標準的な運賃とは?2024年4月改定の5大ポイントと実務対応を徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:国土交通省がトラック運送事業者の適正な利益を確保するために定めた運賃の目安です。2024年4月の改定では、平均約8%の引き上げや、荷待ち・荷役など附帯作業の料金を分けて請求するルールが明確化されました。
  • 実務への関わり:運送事業者はこの運賃表を基準に運輸支局へ届出を行い、荷主との価格交渉の根拠として活用します。荷主にとっても適正運賃を支払わない場合は行政指導を受けるリスクがあるため、コンプライアンス遵守に直結します。
  • トレンド/将来予測:深刻なドライバー不足を背景に、単なる運賃値上げにとどまらず、物流システムを導入して運賃計算や配車業務を効率化するDXの動きが加速しています。今後はより透明性の高い運賃管理が求められます。

2024年4月に実施された「標準的な運賃」の改定は、トラック運送業界およびサプライチェーン全体にとって歴史的な転換点です。本記事では、国土交通省が告示した新制度の概要から、平均8%の運賃引き上げ、待機時間料・荷役作業費の別建て請求、燃料サーチャージの改定といった5つの重要ポイントを徹底解説します。さらに、運送事業者向けの「運賃届出」の具体的手順や交渉ノウハウ、荷主企業向けのコンプライアンス対策(トラックGメン対応)、そして双方にとって不可欠となる「物流DX」の実装戦略まで、実務に直結する深い知見を網羅しました。単なる制度解説にとどまらず、現場の実務における落とし穴や、成功のための重要KPI、DX推進時の組織的課題にも踏み込んだ、完全保存版の解説記事としてご活用ください。

目次

2024年4月改定「標準的な運賃」とは?制度の概要と背景

2024年4月、国土交通省はトラック運送業界の歴史的な転換点となる標準的な運賃の改定を告示しました。本章では、改定された運賃の具体的な数値や計算ロジックに踏み込む前に、まずはこの制度が持つ本来の目的と法的根拠、そしてなぜ今、大幅な引き上げが必要とされたのかという「大前提」を共有します。

「標準的な運賃」の定義と法的根拠(時限措置の延長)

「標準的な運賃」とは、改正貨物自動車運送事業法に基づき、国土交通省が「トラック事業者が法令を遵守し、持続的に事業を運営するために必要な参考指標」として告示する運賃のことです。本来は2024年3月末までの時限措置でしたが、深刻なドライバー不足や物価高騰などの外的要因を鑑み、「当分の間」延長されることが決定しました。

しかし、物流現場の実務担当者にとって重要なのは、「国が定めた目安」という表面的な定義ではありません。実務上、この指標は「荷主との熾烈な価格交渉における唯一にして最大の公式な武器」として機能します。運送事業者が管轄の運輸支局へ運賃の届出を行う際、行政書士に書類作成を丸投げして満足するケースが散見されますが、これは最大の実務上の落とし穴です。届出を済ませただけでは利益は1円も増えません。自社の実際の運行原価(車両償却費、燃料費、人件費)と、国が提示する運賃表を1円単位で突合し、「自社の運賃がいかに適正水準を下回っているか」を可視化する原価計算のプロセスこそが、価格交渉の勝敗を分けるのです。

近年では、適正な運賃設定や届出状況が、適正化事業実施機関の巡回指導においても極めて厳しくチェックされるようになっています。未届出や形骸化した運賃表の放置は、単なる事務的な不備ではなく、コンプライアンス上の重大な経営リスクに直結すると認識すべきです。

立場 表面的な理解(建前) 現場におけるリアルな運用と課題(本音)
運送事業者 国が定めた適正な目安運賃 荷主との交渉テーブルに着くための「理論武装ツール」。届出による大義名分の獲得と、徹底した原価把握に基づくデータ提示が必須。
荷主企業 運送会社からの値上げ要請の根拠 社内の役員会議や調達部門で物流コスト増の稟議を通すための「公的な大義名分」。不当に拒否すればトラックGメンによる行政指導リスクを背負う。
行政機関 法に基づく参考運賃の告示 巡回指導における重点確認項目。制度を無視する悪質な荷主には、実力行使による指導・勧告を行うための絶対的な判断基準。

なぜ改定が必要だったのか?(2024年問題とドライバーの待遇改善)

今回の改定の根底には、日本のサプライチェーン全体を揺るがす危機があります。時間外労働の上限規制(年960時間)が適用されたことで、ドライバー1人あたりの稼働時間が短縮され、結果として運送事業者の売上減少とドライバーの収入減が同時に引き起こされる事態、いわゆる「物流の2024年問題」に直面しています。国・専門機関の試算では、何の対策も講じなければ2024年度には約14%、2030年度には約34%の輸送能力が不足すると警告されています。

この状況を打破するためのキーワードが、適正な運賃・料金の回収による原資の確保とドライバーへの還元です。これまでの運送業界では、長らく「運賃コミコミ」という悪しき慣習が蔓延していました。軽油価格の乱高下に対する燃料サーチャージ、パレットの積み替えや手荷役を強いられる荷役作業費、さらには荷主の都合でバース接車を待たされる待機時間料などが、すべて基本運賃の中に曖昧に内包されてきたのです。今回の改定では、これらの付帯業務や変動コストを運賃から明確に切り離し、別建てで請求する仕組みが強く打ち出されました。

さらに、国も単なる「お願いベース」からフェーズを移行しています。荷主の不当な扱いを監視・是正する専門部隊であるトラックGメンを全国に配置し、監視体制を劇的に強化しました。「合理的な理由なく運賃交渉に応じない」「長時間の待機を恒常的に強要する」といった悪質な荷主には、勧告や社名公表という厳しい措置が容赦なく下されます。これにより、荷主企業側も従来の「下請け叩き」から、持続可能なサプライチェーンを構築するための「パートナーとしての適正なコスト負担」へと、強制的に方針転換を迫られているのが現在の物流業界のリアルな姿です。

【2024年改定版】標準的な運賃の5つの変更ポイント

令和6年3月22日に告示された改定は、単なる金額のアップデートにとどまらず、長年の商慣習を是正するための「武器」として設計されています。ここでは、運送事業者や荷主の現場実務において、具体的にどのようなルールが変わり、どう運用すべきかを5つの重要ポイントに分けて解説します。

① 運賃水準の平均約8%引き上げと実務への落とし込み

物価高騰やドライバーの労働条件改善を背景に、運賃水準全体が平均約8%引き上げられました。しかし、実務現場で重要なのは「8%という数字」そのものではなく、これをどう交渉に落とし込むかです。

国土交通省が公開している新しい運賃表をそのまま荷主に提示しても、「はい、そうですか」と応じる企業は稀です。現場では、自社の実際の原価と運賃表の乖離を客観的データとして可視化するステップが不可欠となります。また、交渉を成功に導くための重要KPIとして、「運賃改定受諾率」だけでなく「改定による利益増分をドライバーの基本給にどれだけ反映できたか(還元率)」を設定することが、人材流出を防ぐ上で極めて重要です。

② 待機時間料・荷役作業費などの別建て(加算料金)の徹底

今回の改定で現場の収益に最も直結するのが、これまで運賃にコミコミとされがちだった待機時間料および荷役作業費の別建て請求の明確化です。

  • 待機時間料:荷主都合による30分を超える待機に対して発生(例:大型車で30分あたり約1,800円〜、地域により変動)
  • 荷役作業費:パレット積み降ろし、手荷役、フォークリフト作業、仕分け作業などの対価

実務で一番苦労するのは「誰が指示したか」という責任の所在と「請求根拠(エビデンス)の確保」です。荷主に請求書を突き返されないためには、物流DX(クラウド型デジタコや動態管理システム)を活用し、GPS連動のジオフェンス機能等を用いて拠点への到着・離脱時刻を自動記録する仕組みが欠かせません。システムが止まった際のバックアップとして、ドライバーの乗務記録簿に荷受人のサインを求めるアナログな運用ルールも併用すべきです。

③ 燃料サーチャージ基準額の改定と算出・請求フローの再構築

軽油価格の高止まりを受け、燃料サーチャージの算出基礎となる基準価格が見直されました。実務においては、この基準額を超えた分の燃料代を毎月正確に荷主に転嫁する仕組みを、自社の請求フローに組み込む必要があります。

項目 改定前 改定後(2024年版)
基準燃料価格 100円/L前後(地域・時期により変動) 120円/L
請求書への記載 運賃に内包、または曖昧な請求 「基本運賃」と「燃料サーチャージ」を別項目として明記

現場の経理・配車担当者が直面する組織的課題として、システム改修の遅れが挙げられます。WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)が古い場合、サーチャージの自動計算に対応できず手作業でのエクセル計算になり、請求漏れや計算ミスが多発します。システム改修が間に合わない場合は、四半期ごとの見直しとするなど、荷主と「価格改定のタイミングと算出基準」を事前に覚書で締結しておくのが実務の鉄則です。

④ 下請け手数料(利用運送)の規定と多重下請け構造の是正

物流業界の長年の課題である「多重下請け構造」にメスを入れるため、新たに「下請け手数料(利用運送手数料)」の目安が設定されました。具体的には、元請けが受け取った運賃から下請けへ委託する際、運賃の10%を下請け手数料として設定する規定が盛り込まれました。

これは、一部の利用運送事業者が不当に高いマージンを中抜きすることを防ぐための牽制球です。荷主企業の物流部門責任者は「自社が支払った運賃が、末端のトラック事業者に適正に支払われているか(スコープ3の観点)」を把握・管理する責任が強まっています。元請け事業者は、下請けに運送を委託する際、この手数料率を意識した書面契約(運送引受書など)を交わさないと、後日の行政監査や適正取引の調査で下請法違反等の指摘を受けるリスクが高まります。

⑤ 速達割増などの運賃メニューの多様化と配車業務への影響

リードタイムの短縮や特殊な輸送条件に対する割増料金メニューが細分化されました。従来の「深夜・早朝割増(2割増)」「休日割増(2割増)」に加え、荷主都合で急な配送を依頼された場合に適用できる「速達割増」や、個建運賃などが明確化されました。

ただし、現場の配車係がこれら全ての割増条件を記憶し、都度正確に適用するのは至難の業です。「日祭日かつ深夜で、さらに速達対応」といった複合条件での入力漏れは、そのまま利益の流出につながります。メニューの多様化を確実な利益に変えるには、受注段階での条件確認の徹底と、営業・配車・経理間のシームレスなシステム連携が不可欠です。

標準的な運賃の具体的な計算方法と相場観(運賃表)

物流現場の最前線で最も議論の的となるのは「結局、自社の輸送ルートではいくら請求・支払いをすれば適法かつ適正なのか」という実額です。荷主企業との価格交渉において、単に「コストが上がったので値上げしてください」と伝えるだけでは決裂を招きます。経営層や実務担当者が運賃表を確固たる根拠とし、自社のコスト構造と照らし合わせて論理的に提示することが交渉を妥結に導く唯一の手段です。

距離制運賃と時間制運賃の計算ステップと附帯料金の完全分離

運賃計算の基本は、「距離制」と「時間制」の2つに大別されますが、今回の改定で現場が最も苦労し、かつ厳密な運用が求められるのは「附帯料金の完全分離」です。

  • ステップ1:基本運賃の算出
    走行距離(距離制)または拘束時間(時間制)と車種をベースに、運賃表から基本額を割り出します。実務上は、出発地から到着地までの「実車距離」だけでなく、復路の空車回送距離をどう見積もり、いかに往復の実入りを最適化するかが配車担当者の腕の見せ所です。
  • ステップ2:割増料金の加算
    深夜・早朝割増、休日割増、特殊車両割増など、特殊運行に対する割増額を加算します。
  • ステップ3:実費と附帯業務料金の分離請求(最重要)
    「燃料サーチャージ」は別建てとし、燃料価格の変動に応じて毎月(または四半期毎に)再計算します。さらに、現場で最もトラブルになりやすい「荷役作業費」や「待機時間料」を明確に切り分けて加算します。

【地区別・車種別】適正運賃の相場シミュレーションと原価管理

実際に改定後の「標準的な運賃」がどの程度の相場感になるのか、主要地区における距離制運賃(走行距離100km・貸切)のシミュレーションを見てみましょう。今回の改定では平均して約8%のベースアップが実施されています。

管轄地区 車種(最大積載量) 改定後運賃目安(距離制100km) 現場実務における留意点
関東運輸局 小型(2tクラス) 約 26,000円 〜 28,000円 都市部の慢性的な渋滞リスクを考慮し、距離制だけでなく時間制への切り替えも視野に入れるべき帯域。
関東運輸局 大型(10tクラス) 約 51,000円 〜 54,000円 大型物流センターでの荷待ち時間が発生しやすいため、契約段階での「待機時間料」の取り決めが必須。
近畿運輸局 中型(4tクラス) 約 34,000円 〜 36,000円 複数拠点を回る地場配送が多く、ドライバーの荷役作業が伴いやすいため「荷役作業費」の明記を徹底。
九州運輸局 大型(10tクラス) 約 45,000円 〜 48,000円 長距離フェリー輸送との結節点において、陸送区間における「燃料サーチャージ」の再計算漏れに注意。

※上記はあくまで基本運賃のみの目安であり、実際の総請求額には高速代や各種割増、附帯料金が加算されます。

運賃表や自動計算ツールのダウンロード方法とシステム連携

ここで実務上の大きな落とし穴となるのが、経営層が運輸支局への「運賃届出」を完了したにもかかわらず、現場の配車システムやWMSの運賃マスターが旧運賃のまま放置されているケースです。マスター更新の遅れは、日々の売上からの甚大な利益流出(逸失利益)を招きます。

こうした複雑な分離計算を日々の業務で確実に行うため、国土交通省や全日本トラック協会(全ト協)が提供している公式ツールを活用すべきです。国交省のWebサイトからは、各運輸局別・車種別の詳細な運賃表がExcel形式でダウンロード可能です。これを自社のTMS(輸配送管理システム)のタリフとしてインポートすることで、属人的な計算ミスを排除できます。また、全ト協の特設サイトにある自動計算ツールは、商談の場でノートPCを開き、その場でリアルタイムに根拠数値を提示する強力な武器となります。

運送事業者向け:運輸支局への「運賃届出」の手順と注意点

標準的な運賃の改定内容を理解しても、自社の運賃・料金として設定し、管轄の運輸支局へ正しく届け出て、初めて法的な根拠を持った交渉カードとなります。本セクションでは、実務担当者がつまずきやすい届出のリアルな手順と、交渉ノウハウを深掘りします。

届出は義務?未提出のリスクと巡回指導・監査への影響

国が提示した金額をそのまま採用する法的義務はありません。しかし、貨物自動車運送事業法に基づき、自社の運賃・料金を設定または変更した場合は、運輸支局への「運賃届出」が法的に義務付けられています。つまり、2024年4月の改定にあわせて自社の運賃を引き上げる場合、必ず新たな届出が必要です。

実務現場において届出を怠ると、地方適正化事業実施機関による「巡回指導」において総合判定が下がり、最悪の場合は行政監査のトリガーとなります。さらに、国交省の「トラックGメン」の調査が入った際、自社が適正な運賃を届け出ていなければ、荷主の「不当な買いたたき」を立証する基準額が存在しないことになり、行政による荷主への是正勧告が極めて困難になります。未届出は、自ら法的な保護と適正な利益を放棄する行為に等しいのです。

届出書の書き方と必要書類・提出フローの実務的課題

提出先は営業所を管轄する運輸支局となります。書類の不備による窓口での差し戻しを防ぐため、以下の必要書類を確実に押さえてください。

  • 運賃料金設定(変更)届出書:指定のフォーマットを使用し、変更理由を明記。
  • 運賃表(距離制・時間制):標準的な運賃をそのまま適用するか、自社原価に基づく独自運賃の表を添付。
  • 運賃適用方:運賃の割増・割引条件、適用範囲を規定したルールブック。
  • 料金表:「燃料サーチャージ」「待機時間料」「荷役作業費」など付帯作業に関する明確な規定表。
届出パターン メリット 実務での苦労・落とし穴
標準的な運賃をそのまま届出 全ト協の雛形をそのまま使えるため、作成の手間が最小限。窓口での審査もスムーズ。 自社の実際の原価(実勢価格)と乖離が生じる場合、高額になりすぎて荷主への説明難易度が跳ね上がる。
自社の原価計算に基づく独自届出 荷主に対して、自社の実態に即した説得力のある根拠と金額を提示できる。 原価計算の労力が莫大。配車データや財務データの集計など、高度なデータ分析スキルが求められる。

荷主との運賃交渉を成功させる具体策(重要KPIとプレゼン資料の活用)

運輸支局への届出が完了したら、いよいよ荷主との運賃交渉です。長年の付き合いがある荷主に値上げを切り出しにくいという心理的壁を突破するためには、全日本トラック協会が提供している「標準的な運賃交渉用プレゼン資料」をフル活用してください。

交渉を成功させるためには、以下のプロセスと客観的エビデンスの提示が不可欠です。

  • 公的根拠の提示:運輸支局の受領印が押された届出書のコピーを提示し、「自社の勝手な都合ではなく、国が認めた正当な運賃設定である」ことをアピールします。
  • 運賃と料金の明確な分離:運賃本体に加え、燃料サーチャージ、待機時間料、荷役作業費を別建てで請求するロジックを組み立てます。この際、「付帯作業の請求化率」をKPIとして設定し、営業担当者の評価指標に組み込むことも有効です。
  • 物流DXによるエビデンス提示:動態管理システムやデジタルタコグラフのログデータを活用し、「御社のセンターで実際にどれだけの待機時間や附帯荷役が発生しているか」を客観的数値として突き付けます。

交渉が難航した場合の「最終カード」として、トラックGメンの存在を交渉の文脈に組み込むことも重要です。「現在の運賃水準のまま無理な運行を続ければ、行政の監査対象となり、結果として荷主である御社にもご迷惑をおかけする可能性がある」と論理的に伝えることで、コンプライアンス意識の高い荷主企業であれば、態度を軟化させるケースが多々あります。

荷主企業向け:運賃値上げへの対応策とコンプライアンス

運送事業者から荷主企業に対する運賃見直しの申し入れが急増しています。荷主企業の物流部門責任者にとって、この運賃値上げ要請を単なる「調達コストの悪化」と捉えるか、それとも「持続可能なサプライチェーン構築の契機」と捉えるかで、今後の企業競争力は大きく分かれます。

運賃交渉を拒否する法的リスク(トラックGメンと勧告・公表制度)

「ウチは予算がないから」と運送事業者からの値上げ要請を一方的に突っぱねる行為は、現在極めて高いコンプライアンスリスクを伴います。独占禁止法における優越的地位の乱用や、下請法違反のリスクに加え、国土交通省のトラックGメンによる強力な調査体制が稼働しています。

運送事業者が運輸支局へ適正な届出を行っているにもかかわらず、実際の取引運賃が不当に低く据え置かれている実態が判明すると、トラックGメンによる荷主への集中監視や直接ヒアリングが実施されます。違反が認められた場合、以下のステップで厳格な措置が下されます。

  • 働きかけ・要請:改善に向けた初期段階の指導。この時点で経営層を巻き込んだ抜本的な対応が必須となります。
  • 勧告・命令:改善が見られない場合に下される強力な行政処分です。
  • 企業名の公表:勧告に従わない、あるいは事案が悪質である場合の最終措置。

ひとたび「物流下請けいじめ企業」として社名が公表されれば、レピュテーションリスクのみならず、ESG投資の引き揚げや、採用活動への致命傷となります。運賃の適正化は、経営に直結する最重要コンプライアンス課題なのです。

コスト増を吸収するための「物流効率化」アプローチと組織間連携

運送事業者の言い値でコスト増を丸呑みすることは、荷主企業の利益を大きく圧迫します。そこで重要になるのが、運送事業者と協力し、総物流コストを最適化するアプローチです。「待たせない」「荷役させない」仕組みを作れば、追加費用(待機時間料・荷役作業費)の発生を極小化できます。

現場の課題・追加コスト要素 荷主主導の「物流効率化」アプローチ 期待される効果・KPIの改善
恒常的な荷待ち(待機時間料の発生) トラック予約受付システム(バース管理システム)の導入 待機時間の大幅削減、車両回転率の向上、待機時間料支払いの回避
ドライバーによる手荷役(荷役作業費の発生) 一貫パレット化の推進、専任フォークマンの庫内配置 荷役作業費のカット、パレット化率の向上、ドライバーの労働時間短縮
積載率の低下・空車回送の常態化 リードタイムの延長(翌日配送から翌々日配送へ)、共同配送 手配車両台数の削減、実車率・積載率の向上によるトンキロ単価の低減

これらの施策を推進する際、最大の壁となるのが組織間連携の欠如です。物流部門が必死にリードタイムを延長して車両を効率化しようとしている裏で、営業部門が顧客に「送料無料・即日配送」を勝手に約束してしまうケースが後を絶ちません。調達・営業・物流の各部門が全社的なサプライチェーン最適化のKPIを共有し、トップダウンで意識改革を進めることが、物流効率化を成功させる絶対条件となります。

「標準的な運賃」を活かした物流DXの実装と今後の展望

新たな運賃基準の導入は、単なる法令遵守のステップに留まりません。これを契機とした「物流DX」の実装こそが、運送事業者および荷主企業の中長期的な生存戦略における最大の鍵となります。

複雑化する計算からの脱却!運賃管理システムの活用と組織的課題

改定により、運賃の算出ロジックは極めて精緻かつ複雑になりました。従来の「運賃どんぶり勘定」から脱却し、距離制・時間制運賃に加え、燃料サーチャージ、待機時間料、荷役作業費を別建てで厳密に計算・請求することが求められます。

毎日の運行日報からドライバーの待機時間や附帯作業の有無を目視で確認し、Excelで手計算する従来の運用は、すでに実務の限界を超えています。ここで不可欠となるのが、SaaS型の運賃・配車管理システムを活用した物流DXです。デジタコや動態管理システムとAPI連携し、GPSデータに基づく待機時間や、スマホアプリからの荷役実績入力を即座に運賃計算へ反映させる仕組みの構築が急務となっています。

しかし、DX推進には組織的課題が伴います。現場のITリテラシー不足や、「紙と電話」のアナログな業務フローに対する強い心理的抵抗感です。さらに、SaaS導入時に必ず策定すべきなのが「システムダウン時のBCP(事業継続計画)」です。万が一通信障害でシステムが止まった際、即座にローカル環境のバックアップExcelや紙の配車表へ切り替えられる緊急時フローを整備しておかなければ、DXは逆に現場を大混乱に陥れる要因となります。

持続可能な物流網構築に向けた次なる課題(2026年問題への備え)

「物流の2024年問題」への対応として一通りの価格交渉を終えたからといって、歩みを止めるわけにはいきません。物流業界が次に見据えるべきは、団塊世代の完全リタイアや若年層の車離れにより、さらなる深刻な労働力不足が顕在化する「2026年問題」です。

今後の生き残りを懸けた戦略において、適正な運賃届出を完了させておくことは基本中の基本です。プロの運送事業者は、行政の動きやトラックGメンの存在を「荷主との交渉における強力なカード」として逆手に取ります。そして、システムから出力された精緻なデータは、荷主企業の物流部門責任者が社内に対して「物流コスト増の正当性」を説得するための最強の武器にもなります。

将来的には、システム連携による「運賃のダイナミックプライシング(需給に応じた変動料金制)」の導入なども視野に入ってきます。適正運賃の収受は、ドライバーの大幅な賃上げと労働環境の改善に直結します。「標準的な運賃」という強力なガイドラインと、「物流DX」による透明性の高いデータ管理を両輪として回すこと。これこそが、迫り来る2026年問題の荒波を乗り越え、持続可能なサプライチェーンを未来へ繋ぐための唯一の道だと言えます。

よくある質問(FAQ)

Q. トラックの「標準的な運賃」とは何ですか?

A. トラック運送業界において、ドライバーの待遇改善や2024年問題への対応を目的に国土交通省が告示した運賃制度です。基本となる運賃のほか、待機時間料や荷役作業費などの附帯料金を完全に別建てで請求することが定められています。

Q. 2024年の「標準的な運賃」の改定で何が変わりましたか?

A. 2024年4月の改定では、運賃水準が平均約8%引き上げられました。さらに、待機時間料や荷役作業費の別建て請求の徹底、燃料サーチャージの改定、多重下請け是正のための下請け手数料の規定、速達割増など運賃メニューの多様化といった重要な変更が行われています。

Q. 標準的な運賃の計算方法は?

A. 輸送距離に応じた「距離制運賃」または作業時間に基づく「時間制運賃」をベースに計算します。最大のポイントは、基本運賃とは別に待機時間料・荷役作業費・燃料サーチャージなどを完全に分離して加算する点です。適正な運賃算出には自動計算ツールの活用も推奨されます。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。