国土交通省は2026年10月5日、物流効率化法に基づき保有車両150台以上のトラック事業者に義務付けられる「中長期計画」の記載例を公表した。初年度の提出期限が2026年10月末に設定される中、各社の管理体制に応じて選択できるよう全社展開型と拠点試行型の2パターンが提示されている。
改正物流効率化法の施行スケジュールと特定トラック事業者の義務内容
流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正(改正物流効率化法)は、段階的な移行を経て2026年4月に本格施行された。この法改正により、保有車両台数が150台以上のトラック事業者は「特定貨物自動車運送事業者等」に指定され、輸送能力の維持と業務効率化を目的とした中長期計画の作成および主務大臣への提出が義務付けられている。
制度施行の時系列と計画提出までの経緯
2024年の法公布以降、努力義務の適用から特定事業者の指定、そして初回の計画提出に至るまでのタイムラインは以下の通りである。
| 年月 | 制度上の主な出来事・マイルストーン |
|---|---|
| 2024年5月15日 | 改正物流効率化法が公布。荷主および物流事業者双方への規制強化が決定。 |
| 2025年4月1日 | 第1段階施行。全荷主・物流事業者を対象とした効率化の努力義務が開始。 |
| 2026年4月1日 | 第2段階全面施行。特定事業者の指定制度および管理統括体制の義務化が開始。 |
| 2026年9月16日 | 国土交通省と全日本トラック協会の共催による特定運送事業者向け説明会を開催。 |
| 2026年10月5日 | 事業者の進捗状況に応じた「中長期計画書の記載例」2パターンが正式公開。 |
| 2026年10月末日 | 特定貨物自動車運送事業者等による初回「中長期計画」の電子申請提出期限。 |
本制度において、通常年度の中長期計画の提出期限は「毎年度7月末」と規定されているが、制度開始初年度である2026年度に限り、経過措置として10月末日までの提出が認められている。計画提出を怠った場合や虚偽報告を行った場合には50万円以下の罰金、その後の改善命令に従わない場合には最大100万円以下の罰金が科される規定が設けられている。
参考記事: 国土交通省など3省が8月18日に物効法説明会、10月末提出へ対応急げ
特定事業者の指定区分と業界推計データ
特定事業者の指定基準は、事業形態ごとに貨物の取扱重量や車両数によって明確に区分されている。
| 対象区分 | 判断指標・指定基準 | 業界内の対象規模(推計) | 主な法的義務 |
|---|---|---|---|
| 特定貨物自動車運送事業者等 | 保有営業用車両150台以上 | 上位約790社 | 中長期計画の作成・提出、定期報告の提出 |
| 特定荷主(第一種・第二種) | 年間取扱貨物量9万トン以上 | 上位約3,200社(発荷主1,792社、着荷主1,446社) | 中長期計画の作成・提出、CLO選任届出 |
| 特定連鎖化事業者 | チェーン全体で年9万トン以上 | 約19社 | 中長期計画の作成・提出、CLO選任届出 |
| 特定倉庫業者 | 年間入庫貨物量70万トン以上 | 上位約70社 | 中長期計画の作成・提出、定期報告の提出 |
特定貨物自動車運送事業者等に該当する企業は全国で約790社と推計されており、自社の輸送網全体における積載効率の向上や運行便の適正化に向けた計画策定が求められている。
国土交通省が示した2つの記載例パターンと具体施策
今回国土交通省が公開した記載例は、2026年9月16日に開催された説明会での事業者からの質問や要望を反映し、社内の準備状況に合わせて選択できるよう2種類が用意された。
取組が進んでいる企業向け記載例
すでに全社的なKPI管理や主要拠点での運行データ取得が進んでいる事業者を想定した記載例である。高度な運行管理システム(TMS)の導入や全社的な配車見直しを前提とし、明確な数値目標(定量KPI)を設定して広域展開を図る内容が盛り込まれている。
これから取組を深める企業向け記載例
運行実態の把握に着手したばかりの事業者や、中小規模の営業所を多く抱える事業者を想定した記載例である。まずは代表的な工場やモデル営業所において試験的に改善を行い、段階的に自社内へ展開していくスモールスタートの手法が明記されている。
また、計画書の中で重要項目とされる「運転者1人当たりの1回の運送ごとの貨物重量の増加(積載効率の向上)」に関しては、以下のような具体的な取り組みが例示された。
- 配送ルートおよび運行便の見直し、配車頻度の見直し
- 求貨求車システムの活用による復荷の確保
- 配車調整および運行計画の見直し
- 関係事業者(同業他社やパートナー企業)との求荷・求車連携強化
国交省は本記載例の公表に際し、進捗確認が客観的に行えるよう具体的に記載することを求める一方で、すでに計画を作成・提出済みの事業者に対して直ちに計画の差し替えを求めるものではなく、今後の計画見直し時の参考として活用してほしい旨を提示している。
参考記事: 物流効率化法、10月末の計画提出控え特定3826者で手作業集計の負担増大
サプライチェーン関係者に生じる実務上の影響
特定事業者の指定基準を満たす運送事業者だけでなく、関連するテクノロジーベンダーや規制当局にとっても、今回の記載例公表は実務の進め方を具体化する契機となっている。
運送事業者:成熟度に応じたKPI設定と運行体制の再編
保有台数150台以上の特定運送事業者は、形式的な書類作成にとどまらず、自社の管理レベルに即した中長期計画の策定が不可欠となる。すでにデジタコや動態管理システムで車両ごとの実車率や積載率を把握できている事業者は、全社横断の定量KPIを設定し、配車の集約や運行頻度の平準化へと踏み込む。
一方、営業所ごとに運行管理が属人化している事業者は、初歩的・段階的な記載例に沿ってモデル拠点を定め、特定ルートでの積載率計測から着手する方針を採る。いずれの企業においても、提出した計画(内容に変更がない場合は5年に1度の提出)は毎年の定期報告で進捗を確認されるため、無理な目標設定を避けつつ、実務に即した運用体制を構築することが求められる。
参考記事: 物流効率化法、2026年10月末の中長期計画提出に向け現場の手作業負担が増加
SaaS・テクノロジーベンダー:配車システムと求貨求車の需要拡大
国土交通省が示した積載効率向上の施策例に「求貨求車システムの活用」や「配車調整・運行計画の見直し」が明示されたことで、輸配送管理システム(TMS)やマッチングプラットフォームを提供するITベンダーの役割が拡大している。
運送事業者が計画を履行するためには、日々の配車実績、空車情報、積載率を行政提出用のフォーマットに合わせて可視化・集計する機能が必要となる。初期投資を抑え、単一拠点から全社へと段階的に導入可能なクラウド型サービスの提案が活発化している。
行政・規制当局:実効性担保に向けた計画運用の二段構え
国土交通省が2つの記載例を用意した背景には、特定運送事業者の間にあるITインフラや管理体制の格差を考慮し、計画未提出や形式的な内容での提出を防ぐ意図がある。
ハードルの高い一律の基準を課すのではなく、現状把握から始める企業向けに実行可能な選択肢を示すことで、指定された約790社の計画提出を促す。提出後は中長期計画の達成状況をモニタリングし、必要に応じて指導や助言を行うことで、輸送能力の維持を図る。
LogiShiftの視点:配車業務の属人化解消とデータ連携基盤の確立
物流効率化法の全面施行により、トラック運送事業者は経験則や勘に頼った配車業務から、客観的な稼働データに基づく積載率管理への転換を求められている。
保有台数150台以上の特定事業者が中長期計画に積載効率向上を盛り込むことは、日々の配車計画や便数の見直しが法的義務の対象となることを意味する。自社単独での空車回送を減らすため、求貨求車プラットフォームの利用や他社との共同輸送といった外部ネットワークとの接続が日常的な運行計画に組み込まれ始める。
さらに、特定荷主(取扱量9万トン以上)側も荷待ち・荷役時間の削減や積載率向上を課されているため、運送事業者が運行データを荷主に提示し、納品頻度や発注ロットの調整を共同で協議する場面が増加する。中長期計画の記載例公開を契機として、運送事業者と荷主企業がデータを共有しながら輸送効率を高めるサプライチェーンの再設計が進んでいく。
明日から取り組むべき実務対応
保有車両台数150台以上の運送事業者が2026年10月末の提出期限に向けて実施すべき実務対応は以下の通りである。
- 自社のデータ取得状況に応じた記載例パターンの選定
自社が全社的に積載率や実車率の数値を把握できているかを確認し、「取組が進んでいる企業向け」か「これから取組を深める企業向け」のどちらをベースに計画書を策定するか決定する。
- 重点対象とする営業所・運行ルートの特定
全社展開が難しい場合は、初歩的な記載例に倣い、代表的な荷主の運行便や稼働台数の多いモデル営業所を抽出し、改善施策の適用範囲を明確にする。
- デジタルツールを活用した実績集計プロセスの整理
運行便の見直しや求貨求車の利用実績を定期報告で提示できるよう、デジタコやTMSを活用して積載データを記録・集計する手順を社内で確認する。
出典: トラックニュース
出典: 国土交通省「物流効率化法に基づく中長期計画の記載例等」
出典: 国土交通省「物流効率化法ポータルサイト」



