- 概要:2026年3月の航空輸送統計では、国際線旅客が前年比15.1%増(222.9万人)、国際航空貨物重量が3.0%増(14.36万トン)となった一方、国際貨物トンキロは9.0%減少し、近中距離荷動きへのシフトが確認されました。
- 実務への影響:ヤマト・JALの専用機運航終了(2027年6月目途)に見られるように国内は旅客ベリー活用へ回帰しており、荷主は容積重量の圧縮と海運・鉄道を交えた複合一貫輸送の再設計が求められます。
国際旅客222万人と貨物14万トン、空輸需要の分岐点
国土交通省が公表した2026年3月分の「航空輸送統計速報」によると、国内定期航空の旅客輸送人数は 約1,018.7万人(前年同月比+4.2%)、国際航空の旅客輸送人数は 約222.9万人(前年同月比+15.1%) でした。
一方、貨物輸送重量を見ると、国際航空貨物は 約14.36万トン(前年同月比+3.0%) と増加したのに対し、国内定期の航空貨物は 約5.21万トン(前年同月比-1.8%) と微減傾向を示しています。
国際線の旅客便が増便されると、機体の床下貨物室(ベリー)の積載枠が拡大します。荷主企業にとっては輸送スペースの確保がしやすくなる好機ですが、旅客手荷物の増加による積載制限も発生するため、輸送手段の選択がより重要になっています。航空輸送の基礎知識を踏まえたスペース管理が欠かせません。
国内航空貨物では、長距離トラック輸送の労働時間規制を受けた専用機活用の動きに変化が生じています。ヤマトホールディングスと日本航空(JAL)は、2024年4月に運航を開始した専用貨物機(A321-200P2F)について、燃料価格の高止まりや維持コストの上昇を踏まえ、2027年6月を目途に運航を終了すると発表しました。詳しくはヤマトHDとJAL、専用機を2027年6月終了へ|幹線輸送の再設計迫るでもお伝えしていますが、国内幹線輸送は専用機から定期旅客便のベリー活用へ再び舵が切られています。
国際線座席利用率90.7%と貨物トンキロ減に見る輸送実態
2026年3月実績の前年同月比一覧
航空輸送統計速報における2026年3月の主要指標は以下の通りです。
| 指標名 | カテゴリ | 2026年3月実績 | 前年同月比 | 前月比 | 実務上のチェックポイント |
|---|---|---|---|---|---|
| 旅客輸送人数 | 国内定期 | 約1,018.7万人 | +4.2% | +17.9% | 春休み・異動需要による季節的高水準 |
| 旅客輸送人数 | 国際 | 約222.9万人 | +15.1% | +15.4% | 訪日客の拡大でベリー供給枠が増加 |
| 貨物輸送重量 | 国内定期 | 約5.21万トン | -1.8% | +17.5% | 陸送との役割分担が進み微減傾向 |
| 貨物輸送重量 | 国際 | 約14.36万トン | +3.0% | +29.4% | アジア域内の電子部品荷動きが堅調 |
| 旅客輸送量 | 国内定期 | 約97.44億人キロ | +4.1% | +18.0% | 人キロ・人数ともにバランスよく推移 |
| 旅客輸送量 | 国際 | 約107.13億人キロ | +12.1% | +17.9% | 近中距離路線の比重が増加 |
| 貨物輸送量 | 国内定期 | 約0.57億トンキロ | +0.8% | +17.7% | 長距離幹線利用は維持 |
| 貨物輸送量 | 国際 | 約7.89億トンキロ | -9.0% | +24.4% | 欧米長距離の鈍化とアジア近距離化 |
| 座席利用率 | 国内定期 | 87.2% | +4.6pt | +3.5pt | 高水準を維持 |
| 座席利用率 | 国際 | 90.7% | +16.3pt | +4.8pt | 手荷物枠拡大で貨物重量枠に制約も |
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月次季節性と年間トレンドの要因分析
3月の前月比を見ると、年度末の繁忙期と春休みが重なり、国内貨物重量が +17.5%、国際貨物重量が +29.4% と大きく伸びています。旅客数も国内外ともに前月比で15%以上増加しており、3月特有の強い季節性が見られます。
中長期のトレンドを示す前年同月比では、輸送重量と輸送距離(トンキロ)の動きに違いが出ています。
国際線の座席利用率は 90.7% に達しました。旅客輸送人数の伸び率(前年同月比+15.1%)は輸送量(人キロ、同+12.1%)の伸び率を上回っています。これは、欧米などの長距離路線に比べ、アジア圏を中心とする近中距離路線の訪日需要が先行して回復し、1人あたりの平均飛行距離が短くなっていることを示しています。
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貨物面では、さらに特徴的な動きが見られます。国際航空貨物の輸送重量は約14.36万トンと前年比+3.0%で推移しているのに対し、貨物輸送量は約7.89億トンキロと 前年同月比-9.0% に落ち込んでいます。重量が増えながらトンキロが減少している主な要因は、以下の2点です。
- 欧州向け長距離輸送の調整:欧州連合(EU)による小口免税措置の見直し方針に伴い、越境EC関連の荷動きに変化が生じています。関連する制度変更についてはEU新関税で1件3ユーロ課税へ 小口航空貨物急減に備える日本企業の防衛策で解説しています。
- アジア域内での高付加価値品輸送の集中:AIデータセンター向け資材や半導体部材など、アジア域内のサプライチェーンを結ぶ短・中距離輸送の比重が高まっています。
国内航空貨物については、輸送重量が約5.21万トン(前年同月比-1.8%)と減少した一方で、貨物輸送量は約0.57億トンキロ(前年同月比+0.8%)とわずかに増加しました。本州内の近距離輸送がトラック等の陸送へ戻る一方、北海道・沖縄・九州などの長距離幹線で航空輸送が選ばれている状況がうかがえます。
旅客復便のベリー活用と専用機撤退が迫る調達構造転換
荷主企業への実務的影響:スペースと運賃体系の再選定
国際線座席利用率が90%を超える水準にあることは、貨物の手配現場に直接影響します。旅客便の増便によって全体のベリースペースは広がっていますが、乗客の手荷物重量が優先されるため、天候や予約状況によって貨物に割り当てられる重量枠が急に制限されるリスクがあります。
また、航空運賃は「容積重量(1立方メートル=167kg換算)」と「実重量」のいずれか大きい方を基準(チャージアブルウェイト)として計算されます。精密部品や半導体資材を扱う荷主は、梱包の小型化によって容積重量を抑える工夫が求められます。あわせて、ジェット燃料価格に連動する燃油サーチャージの動向にも注意が必要です。コスト構造の詳細は燃料サーチャージはなぜ下がらないのか:輸入物価指数が示す運賃転嫁の構造をご参照ください。
物流事業者の動向:専用機モデルの見直しと旅客ベリー回帰
国内幹線輸送では、専用貨物機を活用したビジネスモデルが見直されています。2024年の労働規制適用に合わせ、長距離トラックの代替として期待された航空貨物専用機ですが、運航コストの高さから採算確保が課題となっていました。
ヤマトHDとJALが専用機運航の終了と旅客便ベリー活用への回帰を決めたことは、専用機の固定費負担よりも、既存定期便の余剰スペースを必要な分だけ確保する運用の方が、需要変動に柔軟に対応できると判断されたためです。
これに伴い、物流現場では航空だけに頼らない輸送手段の再編が進んでいます。2025年の国内港湾コンテナ取扱量は2236万TEU、外貿・内貿ともに増加が示すように、海上コンテナやフェリー輸送の利用も定着してきました。緊急性の高い荷物は航空便、数日のリードタイムが許容できる荷物は海運や鉄道へ振り分ける動きが広がっています。内航海運の月次輸送動向から読み解くモーダルシフトの現実も併せて確認し、モードの使い分けを進めることが実務的です。
SAF義務化と国際再編が進む航空物流の将来シナリオ
① 短期〜中期の影響予測(3〜12ヶ月)
今後3〜12ヶ月の航空輸送環境について、実務上想定しておくべきシナリオは以下の通りです。
- 安定シナリオ:国際旅客便の運航が堅調に推移し、ベリー供給量が維持されます。アジア域内の半導体・電子部品需要が下支えとなり、通常の予約ルートで適正運賃でのスペース確保が継続します。
- 逼迫シナリオ:欧州や米国の輸入免税枠見直しにより長距離貨物専用機の運航が減便され、定期旅客便のベリースペースへ貨物が集中するケースです。高付加価値品であってもスペース競合による運賃上昇や搭載制限が発生しやすくなります。
② ウォッチすべき指標・政策・スケジュール
航空物流に関わる担当者が定期的に確認すべき項目をまとめました。
| 指標・政策名 | 確認元 | 確認頻度 | 着目すべき理由 |
|---|---|---|---|
| 航空輸送統計速報 | 国土交通省 | 毎月 | 国内・国際の旅客便数と貨物重量の増減トレンド把握 |
| 燃油サーチャージ(FSC)改定基準 | 主要航空会社(ANA・JAL等) | 毎月 | 輸送単価に直結する追加費用の事前把握 |
| SAF供給義務化の検討状況 | 経済産業省・国土交通省 | 四半期 | 2030年度目標に向けた環境コスト転嫁の動向確認 |
| 国内港湾コンテナ取扱貨物量速報 | 国土交通省 港湾局 | 半年〜年次 | 海上輸送へのモーダルシフト状況の確認 |
政策面では、成田・羽田・関西・中部など主要7空港において、航空燃料供給事業者へ持続可能な航空燃料(SAF)の供給を義務付ける議論が進んでいます。2030年度に供給量の1%以上、2031年度に3%以上とする目標案が提示されており、従来の化石燃料に比べて割高なSAFの調達コストが、将来的に荷主負担へ反映される可能性があります。
③ 先行事例および活用可能な支援制度
航空貨物の調達環境が変わる中、各社は再編を進めています。
- ANAグループによる貨物事業統合:ANAホールディングスは日本貨物航空(NCA)を子会社化し、2027年4月を目途にグループ内の貨物事業3社を統合する計画を進めています。機材運用の一体化により、国際ネットワークの効率化を図る取り組みです。
- 自治体と連携したベリースペース当日配送:鹿児島県などでは、旅客便の床下スペースと地元の陸送網を連携させ、遠隔地への生鮮品当日配送ネットワークを維持する実証事業が行われています。
荷主企業が環境対応を進める際の支援策として、東京都(クール・ネット東京)が実施する「企業のScope3対策促進事業」のように、貨物代理店を通じたSAF利用に伴う追加費用の一部を補助する制度も登場しています。
まとめ:今後の対策
2026年3月の統計データは、国際線の座席利用率が90.7%に達して旅客便ベリーの供給基盤が強まる一方、輸送距離の短縮や国内専用機の運航終了など、航空輸送のあり方が実務面で変化している実態を示しています。
コストと納期を適切に両立させるため、荷主企業と物流事業者は以下の対応を進める必要があります。
荷主企業が取り組むべき対策
- 輸送モードの優先順位付け:すべての緊急品を航空便に乗せるのではなく、納期要件に応じてフェリーや鉄道コンテナへの分散を標準ルール化します。
- 梱包サイズの最適化:容積重量(1立方メートル=167kg)の基準を意識し、段ボール内の余白削減や小型化により、チャージアブルウェイトを圧縮します。
- 将来の環境コストの試算:SAF義務化による追加サーチャージの導入を見越し、中長期の調達予算へ織り込んでおきます。
物流事業者が取り組むべき対策
- 旅客ベリーを活用した柔軟な集荷設計:専用貨物機に依存せず、国内外の旅客定期便ネットワークを組み合わせた提案力を高めます。
- 複合一貫輸送サービスの構築:主要空港・港湾と陸上輸送をスムーズにつなぎ、顧客のリードタイムに応じた代替ルートを提示できるように体制を整えます。
まずは自社が手配している輸送案件のうち、航空便を利用しているルートの「容積重量と実重量の比率」を確認し、梱包改善や代替モードへの切り替え余地がないか点検することから始めてみてください。
出典: 国土交通省「航空輸送統計速報」 / 統計最終更新: 2026年3月
よくある質問(FAQ)
Q. 国際線の旅客数が増えると、なぜ航空貨物の手配に影響するのですか?
A. 旅客便の床下にある貨物室(ベリースペース)の供給が増えるため、全体的な輸送枠は広がります。ただし、座席利用率が高水準(2026年3月は90.7%)になると旅客手荷物が優先して積載されるため、路線によっては貨物枠の重量制限が急に厳しくなる点に注意が必要です。
Q. ヤマトHDとJALが国内貨物専用機の運航を終了するのはなぜですか?
A. 燃料価格の高止まりや機材維持費の負担により、専用機での運航コストが想定を上回ったためです。専用機の固定費を抱えるより、既存の定期旅客便の床下スペースを柔軟に活用する方が需要変動リスクを抑えられると判断され、2027年6月を目途に運航終了が決定されました。
Q. 航空運賃を抑えるために荷主側がすぐできる対策は何ですか?
A. 航空運賃は「実重量」と「容積重量(1立方メートル=167kg換算)」の大きい方が適用されます。梱包資材を見直して外装サイズを小型化し、容積重量を抑えることが効果的です。また、納期に余裕がある貨物を内航船や鉄道コンテナへ計画的に切り替えることも重要です。