伝IIIEvoに実装されたオフライン発行機能の概要
従来のクラウド型送り状発行サービス「e飛伝III」では、データセンターのサーバー障害や通信事業者のネットワーク切断が生じた際、佐川急便側が用意する代替環境「緊急サイト」へのトラフィック切り替えを行っていました。しかし、緊急サイトへの切り替え完了までに一定のタイムラグが発生し、夕方の集荷締め切りに追われる出荷現場で伝票発行が一時中断する課題を抱えていました。
今回提供された「e飛伝IIIEvo」は、ブラウザ上で動作する「e飛伝III」の画面内からダウンロードしてPCにインストールするソフトウェア形式を採用しています。このアーキテクチャにより、通常稼働時はクラウドデータベースと同期しながら大量出荷データを高速処理しつつ、外部ネットワークとの接続が遮断された瞬間にローカル環境のプログラムを用いたオフライン発行へ即座に移行することが可能となりました。
| 項目 | 従来のe飛伝III | 新機能搭載のe飛伝IIIEvo |
|---|---|---|
| 障害発生時の切り替え先 | Web上の代替環境(緊急サイト) | クライアント端末内のオフラインモード |
| 切り替え所要時間 | 佐川急便側の切替作業完了まで待機 | 現場端末でのモード切り替えにより即時 |
| 提供形態 | Webブラウザアクセス | Web画面からダウンロードする専用ソフト |
| 利用料金 | 無料 | 無料 |
| 機能上の制約 | 通常時と同一画面を使用 | 一部機能に制限あり |
オフラインモードでの利用時は、クラウドサーバー側でリアルタイムに保持している最新のマスタ情報や動的な追跡番号採番との通信が切り離されるため、利用できる帳票種別や機能に一部制限が設けられています。それでも、現場に保管されている物理資材(専用ラベル紙など)とローカル端末の演算リソースのみで配送に必要な最低限のバーコード付き送り状を打ち出せるため、荷主企業の物理的な出荷オペレーションが完全停止する事態を防ぎます。
参考記事: ニチレイや佐川7万人影響の2026年7月事案に見る物流BCP
物流サプライチェーン各プレイヤーへの実務的影響
送り状発行プロセスのオフライン化は、単なるソフトウェアの機能追加にとどまらず、出荷作業を担う各事業者の現場オペレーションに直接的な変化をもたらします。
EC事業者におけるセール期・繁忙期の出荷遅延回避
EC事業者にとって、送り状発行システムの停止はモール側が定める出荷期限の超過や、エンドユーザーへの配送遅延に直結します。セール開催中や連休前などの物量ピーク時に通信障害やクラウド障害が重なると、1〜2時間のシステム停止であっても数千件規模の未出荷荷物が倉庫内に滞留し、翌日以降の配送スケジュールを崩壊させます。
オフライン発行機能の導入により、基幹ネットワークの回線障害やクラウドサーバーのダウンが発生した場合でも、現場担当者がオフラインモードへ切り替えてラベル印刷を継続できます。出荷指示データが現場のPCにあらかじめ取り込まれていれば、外部通信が回復するのを待たずに荷物の梱包とラベル貼付を進められるため、配送キャリアの集荷締め切り時刻に合わせた引き渡しが可能になります。
倉庫事業者・3PLにおける作業員待機と残業コストの抑制
複数荷主の出荷を一手に引き受ける倉庫事業者や3PL(サードパーティ・ロジスティクス)の現場では、帳票出力ラインの停止が庫内全体の作業停止を招きます。ピッキング作業が完了していても、出荷検品や仕分けラインの直前で送り状が発行できなくなれば、梱包作業員数十名の手が止まり、バース周辺は仕掛品で埋め尽くされます。
e飛伝IIIEvoのオフライン発行機能によって伝票出力を継続できれば、作業員を待機させることなく梱包ラインを稼働させ続けられます。システムダウンによる突発的なライン停止を防ぐことで、深夜帯にずれ込む残業人件費の発生や、翌朝の入庫ラインへの荷物圧迫といった二重のコスト負担を回避できます。
運送事業者における集荷トラックの待機時間削減
幹線輸送や集荷集約を担当する運送事業者にとって、荷主現場での送り状トラブルはトラックバースでの荷待ち時間に直結します。伝票が発行されないために荷物の引き渡しを受けられず、ドライバーがバースで待機を強いられる事態は、後続の運行ダイヤを乱し、法令で定められた改善基準告示(拘束時間上限など)の違反リスクを高めます。
荷主側でオフライン発行による安定した出荷オペレーションが維持されていれば、通信トラブル時でもトラックの定時到着・定時出発が確保されます。集荷現場での帳票発行トラブルに起因する待機時間を削減することは、運送事業者側の運行効率化とドライバーの労務管理計画の維持につながります。
参考記事: 日本郵便、約41時間のシステム障害から学ぶデータ連携依存のリスク
LogiShiftの視点
物流システムの世界では、長らく「オンプレミスからクラウドへ」という一方向の移行が推奨されてきました。クラウド化はインフラ管理コストの削減や複数拠点でのマスタ一元化、端末を選ばないアクセス性といった利点をもたらした一方で、外部通信ネットワークやクラウド基盤そのものが「単一障害点(SPOF)」となるリスクを増大させました。
今回の佐川急便とSGシステムによる「e飛伝IIIEvo」の機能拡張は、クラウドシフトを進めた先で、現場の物理的なオペレーションを止めないための「エッジフォールバック(現場端末での自律分散処理)」を組み込んだ点に本質があります。
2026年8月に日本郵便のデータ送受信システムで機器故障が発生した際、幹線輸送などの物理網が正常であったにもかかわらず、約41時間にわたり認証データの連携が途絶したことで荷物の引き渡しが停滞した事例がありました。情報システムの通信断絶が物理的なサプライチェーンを即座に麻痺させる構造が明らかになった今、物流管理システムには「通信が途切れている状態」をあらかじめ設計要件に組み込む思想が不可欠となっています。
今後、荷主企業やWMSベンダーに求められるのは、上位システム(受発注・基幹ERP)から出荷データをダウンロードした段階で、外部APIやクラウド接続が途絶しても現場単独でラベル印刷と検品が完結するローカル冗長設計です。完全な常時接続を前提とした業務設計から、通信切断時にも縮退稼働できるハイブリッド型システムへの見直しが、物流BCPの実効性を左右します。
まとめ
通信インフラやデータセンターの障害は、個別企業の努力だけで完全に防ぐことはできません。だからこそ、現場の物理的な荷物移動を担う出荷拠点では、通信が寸断された状況を前提とした事前準備が求められます。
明日から意識すべき具体的な対応は以下の3点です。
- e飛伝IIIEvoの導入とオフライン切り替え手順の確認
自社出荷ラインで使用している端末に「e飛伝IIIEvo」をインストールし、通常モードからオフラインモードへの切り替え操作手順と、発行制限事項を現場マニュアルに明記しておくこと。
- ローカル環境への出荷データ保持ルールの策定
通信が途絶した後に外部サーバーから受注・出荷データを取得することは不可能です。ピッキング開始前の段階で、当日出荷予定のデータを現場端末やローカルネットワーク内へバッチ保存する運用フローを定着させること。
- キャリア別・システム別の縮退運用プロトコルの策定
佐川急便以外の配送キャリアや、自社WMSが停止した場合の代替発行手順を棚卸しし、障害発生から何分以内にどの手動・ローカル運用へ切り替えるかの判断基準を現場リーダー間で共有しておくこと。
出典: Impress Watch
出典: 佐川急便株式会社 ニュースリリース
出典: SGホールディングス株式会社 ニュースリリース



