中国で約2万5000台の自動運転無人配送車を商用運用する新石器無人車(Neolix)が、日本市場への本格参入に向けた自律走行の実証試験を開始しました。2026年9月11日より東京流通センター(TRC)の敷地内コースに計10台の車両を順次投入し、日本の物流施設環境に即したレベル4自律搬送の現地適合を進めています。
海外で進む無人配送車(ロボバン)の量産と商用実装トレンド
海外の物流現場では、ラストワンマイルや拠点間搬送における自動運転車両の活用が、技術検証の枠を超えて実稼働フリートの拡大フェーズへ移行しています。特に中国市場では、EC市場の拡大に伴う貨物量の増大に対応するため、国家レベルでの実証区域の指定と法整備が進み、数千台から数万台規模の無人配送車(ロボバン)が都市部や工業団地を走行しています。
中国・欧米で拡大する商用フリート規模と市場データ
各地域において自律配送車両の社会実装形態は、道路交通環境や規制の枠組みに応じて異なる進化を遂げています。
欧米市場では、Starship Technologiesのように歩道を通行する小型ロボットが先行し、大学キャンパスや郊外住宅地を中心に累計1,000万件以上の商用配送を積み上げています。これに対し中国市場では、車道および構内を時速30〜50km程度で走行する中型・大型の無人配送バンが主流となっています。荷室容積が数立方メートルにおよぶ車両が、宅配便の営業所間輸送や店舗への定時配送を担っています。
| 地域 | 主な走行環境 | 車両カテゴリー | 普及規模・商用化の現状 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 公道(特定指定区)および敷地内 | 中型〜大型ロボバン(容積3〜12m³) | 累計数万台が稼働。宅配大手の中継輸送・店舗補充に定着 |
| 米国 | 歩道・路肩・大学構内 | 小型ロボット〜中型ポッド | 累計配送1000万件超。食料品・日用品の即時配達が中心 |
| 欧州 | 歩道および都市部低速エリア | 小型配送ロボット・EV小型バン | 英国・ドイツなどで商用運行。環境規制適合とラストマイル省人化が主目的 |
| 日本 | 物流施設構内・特定実証地域 | 小型ロボットおよび実証用ロボバン | 施設内横持ちや過疎地配送でレベル4実証が進行中 |
中国の宅配大手(KA)向け無人配送車市場では、新石器(Neolix)が約7割の入札シェアを獲得しており、順豊集団(SFグループ)、京東物流(JD Logistics)、中国郵政、三通一達(中通、円通、申通、韻達)、極兎速逓(J&T Express)といった主要事業者に車両と運行管理基盤を供給しています。
参考記事: Starship1000万件配送!年160億ドルの利益を生む自律ロボ導入3つの戦略
新石器(Neolix)の事業拡大と日本参入の時系列
新石器は2018年に北京で設立されたスタートアップで、2021年に中国で初めてロボバンの公道走行許可を取得しました。2025年秋にはシリーズDラウンドで6億米ドル超(約43億元)の大型資金調達を完了し、量産体制の強化とグローバル展開を加速させています。
日本市場への進出に向けた主な経緯とタイムラインは以下の通りです。
| 年月 | 出来事・取り組みの推移 |
|---|---|
| 2018年 | 中国・北京にて新石器(Neolix)設立 |
| 2021年 | 中国初となるロボバンの公道走行認可を取得。CICC Capital、ソフトバンク・ベンチャーズ・アジアから資金調達 |
| 2025年5月 | 東京流通センター構内を拠点に「平和島自動運転協議会」が発足 |
| 2025年10月 | シリーズDラウンドにて6億米ドル超を調達完了 |
| 2026年4月 | 「第7回関西物流展」にPegasusと共同出展し、日本市場で実機を初公開 |
| 2026年6月 | 新石器が「平和島自動運転協議会」に正式参画 |
| 2026年8月31日 | 日本での実証試験に投入する車両10台のうち、初期ロット3台が日本に到着 |
| 2026年9月11日 | 東京流通センター構内(A棟指定駐車エリアおよび屋上道路)でレベル4実証試験を開始 |
同社はすでに世界15カ国以上で無人配送車を展開しており、日本市場においては日本法人の設立を準備するとともに、経済産業省や国土交通省、国内大手物流会社との協議を重ねています。
新石器(Neolix)に見る量産型自律配送の設計思想と運用実績
新石器が中国市場で約2万5000台を稼働させるに至った要因は、実験室レベルのプロトタイプではなく、過酷な物流現場の運用要求に応えるハードウェアのモジュール化と、現場導入コストを抑える自律走行ソフトウェアの構造にあります。
3つの主力モデルと車両スペックの比較
新石器の主力機は、荷室容積や走行性能に応じてX3、X6T、H12の3シリーズに分かれており、日本国内の実証現場にはローカライズモデルである「Xolra 3」および「Xolra 6」が持ち込まれています。運転席やステアリングホイールを完全に排除し、全容積を積載スペースとセンサーユニットに割り当てている点が特徴です。
| 車両モデル | 荷室容積 | 最高速度 | 主な運用用途 |
|---|---|---|---|
| X3(Xolra 3) | 3立方メートル | 時速50km | 小口宅配便の中継、飲食・日用品のラストワンマイル即時配送 |
| X6T(Xolra 6) | 6立方メートル | 時速80km | 物流拠点間の中距離横持ち、商業施設・量販店への定時商品補充 |
| H12 | 12立方メートル | 時速65km | 大規模物流センター間の幹線接続、パレット単位や大型貨物の構内搬送 |
車両の最高速度は最大で時速80kmに達する能力を備えていますが、中国国内の公道運用においては安全規制に基づき上限速度が時速40kmに制限されています。敷地内や専用レーン、閉鎖区間では用途に合わせて速度が設定されます。また、輸送対象に合わせて荷室を常温仕様から冷蔵配送仕様へ変更可能な構造を採用しています。
順豊集団やIKEAにおける拠点間・店舗補充の商用ユースケース
中国国内において、新石器のロボバンは単なる配達代行ではなく、サプライチェーンの中継結節点を結ぶインフラとして組み込まれています。
中国物流大手の順豊集団(SFグループ)では、地域デポから各配達エリアのサテライト拠点、あるいは拠点から個別集配スタッフの待機ポイントまで荷物を無人搬送する「拠点間中継輸送」にロボバンを使用しています。ドライバーが中継輸送のためにトラックを運転する必要がなくなり、配達員は担当エリア内での集荷・配達作業に専念できる体制を構築しています。
また、スウェーデン家具大手のIKEAやティードリンク大手の蜜雪冰城(MIXUE)では、店舗への商品補充用として定期便運行に組み込まれています。IKEAでは配送センターから大型店舗への資材搬送や注文商品の拠点間移動を無人車が担い、夜間から早朝にかけての定時補充ルートを自動化しています。さらに、ネット配車大手の滴滴出行(DiDi)と連携した個人向け配送サービスでは、利用者がスマートフォンアプリから車両を呼び出して生鮮食品や日用品を受け取るオンデマンド型配送や夜間緊急配送にも充当されています。
地図作成コストを90%削減する「マップライト型」自律走行と遠隔監視体制
自動運転車両の現場導入における大きな障壁の一つが、事前に行う高精度3次元地図(HDマップ)の作成費用と維持管理コストです。広大な物流センターや頻繁にレイアウトが変わる敷地内でHDマップを常に更新し続けることは、運用コストを押し上げる要因となります。
新石器は、事前作成の緻密な高精度地図への依存度を大幅に下げる「マップライト(無図)型」の自動運転アーキテクチャを採用しています。車載センサー(LiDAR、車載カメラ、ミリ波レーダー)が捉えた周囲の立体情報とフィジカルAIのリアルタイム空間認識を組み合わせることで、地図作成および初期導入コストを最大90%削減することを可能にしました。これにより、舗装の劣化や工事による一時的な車線変更、障害物の多い農村部や工事現場のような未整備インフラ環境であっても、自律的に安全な経路を割り出して走行を継続できます。
走行中の異常検知には、1対多の遠隔管制システムが組み合わされています。車両側のセンサーが道路の閉塞や突発的な危険を検知して停止した場合、アラートが遠隔監視センターのオペレーターに即座に通知され、管理画面から周囲映像を確認して遠隔指示または遠隔操縦で復帰させるセーフティ機構が確立されています。
日本市場への適用における技術的適合要件と運用障壁
中国市場で確立された2万5000台の量産運用モデルであっても、そのまま日本の物流現場へ転用することはできません。道路交通法規、敷地の構造的差異、そして既存の物流オペレーションとの整合性が課題となります。
TRC構内のスロープ・階層移動と高精度3次元地図の連携
東京流通センター(TRC)で行われている実証試験の対象フィールドは、敷地面積15万㎡におよぶ複合物流施設です。平坦な屋外ヤードのみを走行するテストとは異なり、TRCでの試験にはマルチテナント型物流施設特有の過酷な環境条件が含まれています。
- 立体動線への対応: トラックバースが各フロアに配置されたランプウェイ(スロープ)構造において、勾配走行時の速度制御、ブレーキ制御、および傾斜地での自車位置推定精度の維持。
- 電波遮蔽環境での走行: 鉄筋コンクリート造の建屋内部や階層間通路ではGNSS(衛星測位システム)の電波が届かないため、車載センサーによる自律位置同定(SLAM)技術への依存度が高まる点。
- 混在交通の安全性: 有人大型トラック、フォークリフト、構内作業員が常時往来する実稼働ヤードにおいて、デッドスペースからの飛び出しや荷役作業車両との交錯を確実に検知して停止・回避するアルゴリズムの現地最適化。
TRCを拠点とする「平和島自動運転協議会」には、ダイナミックマッププラットフォームやマクニカ、住友倉庫、ヤマトモビリティ&Mfg.など60社・団体が参画しています。新石器は自社のマップライト型走行技術を持ち込む一方で、国内の大規模拠点に整備されつつある3次元空間データや施設インフラ協調基盤とどのように連携できるかを検証しています。
参考記事: 東京流通センター、参画60団体で15万㎡構内の横持ち輸送を無人化
参考記事: TRCの自動運転実証実験!15万㎡構内でレベル4横持を検証
道路交通法「特定自動運行」制度と閉鎖空間からの段階的展開
日本国内の公道で完全無人の自動運転車(レベル4)を走行させる場合、2023年4月1日施行の改正道路交通法に基づく「特定自動運行」の許可取得が必要です。特定自動運行計画の策定、遠隔監視装置の設置基準、緊急時対応フローの認可など、クリアすべき法的手続きは極めて厳格です。歩道走行を前提とする「遠隔操作型小型車」に比べ、中型・大型の車道走行型ロボバンは車両保安基準や衝突安全要件のハードルが高くなります。
このため、新石器の日本展開における現実的なアプローチは、私有地である閉鎖空間からのスモールスタートとなります。
【第1段階:閉鎖・制限空間での実稼働】
・大規模物流施設(TRC等)の構内横持ち、バース間搬送
・工場敷地内、港湾ヤード、大型商業施設のバックヤード搬送
↓
【第2段階:特定エリア内の準公道・限定ルート運用】
・工業団地内の定時シャトル、スマートシティ等の特区道路
・特定自動運行の許可を取得した定常中継ルートでの運行
↓
【第3段階:公道を含むラストワンマイルへの水平展開】
・配送デポからサテライト拠点、店舗への定時補充輸送
・法規制の緩和およびインフラ協調が進んだ都市部での自動配送
まず施設管理者の合意と運行ルールが確立できる物流パークや工場構内をターゲットとし、バース予約管理システム(MOVO Berth等)と連動した「構内横持ち搬送」の自動化実績を積むことが、公道展開への必須ステップとなります。
参考記事: ラストワンマイルとは?物流現場の課題と効率化に向けた再構築ステップ
国内物流企業が直面する構内搬送の自律化ロードマップ
中国で2万5000台の量産車を運用する実績を持つプレイヤーの参入は、日本の物流現場における省人化投資の優先順位を再定義させます。これまで構内の横持ち作業や短距離中継は、構内作業員やトラックドライバーの付帯業務として有人で行われてきました。しかし、ドライバーの平均年齢が50歳を超え、EC需要が継続して拡大する現場において、付帯的な移動作業に人的リソースを割き続ける体制は限界を迎えています。
今後、国内の物流施設デベロッパーや3PL事業者が取るべき具体的なアクションは以下の通りです。
- 構内横持ち輸送の運行データ可視化
棟間移動やバース間移送に費やされている有人フォークリフトやトラックの拘束時間、運行頻度、待機時間を計測し、無人搬送車(ロボバン)へ代替した場合の投資対効果(ROI)を算出する。
- 施設内インフラのロボット親和性評価
自社が所有・利用する物流施設のスロープ勾配、エレベーター連携、通信環境(Wi-Fiやローカル5G)、入出退場ゲートの認証システムが、自動運転車両の受け入れに対応できる構造であるかを確認する。
- 運行管理システム(FMS)と上位WMS・バース管理のAPI連携検討
車両単体の性能評価にとどまらず、倉庫管理システム(WMS)やトラックバース予約受付システムからリアルタイムで配車指示を出し、完全無人で荷積み・荷降ろしバースへ接車させるためのシステム連携基盤を設計する。
中国市場で磨かれた量産ハードウェアとマップライト型自律ソフトウェアが、日本の緻密な施設オペレーションと合流することにより、閉鎖空間を起点とした構内搬送の無人化は、実験から実運用のフェーズへ急速にシフトしていきます。
出典: 36Kr Japan
出典: LNEWS
出典: レスポンス(Response.jp)
出典: NEWSCAST
出典: PR Newswire
出典: 央視網(CCTV)
出典: 億邦動力(ebrun)



