- キーワードの概要:カーボンニュートラル物流とは、荷物の輸送や保管といった物流活動全体において、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指す取り組みです。地球温暖化対策の一環として、特に二酸化炭素の排出割合が高い運輸・物流部門での対策が強く求められています。
- 実務への関わり:企業は自社の活動だけでなく、配送委託先を含めたサプライチェーン全体での排出量(Scope3)の把握と削減を求められています。実務現場においては、共同配送による積載率の向上や、鉄道・船舶へのモーダルシフト、配送車両のEV化、運行の効率化などを通じて、環境負荷とコストの双方を削減するアプローチが有効です。
- トレンド/将来予測:省エネ法の改正や新しい物流関連法により、一定規模以上の企業に対する排出削減計画の作成や報告義務化が進行しています。今後は、物流DXを活用したデータ算出の自動化が進むとともに、政府の補助金制度を活用したEV車両や太陽光発電の導入など、実効性のある脱炭素化の動きがさらに加速すると見込まれます。
日本国内における二酸化炭素(CO2)排出量のうち、およそ2割弱を占めるのが運輸部門です。なかでもサプライチェーンを支える物流・配送プロセスは、エネルギー消費が集中する構造上、環境負荷低減の要として注視されています。上場企業を中心に、配送プロセスのクリーン化が企業評価や投資判断の直接的な基準となったことで、委託先である物流企業に対する具体的な削減データの開示請求が定着し始めています。
- 物流業界が脱炭素を迫られる背景と運輸部門におけるCO2排出の現状
- 日本の運輸部門における二酸化炭素排出量の推移と削減目標
- 荷主企業が「グリーン物流」を強く志向する背景と社会的責任
- 物流における「Scope1・2・3」の定義とサプライチェーン排出量の算定手順
- 自社・委託先(サプライチェーン)で発生する排出量の区分定義
- 【実務向け】トンキロ法をはじめとする代表的なGHG算出モデル
- 脱炭素と運行効率化を両立するグリーン物流の4大アプローチ
- 積載率向上と待機時間削減を叶える「共同配送」と「物流DX」
- 長距離輸送の環境負荷を下げる「モーダルシフト」の導入基準
- 「車両のEV化」と倉庫の省エネ化に潜むインフラ課題と現実解
- 実在する大手物流企業・荷主企業のカーボンニュートラル先進事例
- 配送車両のEV化と拠点太陽光発電(佐川急便・ヤマト運輸の事例)
- 複数企業による共同配送とダブル連結トラックによる大量輸送効率化の事例
- 脱炭素物流への第一歩:自社の現在地測定から補助金活用までの実務チェックリスト
- 推進担当者が明日から実践すべき「4つの導入ステップ」
- 初期投資を抑える「国交省・環境省の主要な補助金・支援制度」
物流業界が脱炭素を迫られる背景と運輸部門におけるCO2排出の現状
日本の運輸部門における二酸化炭素排出量の推移と削減目標
日本のCO2総排出量における、運輸部門および貨物トラック輸送の定量データは以下の通りです。2030年度目標の達成には、貨物自動車部門の大幅な抑制が欠かせない現状が浮き彫りとなっています。
| 項目 | 2013年度実績(基準年) | 2022年度実績 | 2030年度削減目標 |
|---|---|---|---|
| 日本全体のCO2排出量 | 14億800万トン | 10億3,700万トン | 2013年度比 46%削減 |
| 運輸部門の排出量 | 2億2,400万トン | 1億9,200万トン | 1億4,500万トン(2013年度比 35%削減) |
| 運輸部門に占める貨物自動車の割合 | 37.1% | 38.5% | 業界全体での大幅な排出抑制が必要 |
こうした数値目標の背景を受け、法規制による義務化も進行しています。「省エネ法」の改正や「物流効率化新法」の施行にともない、年間輸送量が一定規模以上の荷主や運送事業者(特定事業者)に対し、CO2排出削減に向けた中長期計画の作成や定期的な報告が義務付けられました。計画内容が著しく不十分な場合は、勧告や公表、さらには罰則規定の適用といった実効性のあるペナルティが整備されています。
荷主企業が「グリーン物流」を強く志向する背景と社会的責任
荷主企業が自社の物流網に対してグリーン物流の構築を強く求める背景には、機関投資家や市場からの厳しい視線があります。特にグローバル市場で事業を展開する上場企業や、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の評価対象となる企業は、自社の直接排出(Scope1, 2)だけでなく、原材料調達から製品の配送・廃棄に至るサプライチェーン全体の排出量であるScope3 物流(主にカテゴリ4:輸送・配送の上流、カテゴリ9:輸送・配送の下流)の算定と削減状況について、年次レポートでの開示を求められます。
仮に荷主企業自体の工場やオフィスが再生可能エネルギー100%で稼働していても、物流委託先が配送効率の悪い旧式の大型トラックを使用し、排気ガスを放出し続けていれば、Scope3の数値は改善されず、ESG評価や機関投資家からの投資引き揚げ(ダイベストメント)のリスクを抱えることになります。そのため、荷主企業はサプライチェーンから基準に満たない配送業者を排除し、環境負荷の低い業者へ委託先をシフトする動きを本格化させています。
さらに、実務上の課題として、ドライバー不足が懸念される「2024年問題」への対応と脱炭素化は表裏一体の関係にあります。配送回数を削減して積載効率を高めることは、ドライバーの拘束時間を短縮すると同時に、1個あたりのCO2排出量を削減することに直結するためです。荷主企業と物流企業がパートナーシップを結び、以下の解決策を検討・導入する動きが活性化しています。
- 大型トラックから鉄道や船舶への転換を図るモーダルシフトの推進
- 競合他社や異業種との配送網の統合による共同配送の構築
- 配送ルートの最適化や積載状況のリアルタイム可視化を実現する物流DXの導入
これらの施策は、単なる環境保全活動ではなく、事業を継続するための「持続可能な輸送力」を確保するための生存戦略として位置づけられています。顧客や株主に対する社会的責任を果たすため、荷主企業が委託先選定において、環境対応力と効率化の提案力を重視する傾向はより強固なものとなっています。
物流における「Scope1・2・3」の定義とサプライチェーン排出量の算定手順
物流部門における「脱炭素」や「グリーン物流」の推進において、最初にして最大の障壁となるのが、温室効果ガス(GHG)排出量の「正確な把握」です。国際的な基準であるGHGプロトコルに基づき、自社の直接排出(Scope1)、他社から供給された電気などの使用に伴う間接排出(Scope2)、そしてサプライチェーン全体での間接排出(Scope3)を明確に切り分ける必要があります。
自社・委託先(サプライチェーン)で発生する排出量の区分定義
荷主企業と物流企業(3PLや実運送会社)では、同じ輸送・保管業務であっても分類されるScopeが異なります。実務における混乱を防ぐため、双方の視点から見た排出区分の定義を以下の表に整理しました。
| 物流業務の区分 | 具体的な業務内容・設備 | 荷主企業から見た区分 | 物流企業(委託先)から見た区分 |
|---|---|---|---|
| 自社保有車両による輸送 | 自社が所有・リースするトラックでの配送業務 | Scope 1(直接排出) | 対象外(自社で完結) |
| 自社保有・運営倉庫での保管 | 自社倉庫内のフォークリフト(燃料式)、照明や空調設備の使用 | Scope 1(燃料消費) Scope 2(電力消費) |
対象外(自社で完結) |
| 外部委託輸送(3PL、実運送) | 実運送会社や3PL企業に委託して行う製品・原材料の輸送 | Scope 3(カテゴリ4または9)※Scope3 物流に該当 | Scope 1(自社便の場合) Scope 3(再委託・下請け便の場合) |
| 賃貸・委託倉庫での保管 | 外部の3PL企業や倉庫会社が運営する倉庫での保管・荷役 | Scope 3(カテゴリ4または9、またはカテゴリ8) | Scope 1(フォークリフト燃料など) Scope 2(倉庫の電気使用) |
荷主企業が自車ではなく外部の運送会社や3PL企業に輸送を委託している場合、その輸送に伴う排出量はすべて荷主企業の「Scope3 物流」(主にカテゴリ4「輸送・配送(上流)」またはカテゴリ9「輸送・配送(下流)」)に分類されます。自社で直接コントロールできない委託先の排出量を算定・可視化することが、グリーン物流の推進において実務上の最初のステップとなります。
【実務向け】トンキロ法をはじめとする代表的なGHG算出モデル
Scope3の物流における排出量を算定するためには、国土交通省および経済産業省が策定した「ロジスティクス分野におけるCO2排出量算定方法共同ガイドライン」に準拠した算出モデルを使用します。
算定手法には、精度が高い順に「燃料法」「燃費法」「トンキロ法」の3種類が存在します。委託先から実際の燃料消費量や燃費データを回収することが理想ですが、複数の運送会社や混載便を利用している現場では困難なケースが多いため、実務では「トンキロ法(特に改良トンキロ法)」が広く採用されています。
- 1. 燃料法(精度:高):輸送に使用した実際の燃料使用量(軽油のL数など)に排出係数を乗じて算出します。主にScope1の自社保有車両や、特定の専属傭車でデータが完全に把握できる場合に適用します。
- 2. 燃費法(精度:中):輸送距離と車両の実際の燃費から燃料使用量を推計し、排出係数を乗じて算出します。
- 3. 改良トンキロ法(精度:低〜中・実務で最も一般的):運んだ貨物の重量(トン)と輸送距離(キロメートル)に、車両の最大積載量や積載率を考慮した「改良トンキロ法用の原単位」を乗じて算出します。
ここで、具体的な算定例を示します。ある荷主企業が「月間100トンの製品を、最大積載量10トンの常温トラック(普通貨物自動車)で、工場から配送センターまでの500kmを委託輸送した」場合の、改良トンキロ法による算定プロセスです。
【計算条件】
- 輸送貨物重量:100トン
- 輸送距離:500 km
- 総輸送量(トンキロ):100トン × 500km = 50,000 トンキロ
- 使用車両:最大積載量 10トン車(普通貨物自動車)
- 改良トンキロ法におけるCO2排出原単位(※国交省ガイドラインの標準値):0.076 kg-CO2/トンキロ(※車両の最大積載量や復路の積載状況等により値は変動します)
【算定式】
CO2排出量 = 総輸送量(トンキロ) × 排出原単位
50,000 トンキロ × 0.076 kg-CO2/トンキロ = 3,800 kg-CO2(3.8 t-CO2)
この算定プロセスを効率化するためには、日々の配送伝票データ(出荷量・発着地・車種情報)を自動で集計できる「物流DX」ツールの導入が効果的です。手作業でのExcel管理から脱却し、輸配送管理システム(TMS)などから出力される運行データと連携させることで、算定の工数を大幅に削減できます。
また、算定された結果をベースに、配送ルートの最適化やモーダルシフト(鉄道・内航船への切り替え)、あるいは他社との共同配送を計画する際にも、このトンキロ法による比較シミュレーションが役立ちます。例えば、上記のトラック輸送を鉄道輸送に切り替えた場合、排出原単位は約11分の1(鉄道の代表的な原単位:0.007 kg-CO2/トンキロ)となり、削減予定効果を事前に定量的なデータとして算出することが可能になります。
脱炭素と運行効率化を両立するグリーン物流の4大アプローチ
サプライチェーン全体の排出量(Scope3 物流)を削減しつつ、収益性を維持するためには、従来の輸送効率化の延長線上にグリーン物流を位置付ける必要があります。単なるコスト負担や環境貢献活動として捉えるのではなく、配送効率と積載率を向上させ、持続可能な物流体制を構築するための4つの実践的なアプローチ(共同配送、物流DX、モーダルシフト、車両EV化・倉庫の省エネ化)を提示します。
積載率向上と待機時間削減を叶える「共同配送」と「物流DX」
日本のトラック輸送における平均積載率は約38%から40%にとどまっており、この「空気を運んでいる状態」を解消することが、直ちに行える脱炭素施策です。競合する複数の荷主企業が同一の配送エリアに対して共同でトラックを手配する「共同配送」は、積載率を向上させるための手段となります。
例えば、同一エリアにある3社のドラッグストア向け配送を、1社の3PL事業者が一括して受託し共同配送へと切り替えた場合、各社が個別に運行していた3台の4トントラックを1台の大型トラック(10トン)に集約できます。この結果、積載率は45%から80%へと向上し、対象ルートにおけるCO2排出量は約40%削減されます。さらに、荷受側にとっても納品車両の台数が減るため、荷受け時の作業効率化につながります。
また、共同配送の推進と並行して不可欠なのが、配送現場のムダを排除する物流DXの実装です。特に、長時間労働や余計な燃料消費の温床となっている「荷待ち・荷役時間」の削減は、運行効率と脱炭素の双方に直結します。
トラック予約受付システム(バース管理システム)を導入した配送センターでは、到着から荷役開始までの平均待機時間を2時間から15分へと削減した実例があります。これにより、アイドリング時の燃料消費(1時間あたり約0.8〜1.2リットル)をカットでき、車両1台あたり年間で約1トンのCO2削減が可能です。さらに、運行管理システム(TMS)を連携させ、配送ルートを自動最適化することで、走行距離そのものを5〜10%短縮し、燃料費の削減と同時に排出量を削減できます。
長距離輸送の環境負荷を下げる「モーダルシフト」の導入基準
長距離(一般的に500km以上)の幹線輸送において、CO2排出量を大幅に削減する手段が、トラックから鉄道や船舶(内航海運)へと輸送モードを転換する「モーダルシフト」です。
国土交通省の統計によると、営業用トラックの輸送量あたりのCO2排出量は216g-CO2/トンキロであるのに対し、鉄道は20g-CO2/トンキロ(約11分の1)、内航海運は43g-CO2/トンキロ(約5分の1)と、環境負荷が低いのが特徴です。しかし、すべての輸送をモーダルシフトに切り替えることは実務上不可能であり、導入にあたっては、以下の具体的な判断基準を基に適合性を評価する必要があります。
| 項目 | 長距離トラック | 鉄道コンテナ輸送 | 内航海運(フェリー・RORO船) |
|---|---|---|---|
| 輸送リードタイム | 翌日配送が可能(柔軟性が高い) | 発着駅の運行ダイヤに依存(1〜2日の追加日数が生じる場合あり) | 運航スケジュールに依存(2〜3日の追加日数が生じる場合あり) |
| 1回あたりの最小ロット | 制限なし(1パレット単位から) | 5トンコンテナまたは31フィートコンテナ(約10トン)単位 | シャーシ(10〜20トン)または船倉単位の大ロット |
| CO2削減効果(基準値比) | 0%(基準) | 約90%削減 | 約80%削減 |
| 主な適性品 | 緊急性の高い荷物、小ロット多頻度の配送 | 定期発生する中ロットの加工食品・日用品 | 定期発生する大ロットの原材料、非鉄金属、重量物 |
モーダルシフトを成功させるための具体的な手順は、まず自社の長距離運行データから「出発・到着時刻の制約が緩い(リードタイムに2日以上の余裕がある)」「月間でまとまった物量(例:週3回、片道10トン以上)が定期発生する」ルートをスクリーニングすることです。例えば、東京〜大阪間の幹線輸送において、納品期限を1日緩和することで鉄道コンテナへの切り替えが可能となり、配送費用の削減とScope3 物流における排出量の8割削減を同時に実現できます。
「車両のEV化」と倉庫の省エネ化に潜むインフラ課題と現実解
輸送の直接排出(Scope 1)をゼロにする手段として期待される「車両のEV化」ですが、多くの物流企業にとって、一足飛びの全車両EV化は現実的ではありません。そこには、現場が直面せざるを得ない3つの高いインフラ障壁が存在します。
- 初期投資コストの負担:小型EVトラックの車両価格は、同クラスのディーゼル車の約2〜3倍に達します。さらに、急速充電器の設置には1基あたり100万〜300万円の初期費用がかかります。
- 充電インフラと受電容量の制限:複数台のEVトラックを同時に急速充電する場合、事業所全体の契約電力(デマンド値)が跳ね上がり、高圧受電設備(キュービクル)の改修に数千万円規模の追加投資が必要になるケースがあります。
- 航続距離と稼働率の低下:小型EVトラックの実質的な航続距離は100km〜150km程度であり、長距離や寒冷地での稼働、エアコン使用時にはさらに短縮されます。充電時間が必要なため、ディーゼル車のような24時間連続稼働が困難です。
これら現場の障壁を乗り越えるための「段階的な現実解」は以下の通りです。
- 「ラストワンマイル」への限定導入:1日の走行距離が60km〜80kmと決まっており、夜間に事業所で普通充電(単相200V)が可能な「ルート配送」や「都市部宅配」に絞って小型EVトラックを数台から導入します。これにより、高額な急速充電器や高圧受電設備の改修を回避できます。
- ハイブリッド車(HV)およびクリーンディーゼル車との併用:幹線輸送や長距離運行にはディーゼル車やHV車を継続使用しつつ、急発進・急ブレーキの抑制や適切なギアシフトを行うエコドライブ管理システム(EMS)を導入します。これにより、車両買い替えコストを抑えながら、既存のディーゼル車でも約5〜15%の燃費改善(=CO2排出削減)を即座に達成できます。
実在する大手物流企業・荷主企業のカーボンニュートラル先進事例
サプライチェーン全体における脱炭素、特に荷主企業が排出する「Scope3 物流」の削減を実現するためには、単一企業の努力だけではなく、荷主と物流企業の強力なパートナーシップが不可欠です。実際に、国内の先進企業は、ハードウェアの導入とソフト面での効率化を掛け合わせることで、環境負荷低減と輸送効率向上を両立させています。自社の物流網へ落とし込むための具体的なスキームとして、先行事例を紹介します。
配送車両 of EV化と拠点太陽光発電(佐川急便・ヤマト運輸の事例)
ラストワンマイルの脱炭素化を牽引する、配送車両のEV化と拠点インフラの再エネ化。これを先進的に進める大手物流企業2社の事例を整理します。
| 企業名 | 具体的な施策内容 | 得られた効果・今後の目標 |
|---|---|---|
| 佐川急便 | ・集配用軽自動車を対象としたオリジナル小型EVトラックの共同開発および順次導入 | ・2030年度までに集配用軽自動車約7,200台の全数EV化を計画 ・ラストワンマイル走行時におけるCO2排出量の削減を推進 |
| ヤマト運輸 | ・群馬県などの営業所における太陽光発電設備とEVを連携させたエネルギーマネジメントの実装 | ・日中の太陽光電力をEV充電へ活用することで、配送拠点における再生可能エネルギー比率を向上 ・2030年までにEV 20,000台の導入目標を掲げ、グリーンな配送網を構築 |
これらの取り組みは、荷主企業にとっては委託先を切り替えることなく、通常の配送を依頼するだけで、自社のScope3における物流由来のCO2排出量を削減できる仕組みとなっています。
複数企業による共同配送とダブル連結トラックによる大量輸送効率化の事例
長距離の幹線輸送における環境負荷低減においては、個別企業での対応に限界があります。そのため、荷主企業同士や物流企業同士が協力する「共同配送」や「モーダルシフト」、および1度に2台分の貨物を輸送できる「ダブル連結トラック」の活用が有力な解決策となっています。
日用品メーカーの大手であるライオン、ユニ・チャーム、資生堂、エフティ資生堂の4社は、競合の垣根を越えて日本通運(NXグループ)と連携し、関東・九州間の長距離輸送において共同配送およびモーダルシフトを実施しました。それまで各社が個別にトラックを手配していたプロセスを見直し、複数の荷主の荷物を集約して、輸送手段を長距離トラックからJR貨物の鉄道コンテナへと一括転換しました。
この取り組みには、積載効率を高めるための高度な「物流DX」が組み込まれています。各社の出荷情報や荷姿サイズをシステム上で共有・マッチングさせ、コンテナ内の隙間を最小限に抑える配車・積付計画を自動で策定する仕組みを導入しています。このアプローチにより、手配するトラック台数を大幅に抑制し、輸送に関わるCO2排出量を従来のトラック単独輸送と比較して最大約40%削減することに成功しました。
また、道路上の省人化と大量輸送を同時に実現するアプローチとして、全長25メートルの「ダブル連結トラック」の活用が進んでいます。ヤマト運輸や佐川急便、福山通運、日本通運などは、共同で関西・関東間の幹線輸送においてダブル連結トラックを導入し、複数社の荷物を1人のドライバーで一括輸送する共同幹線輸送を行っています。これにより、大型トラック2台を走らせる場合と比較して、燃料消費量およびCO2排出量を約30%削減する効果を得ています。
これらの事例は、自社の積載率が低い、あるいは長距離輸送の多さに悩む荷主企業にとって、「同じ方面へ配送する他社と荷物をまとめる」「物流企業の共同幹線枠を活用する」という具体的なグリーン物流のスキームを提示する好例となっています。
脱炭素物流への第一歩:自社の現在地測定から補助金活用までの実務チェックリスト
物流部門における脱炭素化は、単なる環境貢献ではなく、サプライチェーン全体の維持に直結する実務上の要請です。ここでは、社内で推進体制を整えて実行に移すための具体的な手順と、初期投資を抑えるために不可欠な国の補助金制度の実務的なポイントを整理して紹介します。
推進担当者が明日から実践すべき「4つの導入ステップ」
グリーン物流を自社に導入する際、最初から大規模なシステム投資を行う必要はありません。まずは以下の4つのステップに沿って、現状の把握と関係各所との連携体制を構築します。
-
ステップ1:社内およびサプライチェーン間の推進体制の構築
まずは荷主企業の環境管理部門、SCM(サプライチェーンマネジメント)部門、そして実際の運行を担う委託先3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者や運送会社の実務担当者を交えた「物流脱炭素化推進ワーキンググループ」を設置します。Scope3 物流における温室効果ガス(GHG)排出量のデータは、自社だけでは完結せず、運送事業者が保有する燃料使用量や走行距離のデータが必要となるため、最初期からのパートナーシップ構築が基本となります。
-
ステップ2:輸送方法・ルートの可視化と「現在地の測定」(現状把握)
自社の輸送ルートと排出量を数値化します。まずは荷主企業が利用しやすい国土交通省推奨の「改良トンキロ法」を用い、年間輸送量(トン)と輸送距離(キロメートル)に、車種別の排出原単位を乗じて暫定的な排出量を算出します。さらに精度を高めるため、主要な配送ルートにおいては、運行管理システムやデジタコ(デジタルタコグラフ)などの物流DXツールから取得した実走行データ(燃料消費量)に基づく「燃料法」へ移行し、算定基準の精度向上を図ります。
-
ステップ3:実現可能な削減目標の策定と施策の選定
現状の排出量をベースに、中期的な削減計画を立てます。例えば「5年後に物流部門のCO2排出量を15%削減する」という目標に対し、以下のような具体的施策を割り当てます。
- 500km以上の長距離幹線輸送のうち、月間40トンの輸送分を鉄道や船舶に切り替えるモーダルシフトの計画。
- 同業他社や近隣企業とのルート共有による共同配送の実施。
- トラック予約受付システムの導入による荷待ち時間の短縮。
-
ステップ4:実行と効果検証の定常化
選定した施策を実行に移し、削減効果を追跡します。3PL事業者から毎月提供される運行実績報告と、自社の出荷データを連携し、削減されたCO2排出量を四半期ごとに算出します。これにより、削減目標に対する進捗をステークホルダーへ開示できる体制が整います。
初期投資を抑える「国交省・環境省の主要な補助金・支援制度」
モーダルシフトや共同配送の実施、物流DXに必要なシステムの導入、あるいは低炭素車両への買い替えには、一定の初期コストが発生します。これらの資金負担を軽減するため、国土交通省、経済産業省、環境省が実施している主要な補助金・支援制度の概要と申請のポイントを以下の表にまとめました。
| 制度名 | 主な管轄官庁 | 補助・支援対象となる取り組み | 補助率・支援内容の目安 | 申請における実務ポイント |
|---|---|---|---|---|
| グリーン物流パートナーシップ推進事業 | 経済産業省、国土交通省 等 | 荷主と物流事業者が連携して実施する、モーダルシフト、共同配送、輸送効率化のための荷役機械やシステムの導入。 | 補助対象経費の2分の1以内など(事業内容による) | 単独企業での申請は不可。必ず「荷主と物流事業者の共同申請」であること、およびCO2排出量削減計画の定量的な提示が必要です。 |
| 流通業務総合効率化法(物流効率化法)に基づく認定・支援 | 国土交通省 | 2以上の事業者が共同で行う、共同配送、モーダルシフト、輸送網の集約(共同輸配送、トラック予約受付システムの導入など)。 | 各種補助金(モーダルシフト等推進事業)の優先採択、登録免許税・固定資産税の軽減。 | 事前に法律に基づく「総合効率化計画」の認定を受ける必要があります。省力化とCO2削減を同時に達成する事業計画書を作成します。 |
| 二酸化炭素排出抑制対策事業費補助金(商用車の電動化促進事業など) | 環境省 | EV(電気)トラック、FCV(燃料電池)トラックなどの電動貨物車、および専用の充電インフラの導入。 | 標準的なディーゼル車両との差額の一部(車両の区分・スペックにより上限あり) | 車両の購入契約を締結する前に申請を行う必要があります。導入後の走行データや電力使用量の報告義務が伴う場合があります。 |
これらの補助金や税制優遇を活用する際は、いずれの制度においても「削減されるCO2排出量の事前算出」と「事業者間の合意形成」が前提となります。自社だけで手続きを進めるのではなく、委託先である運送事業者やITベンダーと共同で、公募開始前の早い段階から計画づくりに着手することが、審査を通過するための鍵となります。
よくある質問(FAQ)
Q. カーボンニュートラル物流とは何ですか?
A. 物流プロセス(輸送、保管、荷役等)における温室効果ガス排出量を実質ゼロにする取り組みです。日本の二酸化炭素排出量の約2割弱を占める運輸部門において、環境負荷低減の要となっています。具体的には、車両のEV化、共同配送、モーダルシフト、倉庫の省エネ化などを通じて、環境対策と運行効率化の両立を目指します。
Q. 物流におけるScope 1・2・3の違いは何ですか?
A. Scope1は自社の車両や施設からの直接排出、Scope2は他社から供給された電気等の使用による間接排出です。Scope3は、委託先配送や原材料調達など、サプライチェーン全体で発生する他社の排出量を指します。企業の環境評価においては、これらを合算した「サプライチェーン排出量」の開示と削減が強く求められています。
Q. グリーン物流を推進するための具体的な取り組みには何がありますか?
A. 主なアプローチは4つあります。1つ目は積載率向上や待機時間削減を図る「共同配送・物流DX」、2つ目はトラック輸送を鉄道や船舶に転換する「モーダルシフト」、3つ目は「配送車両のEV化」、4つ目は「倉庫の省エネ化・太陽光発電導入」です。これらを段階的に実施することで、脱炭素とコスト削減を両立します。