JR貨物は2026年10月10日と11日、トヨタ自動車の部品輸送専用列車「トヨタ ロングパス・エクスプレス」を使い、太平洋側主要幹線の不通を想定した日本海ルートへの迂回運行訓練を実施しました。コキ104形・コキ105形による20両編成を用い、通常ルートでは1回のみの機関車交換を計3箇所で実施しながら、名古屋南貨物駅と盛岡貨物ターミナル駅の間を両方向で走行しました。
トヨタ専用貨物列車による日本海側迂回訓練の全容と運行ルート
今回の迂回運行訓練は、風水害や地震などによる東海道本線・東北本線といった太平洋側の大動脈寸断を想定して実施されました。名古屋南貨物駅(愛知県)と盛岡貨物ターミナル駅(岩手県)を結ぶ専用列車を、上越線・羽越本線・奥羽本線などの日本海縦貫線へと迂回させる試みです。
通常ルートと日本海側迂回ルートの運行比較
「トヨタ ロングパス・エクスプレス」は通常、名古屋臨海鉄道の笠寺駅を経由し、東海道本線、武蔵野線、東北本線を通る太平洋側の最短ルートを運行しています。今回の迂回訓練では、関東から東北へ抜ける経路を日本海側へと大きく迂回させました。
| 項目 | 通常運行ルート | 2026年10月迂回訓練ルート |
|---|---|---|
| 経由路線 | 東海道本線、武蔵野線、東北本線 ほか | 信越本線、上越線、羽越本線、奥羽本線 ほか |
| 機関車交換回数 | 1回(新鶴見信号場)※笠寺を除く | 3回(新鶴見信号場、新潟貨物ターミナル駅、青森信号場) |
| 使用コンテナ | 31フィート各種専用コンテナ | U50A形38000番台(全高約260cm) |
| 牽引機関車 | EF210形、EH500形 | EF210形、EH200形、EF510形、EH500形 |
4形式の電気機関車によるリレー牽引体制
日本海側ルートは、区間によって直流電化区間、交流電化区間、勾配区間が混在するため、単一の機関車で直通牽引することができません。そのため、各区間の線路条件や電化方式に適合した4形式の電気機関車を投入し、機関車の付け替えを行いました。
盛岡貨物ターミナル駅から名古屋南貨物駅へ向かう上り便では、まず交流区間と一部直流区間をまたぐ盛岡〜青森信号場間を交直流機の「EH500形」が牽引しました。青森信号場で交直流機の「EF510形(EF510-9)」へと交代し、奥羽本線および羽越本線を経由して新潟貨物ターミナル駅まで南下しました。
新潟貨物ターミナル駅からは、上越線の急勾配区間を登坂可能な直流山岳用機関車「EH200形(EH200-10)」へバトンタッチし、上越線、高崎線、武蔵野線を通って新鶴見信号場へ向かいました。新鶴見信号場で平坦な直流区間に適した「EF210形」へ交代し、東海道本線を下って笠寺駅へと輸送を完了させました。逆方向となる下り便においても、各拠点(新鶴見、新潟貨物、青森)で同様に機関車を交換する逆順のリレー牽引が実施されました。
羽越本線の建築限界をクリアする専用コンテナの選定
今回の迂回運行における技術的なポイントの一つが、積載コンテナの規格選定です。羽越本線などの日本海縦貫線にはトンネル断面が小さい区間が存在し、一般的な背高コンテナでは車両限界に抵触する恐れがあります。
この課題を解消するため、今回の20両編成には日本通運(NX)が所有する全高約260cmの「U50A形38000番台」コンテナが統一して積載されました。路線ごとの物理的な通過制限をクリアしつつ、20両編成という長編成の積載容積を維持する調整が事前に図られました。
参考記事: 鉄道輸送とは?仕組みやメリット・コンテナ規格から導入手順まで徹底解説
トヨタ輸送とJR貨物が築いてきた専用列車の歩み
「トヨタ ロングパス・エクスプレス」は、愛知県内のトヨタ自動車工場群で生産された部品を、岩手県にあるトヨタ自動車東日本の岩手工場などへ直送するために運行されています。
- 2006年11月:JR貨物、名古屋臨海鉄道、トヨタ自動車の連携により、名古屋南貨物駅〜盛岡貨物ターミナル駅間で運行開始
- 2017年9月:復路の空きスペースを活用し、佐川急便とトヨタ輸送による異業種共同モーダルシフト(宅配便混載輸送)を開始
- 2018年8月〜9月:西日本豪雨による山陽本線不通時、山陰本線を経由する迂回貨物列車が運行され、代替ルート運行の重要性が顕在化
- 2026年10月:自然災害による東北本線・東海道本線の寸断に備え、日本海縦貫線を経由する大規模迂回運行訓練を実施
本列車は最大1日2往復が設定されており、コキ100系貨車20両編成により1日あたり10トントラック約120台分に相当する部品輸送を担っています。JR貨物グループの公表資料によると、トラックから鉄道への転換により年間約1万500トンのCO2排出削減効果を生み出しており、自動車製造ラインの部品供給網と環境対策を両立させる基幹便として定着しています。
荷主・鉄道事業者・通運事業者に生じる実務上の影響
幹線物流における大迂回ルートの実証は、自動車サプライチェーンを維持する荷主だけでなく、運行を担う事業者側にも具体的なオペレーション変更を要求します。
製造業者・荷主企業:ジャスト・イン・タイム体制における供給網維持
自動車製造業は徹底した「ジャスト・イン・タイム(JIT)生産」を採用しており、工場側の部品在庫は最小限に抑えられています。そのため、幹線物流が数日間停止しただけで組み立てラインの稼働停止に直結します。
太平洋側幹線が集中豪雨や地震で不通となった際、即座に日本海側経由の鉄道輸送へ切り替えられる実績があれば、工場ライン停止という莫大な損失を回避できます。ただし、迂回ルートは走行距離が伸び、機関車交換が3回発生するため、通常のリードタイムより数時間から半日程度の遅延が生じます。荷主側は、迂回運行時における生産計画の組み替えや、工場側安全在庫の基準値を再検証することが求められます。
鉄道事業者・JR貨物:機関車運用と運転士手配の標準化
運行を担うJR貨物にとっては、平時とは異なる機関車運用と乗務員(運転士)の確保が課題となります。
通常は新鶴見信号場での1回で済む機関車交換が、日本海回りでは新潟や青森を含めて計3回必要になります。それぞれの信号場・貨物駅において、待機させる機関車のやり繰りや入換要員の配置計画を組まなければなりません。さらに、該当路線の線路構造や信号システムに精通した運転士を各区間でリレー配置できる運用管理体制を平時からシミュレーションしておくことが不可欠となります。
通運事業者・利用運送事業者:コンテナ規格管理と発着駅ハンドリング
コンテナ輸送を取り扱う通運事業者にとっては、有事に使えるコンテナ規格の把握と駅頭オペレーションの調整が重要になります。
羽越本線のようにトンネル限界が厳しい路線へ迂回させる場合、荷主が手配するコンテナの全高が制限値を下回っているかを厳格に管理しなければなりません。また、迂回によって発着時刻が大幅に変更された場合、盛岡貨物ターミナル駅や名古屋南貨物駅における集荷・配達用トラック(ドレージ)の待機時間調整や配車変更を柔軟に行う体制が求められます。
参考記事: 1万社網でBCP加速!トランコムとJR貨物ロジ・ソリューションズの新サービス始動
LogiShiftの視点:平時の実動訓練がもたらす幹線リダンダンシーの価値
今回の取り組みにおいて着目すべきは、机上のBCP策定にとどまらず、「コキ20両編成・全高260cmコンテナ・4形式機関車リレー」という実機を用いた物理的な実証を完了させた点です。
鉄道貨物はトラック輸送に比べて大量輸送と環境負荷低減で圧倒的な優位性を誇る一方、線路という固定インフラに依存するため、一度不通になると代替手段の確保が難しいという脆弱性を抱えてきました。2018年の西日本豪雨時に山陰本線で運行された迂回貨物列車のように、有事の鉄道迂回は現場の線路条件、電化方式、トンネル断面、運転士の乗務資格といった複合的な物理制約に直面します。
特に自動車部品のような大型貨物では、容積効率を高めるために大型コンテナが多用される傾向にあります。しかし、最大サイズのコンテナをそのまま迂回路線へ流し込もうとすれば、羽越本線などの建築限界に阻まれて立ち往生しかねません。JR貨物と荷主側がU50A形38000番台コンテナの適合性を実地で検証したことは、単なるルート変更にとどまらない「ハードウェア面の制約解消」を意味します。
さらに、機関車交換を青森、新潟、新鶴見の3箇所で行う複雑なリレー運用は、現場の信号場や駅ターミナルにおける入換作業の標準化が進んでいなければ機能しません。サプライチェーンのリダンダンシー(冗長性)を真に機能させるためには、有事になってから調整を始めるのではなく、平時に運行ノウハウを蓄積しておくことが唯一の防壁となります。
参考記事: 2024年問題を打開!鉄道輸送へのモーダルシフトを成功に導く3つのカギ
明日から意識すべきこと
- 自社の幹線輸送ルートが単一の幹線(東海道・東北ライン等)に依存していないか、不通時の代替輸送経路をリストアップする
- 鉄道へのモーダルシフトを検討する際、経由する可能性のある迂回区間のトンネル高さ制限やコンテナ規格(全高制限)を事前に把握する
- 代替ルート利用時に生じるリードタイムの延長時間を算出し、製造ラインや出荷拠点における許容在庫日数を再計算する
単一ルートの途絶が供給網全体の停止を招くリスクを前提に、インフラ制約を踏まえたマルチルート運用体制の整備が求められています。
出典: 乗りものニュース
出典: JR貨物グループ統合報告書2025
出典: 2nd-train



