インコタームズ完全ガイド|2020年版の基礎から貿易実務での選び方まで徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:インコタームズとは、国際商業会議所が定めた世界共通の貿易ルールです。異なる国の企業間で商品をやり取りする際、商品の受け渡し場所や輸送・保険の手配、費用とリスクをどちらが負担するかを明確にする役割を持っています。
  • 実務への関わり:契約トラブルや予期せぬ追加費用の発生を防ぐための防波堤となります。全11種類の規則から最適なものを選ぶことで、見積りの精度向上や手配責任の明確化ができ、現場でのスムーズな取引と原価管理の徹底に直結します。
  • トレンド/将来予測:最新の2020年版ルールに基づく取引が定着する中、今後は物流DXと連動したデータ管理が不可欠になります。ERPやWMSなどの社内システムと連携させることで、原価計算や通関書類作成の自動化が進み、業務の効率化が加速すると予測されています。

インコタームズ(Incoterms)とは、国際商業会議所(ICC)が制定した貿易条件の国際規則です。異なる国の企業間で取引を行う際、「商品の受け渡し場所」「輸送や保険の手配」「費用負担と危険負担の移転時期」を明確にするための世界共通のルールとして機能しています。

しかし、これはあくまで表面的な定義に過ぎません。実際の貿易実務の最前線において、インコタームズは単なる契約上の用語ではなく、企業の利益を死守するための「防波堤」であり、精緻な原価管理を行うための絶対的なコアデータです。最新の「インコタームズ 2020 一覧」を正確に把握し、現場レベルで運用できていなければ、後から数百万単位の追加費用を請求されたり、事故発生時に保険が適用されないといった致命的なトラブルに直結します。本記事では、インコタームズの全容から実務における落とし穴、そして物流DXの根幹となるシステム管理の要諦まで、専門的かつ実践的な視点で徹底解説します。

インコタームズ(Incoterms)とは?貿易実務における基本と役割

なぜインコタームズが必要なのか?貿易取引における役割

貿易取引においてインコタームズが不可欠な理由は、商習慣や法律体系が全く異なる国同士の取引で生じる「言った・言わない」のトラブルを未然に防ぐためです。しかし、実務の現場では、インコタームズの選定が手配業務やシステム運用にダイレクトに影響するため、よりシビアな課題として立ちはだかります。

  • 見積りと原価管理の正確性担保:営業担当者が顧客の要望のまま安易に契約を結ぶと、プロジェクト全体の採算が崩壊します。優良なグローバル企業では、「見積もり原価と実績原価の乖離率(輸送コスト差異率)」を重要KPIとして設定していますが、この乖離の最大の原因はインコタームズの認識不足による追加費用(予期せぬ関税、デマレージ、保管料など)の発生です。
  • 輸送インフラの確保と手配責任の明確化:船積みやフライトの手配を輸出入者のどちらが行うかが決まらなければ、フォワーダーへのブッキングすらスタートできません。昨今のような地政学リスクやサプライチェーンの混乱下では、「どちらがスペース確保の主導権(ルーティングオーダー)を握るか」が納期達成率に直結します。手配責任を明確にすることは、単なる業務分担ではなく、自社のサプライチェーンを守るための戦略的決定です。
  • 物流DXへのシステム連携とBCP(事業継続計画):昨今の物流DX推進において、インコタームズはERPやWMS(倉庫管理システム)、TMS(輸配送管理システム)の根幹をなす重要なマスターデータです。システム上でこの条件設定を誤ると、運賃や保険料の自動計算が狂うだけでなく、通関書類(インボイス)の自動生成にもエラーを引き起こします。万が一、システム障害等で止まり、バックアップ体制として手動で通関書類を作成しなければならない事態に陥った際、「誰の手配・費用負担責任なのか」という前提条件が現場の頭に入っていなければ、物流は完全に麻痺してしまいます。

最重要ポイント:「費用負担」と「危険負担」の違いを正確に理解する

貿易実務において最も頭を悩ませるのが、「費用負担 危険負担 違い」です。この2つの概念を明確に切り離して理解することが、インコタームズ攻略における絶対条件となります。ここを混同したまま実務を進めるのは、目隠しをして高速道路を走るような危険な行為です。

概念 意味と実務上の定義 現場で発生しうるリアルなトラブル事例
費用負担 (Cost) 輸送運賃、保険料、通関費用、関税などのコストを、輸出者と輸入者のどちらが、どの地点まで支払うかの分岐点です。 仕向港に到着後、コンテナヤードでの保管料(デマレージ)が発生。条件の理解不足により、輸出者と輸入者で支払いを押し付け合い、貨物が引き取れず滞船料が雪だるま式に膨れ上がる。
危険負担 (Risk) 輸送中に貨物が破損、滅失、盗難に遭った際、その損害リスク(責任)がどの地点で輸出者から輸入者へ移転するかの分岐点です。 海上輸送中の荒天でコンテナが海中転落。運賃は輸出者払いだったが、危険負担は船積み時点で輸入者に移転していた。輸入者が保険を手配しておらず、全損害を被る大惨事に。

実務初心者は、社内共有用の資料として「インコタームズ 図解」を作成し、視覚的にこの分岐点を叩き込む傾向が非常に強いです。なぜなら、11種類の規則によって、この「費用負担と危険負担の移転ポイント」が同時(同じ場所)であるものと、ズレるものが混在しているからです。

例えば、E条件(EXW)やF条件(FCA、FAS、FOB)、およびD条件(DAP、DPU、DDP)は、基本的に「費用負担」と「危険負担」の分岐点が同じ地点になります。荷物を引き渡してリスクが移転するのと同時に、費用を負担する義務もそこで切り替わります。

しかし、C条件(CFR、CIF、CPT、CIP)は費用負担と危険負担の分岐点が異なる(ズレる)という、実務上極めて厄介なトラップが潜んでいます。「運賃の費用負担(Cost)は輸入国の指定仕向地まで輸出者が持つが、貨物破損などの危険負担(Risk)は輸出国側で運送人に荷物を引き渡した時点で早々に輸入者へ移転している」のです。この「C条件のトラップ」を理解していないと、前述のコンテナ海中転落のような事故発生時に自社の責任範囲を誤認します。実務上、貨物ダメージが発生した場合、迅速にサーベイヤー(損害鑑定人)を手配して証拠を保全しなければなりませんが、責任の所在を勘違いしていると初動が遅れ、保険求償が却下されるという取り返しのつかない事態を招きます。

【図解・一覧表】インコタームズ2020 全11規則の早見表と変更点

実務で使える!費用・危険負担の分岐点マトリクス表

貿易実務において、契約時の条件設定を誤ると、後々のトラブルで数百万円規模の損害を被ることも珍しくありません。特に「インコタームズ 2020 一覧」を参照し、輸出者(売主)と輸入者(買主)の間で「費用負担 危険負担 違い」を正確に社内共有しておくことは、厳密な原価管理に直結します。以下の表は、全11規則の分岐点をまとめたマトリクス表です。自社の基幹システムやWMSのマスターデータにこれらの条件を正しく設定することが、貿易実務のDX化における第一歩となります。

グループ 規則(略称) 適用輸送手段 危険負担(リスク)の移転場所 費用負担(コスト)の移転場所
E条件 EXW(工場渡し) 全輸送手段 売主の施設内で買主の処分に委ねた時点 同左
F条件 FCA(運送人渡し) 全輸送手段 指定場所で買主が手配した運送人に引き渡した時点 同左
F条件 FAS(船側渡し) 海上輸送 指定船積港で本船の船側に貨物を置いた時点 同左
F条件 FOB(本船渡し) 海上輸送 指定船積港で本船の船上に貨物を置いた時点 同左
C条件 CFR(運賃込み) 海上輸送 指定船積港で本船の船上に貨物を置いた時点 指定仕向港までの運賃を売主が負担
C条件 CIF(運賃・保険料込み) 海上輸送 指定船積港で本船の船上に貨物を置いた時点 指定仕向港までの運賃・保険料を売主が負担
C条件 CPT(輸送費込み) 全輸送手段 最初の運送人に貨物を引き渡した時点 指定仕向地までの輸送費を売主が負担
C条件 CIP(輸送費・保険料込み) 全輸送手段 最初の運送人に貨物を引き渡した時点 指定仕向地までの輸送費・保険料を売主が負担
D条件 DAP(仕向地持込渡し) 全輸送手段 指定仕向地に到着した輸送手段の上で(荷卸し準備完了状態で)引き渡した時点 同左
D条件 DPU(荷卸し込持込渡し) 全輸送手段 指定仕向地で輸送手段から荷卸しして引き渡した時点 同左
D条件 DDP(関税込み持込渡し) 全輸送手段 指定仕向地で輸入通関を済ませ、輸送手段の上で引き渡した時点 同左

現場実務において最も頻出する悩みが「FOB CIF 違い」や「DDP DAP 違い」です。これらの条件の誤用は、単純な費用の押し付け合いにとどまらず、税務コンプライアンスや現地の許認可要件に関わる重大なリスクを孕んでいます。表面的な「運賃を誰が払うか」という知識から脱却し、「物理的な貨物の引き渡し時点」と「通関の法的義務」という2つの軸で理解を深めることが不可欠です。

インコタームズ2010から2020への主な変更点(DAT廃止・DPU新設)

インコタームズは10年ごとに改訂されますが、2020年版のアップデートで現場のオペレーションに最も大きな影響を与えたのが以下の3点です。これらは過去の慣習に縛られた原価計算ロジックを見直すきっかけとなります。

  • DAT廃止とDPUの新設:従来のDATは「ターミナル」という言葉が限定的すぎたため、任意の場所(指定倉庫や建設現場など)での荷卸しを含む「DPU」へと実態に合わせて進化しました。DPUは全11規則の中で唯一、輸出者が「仕向地での荷卸し作業」までの費用負担と危険負担を負う条件です。例えば、プラント輸出や大型機械のプロジェクトで、現地の工場に手配した重機を用いて据付直前までを輸出者が担う場合などに適用されます。作業遅延や荷卸し中の落下リスクが輸出者にのしかかるため、現地協力会社との厳密なSLA(サービスレベル合意)が求められます。
  • FCAにおけるOn-board B/L(船積船荷証券)の交付:コンテナ輸送ではFCAの利用が推奨されますが、銀行の信用状(L/C)決済では資金回収の条件としてOn-board B/L(貨物が無事に船に積まれたことを証明する書類)が要求されることが多く、実務と金融要件のズレが生じていました。2020年版では、買主の指示で運送人が売主にOn-board B/Lを発行するオプションが追加され、FCAを利用しながらもスムーズなL/C決済が可能になりました。
  • CIPとCIFの保険カバー範囲の差別化:これまで両者は同じ最低限の保険条件(ICC(C)条件:限定的)が適用されていましたが、2020年版ではCIPに限り、より手厚いICC(A)条件(オールリスク)の付保が義務付けられました。航空輸送を伴う精密機器の輸出などでCIPを利用する場合、自動的に保険料の原価が上昇するため、見積もり時の正確な原価管理がより一層求められます。

あらゆる輸送手段(マルチモーダル・航空輸送)に適した7つの規則

EXW / FCA / CPT / CIP の特徴と実務上の注意点

これら4つの規則は、輸出側からメインの輸送区間にかけての「費用とリスクの移転」を定義しています。在来船向けの条件を無理にコンテナ・航空輸送に当てはめる悪習を断ち切り、これらマルチモーダル対応の規則を使いこなすことが重要です。

  • EXW(Ex Works)の実務的・法的罠:
    EXWでは輸出者は「自社倉庫に貨物を置くだけ」でよく、積み込み義務も輸出通関義務もありません。しかし実務では、輸出者の作業員が善意で自社のフォークリフトを使って積み込むケースが多発します。この時、誤って貨物を落下させた場合、危険負担はすでに移転しているため損害賠償の泥沼化を招きます。さらに重大なのが「コンプライアンス上のリスク」です。輸出通関を輸入者が行うことになりますが、日本の外為法に基づく該非判定や安全保障貿易管理の責任は実質的に国内のメーカーに残ります。非居住者(買主)が税関事務管理人を立てて適法に輸出申告を行うハードルは高く、実務上は輸出通関までを売主が担うFCAへの切り替えを強く推奨します。
  • FCA(Free Carrier)の使い勝手と推奨理由:
    買主が指定した運送人(フォワーダーやキャリア)に引き渡した時点で危険と費用の負担が移転します。コンテナターミナル(CY)や航空貨物代理店への搬入に最も適しており、現代のサプライチェーンにおける標準的な受渡し条件と言えます。
  • CPT / CIP における原価管理の落とし穴:
    前述の通り、危険負担(運送人に渡した時)と費用負担(仕向地まで)が「ズレる」のが最大の特徴です。CIPではICC(A)のオールリスク保険が義務付けられたため、保険料のコストアップをシステム上の標準原価マスタに反映し忘れると、取引件数が増えるほど赤字が膨らむ原因となります。

DAP / DPU / DDP の特徴とよくある疑問「DDP DAP 違い」

仕向地(輸入国側)での引き渡しを規定するDグループは、「顧客のドアの目の前まで届ける」条件です。しかし、実務上の最大の壁は「輸入国での予測不能な通関・税務トラブル」にあります。

特に検索ニーズが高く、実務でも混乱を招きやすいのが「DDP DAP 違い」です。最大の違いは「輸入通関手続きと関税・消費税の支払い義務がどちらにあるか」(DAPは買主、DDPは売主)ですが、ここには致命的な財務リスクが潜んでいます。

  • IOR(Importer of Record)と付加価値税(VAT/GST)の悲劇:
    営業部門が「顧客サービスの一環として」安易にDDP条件で契約を結ぶケースは後を絶ちません。しかし、DDPで輸出者が輸入国での通関を行うには、現地でのIOR(輸入記録者)となる資格や法人登記が必要な国が多く存在します。さらに、輸入時に税関に支払った付加価値税(VATやGST)は、通常であれば現地法人が売上税額から仕入税額控除として還付を受けられますが、現地に税務登録を持たない輸出者がDDPで立て替えた場合、還付を受けることができず、丸々「沈み込みコスト」として利益を圧迫します。
  • 航空輸送(エクスプレス便)におけるDDPの滞留リスク:
    クーリエ(航空特急便)でサンプル品を送る際、特定の輸入ライセンス(化学品、食品、医療機器など)が求められる国にDDPで発送すると、現地の通関業者(ブローカー)が輸入許可を取得できず、貨物が空港の保税地域で何週間も滞留します。その結果、商品代金を上回る莫大な保管料が発生します。
  • コンプライアンス部門との連携:
    DDPを利用する際は、物流部門だけでなく法務・税務部門と連携し、「現地での税務登録は済んでいるか」「必要な許認可は取得可能か」を事前審査するフローが必須です。これがクリアできない場合は、一律でDAP(輸入通関は顧客任せ)を適用するという厳格な社内ルール(ガバナンス)を敷くべきです。

海上および内陸水路輸送に特化した4つの規則

FAS / FOB / CFR / CIF の特徴と負担の分岐点

あらゆる輸送手段で利用できるFCA等とは異なり、これら4規則は鉄鋼材や木材、大型プラント設備など、在来船やバルク船(バラ積み船)の甲板へ貨物を直接積み込む海上輸送専用のルールです。

規則(略称) 危険負担(Risk)の移転時期 費用負担(Cost)の分岐点 海上保険の付保義務
FAS(船側渡し) 輸出港で、指定された本船の「横(船側)」に貨物を置いた時点 輸出港で、本船の船側に貨物を置くまでの費用 義務なし(買主が任意で手配)
FOB(本船甲板渡し) 輸出港で、貨物が指定された本船に「積み込まれた(On board)」時点 輸出港で、本船に貨物を積み込むまでの費用 義務なし(買主が任意で手配)
CFR(運賃込み) 輸出港で、貨物が指定された本船に「積み込まれた」時点 輸入港(目的地)に到着するまでの全運賃 義務なし(買主が任意で手配)
CIF(運賃・保険料込み) 輸出港で、貨物が指定された本船に「積み込まれた」時点 輸入港に到着するまでの全運賃 + 保険料 売主(輸出者)が手配する義務あり

これらの規則において実務上の「命綱」となるのが、ダメージがなく無事に本船に積載された事実証明となる「Clean B/L(無故障船荷証券)」の取得です。甲板への積み込み作業中に貨物が傷つき、B/Lに「Dirty」や「Foul」なリマーク(故障摘要)が記載されてしまうと、銀行でのL/C(信用状)買い取りが拒否される(ディスクレパンシーが発生する)ため、輸出者の資金回収に直結する重大事態となります。危険負担が「本船の甲板」という極めて物理的でアナログなポイントに設定されていることの重みを理解する必要があります。

実務で迷いやすい「FOB」と「CIF」の違いと正しい選び方

FOB CIF 違いにおいて最も危険な錯覚は、「CIFは輸入港までの費用を輸出者が払うため、輸入港までの破損リスクも輸出者が負ってくれる」という誤解です。CIFであっても、危険負担の分岐点はFOBと同じ「輸出港で本船に積み込まれた時点」です。航海中の嵐で貨物がダメージを受けた場合、損失を被るのは輸入者(買主)です。

実務視点での選択基準は「手配の主導権(ルーティングオーダー)」と「保険カバーの質」に集約されます。

  • FOBを選択すべきケース(買主視点):
    自国の懇意にしているフォワーダーや船会社を指定し、海上運賃のコントロール権を握りたい場合です。自社主導で厳格な原価管理とスケジュール管理を行いたい荷主にとってはFOBが定石です。また、自社で包括予定保険(オープンカバー)をかけておけば、どのような事故でも確実にカバーされる安心感があります。
  • CIFを受け入れる場合のリスク管理:
    輸出者が運賃と保険を手配するため現地での手配は楽になりますが、CIFで売主に義務付けられている海上保険は「最低水準(ICC(C)条件など)」でよいとされています。航海中の荒天による海水濡れ(W.A.)などが免責となり、輸入者に保険金が支払われないトラブルが後を絶ちません。CIFを受け入れる場合は、必ず売買契約書に「ICC(A)(オールリスク条件)での保険付保を必須とする」と特記を追加することがプロの実務鉄則です。

インコタームズ選びの鉄則:契約トラブルを防ぐ実務アプローチ

旧態依然とした商慣習からの脱却:社内ルールのガバナンスとKPI設定

現在の日本の貿易実務において、最も根深く、かつ危険な慣習が「コンテナ輸送におけるFOBおよびCIFの誤用」です。現代のコンテナ輸送では、輸出者は貨物をコンテナ・ヤード(CY)等で運送人に引き渡します。しかしFOBやCIFで契約していると、CY内でのクレーン作業中の落下事故など、すでに貨物のコントロールを手放しているにもかかわらず、本船に積まれる前であるという理由で輸出者が危険負担を負わされる理不尽なギャップが生じます。

この問題を解決するには、単に「FCAやCIPを使いましょう」と呼びかけるだけでは不十分です。「コンテナ輸送=FCA/CIP」を社内の絶対的なガバナンスとして定着させるため、以下のような組織的アプローチとKPI設定が必要です。

  • システムによる入力制御:受発注システムやERPにおいて、輸送モードで「コンテナ輸送(FCL/LCL)」を選択した場合、インコタームズのプルダウンからFOB/CIFを非表示(グレーアウト)にし、強制的にFCA/CIPを選択させるDX施策。
  • 重要KPIの監視:「インコタームズ条件の不備に起因する契約修正率」や「例外条件(DDPやFOBコンテナ等)の稟議申請数」を月次でトラッキングし、特定の営業部門に偏りがないか可視化する。
  • 部門間サイロの破壊:「売上を作りたい営業部門」と「リスクを減らしたい物流部門」の対立構造を解消するため、定期的なケーススタディ勉強会を実施し、トラブル時の損害賠償額を全社で共有する。

輸送モード(航空・海上・混載)に合わせた最適条件の選定フロー

実務の現場で最適な規則を瞬時に判断するため、以下の4ステップの選定フロー(チェックリスト)を社内マニュアルとして実装することを推奨します。

  1. 輸送モードによる初期スクリーニング:
    コンテナ輸送、航空輸送、クーリエであれば、直ちにFAS, FOB, CFR, CIFを選択肢から外す。
  2. 輸入国での通関・税務リスクの評価:
    ドア・ツー・ドア納品を求められた際、自社が現地でIOR(輸入者登録)やVAT還付を受けられる体制があるかを法務・税務部門に確認する。不可であればDDPを却下し、DAPを提示する。
  3. 荷卸し作業のリスクアセスメント:
    到着地での重機を用いた荷卸し作業が含まれるか確認する。自社の提携ネットワークで安全な作業が担保できない限り、DPU(荷卸込持込渡)は避け、荷卸し前で引き渡すDAPを選択する。
  4. 保険付保の主導権の決定:
    自社の包括海上保険(オープンポリシー)を利用する方がコストとカバー範囲の面で有利か比較検討し、有利であれば自社で保険をかける条件(輸出時はCIP/CIF、輸入時はFCA/FOB)に誘導する。

貿易実務のDX化とインコタームズのシステム管理

インコタームズの正確なデータ化がもたらす原価管理の適正化

現代のグローバルサプライチェーンにおいて、インコタームズはERP(統合基幹業務システム)やWMSと直結し、企業の利益率を左右する最重要のマスタデータです。条件認識のズレが引き起こす原価管理の崩壊を防ぐため、各インコタームズ条件をシステム上の「原価計上フラグ」として機能させる必要があります。

インコタームズ条件 想定される輸送手段 システム上の自動原価展開(例) 現場でのエラー発生ポイント
FCA(運送人渡) コンテナ / 航空輸送 輸出通関費用までを自社原価として計上 指定場所までの国内運賃や横持ち費用の入力漏れ
CIF(運賃保険料込) 海上輸送(在来船等) 商品原価 + 海上運賃 + 海上保険料 都度の保険料率の未更新による見積もり原価のブレ
DPU(荷卸込持込渡) あらゆる輸送手段 DAP原価 + 指定仕向地での荷卸し費用 特殊重機(クレーン等)や作業員の手配コスト見落とし
DDP(関税込み持込渡) あらゆる輸送手段 商品原価 + 全輸送費 + 輸入通関費・関税 HSコード誤認や急な税率変更による深刻な原価割れ

これらのデータ構造を構築する際、システム導入担当者は「単なる略語の登録」で終わらせてはいけません。各条件が持つ「費用負担の終点」を、勘定科目の自動仕訳ロジックに組み込むことが、真の原価可視化を実現します。

次世代の貿易DX:属人化の解消と社内システム(ERP等)との組織的連携

貿易実務は長らく「ベテラン担当者の頭の中にしかない暗黙知」に依存してきました。この属人化を打破するためには、インコタームズの知識をシステムに組み込み、部門横断的なデータ連携を図る「次世代の貿易DX」が不可欠です。

  • UI/UXによる入力アシスト:受発注システムに条件を入力する際、インコタームズの分岐点図解をポップアップ表示させ、「ここから先の破損リスクは自社負担ですがよろしいですか?」といった視覚的アラートを出し、ヒューマンエラーを未然に防ぐ。
  • フォワーダーやキャリアとのAPI連携:自社ERPと物流業者のトラッキングシステムをAPIで繋ぎ、例えば「FCA指定地点への貨物搬入完了(=危険負担の移転)」のステータス信号をリアルタイムで受信する。これをトリガーとして、自動的に売上計上や保険求償フラグを立てるスマートコントラクト的な思想の実装。
  • アナログなBCP(事業継続計画)の維持:クラウド障害等でシステムがダウンした瞬間に物流網が麻痺する事態を避けるため、出荷指示書などの帳票には常に「インコタームズ条件と危険負担の移転先」が明字される仕様とし、現場作業員がシステムなしでもアナログに判断できるバックアップ体制を確保する。

経営層やシステム部門は、物流DXを「単なるペーパーレス化」と矮小化してはなりません。インコタームズ条件の一つひとつの選択が、自社のキャッシュフロー、税務コンプライアンス、そして有事のリスク管理に直結しているという事実を深く認識すべきです。正しいルールの理解と、それを支える強固なシステム連携・組織的ガバナンスこそが、激動するグローバルサプライチェーンにおける最大の競争力となります。

よくある質問(FAQ)

Q. インコタームズとは簡単に言うと何ですか?

A. インコタームズとは、国際商業会議所(ICC)が定めた世界共通の貿易ルールのことです。異なる国の企業間で取引する際、「商品の受け渡し場所」「輸送や保険の手配」「費用やリスクの負担が移行するタイミング」を明確にします。このルールを正しく運用することで、予期せぬ追加費用や事故時の保険トラブルを防ぐことができます。

Q. インコタームズにおける費用負担と危険負担の違いは何ですか?

A. 「費用負担」とは、運賃や保険料などのコストを売り手と買い手のどちらが支払うかを示すものです。一方「危険負担」とは、輸送中の商品破損や紛失といったリスクの責任が、どの地点で売り手から買い手へ移るかを示します。インコタームズでは規則ごとにこれら2つの分岐点が厳密に定められており、実務において正確な理解が不可欠です。

Q. インコタームズの「DDP」と「DAP」の違いは何ですか?

A. 最大の違いは、輸入国における「輸入通関手続きと関税の支払い」を誰が負担するかです。DDP(関税込み仕向地渡)は、売り手が輸入通関や関税支払いを含むすべての費用とリスクを負担します。対してDAP(仕向地渡)は、指定目的地までの輸送は売り手が行いますが、輸入通関手続きと関税の支払いは買い手が負担するルールとなっています。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。