中国のレベル4(L4)自動運転ロボバン開発企業である新石器(Neolix)は2026年10月20日、シリーズEラウンドで約4億ドル(約630億円)の資金調達を発表しました。日本国内でも2026年9月に東京流通センター(TRC)で同社車両10台による構内搬送実証が始まっており、ラストワンマイル輸送の省人化に向けた検証が本格化しています。
中型ロボバンが牽引する海外ラストワンマイル自動化の現在地
海外のラストワンマイル物流では、車道を走行する中型・大型の無人配送車(ロボバン)が数千台から数万台規模で公道や産業団地に配備される商用段階へ突入しています。
主要地域における自動配送車両の実装比較
自律配送車両の社会実装は、走行環境の規制体系や都市構造によって地域ごとに明確な差異を見せています。
| 地域 | 主な走行環境 | 車両カテゴリー | 普及規模と商用化の現状 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 公道(指定区域)および産業敷地内 | 中型〜大型ロボバン(容積3〜12m³) | 累計数万台が稼働。宅配大手の中継輸送・店舗補充に定着 |
| 米国 | 歩道・路肩・大学構内 | 小型ポッド〜中型車両 | 郊外住宅地やキャンパス内の即時配達が先行 |
| 欧州 | 歩道および都市部低速エリア | 小型配送ロボット・EV小型バン | 英国・ドイツなどで商用運行。環境規制適合を推進 |
| 日本 | 物流施設構内・特定実証地域 | 小型ロボットおよび実証用ロボバン | 道路交通法改正を経て特定エリアでレベル4実証が進行 |
米国や欧州では歩道を通行する小型ロボットが先行したのに対し、中国市場では車道を時速30〜50km程度で走行する中型ロボバンが普及の中心です。荷室容積が数立方メートルに達する車両が、宅配営業所間の拠点間輸送や店舗への定時納品を日常的に代行しています。
新石器(Neolix)の調達推移とグローバル展開規模
新石器は2018年の設立以降、中国内外で自動運転フリートの運用規模を拡大してきました。今回完了したシリーズEラウンドは博裕投資(Boyu Capital)と政府系ファンドが主導し、アリババ傘下のAEF NextGen香港基金、テマセク傘下Vertex Growth Fund、広汽資本(GAC Capital)、タイの正大集団(CPグループ)傘下の正大機器人(CP Robotics)、SBVAなどが参加しました。累計資金調達額は100億元(約2400億円)を突破しています。
| 時期 | ラウンド | 主な調達額・出資者 | 車両配備・事業展開の到達点 |
|---|---|---|---|
| 2021年8月 | シリーズB | 数億元規模(SBVAなど) | 北京市で公道コードを取得し実運用開始 |
| 2025年10月 | シリーズD | 6億ドル超(UAE系VCなど) | 累計納入1万台突破、月間納入2,000台超 |
| 2026年10月 | シリーズE | 約4億ドル(博裕投資、政府系等) | 世界20カ国超・300都市以上、導入3万台超 |
同社は2026年10月時点で世界約20カ国、300以上の都市で3万台を超えるロボバンを導入しており、自動運転の累計走行距離は2億6000万キロメートルに達しています。中国国内の宅配大手(KA)向け入札では約7割のシェアを獲得し、順豊集団(SFグループ)、京東物流(JD Logistics)、中国郵政、三通一達(中通、円通、申通、韻達)にフリートを供給しています。
国外展開においては、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビでロボバンの商用運行ライセンスを取得したほか、欧州複数国での公道テスト、韓国や日本での実証実験を進めています。
参考記事: 新石器無人車がTRCで10台の実証開始|中国2万5000台運用の無人搬送が上陸
新石器の量産設計とサプライチェーン組み込みモデル
新石器が大規模な商用フリートを維持できている要因は、ハードウェアのモジュール量産と、物流事業者の既存運行ダイヤに合わせた中継輸送プロセスの標準化にあります。
車両スペックと用途別のモジュール設計
新石器は、積載容積や走行性能に応じた3つのシリーズを展開しています。運転席やハンドルを完全に排除し、全容積を荷室とセンサー類に充当しています。
| モデル名 | 荷室容積 | 最高設計速度 | 主な輸送用途 |
|---|---|---|---|
| X3(Xolra 3) | 3立方メートル | 時速50km | 小口宅配便の中継、飲食・日用品の即時配送 |
| X6T(Xolra 6) | 6立方メートル | 時速80km | 物流拠点間の中距離横持ち、量販店への商品補充 |
| H12 | 12立方メートル | 時速65km | 物流センター間幹線接続、パレット構内搬送 |
公道走行時の実運用速度は、各国の安全基準や運行認可に基づき制限されます。また、輸送対象に応じて荷室ユニットを常温仕様からコールドチェーン用の冷蔵仕様へ換装できる設計を採用しています。新石器の創業者である余恩源氏によると、量産効果により車両1台あたりのハードウェア製造コストは、過去5年間の30万〜50万元から10万元(約240万円)以下まで低減しています。
宅配デポとサテライト拠点を結ぶ中継輸送フロー
中国大手物流会社の順豊集団では、集配拠点の末端工程にロボバンを組み込んでいます。
[地域仕分けデポ]
│
▼(大型トラック輸送)
[エリア配送ステーション]
│
▼(新石器 X6T / X3による自動中継)
[サテライト集配コンテナ / 指定荷捌き拠点]
│
▼(配達員による個別配達)
[エンドユーザー / 各住戸]
従来はドライバーが小型トラックを運転してエリア内のサテライト拠点まで荷物をピストン輸送していましたが、この区間をロボバンの自動往復運行に置き換えています。これによりドライバーは運転業務から解放され、狭小エリアでの集荷と戸別配送作業に専念できる体制を構築しています。
家具大手のIKEAや飲食チェーンの店舗配送においても、配送センターから大型店舗・サテライト拠点への夜間・早朝定時補充便に無人車を配備し、ドライバー不在時間帯の資材・商品移動を実現しています。
エンドツーエンドAIモデルによる運用コスト削減
今回調達された資金の主要な使途の一つが、エンドツーエンド(E2E)型自動運転モデルの学習強化です。
従来の自動運転システムは、センサー入力、物体認識、走行経路計画、車両制御という個別のモジュールを多段階で連携させるパイプライン構造が主流でした。しかしこの構造では、高精度3Dマップ(HDマップ)の作成・更新コストが新規都市への展開時に重い負担となります。
新石器は、センサー入力から車両制御信号の出力を単一のディープニューラルネットワークで直接生成するエンドツーエンドモデルへ移行を進めています。実走行で収集された2億6000万キロメートル超のデータを基盤モデルに直接学習させることで、複雑な道路状況や悪天候下での判断精度を高め、都市ごとの地図整備コストと遠隔監視オペレーターの配置比率を抑制しています。
参考記事: 物流コスト半減の実績。1億ドル調達「白犀牛」が変えるラストマイルの常識
日本市場への実装における適合要件とボトルネック
新石器のフリート拡大は急速ですが、日本国内の配送ネットワークへそのまま転用するには、運用環境と法規制の両面でクリアすべき条件が存在します。
制度・道路環境への適合
日本国内でレベル4無人配送車両を公道運用する場合、道路交通法に基づく特定自動運行計画の認可取得および道路運送車両法の保安基準緩和認定が必須となります。
中国では特定の実証特区において時速40km程度での車道走行が広く認められていますが、日本の公道環境では路肩駐車の多さ、幅員の狭さ、歩行者・自転車の混在が高度な障害物回避能力を要求します。そのため、公道に先立って東京流通センター(TRC)のような大規模物流施設の私有敷地内や、限定された産業団地内での構内横持ち輸送が当面の現実解となります。
グローバル展開における納入体制の制約
新石器のCEOである余恩源氏は、中東市場において1万台超を受注しながら、実際の納入台数が1000台未満にとどまっている現状を公表しています。自動運転車両の海外展開では、車両単体の輸出だけでなく、以下のインフラ整備が追いつかない場合に納入遅延が発生します。
- 現地における遠隔運行監視センターの設置と通信回線の冗長化
- 車載LiDARやカメラ、駆動系バッテリーの現地保守・部品供給網
- 現地法規に準拠したセンサーキャリブレーション環境の確保
日本企業が海外製無人配送車を導入する場合も、単年度の車両購入にとどまらず、継続的な運行管理システム(FMS)の保守体制が国内に確立されているかを検証する必要があります。
日本の物流現場で先行可能な領域
戸別配送の完全無人化は、荷物の受け渡しや建物のオートロック解除など「ラスト10メートル」の物理的障壁が残るため即座の実現は困難です。一方で、以下の定型業務は既存法制度の範囲内でも自動化を進めやすい領域です。
物流施設構内の棟間・フロア間横持ち輸送
複数棟で構成される大規模物流パークにおいて、トラックバースから保管棟へのパレット・カゴ車搬送を夜間時間帯に自動化します。
工場・倉庫間のシャトル運行
工業団地内の隣接する製造拠点と物流倉庫を結ぶルートを、特定自動運行認可を取得した自動運転車で定時運行します。
店舗向け早朝便の無人中継
ドライバーが稼働できない早朝時間帯に、配送センターから各地域のデポまで無人車で先行配送し、朝の集配開始時点で仕分けが完了している状態を作ります。
参考記事: ラストワンマイルとは?物流現場の課題と効率化に向けた再構築ステップ
630億円調達が示す無人搬送フリート運用の展望
新石器のシリーズE資金調達は、ラストワンマイルの自動運転が研究開発フェーズを完全に終え、数万台単位の運用コスト削減と保守インフラの構築を競う工業化フェーズへ入ったことを示しています。
物流企業にとっての次なる焦点は、無人車両単体の性能比較から、既存の輸配送管理システム(TMS)やドライバーの集配動線といかにシームレスに連携させられるかへ移行します。ハードウェア価格の低下が進む中、構内横持ちや拠点間中継といった定型ルートの無人化を早期に検証し、実効性のある運行管理プロセスを確立することが求められます。
出典: 36Kr Japan
出典: neolix.ai
出典: 科学技術振興機構(JST)
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