燃料サーチャージとは?仕組みや計算方法から実務での価格交渉術まで徹底解説とは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:燃料サーチャージとは、原油価格の高騰などで燃料代が変動した際、その変動分を基本運賃とは別建てで調整する仕組みのことです。運送会社の努力だけでは対応できない燃料費の増加を、関係者全体で公平に負担するために設けられています。
  • 実務への関わり:この仕組みを正しく導入することで、運送会社は利益を圧迫されることなく経営を安定化でき、荷主企業は持続可能なサプライチェーンを維持できるようになります。実際の運用では運賃と切り離した正確な請求や、お互いが納得するためのデータに基づいた交渉が求められます。
  • トレンド/将来予測:物流の2024年問題や地政学的リスクによる原油価格の乱高下を背景に、燃料サーチャージの導入は必須のテーマとなっています。今後は複雑な計算や請求業務の負担を軽減するため、物流DXによるシステム自動化と適正なルール作りがさらに加速していくと予想されます。

物流業界を取り巻く環境は、かつてない激動の時代を迎えています。長引く地政学的リスクに端を発する原油価格の乱高下、急激な為替変動、さらにはドライバーの労働時間規制がもたらす「物流の2024年問題」や労働力不足が加速する「2026年問題」が複雑に絡み合い、旧来のどんぶり勘定による運賃体系は完全に限界を露呈しました。このような未曾有の危機的状況下において、サプライチェーンを維持するための最重要テーマとしてクローズアップされているのが「燃料サーチャージ(燃料価格変動調整金)」の適正な導入と運用です。

本記事では、国内トラック輸送から国際航空・海上輸送に至るまでの燃料サーチャージの根源的な仕組みや算出ロジックを体系的に解説します。単なる制度の紹介にとどまらず、最前線の物流実務における「システム運用の落とし穴」「荷主・運送会社間のハードな交渉術」「成功の鍵を握る重要KPI」、そして「物流DXによる業務の自動化と組織的課題の突破口」まで、圧倒的な解像度で深掘りします。明日からの運賃交渉や社内稟議、システム設計に直結する、実務者必携のプロフェッショナルガイドとしてご活用ください。

目次

燃料サーチャージとは?基本的な仕組みと導入が急務となる背景

燃料サーチャージ(燃料価格変動調整金)の定義と仕組み

「燃料サーチャージ(燃料価格変動調整金)」とは、軽油や重油、航空機用ジェット燃料などの価格が、あらかじめ労使や契約間で取り決めた一定の基準(基準燃料価格)を超えて高騰、あるいは下落した場合に、その変動分を基本運賃とは完全に切り離して別建てで荷主と物流事業者間で調整する仕組みです。この制度の本質は、運送会社の自助努力(エコドライブの徹底や車両の軽量化など)では到底コントロール不可能な「マクロ的な外部環境のコスト変動リスク」を、サプライチェーンを構成するプレイヤー全体で公平に負担し合うことにあります。

言葉の定義自体はシンプルですが、長年「運賃はすべて込み込み(オールイン)」という商習慣に浸かってきた日本の物流現場へ導入するとなると、一筋縄ではいきません。運賃本体とサーチャージを別建てで毎月正確に請求・支払いするためには、既存の業務フローや基幹システムを根底から見直す必要があります。導入初期のフェーズにおいて、現場は以下のような強烈な実務課題に直面します。

  • システム改修とマスター管理の複雑化:既存のTMS(輸配送管理システム)やWMS(倉庫管理システム)の運賃計算モジュールに、毎月変動するサーチャージ項目を追加する大規模な改修作業が必要です。単価マスターの更新漏れが1日でも発生すれば、数千件単位での請求ミスが引き起こされ、荷主との信頼関係を一瞬で破壊するリスクを孕んでいます。
  • 経理処理と税務の複雑化、および社内調整の壁:運賃本体と調整金で消費税の端数処理をどうするか(明細単位で切り捨てるのか、合計額で計算するのか等)という経理上のルール統一が求められます。さらに荷主企業側では、「この別建てで発生した追加費用は、物流部門の予算から出すのか、それとも製品を販売した営業部門の原価に転嫁(パススルー)するのか」という社内の部門間調整が難航するケースが後を絶ちません。

以下は、従来の運賃込み込み(オールイン)契約と、サーチャージ導入後の別建て契約における、実務上のリアルな違いをまとめた比較表です。

比較項目 従来のオールイン契約(ドンブリ勘定) 燃料サーチャージ導入後(別建て契約)
リスク負担の所在 運送会社が全被り(原油高騰時は利益が吹き飛び赤字化) 荷主企業(市場価格に応じて変動分を負担・還元)
運賃交渉の頻度・労力 数年に一度、赤字が限界に達したタイミングで泥沼の交渉 公的な指標を基に毎月または四半期ごとに機械的に自動改定
現場の実務負荷 請求書の発行自体は単純。しかし原価割れの懸念が常態化。 毎月の単価マスタ更新等、配車・経理の負荷増。物流DXの推進が不可欠。

なぜ今必要なのか?原油高騰と物流業界が抱える課題

現在、国内のトラック輸送網を維持するために、燃料サーチャージの適正転嫁はもはや待ったなしの社会的要請となっています。国際物流の世界に目を向ければ、航空燃料サーチャージに見られるようなIATA(国際航空運送協会)準拠の体系的な運賃改定や、海上運賃におけるBAF(Bunker Adjustment Factor:燃料割増料金)の徴収が、数十年前から当たり前の商習慣として定着しています。しかし、国内のトラック輸送においては長らく「運賃の据え置き」や「自社でのコスト吸収」が美徳とされる歪んだ慣例が蔓延していました。

この危機的状況を打破すべく、国土交通省によるガイドラインが策定され、適正な運賃収受の目安となる標準的な運賃の告示が行われました。昨今の地政学的リスクや円安を背景とした急激な原油高騰に加え、ドライバーの時間外労働上限規制に伴う「物流の2024年問題」、さらに労働力不足が加速する「2026年問題」が重なり、運送会社の経営体力は既に限界を突破しています。適切なコスト回収ができなければ、ドライバーの賃金確保はおろか車両の維持すら困難となり、最終的には「モノを売りたくても運べない」という荷主側の致命的なサプライチェーン崩壊へと直結するのです。

実務において、運送会社の営業担当者が直面する最大の壁は「荷主側の購買・経理部門の理解」です。物流担当者は現場の窮状に理解を示しても、購買部門が「期初に予算化されていない別建て費用」を稟議で無慈悲に弾くケースが多発します。この壁を突破するための重要KPIとなるのが「適正転嫁率(コスト上昇分のうち、どれだけを運賃に転嫁できたかの割合)」の可視化です。運送会社は単なる「お願い」ではなく、実燃費データや過去の原価推移を用いた精緻なシミュレーションを提示し、荷主側もそれを「安定供給のためのインフラ維持費」として経営陣へ上申するプロセスが求められます。

【輸送モード別】燃料サーチャージの仕組みとルールの違い

物流現場で日々取り扱われる「燃料サーチャージ」ですが、その仕組みは国内の陸運と国際輸送(航空・海上)とで全く異なります。それぞれ依拠する公的ガイドラインや指標、さらには実務上の名称すら別物です。例えば、国内トラックの運賃交渉で「BAF」という言葉を使ってしまうと、対象領域の混同を招き、相手方に「実務を理解していない」と判断されかねません。ここでは、各輸送モードにおける仕組みを明確に切り分け、現場のリアルな運用実態を解説します。

国内トラック輸送:国土交通省のガイドラインに基づく運用

国内の陸上輸送においては、「トラック 燃料サーチャージ 国土交通省」が定めたガイドラインに基づく運用が基本となります。この制度の核心は、基本運賃の中にすでに内包されている燃料費と、足元の高騰分とを明確に切り分ける点にあります。

実務現場において最も交渉が難航するのが、過去の契約に基づき「当時の軽油価格(基準燃料価格)をいくらと見なすか」という合意形成です。荷主側からの厳しい査定(二重計上の疑念)を払拭するためには、後述する計算式を用いて透明性の高いエビデンスを提示することが不可欠です。近年では、公正取引委員会や中小企業庁による「下請法」「独占禁止法(優越的地位の濫用)」の監視の目が厳しくなっており、正当な理由なくサーチャージの支払いを拒否する荷主企業に対しては「勧告」や「社名公表」が行われるリスクが高まっています。コンプライアンスの観点からも、国内トラックにおける別建て支払いの制度化は企業の必須事項となっています。

国際航空輸送:シンガポールケロシン価格との連動と推移

国際航空貨物におけるサーチャージ(FSC:Fuel Surcharge)は、シンガポール市場におけるケロシン(ジェット燃料)の月平均価格に連動して決定されます。ここで貿易実務者が直面する最大の課題は、「指標価格の変動と、実際のサーチャージ適用時期に生じるタイムラグ」および「為替リスク」のダブルパンチです。

通常、航空会社は過去1ヶ月間のケロシン価格の平均値を算出し、その翌々月にサーチャージ改定を実施します。そのため、荷主やフォワーダーは常に推移を先読みしながら見積もりを作成しなければなりません。さらに、航空運賃は米ドルベースで計算されることが多く、原油価格の高騰と円安ドル高が同時に進行した場合、日本側の荷主が支払う円建てのサーチャージ額は爆発的に跳ね上がります。

  • 見積もり有効期限の厳格化:航空運賃の見積もりを提示する際、必ず「※上記運賃には〇月適用の燃料サーチャージを含みます。出荷時のサーチャージ額に応じて実費精算となります」という免責条項を記載することが、実務上の鉄則です。
  • 為替変動のモニタリング:IATAの指標だけでなく、TTS(対顧客電信売相場)などの為替レートの推移を定点観測し、プロジェクトの原価割れを防ぐヘッジ手法の検討が求められます。

国際海上輸送:BAF(Bunker Adjustment Factor)の基本ルール

国際海上輸送において、燃料価格の変動を調整するサーチャージは、一般的に「BAF(Bunker Adjustment Factor)」または「FAF(Fuel Adjustment Factor)」と呼ばれます。国内トラックや航空輸送と異なり、海上輸送の実務を最も複雑にしているのは「船社(キャリア)ごとに計算式や基準がブラックボックス化しやすい」という点です。

BAFは、各船社が積載するコンテナのTEU(20フィートコンテナ換算)あたりで設定されますが、航路の距離や使用する船舶の燃費効率によって金額が大きく変動します。近年現場で特に混乱を招いたのが、環境規制(IMO2020)への対応です。従来のC重油から、高価なVLSFO(適合低硫黄燃料油)への切り替えが義務付けられたことで、従来のBAFに加えてLSS(Low Sulphur Surcharge)という新たな項目が追加されました。さらに、突発的な地政学リスク等で原油が急騰した際には、EBS(Emergency Bunker Surcharge:緊急燃料割増料金)が唐突に導入されることもあります。

貿易実務の最前線では、これらが「単なる船社の利益補填(二重取り)」になっていないかを見極めるため、各船社の公式ホームページで発表されるサーチャージタリフを定期的に照合する泥臭い確認作業が強いられています。

輸送モード 一般的な名称 連動する主な指標価格 実務現場における最大の課題・注意点
国内トラック 燃料サーチャージ 全国平均の軽油店頭現金価格 過去運賃に含まれる燃料費との切り分け(二重請求の疑念払拭)と下請法リスク
国際航空 FSC(Fuel Surcharge) シンガポール市場のケロシン価格 指標価格の変動から適用までの「タイムラグ」と「為替リスク(円安)」の二重苦
国際海上 BAF / FAF / LSS / EBS バンカーオイル(C重油・VLSFO)価格 船社ごとの独自の計算式と、環境規制対応に伴う複数サーチャージの乱立

【国内トラック】燃料サーチャージの具体的な計算方法とシミュレーション

荷主企業と運送会社の運賃交渉において、根拠のないどんぶり勘定はもはや通用しません。原油高騰が続く中、仕組みを正確に理解し、自社の実務に落とし込むことが適正転嫁の第一歩です。ここでは、国土交通省のガイドラインおよび標準的な運賃の枠組みに連動した、国内トラックにおける具体的な計算方法を徹底解説します。

計算に必要な基本要素と国土交通省が示す算出式

国土交通省が推奨する国内トラック輸送の燃料サーチャージ算出式は、非常にロジカルに構成されています。国際輸送においてBAF等を用いるのとは異なり、国内トラックでは「軽油価格の変動幅」と「輸送ごとの燃料消費量」を掛け合わせることで算出します。

基本的な算出式は以下の通りです。

  • 燃料サーチャージ額 = (適用燃料価格 - 基準燃料価格) × 燃料消費量
  • 燃料消費量 = 走行距離 ÷ 燃費

現場実務においては、この数式をベースに荷主と合意形成を図りますが、各要素の定義を曖昧にしたまま運用を開始すると、後々の請求照合で大きなトラブルに発展します。特に、後述する「実車率」や「積載率」といったKPIをどこまで加味するかによって、算出される金額は大きく変わってきます。

ステップ1:「基準燃料価格」と「適用燃料価格」の差額を出す

最初のステップは、燃料の価格差(1リットルあたりいくら値上がりしたか)を確定させることです。実務上、ここが最も重要かつ揉めやすいポイントとなります。

  • 基準燃料価格:基本運賃(運賃タリフ)を算定した際の前提となる軽油価格です。
  • 適用燃料価格:実際に輸送を行った時期の軽油価格です。

現場で苦労するのは「どの公的データを根拠に使うか」の選定です。一般的には、経済産業省資源エネルギー庁が毎月発表する「石油製品価格調査」の軽油(ローリー渡し・税抜)、あるいは全日本トラック協会が公表する指標を使用します。契約書には「毎月〇日発表の資源エネルギー庁の全国平均価格の前月実績を当月の適用燃料価格とする」といったように、参照元とタイムラグのルールを明確に定義して落とし込む必要があります。

ステップ2:「走行距離」と「燃費」から燃料消費量を算出する

価格差が明確になったら、次は「その輸送でどれだけの燃料を消費したか」を算出します。ここでの現場のリアルな争点は、「空車回送距離をどこまで含めるか」と「燃費の基準値」の2点です。

走行距離は、原則として「実車距離(荷物を積んで走った距離)」をベースにしますが、トラックの実務では集荷先へ向かうための空車走行が必ず発生します。荷主側は「実車分しか払いたくない」と主張しがちですが、国土交通省のガイドラインに基づき、一定の回送率(例:実車距離の10〜20%増しなど)を走行距離に加味するよう交渉するのがプロの配車担当者の腕の見せ所です。ここで「実車率(総走行距離に対する実車距離の割合)」というKPIを提示し、論理的な配賦を行うことが求められます。

燃費については、実際の車両燃費(実測値)を使うと運送会社やドライバーの技量ごとのバラつきが大きいため、国土交通省が示す標準的な燃費(大型車:約3.0km/L、中型車:約4.5km/L、小型車:約6.0km/Lなど)を固定値として用いるのが、双方にとって最も公平でスムーズな運用方法です。

実務で使える計算シミュレーションと端数処理の落とし穴

実務を想定した架空のシミュレーションを行ってみましょう。東京から大阪へ大型トラック(10t車)でチャーター輸送(貸切便)を行った場合の計算例です。

項目 設定値・条件 実務上の留意点
基準燃料価格 100円/L 基本運賃契約時の前提価格(必ず税抜設定に統一する)
適用燃料価格 130円/L 輸送該当月の経産省発表データ(税抜)
走行距離 540km 実車距離500km + 空車回送等の考慮分40km
燃費 3.0km/L 国交省ガイドラインに準拠した大型車の標準値

上記の条件を公式に当てはめると、以下のプロセスで計算されます。

  • ① 燃料消費量を出す: 540km ÷ 3.0km/L = 180L
  • ② 価格差を出す: 130円/L - 100円/L = 30円/L
  • ③ サーチャージ額を算出: 30円/L × 180L = 5,400円

この結果、基本運賃とは別に「5,400円(税抜)」を燃料サーチャージとして別途請求することが正当化されます。ここで実務上の重大な落とし穴となるのが「端数処理」です。例えば、燃料消費量が「180.5L」となった場合、四捨五入するのか切り捨てるのか。また、月間に100便の輸送があった場合、1便ごとに端数処理をしてから合算するのか、月間の総走行距離で一括計算してから端数処理をするのかによって、最終的な請求額に数千円から数万円の誤差が生じます。契約締結時にこの端数処理のルール(明細単位か、請求書単位か等)まで厳密に取り決めておくことが、後日の経理トラブルを防ぐ防波堤となります。

荷主企業・運送会社から見る導入のメリット・デメリット

燃料価格の変動リスクを運賃本体から切り離して請求する仕組みは、請求側である運送会社と、支払側である荷主企業とで、全く異なる影響を及ぼします。しかし、実務の最前線においてこの制度の本質は「利益の奪い合い」といった対立関係ではなく、「持続可能なサプライチェーンの維持」という共通目的へ向かうためのトレードオフにあります。

運送会社の視点:適正転嫁率の確保と経営の安定化

運送会社にとって、燃料サーチャージの導入は文字通り死活問題です。原油価格の高騰が利益を直接的に圧迫する中、荷主に対して適正転嫁を実現することは、ドライバーの雇用維持と経営の安定化に直結します。

  • メリット:運賃本体の値下げ競争に巻き込まれることなく、外部要因である燃料費の増減を透明性を持って荷主に請求できる点です。国が示すガイドラインや標準的な運賃の告示により、中小運送会社であっても公的な後ろ盾を持って堂々と運賃交渉に臨める環境が整いつつあります。成功の重要KPIは「適正転嫁率」です。コスト上昇分のうち80%以上を転嫁できなければ、運送会社の営業利益率は容易にマイナスへと転落します。
  • デメリット(現場の苦労):毎月の計算やマスタ管理が非常に煩雑になることです。荷主A社は「実車キロベース」、荷主B社は「燃費固定ベース」と要求が分かれるなど、契約ごとに異なる算出基準への対応に、配車・請求担当者は忙殺されます。

荷主企業の視点:輸送網維持のメリットと予算管理の壁

一方、メーカーや商社などの荷主企業にとって、燃料サーチャージの導入は直接的な物流コストの増大を意味します。しかし、これを単なる「値上げ要求」と捉えるのは、現代の物流実務においては非常に危険な認識です。

  • デメリット(予算管理の壁と組織のサイロ化):毎月のように変動する追加費用は、期初の物流予算策定を極めて困難にします。また、社内における「組織のサイロ化(部門間の壁)」が大きな課題となります。物流部門がコスト増を受け入れたくても、調達部門が「予算オーバー」を理由に否決したり、営業部門が「最終製品の販売価格へ転嫁(パススルー)できない」と難色を示したりすることで、社内調整が暗礁に乗り上げるケースが多発します。
  • メリット(輸送網の確保):コスト増を受け入れる最大の理由は、「トラックが集まらず、顧客へ商品が出荷できない」という最悪の事態(輸送網の崩壊)を未然に防ぐことです。ここで荷主側が追うべきKPIは「車両確保率」です。運送会社に適正な利益を保証することで、年末の繁忙期や悪天候時でも優先的に車両を確保できる強力なパートナーシップが構築され、結果的に「運べないことによる機会損失」を回避できます。

【実務ガイド】適正な価格交渉の手順と物流DXによる課題解決

原油価格の乱高下が常態化する現代のサプライチェーンにおいて、双方が納得できる価格交渉を行い、それを効率的に運用することは持続可能な物流体制の構築に不可欠です。本セクションでは、表面的な理論を排除し、明日から即実践できるリアルな交渉術と、属人化を防ぐシステム運用の全体像を解説します。

運送会社向け:ファクトベースのデータ提示と価格交渉術

運送会社が荷主に対してコスト増の適正転嫁を求める際、最も陥りがちな失敗は「燃料費が上がって苦しいので運賃を上げてください」という感情的・定性的な要請です。交渉のテーブルにつくためには、客観的なファクトベースのデータ提示が絶対条件となります。

交渉時の提示項目 NGな提示例(感情的・曖昧) OKな提示例(論理的・実務的)
算出根拠の提示 ガソリンスタンドの領収書を見せるだけ 国土交通省の公式算出式に基づき、自社の原価計算書(エクセル等)を可視化して提示
自助努力のアピール 特に記載なし(全額を荷主に負担させるスタンス) デジタコデータを添付し、エコドライブやアイドリングストップによる「燃費向上率○%」のコスト削減実績を併記
適用期間のルール 毎月、口頭やメールで都度バラバラに請求 「前々月の平均燃料価格を当月のサーチャージに適用する」というタイムラグ規定を契約書面化

「自社でも極限までコスト削減の自助努力を行っているが、どうしても吸収しきれない市況変動分のみをお願いしている」という論法をデータで証明することが、荷主の担当者が「これなら仕方がない」と納得する最大のポイントです。

荷主向け:請求金額の妥当性チェックと社内合意形成の手順

一方、荷主企業の物流担当者は、届いた請求書や見積もりの妥当性を厳しくチェックし、自社の財務部門や経営層向けに稟議を通すという重責を担っています。また、優越的地位の濫用を禁ずる下請法や独占禁止法といったコンプライアンスの観点からも、正当なサーチャージ請求を不当に買いたたくことは経営リスクとなります。

  • 適用タイミングと市況の監視: 燃料価格が下落局面に転じた際、運送会社やフォワーダーからのサーチャージ引き下げ反映が遅れていないか、資源エネルギー庁のデータ等と照らし合わせて追跡する監査体制が必要です。
  • 経営層・営業部門へのレポーティング: 物流部門内で処理するだけでなく、営業部門に対して「輸送コスト増による製品価格への転嫁検討」の判断材料を提供するため、燃料費の推移グラフと総コスト増減表を月次で可視化・共有する社内プロセスを構築します。

物流DXを活用したサーチャージ管理の自動化と組織的課題の突破

ここまでの精緻な計算や市況データのチェックを、毎月Excelの手作業で行うことは、担当者の膨大な時間を奪うだけでなく、入力ミスや「あの担当者しか計算方法を知らない」という属人化の温床となります。持続可能な運用を実現するためには、「物流DX」によるサーチャージ管理の自動化が不可欠です。

最先端のTMS(輸配送管理システム)では、資源エネルギー庁が公表する石油価格調査データや為替レートのAPIと連携し、毎月のサーチャージ額を自動算出する機能の実装が進んでいます。車両マスタに「実燃費」を登録し、システム上で「基準燃料価格」を設定しておけば、日々の運行実績(走行距離)と掛け合わせて月末に自動で請求データが生成されます。さらに、混載便においてはWMS(倉庫管理システム)側から連携される出荷重量・容積データを基に、荷主ごとの複雑な按分計算までも一瞬で完了させることが可能です。

しかし、DX推進において最大の障壁となるのはシステムそのものではなく、「新しい業務フローに抵抗する現場の意識」という組織的課題です。システム導入を成功させるためには、経営層がトップダウンで方針を示しつつ、現場の配車担当者に対して「手計算の苦痛から解放され、より付加価値の高い業務(ルート最適化など)に注力できる」という明確なビジョンを共有する必要があります。

【現場のプロが備えるべき真のBCP(フェールセーフ)体制】
システム化を推進する上で絶対に忘れてはならないのが、クラウド基盤のTMSやWMSがサーバー障害等でダウンした際のBCP(事業継続計画)です。月末の請求締め日にシステムが止まれば、たちまち入金遅延という致命的なトラブルに発展します。プロの物流実務では、単にシステムに依存するだけでなく、「前月末時点の単価マスターや適用計算式を組み込んだスプレッドシート(またはCSVファイル)を、毎晩自動でローカル環境にバックアップエクスポートしておく」というフェールセーフ体制を構築しています。これにより、万が一WMSが止まった場合でも、直近のデータを元に代替計算を行い、請求・支払いのオペレーションを絶対に止めない強靭な物流インフラを実現できるのです。

よくある質問(FAQ)

Q. 燃料サーチャージとは何ですか?

A. 燃料サーチャージ(燃料価格変動調整金)とは、原油価格の急激な変動に応じて、基本運賃とは別に調整される割増料金のことです。旧来の運賃体系では対応できない燃料費の高騰リスクを回避し、サプライチェーンを維持する目的で導入されます。国内トラックや国際航空など、輸送モードごとに異なるルールで運用されています。

Q. なぜ燃料サーチャージの導入が必要なのですか?

A. 地政学的リスクによる原油価格の高騰や急激な為替変動に加え、物流業界特有の「2024年問題」や労働力不足が深刻化しているためです。燃料費の乱高下を運送会社のみが負担する運賃体系は限界を迎えており、荷主と適切にコストを分担する燃料サーチャージの適正運用が、物流網維持の必須条件となっています。

Q. 国内トラック輸送の燃料サーチャージの計算方法は?

A. 国内トラック輸送では、国土交通省のガイドラインが示す算出式を使用します。まず、あらかじめ定めた「基準燃料価格」と実際の「適用燃料価格」の差額を求めます。次に、「走行距離」をトラックの「燃費」で割って燃料消費量を算出し、先ほどの差額と掛け合わせることでサーチャージ額を決定します。


監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。