佐川急便は2024年9月2日、個人向け会員サービス「スマートクラブ」の会員を対象に、玄関前など指定した場所へ荷物を届ける置き配サービスを開始した。日本郵便とヤマト運輸に続く参入によって宅配大手3社の非対面受取体制が出揃い、政府目標である再配達率6%の達成に向けた配送基盤が整った。
佐川急便の置き配参入と宅配大手3社の受取対応比較
佐川急便のサービス開始によって、国内の宅配市場におけるラストワンマイル配送の運用基準は大きく転換した。従来、佐川急便における置き配は個別契約を結んだ一部荷主の荷物(指定場所配送サービス)に限定されていたが、約1,700万人(2024年7月末時点)のスマートクラブ会員向けに一般開放された。荷受人は配達予定通知メールやLINEから、玄関ドア前、宅配ボックス、ガレージ、物置などを指定できる。
宅配大手3社における置き配への対応状況およびサービス仕様は以下の通りである。
| 配送キャリア | サービス開始時期 | 対象会員基盤 | 指定可能な主な受取場所 |
|---|---|---|---|
| 日本郵便 | 2019年3月18日 | ゆうID(指定場所配達) | 玄関前、宅配ボックス、郵便受箱、物置、ガレージ |
| ヤマト運輸 | 2024年6月10日 | クロネコメンバーズ(約5,600万人) | 玄関ドア前、宅配ボックス、ガレージ、物置、自転車かご |
| 佐川急便 | 2024年9月2日 | スマートクラブ(約1,700万人) | 玄関前、宅配ボックス、ガレージ、物置、自転車かご |
日本郵便は2019年3月に先駆けてゆうパックの「指定場所配達サービス」を開始していた。ヤマト運輸は2020年6月よりEC向け商品「EAZY」で先行導入し、2024年6月10日には基幹サービスである「宅急便」「宅急便コンパクト」へと置き配を全面拡大した。ヤマト運輸の公表データによると、EAZYにおける置き配指定率は2020年度の18.4%から2023年度には37.3%まで伸長しており、非対面受取の需要は急拡大していた。佐川急便の参入は、先行2社に追随する形でラストワンマイルの受け皿を完全に埋める動きとなった。
制度改正と公的データから見る再配達削減の緊急度
大手3社が置き配導入を完了させた直接的な要因には、2024年4月1日に適用された「働き方改革関連法」に伴う自動車運転業務の時間外労働上限規制(年間960時間)がある。拘束時間の短縮が義務付けられる中、トラックドライバー不足による輸送力低下を食い止めるには、配送効率を著しく低下させる再配達の削減が不可欠となった。
国土交通省が公表した令和5年度(2023年度)の宅配便取扱実績では、年間取扱個数が約50.7億個に達している。同省のサンプル調査によると、宅配便の再配達率は2024年4月期時点で10.4%、2024年10月期時点で10.2%と高止まりが続いていた。政府は「物流革新に向けた政策パッケージ」において再配達率を6%まで削減する目標を掲げており、再配達によって浪費される年間約6万人分のドライバー労働力を回収することが政策上の焦点となっている。
参考記事: 再配達削減とは?物流の2024年問題を克服する具体策と導入メリットを解説
置き配標準化がラストワンマイルの各プレイヤーに与える影響
大手3社のシステムが置き配に対応した事実は、配送現場の運行効率、荷主の販売オペレーション、ドライバーの労働時間に直接的な影響を及ぼしている。
運送事業者:不在持ち戻りの減少による積載率向上とルート効率化
運送事業者にとって、再配達に伴う荷物の積み下ろしと車両への再積載は、燃料費の増加と積載効率の悪化を招く大きな要因であった。不在による持ち戻りが減少し、1回の運行で配達が完了する確率(初回配達完了率)が向上することで、配送トラックの容積を新規荷物の輸送へ有効に充当できる。
また、対面受取ではチャイム押下から受領印の押印、荷物の手渡しまでに1件あたり数分を要していたが、置き配では所定位置への設置と配達完了写真の撮影・登録により短時間で作業を完了できる。都市部のように配送密度が高いエリアでは、1件あたりの作業時間短縮が集積されることで、日々の配送ルート全体の運行遅延を防ぎ、計画通りのダイヤ編成を維持しやすくなる。
参考記事: ラストワンマイルとは?物流現場の課題と効率化に向けた再構築ステップ
EC事業者:配送待ちストレスの排除による購買体験の向上
EC事業者においては、購入者が抱える「配送時間帯に在宅し続けなければならない拘束感」を取り除くことが可能となる。受取日時の都合がつかないことを理由とする購入辞退(カゴ落ち)を防ぎ、コンバージョン率の向上が見込める。
一方で、非対面受取の比率が高まるにつれて、誤配、盗難、雨天時の水濡れトラブルに対する責任分界点の明確化が求められる。大手各社は配達完了時の写真撮影通知や補償スキームを整備しているが、EC事業者側でも利用規約に「置き配選択時における危険負担の移転時期」を明記するなど、顧客対応ポリシーの改定が不可欠となる。
参考記事: 置き配サービスとは?主要4キャリアの比較からEC導入メリット・防犯対策まで解説
ドライバー:無駄な再配達ルート往復の排除と拘束時間の圧縮
配送現場を担うドライバーにとって、不在連絡票の起票や不在荷物の再探索、夜間の再配達指定による動線の逆戻りは、拘束時間を延長させる最大の原因であった。あらかじめ置き配が指定されていれば、受取人の在不在にかかわらず荷降ろしを完了できる。
ドライバーの走行ルートが直線化され、同じ配達先へ1日に何度も往復するロスが削ぎ落とされる結果、1配達あたりの身体的・時間的負荷が軽減される。年間960時間の時間外労働上限規制を遵守しつつ、日々の配送完了個数を維持するための物理的な労働環境改善につながる。
LogiShiftの視点:対面手渡し前提の崩壊と配送プロトコルの不可逆的転換
佐川急便の参入によって大手3社の置き配機能が揃った出来事は、日本のラストワンマイル配送において長年維持されてきた「対面手渡し・受領印受取」を前提とする商慣習が終了したことを示している。EC市場の取扱個数が50億個を超える水準に達した現在、荷受人と配送員が同じ時間・場所に物理的に居合わせる「同期型配送」を標準とするビジネスモデルは、労働力供給の観点から破綻を迎えていた。
今後は、荷受人とドライバーの接触を前提としない「非同期型配送」へのシフトが不可逆的に進む。佐川急便のスマートクラブ会員約1,700万人、ヤマト運輸のクロネコメンバーズ約5,600万人の会員基盤が機能することで、配送指示のデジタル化と自動ルーティングは急速に定着する。
今後の焦点は、置き配の受け皿となるハードウェアインフラの整備に移る。戸建て住宅では置き配バッグや固定型宅配ボックスの設置が進む一方、オートロックを備えた集合住宅ではエントランスを越えられない構造的障壁が残る。配送各社が保有するデジタルキー連携技術や、スマートロックによる一時入館システムの普及速度が、各地域の再配達率削減の進捗を左右することになる。荷主・EC事業者・配送事業者は、置き配を単なる例外的な受取手段ではなく、基幹オペレーションの標準プロトコルとして業務設計を再構築しなければならない。
まとめ:置き配標準化を見据えて荷主・配送現場が講じるべき実務対応
宅配大手3社による置き配対応が出揃った環境を受け、荷主企業および物流現場の担当者は以下の実務対応を速やかに進める必要がある。
- 自社EC・受注システムにおける置き配選択インターフェースの改修
- 置き配選択時における紛失・破損時の補償基準および免責約款の整備
- 配送キャリアごとの置き配指定可能条件(サイズ・品目・温度帯)の社内マニュアル更新
- 集合住宅向けスマートロック解錠システムなど、非対面納品インフラの導入検討
再配達の削減は、単なるコスト抑制にとどまらず、ドライバーの労働時間制限下で自社の出荷能力を維持するための必須要件である。自社の出荷フロー全体を非対面受取前提の設計へと適合させることが求められている。
出典: 空間工房LOHAS
出典: 佐川急便株式会社
出典: SGホールディングス株式会社
出典: Lnews
出典: 国土交通省



