調達部品の遅延による生産ライン停止や、完成車の保管ヤード逼迫による出荷遅滞は、部門ごとの部分最適が生む構造的なロスに起因します。株式会社SUBARUが2025年4月にCLO(最高物流責任者)と物流本部を新設したサプライチェーン統合モデルは、調達・生産・出荷の機能を一元化し、製造業の物流コスト削減と運行効率化を両立する実践的な枠組みを提供します。
部門最適を排するSUBARUの物流改革と組織統合の基本構造
製造業における従来の物流管理は、調達、生産、販売の各事業部門が個別に輸送手配や在庫管理を行う「部門最適」に陥りやすい構造を抱えていました。SUBARUはこの分断を解消するため、調達から出荷までを一気通貫で統括する専任組織を立ち上げました。
2023年社長交代を起点とする「モノづくり革新」と物流の位置づけ
SUBARUは2023年に大崎篤氏が代表取締役社長に就任した際、新経営体制における方針の柱として「モノづくり革新」と「価値づくり」を掲げました。自動車の製造現場において、高品質な車両を効率的に組み立てるためには、工場へ適時・適量に部品を搬入する「調達物流」と、完成した車両を国内外の販売網へ確実に届ける「完成車物流」の同期化が前提となります。
自動車産業のサプライチェーンでは、サプライヤーから工場へ部品を運ぶ工程と、工場から港湾や販売ディーラーへ完成車を運ぶ工程が別々の組織で管理されてきました。部品調達の遅れは工場の稼働停止を招き、完成車の出荷遅延は港湾モータープールの滞留を生みます。SUBARUは物流を単なる付帯作業ではなく、「モノづくり革新」を成立させる中核機能と位置づけ、全社サプライチェーンを俯瞰する組織改編に着手しました。
2025年4月に発足した「物流本部」の3部門体制
SUBARUは2025年4月1日付の組織改正において、初代CLO(最高物流責任者)として村田眞一氏を任命し、経営直下の専門組織として「物流本部」を創設しました。従来「モノづくり本部」や国内・海外の各営業部門に分散していた物流機能を1つに集約し、以下の3部体制で運用を開始しています。
| 部署名 | 主な所管業務 | 解決を目指す組織課題 |
|---|---|---|
| 物流企画管理部 | 全社物流コストの集約、業務プロセスの可視化、改善課題の抽出 | 部門間で分散していた物流費・輸送データのブラックボックス化解消 |
| 生産部品物流部 | サプライヤーからの工場納入改善、米国拠点向けKD部品供給統括 | 生産計画の変動に伴う部品納入の混乱や欠品リスクの低減 |
| 完成車物流部 | 工場から国内販売店への輸送、輸出港への搬入、海上輸送手配 | 国内外営業部門ごとの個別手配による配車ロスや港湾滞留の是正 |
この組織改編により、工場への納入プロセスと完成車の搬出プロセスが同一の指揮系統下で管理されるようになりました。部品を納品した帰りの空車トラックを活用して近隣の完成車輸送や別工場の資材運搬に回すなど、輸送網の相互利用に向けた意思決定が迅速化されています。
物流統括管理者(CLO)と従来の物流管理責任者の違い
CLOは、現場の配車や倉庫作業の管理にとどまる従来の物流部長とは異なり、調達や生産、営業などの他部門に対して業務ルールの変更を指示できる役員級の権限を持ちます。
【従来の部分最適モデル】
[調達部門] サプライヤー都合の個別便発注 ──┐
[製造部門] 工場稼働率優先のロット生産 ──┼─→ [物流現場] 荷待ち・積載率低下・配車難
[営業部門] 顧客優先の短納期・即日配車要求 ──┘
【SUBARUの全体最適モデル(物流本部統括)】
[最高物流責任者(CLO)兼 物流本部長]
│
┌────────────────────┼────────────────────┐
▼ ▼ ▼
[物流企画管理部] [生産部品物流部] [完成車物流部]
全社コスト・データ可視化 部品納入・KD供給同期化 完成車陸送・海上輸送一元化
│ │ │
└────────────────────┴────────────────────┘
│ 指示・是正
[調達・生産・営業の各部門へ荷姿標準化・出荷平準化を指示]
従来の物流部長は、営業部門の短納期要求や製造工場の急なライン変更に対して受動的にトラックを手配する立場にありました。一方、CLOは役員級の立場でサプライチェーン全体に介入し、営業部門の受注締め時間緩和や工場の出荷スケジュール平準化を直接指示する役割を担います。
参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策
改正物流効率化法と自動車産業の構造変化が生んだ改革の必然性
SUBARUがCLO体制の構築に踏み切った背景には、国の法規制強化スケジュールと、自動車製造業特有のグローバルな輸送構造が存在します。
改正物流効率化法による特定荷主義務化への1年前倒し対応
物流の適正化および生産性向上を目的とする「物資の流通の効率化に関する法律(改正物流効率化法)」は、2024年5月15日に公布され、段階的な施行が進められました。
| 年月 | 制度・法規制の動き | 荷主企業に課される具体的要件 |
|---|---|---|
| 2024年4月1日 | 労働基準法改正(働き方改革関連法) | トラックドライバーの時間外労働に年間960時間の上限規制が適用 |
| 2025年4月1日 | 改正物流効率化法(第1段階施行) | 全荷主・物流事業者に対し荷待ち短縮や積載率向上を求める努力義務規定 |
| 2025年4月1日 | SUBARUの先行組織改編 | 改正法の義務化に1年先んじてCLOポストおよび物流本部を新設 |
| 2026年4月1日 | 改正物流効率化法(第2段階施行) | 取扱貨物量「年9万トン以上」の特定荷主に対しCLO選任・中長期計画策定を義務化 |
法律上の義務付けは2026年4月の本格施行(特定荷主へのCLO設置義務)からですが、SUBARUは2025年4月の段階で専任組織を整備しました。法改正への受動的な対応を待たず、自社のサプライチェーン防衛策として組織改革を先行させた形です。
自動車製造業のサプライチェーン特性と海外依存の輸送リスク
SUBARUの完成車生産比率は国内が約6割、米国が約4割を占めています。一方で、販売台数は約9割が海外向けであり、その大半を北米市場が占めています。
国内工場(群馬製作所など)で組み立てられた完成車の多くは、国内の港湾から自動車運搬船(RORO船)に積載されて輸出されます。また、米国の生産拠点(スバル・オブ・インディアナ・オートモーティブ)向けには、国内からエンジンやトランスミッションなどのKD(ノックダウン)部品をコンテナ輸送で供給し続ける必要があります。
国内の部品調達網、完成車の輸出陸送、海上コンテナの手配が滞れば、国内工場だけでなく米国の現地工場も稼働停止に追い込まれます。トラックドライバー不足による長距離輸送枠の減少は、部品納入と輸出ルートの双方を直撃するため、部門を超えた輸送リソースの管理が事業継続性に直結していました。
参考記事: 改正物流効率化法で年9万トン荷主にCLO義務化|営業ルールの改定権限を付与
全体最適アプローチがもたらす定量的・定性的な改革効果
物流本部が全社のコントロールタワーとして機能することで、調達部品の積載効率改善や運送事業者との運行平準化など、具体的な改善効果が生じています。
共同物流と拠点集約による積載率向上
SUBARUは外部の運送事業者と連携し、部品調達網の集約と幹線輸送の効率化を進めています。2026年2月からは、西濃運輸との協業により、中京地区に所在するサプライヤーからの調達部品を西濃運輸豊川支店へ一次集約するスキームを開始しました。
従来、各サプライヤーが個別に手配していた長距離トラック輸送を、中継拠点を介した幹線輸送便へと一本化することで、車両1台あたりの積載率を引き上げ、運行台数を削減しています。さらに、北本工場での荷役分離や、群馬製作所向け部品の混載便運行を推進し、荷役時間の短縮と物流コストの抑制を実現しています。
発荷主・着荷主の立場統合による取引先との関係改善
製造業は、サプライヤーから資材を受け取る「着荷主」であり、販売店へ完成車を送り出す「発荷主」でもあります。従来の縦割り組織では、工場側が着荷主としての荷受けルールを一方的に決め、営業部門が発荷主としての配送日程を決定していたため、運送事業者に対する指示系統が不揃いでした。
物流本部が一元窓口となることで、運送事業者との運賃交渉や運行スケジュールの調整が単一の部署に統合されました。待機時間の発生状況を全社データとして把握できるようになり、トラックの到着時刻指定やバース予約システムの導入を通じて、ドライバーの荷待ち時間を削減する運用が確立されています。
参考記事: トヨタが2026年4月法改正に動く、製造業に不可欠な出荷品質の保ち方
製造業がCLO主導の全体最適体制を導入するための実践手順
SUBARUのような全体最適型の物流体制を社内に導入するためには、既存の組織体制を段階的に見直し、権限とデータを整理していく必要があります。
導入ステップ1:全社物流コストと輸送データの可視化
最初のステップは、部門ごとに散在している物流データの集約です。購買部門が調達費の内数として処理している資材運賃や、営業部門の販売管理費に含まれる納品配車費を洗い出し、企業全体の総物流費を把握します。
自社が年間に委託しているトラック輸送の貨物量を算定し、特定荷主基準である「年9万トン以上」に該当するかどうかを確認します。あわせて、主要拠点ごとのトラック荷待ち時間、平均積載率、附帯作業の実態を数値化し、改善対象となるボトルネックを特定します。
導入ステップ2:役員級CLOの選任と部門横断の指揮権限設計
次に、全社横断で指示を出せる立場にある役員または執行役員クラスをCLOとして任命します。CLOの設置にあたっては、形骸化を防ぐために社内規程を改定し、以下の権限を明記する必要があります。
【CLOに付与すべき社内権限の範囲】
1. 営業部門に対する「受注締め時間の前倒し」および「納品リードタイム延長」の指示権
2. 製造部門に対する「生産ロット単位の見直し」および「出荷スケジュール平準化」の指示権
3. 購買部門に対する「サプライヤー納品便の指定」および「荷姿・パレット規格統一」の指示権
4. 運送事業者との取引条件(待機料・附帯作業料の計上)の見直しに関する最終決裁権
従来の物流部門長の権限範囲のままでは、営業目標や工場の製造効率を優先する他部門との利害調整を突破できません。経営陣がCLOへ業務ルールの是正命令権を明確に付与することが不可欠です。
導入ステップ3:調達・生産・出荷をまたぐ運用の平準化
組織と権限が定まった段階で、実際の業務プロセスの統合に着手します。入荷・出荷のピーク時間帯を分析し、トラックの入退場を管理するバース予約受付システムを導入して、構内での待機時間を削減します。
また、同一地域にあるサプライヤーからの部品調達においてミルクラン(巡回集荷)方式を採用したり、物流事業者のハブ拠点を活用した共同輸送網を構築したりすることで、積載効率を高めます。部分的な運賃削減を目指すのではなく、サプライチェーン全体の車両台数と稼働時間を最適化する運用ルールへ移行することが、持続可能な物流体制の構築につながります。
参考記事: 味の素・アイリスオーヤマに学ぶSCM|年9万トン規制対応と荷待ち削減
出典: 環境ビジネスオンライン
出典: subaru.co.jp
出典: cargo-news.online
出典: lnews.jp
出典: proguide.co.jp



