CPFRとは?実務担当者が知るべき基礎知識と導入のポイントとは?

この記事の要点
  • キーワードの概要:CPFRは、小売業と製造業(メーカー)が協力して、商品の販売予測や補充の計画を一緒に行う仕組みです。お互いのデータを共有することで、サプライチェーン全体のムダをなくすことを目指します。
  • 実務への関わり:現場では、お店の欠品を防いで売り上げを伸ばしつつ、メーカー側の作りすぎや抱えすぎる在庫を減らす効果があります。企業間の情報共有やデータの標準化といった地道な取り組みが成功の鍵となります。
  • トレンド/将来予測:物流の2024年問題や人手不足を背景に、ムダを削ぎ落とす手法として再び注目されています。今後はAIを使った需要予測やクラウドシステムの導入により、作業の自動化や高度化がさらに進むと予想されます。

サプライチェーンマネジメント(SCM)における究極の理想形とも言われる「CPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment:協働的な計画・予測・補充)」。小売業と製造業の壁を越え、共有されたデータと販売計画に基づいてサプライチェーン全体のムダを削ぎ落とすこの概念は、長らく理論先行で語られがちでした。しかし、「物流の2024年問題」に代表されるトラックドライバーの不足や、倉庫キャパシティの慢性的な逼迫といった深刻な物理的制約が顕在化する昨今、企業が生き残りを懸けて取り組むべき実践的アプローチとして再び強力な脚光を浴びています。

本記事では、CPFRの基本概念から、類似手法であるVMIやECRとの決定的な違い、現場への導入を阻む実務上の泥臭い課題、そして最新のDX(デジタルトランスフォーメーション)を活用した解決策に至るまで、物流・SCMのプロフェッショナルが知るべき知見を徹底的に深掘りして解説します。

目次

CPFRとは?サプライチェーンを最適化する協働モデルの基礎知識

小売業(リテーラー)と製造業(メーカー)の壁を越え、サプライチェーン全体のムダを削ぎ落とす概念としてCPFR(Collaborative Planning, Forecasting and Replenishment:協働的な計画・予測・補充)が再評価されています。本セクションでは、CPFRの基本概念から歴史的背景、類似手法との違いを紐解きながら、「なぜ多くの企業が導入につまずくのか」「現場の実務レベルで何が起きているのか」というリアルな実態に迫ります。

CPFRの定義と提唱された歴史的背景(ウォルマートの事例)

CPFRとは、小売業とメーカー(または卸売業)が販売データや販促計画を密に共有し、共同で需要予測と補充計画を策定・実行する取り組みです。その起源は1995年、米国の小売大手ウォルマートと、製薬・日用品メーカーのワーナー・ランバート(現ファイザー/ジョンソン・エンド・ジョンソン)が共同で行ったCFAR(Collaborative Forecasting and Replenishment)という実証実験に遡ります。この取り組みにより、店頭の欠品防止と在庫水準の大幅な削減(リードタイムの大幅短縮と売上の劇的向上)という成果を上げ、世界の物流・SCM担当者に衝撃を与えました。

しかし、当時の米国発の定義をそのまま現代の日本の物流現場に持ち込んでも上手くはいきません。実務の現場では、単に小売側がPOSデータをメーカーに投げつけるだけで終わる「名ばかりCPFR」が散見されます。現場が最も苦労するのは、高度な予測モデルの構築以前の段階です。互いのシステムに登録されている「商品マスタ(パレット単位、ケース単位、ボール単位、バラ単位の認識の違い)」や「リードタイムの解釈」の不一致を解消する泥臭い突合業務が待ち受けています。さらに、小売側が特売企画の情報共有を数日遅らせただけで、メーカー側の生産計画が狂い、結果として物流センター(DC)への緊急納品によるトラック待機問題を引き起こすなど、協働の難しさが現場の疲弊を生んでいるのが実態です。

VMI(ベンダー主導)やECRとの決定的な違いと責任の所在

CPFRを深く理解するためには、関連する在庫管理手法であるVMI(Vendor Managed Inventory)やECR(Efficient Consumer Response)との違いを「責任の所在(誰が意思決定の主体か)」という観点で明確に切り分ける必要があります。

手法 責任の所在(主体) 特徴と目的 物流現場のリアルな課題・リスク
ECR サプライチェーン全体 消費者に価値を提供するための業界全体の効率化運動。概念的・マクロ的なアプローチ。 概念が広範すぎて、実務レベルのKPI(パレット積載率や納品枠の順守など)に落とし込みにくい。
VMI メーカー(ベンダー) メーカーが小売の在庫状況を見て、自らの判断・責任で補充を行う手法。 メーカー都合での「月末の在庫押し込み」が発生しやすく、小売側のDC入荷バースがパンクする原因になりがち。
CPFR 小売・メーカーの「協働」 双方が計画段階からすり合わせ、合意に基づく共通の予測と発注を行う。 データ連携と合意形成が前提のため、システム障害時の業務停止リスクや、調整業務の工数増大リスクがある。

特にVMIは「ベンダー主導」であるため、発注の権限と責任がメーカー側に偏ります。メーカーの営業担当者が自社の売上目標(ノルマ)を達成するため、月末に物流センターの許容量を超える納品を強行し、小売側の入庫バースで大渋滞が起きるといった事態が起こりがちです。一方、CPFRは「両者の事前の合意」が前提です。在庫最適化の責任を双方が負い、販促計画という「未来の情報」をベースに動くため、納品量の平準化が図りやすくなります。

なぜ今CPFRが必要なのか?(物流関連課題とSCMの高度化)

1990年代に提唱されたモデルが、なぜ現代の日本で急激に再評価されているのでしょうか。最大の要因は「物流の2024年問題」に代表されるトラックドライバーの労働時間規制と、倉庫スペースの慢性的な逼迫という物理的な限界です。

もはや「欠品したから明日チャーター便で追加納品してくれ」という小売側の無茶な要求に、メーカーの物流部門が応えられる時代は終わりました。限られた輸送リソースを最大限に活かすためには、サプライチェーンの上流(生産)と下流(販売)が完全に同期し、トラックの積載率を極限まで高める必要があります。事前の緻密な補充計画なしには、納品先のバース予約システム枠を確保することすら難しくなっています。そのためには、DXを活用した高度なデータ連携基盤を構築し、需要変動の波を数週間・数ヶ月前から察知するCPFRの仕組みが不可欠なのです。

CPFRを実務に落とし込む「4つのプロセス」と「9つのステップ」

CPFRを概念のまま終わらせず、実際の物流・SCM現場で機能させるためには、米国のVICS(Voluntary Interindustry Commerce Solutions)委員会が提唱する業界標準のフレームワークに沿って実務を構築する必要があります。ここでは、CPFRを具現化する「4つの主要プロセス」と、それを現場レベルのタスクに分解した「9つのステップ」を詳細に解説します。

全体を俯瞰する「4つの主要プロセス」

CPFRは、メーカーと小売業が単にデータを投げ合うだけでなく、以下の4つの主要プロセスを継続的なサイクルとして回すことで在庫最適化欠品防止を実現します。

  • 戦略と計画 (Strategy & Planning): 両社の基本的な取引ルール、協働のガイドライン、KPI(重要業績評価指標)、そしてプロモーション計画を策定・合意します。
  • 需要と供給管理 (Demand & Supply Management): 小売のPOSデータや特売計画をベースに「どれくらい売れるか(販売予測)」と「どれくらい納品すべきか(オーダー予測)」を算出・統合します。
  • 実行 (Execution): 確定したオーダーに基づき、実際の製造手配、ピッキング、出庫、配送、納品を行います。
  • 分析 (Analysis): 実行結果と計画の差異(売上未達や欠品の発生など)を分析し、次サイクルの予測精度向上に繋げます。

実務においては、この4つのプロセスがシームレスに繋がっていることが理想です。しかし実際には「小売側のバイヤーが直前で決めた特売企画の情報が、メーカーの物流センター(WMS)の出庫計画にまで降りてこない」といった情報共有のタイムラグが致命傷になります。CPFRの真髄は、この企業間・部門間のタイムラグを極小化する業務フローの構築にあります。

実務プロセスを標準化する「9つのステップ」の全体像

上記の4プロセスは、さらに具体的な「9つのステップ」に分解されます。現場での実務用語のブレを防ぎ、両社が同じ土俵で議論するため、まずは全体像を以下の表で把握してください。

主要プロセス ステップ 現場での実務アクションと留意点
戦略と計画 1. 協働事業計画の合意 対象商品(SKU)の選定、情報共有の頻度、KPI(欠品率・在庫回転日数など)の定義。
2. 共同事業計画の策定 小売の棚割計画、プロモーション(チラシ・特売・TVCM)スケジュールの同期。
需要と供給管理 3. 販売予測の作成 過去データと未来の販促計画に基づく、エンドユーザー(消費者)への販売予測。
4. 販売予測の例外特定 システムが算出した予測値に対し、設定した閾値を超える異常値(ブレ)を検知。
5. 販売予測の例外解決 メーカーと小売の担当者が協議し、例外(異常値)の原因を特定・数値を修正。
6. オーダー予測の作成 販売予測に基づく、メーカーへの発注(センター補充)スケジュールの立案。
7. オーダー予測の例外特定 メーカー側の生産能力や物流キャパシティ(トラック手配等)を超えるオーダーの検知。
8. オーダー予測の例外解決 納品日の前倒し調整や代替品の提案など、実行可能なオーダーへのすり合わせ。
実行 9. オーダーの生成 確定した予測に基づき、システム連携による自動発注・出荷指示の実行。

【フェーズ別解説】合意形成から需要予測・補充までの具体的手順

ここからは、9つのステップを実務に直結する3つのフェーズ「作成・合意」「予測」「補充」に分け、現場で直面する課題とその解決策を深掘りします。

1. 作成・合意フェーズ(ステップ1〜2):「安全在庫の押し付け合い」からの脱却

CPFR導入時、現場が最も苦労するのがこの初期フェーズです。日本の物流現場では伝統的に、小売側が「欠品防止」を盾に過剰な安全在庫の即時納品を要求し、メーカー側が「自社倉庫の在庫最適化」のために出荷をコントロールしようとする利益相反が存在します。ここで重要なのは、小売業の「棚割データ」や「販促カレンダー」を事前にメーカーと共有し、両者でECR(効率的消費者対応)の観点から「サプライチェーン全体の総在庫量を減らす」という共通のKPIを設定し、トップダウンで合意することです。

2. 予測フェーズ(ステップ3〜8):VMIとの決定的な違い「例外管理(Exception Management)」

このフェーズでは、システムによる「需要予測」と、現場担当者による「例外の解決」が行われます。類似概念であるVMIは、小売が提供したデータをもとにメーカーが「一方的」に在庫を補充しますが、CPFRの核心はステップ4・5および7・8の「例外管理」にあります。
例えば、SNSの予期せぬバズりや急激な天候変化によって、システム予測の閾値を大幅に超える需要(例外)が発生した場合、アラートを受け取ったメーカーと小売のSCM担当者が即座に協議します。「特売チラシの目玉商品を変更する」「工場の別ラインを一時的に転用する」「翌週分のトラックを前倒しで手配する」といった物理的リソースの再配分を両者合意の上で行うことで、単なるアルゴリズムの暴走を防ぎ、現場の肌感覚を反映した実効性のある計画へと昇華させるのです。

3. 補充フェーズ(ステップ9):DXによる自動化と「実行プロセスのフェールセーフ」

最終ステップでは、合意されたオーダー予測が実際の受発注データとして生成されます。近年ではDXの進展により、EDIやAPIを通じた基幹システム同士の連携で発注処理が完全自動化されるケースが増えています。
しかし、超実務的な視点で忘れてはならないのが、「実行プロセスのフェールセーフ(安全装置)」です。CPFRはシステムを信じてジャストインタイムに近い補充を行うため、万が一WMS(倉庫管理システム)が通信障害でダウンしたり、EDIのバッチ処理にエラーが生じたりすると、自動補充は一瞬で停止し、数時間で店舗の棚が空になるリスクを孕んでいます。
そのため、プロの物流企画担当者は、ステップ9の運用マニュアルに「障害時は14時までに所定のExcelフォーマットで暫定の出荷指示をメールし、電話で確定させる」「過去4週間の移動平均値を元にした手動BTO(Build to Order)フローへ切り替える」といったアナログなBCP(事業継続計画)を必ず組み込んでいます。この泥臭い安全網があってこそ、高度なシステムは真価を発揮します。

CPFR導入がもたらす小売業・製造業(メーカー)双方のメリット

前セクションで解説したCPFRの「9つのステップ」を実務に落とし込み、正しく運用を回すことで、サプライチェーン全体に劇的な変化が起こります。ここでは、導入の成果として得られるメリットを、小売側(リテーラー)と製造業側(ベンダー)の視点で明確に対比させ、現場の生々しい運用実態を交えて解説します。

小売側(リテーラー)のメリット:欠品防止と売上機会の最大化

小売業の現場において最も恐れるべき事態は、特売(プロモーション)時の欠品による「売上機会の損失」と顧客からのクレームです。CPFRを導入することで、以下のような絶大なメリットを享受できます。

  • プロモーション時の欠品撲滅と交叉比率の向上:VMIが単なる「過去の消化実績に基づく補充」に留まることが多いのに対し、CPFRでは事前に販促計画という未来の情報をメーカーと共有します。これにより、特売時の突発的な需要予測のブレを吸収し、確実な商品確保が可能になります。欠品が減ることで売上が伸び、同時に無駄な在庫が減るため、小売業の重要KPIである「交叉比率(粗利益率×在庫回転率)」が飛躍的に向上します。
  • 店舗バックヤードの省スペース化と作業削減:メーカーからの適時・適量の納品が保証されるため、店舗側に「念のための安全在庫」を山積みにして抱える必要がなくなります。結果としてバックヤードがスッキリし、入出荷時の検品作業や売場への棚出し作業の工数が大幅に削減されます。
  • 発注業務の自動化によるリソースの再配分:日々の発注業務を、各店舗の店長やパートスタッフの属人的な「勘と経験」から脱却させ、システムによる自動発注へとシフトできます。これにより、店舗スタッフは接客や魅力的な売場づくりという本来のコア業務に専念できるようになります。

製造業側(メーカー)のメリット:過剰在庫の削減と生産計画の最適化

一方で製造業側から見ると、小売業のPOSデータや販売計画を直接把握できることは、サプライチェーンを上流へ遡るにつれて需要変動が過大に増幅される「ブルウィップ効果」を抑制するための最強の武器となります。

  • 過剰在庫・廃棄ロスの削減(歩留まり向上):小売側からの正確な需要予測データに基づくため、「見込み生産」による過剰な製品在庫や、食品・日用品における賞味期限切れ等による廃棄ロスを極限まで圧縮できます。月末にありがちな、営業担当者による無理な「押し込み販売」も不要となります。
  • 資材調達・生産計画の平準化とダウンタイム削減:数ヶ月先の販売計画が見えることで、原材料の調達段階から無駄のないスケジュールを組むことが可能です。工場のライン稼働率を安定させ、急な段取り替えによるダウンタイムを削減し、製造原価の引き下げに直結します。
  • 倉庫保管スペースの最適化:自社物流センター内に滞留する在庫が減るため、外部の営業倉庫を借りる際の一時保管料などの物流コストを削減できます。出荷波動が滑らかになるため、繁忙期に向けた庫内作業員(ピッカーやフォークリフトオペレーター)の過剰な手配も不要になります。

双方共通のメリット:SCM全体のコスト削減とパートナーシップ強化

CPFRの真髄は、企業という枠組みを超えた「全体最適」にあります。小売とメーカーが「情報を隠し合う敵」から「利益を分かち合うパートナー」へと変わることで、SCM全体に計り知れない相乗効果をもたらします。

物流現場における最も顕著な共通メリットは「輸配送網の効率化とCO2排出量の削減」です。出荷量が事前に予測可能になるため、配車担当者はトラックの積載率を極限まで高めるルートを組むことができます。さらに、納品先の物流センターでのトラック待機時間の削減にも繋がり、共同配送の実現基盤ともなります。これは昨今の「物流の2024年問題」に対する強力な解決策となるだけでなく、企業のSDGs(持続可能な開発目標)への貢献にも直結します。

実務で直面するCPFR導入の課題と解決に向けたアプローチ

CPFRは強力な手法ですが、導入現場では数多くの障壁が立ちはだかります。とくに、立場の異なる企業間で高度な情報共有を行う特性上、単なる物流改善の枠を超えた組織間の意識改革が不可欠です。本セクションでは、CPFR導入にあたり現場が必ず直面する「見えない壁」と、その解決策となるアプローチを解説します。

企業間の情報壁と信頼関係(パートナーシップ)の構築

CPFR導入において、実務担当者が最初に直面するのが「企業間の情報壁」です。自社のPOSデータや販促計画、さらには原価構造や歩留まりに関わる情報を他社へ開示することに対し、多くの企業はセキュリティ上の強い懸念を抱き、経営陣がストップをかけるケースが多々あります。

CPFRの9つのステップにおいては、ステップ1の「協働の合意」段階から、互いの機密情報を深くすり合わせる必要があります。この情報壁を打破するための具体的なアプローチは以下の通りです。

  • 運用に即した堅牢なNDA(秘密保持契約)の締結:単なる法務部主導のテンプレート契約ではなく、「どの階層のデータ(SKU単位の売上、プロモーション時期など)を、誰が、どのシステムで閲覧・利用でき、二次利用をどこまで許可するか」を実務ベースで詳細に明記したCPFR特化型のNDAを締結します。
  • スモールスタートによる成功体験の共有:最初から全データを共有するのではなく、まずは特定のカテゴリや限定したパイロット店舗からテスト導入を開始します。「情報を出せば、本当に欠品が減り、売上が上がる」という実利を現場と経営層に体感させることが何よりの推進力になります。

データフォーマットの標準化と泥臭いマスタ統合

信頼関係の構築と同等か、それ以上に実務者を苦しめるのが「データフォーマットの不一致」です。企業が異なれば、使用している基幹システムやコード体系は全く異なります。エクセルベースでの手作業によるデータ統合は、現場の疲弊を招く最大の要因となります。

データ項目 小売業(リテーラー)の実務認識 メーカー(製造業)の実務認識 CPFRにおける標準化のアプローチ
商品コードと荷姿 インストアコード(自社独自のSKU)やバラ単位での管理 JANコード、またはケース単位・パレット単位での管理 システム間で一意のIDによるマッピング(変換テーブル)の構築と、梱包単位の換算ルールの徹底。
リードタイムの解釈 店舗発注からバックヤードへの納品完了までの日数(時間) 工場出荷からDC(配送センター)到着までの日数 物流拠点(DC・TC)を介したエンドツーエンドでの時間軸の再定義と、バッファ時間のすり合わせ。
販促・イベント 特売日・チラシ掲載期間(点ベースの計画) 生産開始から出荷までのバッチ期間(線ベースの計画) 「販売計画の共有」段階での共通カレンダー統合と、特売フラグの認識合わせ。

上表のように、同じ「在庫」や「需要」を語るにしても、前提となるデータ単位がズレていれば、精緻な予測は到底不可能です。現場の物流企画担当者は、まず双方の情報システム部門を巻き込み、データのクレンジングとマスターデータの統合ルールを泥臭く策定しなければなりません。

重要KPIの設定と組織間対立(サイロ化)の打破

CPFRが失敗するもう一つの大きな要因が、社内における「組織のサイロ化」とKPIの相反です。メーカー側では、営業部門が「売上至上主義・欠品は悪」として過剰な見込み生産を要求する一方で、物流・生産部門は「コスト削減・過剰在庫は悪」として在庫を絞ろうとします。小売側でも、バイヤーと物流担当者の間で同様の対立が起きます。

CPFRを成功させるためには、企業間だけでなく「社内の部門間対立」を解消することが先決です。そのためには、経営トップがコミットし、「発注充足率」「店舗欠品率」「サプライチェーン全体の総在庫回転日数」といった複合的な共通KPIをトップダウンで設定し、部門間の評価基準を統合する組織的アプローチが不可欠です。

【DX×CPFR】ITシステムによる自動化と成功の鍵

これまでのセクションで触れた通り、CPFRの導入には「膨大なデータのリアルタイム共有」と「予測モデルのすり合わせ」という高いハードルが存在します。手作業やExcelベースでの情報共有では、データ更新のタイムラグにより逆にサプライチェーンの混乱を招きかねません。ここでは、現代の最新テクノロジーを駆使したDXによって、実務上の課題をいかに解決し、現場の運用に乗せていくのかを解説します。

AI需要予測とクラウドSCMによるプロセスの高度化・自動化

CPFRにおける「9つのステップ」の中でも、最も属人的になりやすく現場の負荷が高いのが「販売予測の作成」と「発注計画のすり合わせ」です。これらを自動化し、精度を飛躍的に高めるのがAI需要予測クラウドSCMの連携です。

  • AI需要予測による精度の劇的向上:従来のECRではPOSデータに基づく過去のトレンド分析が主流でしたが、現代のAI需要予測は、気象データ、カレンダー情報(連休や地域の行事)、SNSのトレンド、競合の動向など、無数の変数を加味して高度な予測値を算出します。これにより、突発的な需要変動による欠品防止と、過剰発注による余剰在庫の削減を同時に達成する「究極の在庫最適化」が可能になります。
  • クラウドSCMとAPI/EDI連携によるリアルタイム共有:小売業と製造業のシステムをAPIやEDIでクラウドSCMに直結させることで、店頭在庫と物流センター在庫の状況が瞬時に共有されます。システムが例外(予測値と実績値の大きな乖離など)を検知したときのみアラートを出し、担当者が介入する「例外管理」のプロセスが完全に自動化・効率化されます。

システム障害を前提とした超実務的BCPの構築

DX化が高度に進むCPFR運用において、物流現場が最も恐れるのはクラウドSCMやWMSのシステム障害です。システムへの依存度が高まるほど、停止時のダメージは計り知れません。システム停止により発注データが飛ばない、あるいはセンターからの出荷指示が止まる事態に備え、システムを冗長化するだけでなく、業務フロー上のバックアップ体制(BCP)の構築が必須です。

例えば、「15分に1回の頻度で直近1週間分の『発注・納品予定データ』をローカル環境にCSV形式で自動エクスポートする仕組みを持たせる」「障害発生から2時間復旧しない場合は、即座にFAXやメールベースのアナログな出荷指示に切り替え、Aランク品目の欠品防止を最優先する」といった運用ルールを、事前に小売・メーカー間で取り決めておきます。システム化とアナログなBCPは、常に車の両輪でなければなりません。

導入を成功に導く「スモールスタート」でのアプローチ

高度なAIシステムを導入したからといって、すぐに劇的な成功が得られるわけではありません。CPFRの本質はITツールではなく、「協働する組織風土」にあります。新しい業務フローへの現場の戸惑いと、情報システム部門のリソース不足という組織的課題を乗り越えるための絶対的な鍵はスモールスタートにあります。

  1. 対象商品と拠点の限定:最初は全品目ではなく、「季節変動が少なく売上が安定している日用雑貨のAランク商品」や、「新商品プロモーションの対象となる特定カテゴリ」の数品目のみに絞ります。店舗や物流センターも限定し、特定エリアでのみテスト運用を行います。
  2. ステップの段階的適用と効果測定:最初は「事業計画の共有」と「販売予測のすり合わせ」のみに留め、発注プロセスの自動化は見送るなど、ステップを切り出して導入します。「在庫日数の20%削減」といった小さな成功体験を積み重ね、データ精度が向上し企業間の信頼関係が醸成された段階で、初めて自動発注への連携へと駒を進めます。

CPFRは、小売業と製造業の間の「壁」を取り払い、同じ目標に向かってサプライチェーン全体を最適化する壮大なプロジェクトです。AIやクラウドといったDXを強力な武器としながらも、現場の泥臭い運用課題に寄り添い、少しずつ強固なパートナーシップを築き上げることこそが、現代のCPFR成功の最適解であり、持続可能なSCMを実現する唯一の道と言えるでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q. CPFRとは何ですか?

A. CPFR(協働的な計画・予測・補充)とは、小売業と製造業がデータを共有し、サプライチェーン全体のムダを削減する協働モデルのことです。販売計画や需要予測を共同で行うことで、全体最適化を目指します。近年は「物流の2024年問題」などの課題解決に向け、実践的なアプローチとして再び注目を集めています。

Q. CPFRとVMIの違いは何ですか?

A. 最大の違いは「責任の所在」と「協働の度合い」にあります。VMI(ベンダー主導型在庫管理)はメーカー側に補充や在庫管理の責任が偏りがちです。一方のCPFRは、小売業とメーカーの双方が対等な立場で販売計画などのデータを共有し、協働して需要予測や補充計画を立てる点で大きく異なります。

Q. CPFRを導入するメリットは何ですか?

A. 小売業にとっては欠品の防止や売上機会の最大化が図れるメリットがあります。製造業(メーカー)にとっては過剰在庫の削減や生産計画の最適化につながります。さらに双方共通の利点として、サプライチェーン全体のコスト削減と強固なパートナーシップの構築が実現できる点も大きな魅力です。

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。