トラック運送業界において、新法への対応基準の不透明さと急激な車両調達費用の高騰が重なり、中小運送事業者の経営継続が困難になる事態が起きています。2025年6月に成立したトラック適正化二法に基づく「5年ごとの事業許可更新制」や「適正原価」の詳細基準が未提示のまま、現場ではわずか5か月で同型トラックの見積額が800万円跳ね上がる実態が報告されています。
トラック適正化二法の不透明感と月数十万円ペースの車両価格高騰
現場の運送事業者を追い詰めている要因は、法規制の具体策が見えないことによる計画策定の停滞と、アセット調達コストの異常な上昇という二重の負荷です。
物流ウィークリーが2026年9月30日に報じた近畿・関西地区の事業者への取材によると、トラック適正化二法の成立から時間が経過しているにもかかわらず、運送事業の継続に直結する適正原価の算定方式や、5年更新制における具体的な審査要件について、行政や業界団体から現場が求める詳細情報が提示されていません。トラック協会主催のセミナー等に参加しても概要説明にとどまり、中長期的な設備投資やドライバーの労務管理計画を立てられない事業者の焦燥感が募っています。
同時に、車両調達コストの急増が財務を直接圧迫しています。関西地区の運送事業者では、5か月前に注文した車両をもう1台追加しようと見積もりを取ったところ、見積額が800万円増加していました。ディーラーからは「月単位で30万〜60万円規模の値上げが続いている」と説明されており、原材料費や先進安全装置の搭載に伴う製造コスト増が、車両本体価格へ継続的に転嫁されています。
トラック適正化二法を巡る法改正スケジュールと現場の進捗
トラック適正化二法(「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律」および「貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律」)の成立から施行に向けたロードマップは以下の通りです。
| 時期 | 政策・制度の動き | 規定内容と法的拘束力 | 現場の実務課題・未確定要素 |
|---|---|---|---|
| 2025年6月 | トラック適正化二法の成立・公布 | 5年更新制、適正原価制度、多重下請け是正の骨格決定 | 制度の大枠のみ決定し、具体的数値基準は未定 |
| 2026年4月 | 先行規定の施行 | 委託次数制限(2次請けまで努力義務)、白トラ取締り | 実運送体制管理簿の作成など事務負担が増大 |
| 2026年7月・9月 | 国交省有識者検討会の開催 | 適正原価の構成要素、原単価方式の算定基準を議論 | 基準値の提示時期や算定式の公表が遅延 |
| 2028年6月まで | 5年更新制・適正原価の全面施行 | 適正原価を下回る運賃収受への更新拒否・処分 | 更新審査の合格基準や監査手続きの詳細が未公表 |
参考記事: 国土交通省が2028年6月までに適正原価を全面施行へ、運賃未達で事業許可更新拒否に直結
規模間格差を裏付ける経営実態データ
公益社団法人全日本トラック協会が2026年4月24日に公表した「経営分析報告書(令和6年度決算版)」によると、運送事業者の収益力は企業規模によって明暗が分かれています。
| 保有車両規模 | 営業損益率 | 経常損益率 |
|---|---|---|
| 全体平均 | 1.0% | 2.5% |
| 10台以下 | △2.3% | △0.5% |
| 11〜20台 | 0.1% | 2.1% |
| 21〜50台 | 0.9% | 2.4% |
| 51〜100台 | 2.1% | 3.5% |
| 101台以上 | 2.3% | 3.3% |
全産業平均の価格転嫁率が54.2%であるのに対し、中小企業庁の調査ではトラック運送業の価格転嫁率は34.5%にとどまります。特に保有車両10台以下の小規模事業者では6割超が営業赤字に陥っており、軽油価格の高止まりや人件費に加え、車両調達価格の急激な上昇を運賃へ転嫁できていません。
参考記事: CUBE-LINX調査、中小運送会社の42.2%が収益悪化|正直者が報われない2024年問題の必須対応
サプライチェーン各プレイヤーに及ぶ実務への影響
適正原価や更新基準の不透明さと、車両調達コストの急激な上昇は、運送事業者だけでなく行政や荷主、ITベンダーに異なる影響を与えています。
運送事業者:設備投資の凍結と原価割れ運行の限界
中小運送事業者は、車両の代替更新計画を根本から見直さざるを得ない状況に置かれています。月単位で数十万円規模の値上げが続く新車は減価償却費を著しく引き上げるため、従来の運賃水準のまま導入すれば確実に採算が割れます。新車の調達を諦めて中古車へ流れた場合でも、中古車相場の連動高騰や、経年劣化に伴う修繕費・整備費の増加がキャッシュフローを圧迫します。
さらに、適正原価の告示基準や5年更新制の審査項目が定まらないため、現行の運賃体系で事業許可を更新できるかの判断が下せません。基準が未確定のままでは、ドライバーの賃上げ幅や新規採用の投資判断も行えず、防衛的な減車や事業規模の縮小を選択する事業者が増えています。
参考記事: 物流ウィークリー報道、大型車1500万円超で荷主選別の時代へ
行政・規制当局:制度周知の遅れと実効性確保の板挟み
国土交通省をはじめとする規制当局は、2028年6月までの全面施行に向けて「適正原価の設定に向けた有識者検討会」の議論を進めていますが、現場への具体的な要件伝達が追いついていません。実車率50%前提の見直しや原単価方式の導入など、算定構造の改定作業が長期化していることが、基準公表の遅れにつながっています。
5年ごとの事業許可更新制は、法令遵守を怠る悪質事業者を市場から退場させる目的で設計されました。しかし、基準の提示が遅れれば、改善の意思を持つ健全な中小事業者まで更新準備が間に合わず、輸送供給力の急激な喪失を招く危険があります。行政には、早期の基準値告示と、申請実務に関する明確なガイドラインの提示が求められています。
参考記事: 国交省、転嫁率34.5%の運送業へ5年ごと許可更新制で悪質排除へ
SaaS・テクノロジーベンダー:原価算定と運行可視化の導入加速
運送事業者における「どんぶり勘定」の解消が許可継続の条件となるため、ITシステムを提供するベンダーへの需要構造が変化しています。単なる配車表のデジタル化や動態管理にとどまらず、車両1台・1運行あたりの減価償却費、燃料費、修繕費、ドライバー労務費を精密に紐付ける「原価計算(ABC分析)ツール」の需要が高まっています。
また、2026年4月に施行された実運送体制管理簿の作成義務化や、将来の5年更新審査に耐えうる労務データ・運行記録の蓄積を支援するクラウドサービスの導入が進んでいます。アナログな運行日報や紙の点呼記録では更新基準の証明が困難になるため、監査耐性を持つ統合データ基盤の提供が競争軸となっています。
LogiShiftの視点:アセット高騰下における原価証明力と契約防衛
車両本体価格が月数十万円単位で高騰し、数か月で800万円もの差額が生じる現況は、トラックというアセット自体の価値構造が変わったことを示しています。減価償却費が過去の倍近くに膨らむ環境下では、従来の「走行距離と拘束時間」を基準としたタリフ(運賃表)による価格設定は成立しません。
運送事業者が事業許可の5年更新を乗り越えるためには、行政による適正原価の告示を待つのではなく、自社が保有する車両の減価償却費や維持管理費の実額を1運行単位のコストへ反映させる「原単価方式」の自律的な構築が不可欠です。車両調達コストの増加分を運送原価へ即座に加算し、荷主に対して書面で提示できる体制を持たない事業者は、新法の施行を待たずに資金繰りが破綻します。
また、5年更新制の審査では、適正原価を下回る運賃での継続受託が不許可事由に直結します。荷主から原価割れの運賃を提示された場合、それを拒絶した記録や、改善交渉を行ったエビデンスを文書・データとして残しておくことが、更新時の行政処分を回避する防衛策となります。アセット価格の上昇を正当な原価として契約条件に組み込めるかどうかが、企業の存続を左右します。
参考記事: 貨物自動車運送事業法第24条と2026年7月9日の原単価方式転換への必須対応
まとめ
制度の詳細が不透明な状況にあっても、車両価格の高騰や固定費の増加は日々進行しています。明日から取り組むべき実務対応を整理します。
- 保有車両ごとの減価償却費および維持管理費の再計算
直近で購入した車両や今後導入予定の車両見積もりを基に、月間・1日あたりの固定費を再積算し、運行原価への反映比率を特定する。
- 荷主との運賃改定に向けたコスト根拠資料の書面化
燃料費だけでなく、車両調達価格の上昇幅(月次値上げデータや見積書)を組み込んだ原価計算書を作成し、次期契約更新の提示資料として整備する。
- 運行管理および労務データのデジタル一元化
5年更新制の監査基準に備え、デジタコデータや点呼記録、実運送体制の記録を紙媒体からクラウド管理へ移行し、法令遵守のエビデンスを日常的に蓄積する。
出典: 物流ウィークリー
出典: 公益社団法人全日本トラック協会
出典: 国土交通省



