2025年12月内航海運輸送動向:モーダルシフトの課題と企業が取るべき次世代物流戦略

レポート更新日: 2026年4月5日

この記事の要点
  • 概要:2025年12月の内航船舶輸送量は約2,393万トン(前年同月比84.8%)、トンキロは約118億トンキロ(同82.7%)へ急減し、船員不足や港湾荷役の限界による海運キャパシティ不足が露呈した。
  • 実務への影響:荷主企業は翌日納品から「+1〜2日」へのリードタイム延長や港湾近隣での安全在庫確保、物流会社は長距離幹線から港湾ハブの中短距離ドレージへの事業転換と往復利用(ラウンドユース)の構築が必須となる。

内航海運の月次輸送動向から読み解くモーダルシフトの現実:いま何が起きているのか

日本の物流インフラは今、歴史的な転換点にして最大の危機に直面しています。最新の統計によれば、2025年12月の内航船舶輸送量(合計)は約2,393万トンとなり、前年同月比で84.8%と大幅な落ち込みを記録しました。トラックドライバーの残業規制が本格化した「2024年問題」の受け皿として、本来であれば成長が期待されていたはずの内航海運が、なぜこの重要な局面で輸送量を減らしているのでしょうか。

この数字の落ち込みは、私たちの日常生活やビジネスの現場に直結する深刻なサインです。例えば、長距離輸送に頼るスーパーの加工食品や生鮮品、建設現場に不可欠なセメントや鋼材など、これまでは当たり前のように翌日届いていた物資の遅延や欠品リスクがかつてなく高まっています。トラックが長距離を走れなくなる中、頼みの綱である海上輸送のキャパシティが想定通りに拡大しなければ、文字通り「モノが運べない」事態が現実のものとなります。

直近の物流動向を紐解くと、この現実を裏付ける衝撃的な予測が報じられています。国土交通省ら3省は、2030年度に日本の物流輸送力が最大25%(約7.2億トン)不足するという警鐘を鳴らしました。この未曾有の危機に対し、政府は次期総合物流施策大綱において、トラック偏重からの脱却とモーダルシフト(長距離輸送の海運・鉄道への転換)の推進を急務としています。しかしながら、当の内航海運業界自体が、極度な船員不足と高齢化、そして港湾での荷役能力の限界という「壁」にぶつかっているのです。

一方で、明るい兆しも見え始めています。2025年にかけて、日本財団が推進するプロジェクトから世界初のレベル4自動運航内航コンテナ船「げんぶ」が商用運航を開始するなど、海運DX(デジタルトランスフォーメーション)が「実証実験」から「社会実装」のフェーズへと移行しました。トラックと内航船がどのように役割分担を行い、この輸送力のギャップを埋めていくのか。データが示す現実と最新の業界動向から、企業が今すぐ取り組むべき物流戦略の全体像を解き明かします。

データが示す実態:数字の背景を読み解く

現状の海運マーケットを正確に把握するため、国土交通省の「内航船舶輸送統計」による2025年12月の最新数値を分析します。前年同月比でマイナス成長となった背景には、単なる季節変動では片付けられない構造的な要因が潜んでいます。

輸送トン数 比較
出典:国土交通省・e-Stat(統計ID: 0003422274)
指標名 カテゴリ 最新値(2025年12月) 前年同月比
輸送トン数 合計 約2,393万トン 84.8%
輸送トン数 鋼船及び木船 約2,239万3,000トン
輸送トン数 大型鋼船 約1,511万5,000トン
輸送トン数 小型鋼船 約727万9,000トン
輸送トン数 プッシャーバージ・台船 約153万7,000トン
トンキロ 比較
出典:国土交通省・e-Stat(統計ID: 0003422274)
指標名 カテゴリ 最新値(2025年12月) 前年同月比
トンキロ 合計 約118億3,600万トンキロ 82.7%
トンキロ 鋼船及び木船 約115億6,400万トンキロ
トンキロ 大型鋼船 約86億8,500万トンキロ
トンキロ 小型鋼船 約28億7,900万トンキロ
トンキロ プッシャーバージ・台船 約2億7,300万トンキロ

国内貨物における輸送分担率(トンキロベース)で約4割を占める内航海運ですが、2025年12月の合計トンキロは約118億3,600万トンキロ(前年比82.7%)と、輸送トン数以上に激しく落ち込んでいます。トンキロが大幅に減少していることは、特に長距離(数百〜数千キロ)を担うはずの大型貨物の動きが鈍化したことを意味します。この数値低下の背景には、主に3つの強固なボトルネックが存在します。

  • ① 船員の圧倒的な不足:

    カボタージュ制度によって外国人船員の乗船が制限されている日本の内航海運では、既存船員の高齢化と大量退職が直撃しています。船はあっても動かせる人間がいないため、運航頻度(配船スケジュール)を落とさざるを得ないのが実態です。

  • ② 海陸連携の断絶:

    RORO船やフェリーへのモーダルシフト需要は高まっていますが、港から目的地までシャーシ(荷台)を牽引するドレージトラックや、港湾荷役作業員(ステベ)が極端に不足しています。港に荷物が滞留(デマレージ)してしまい、結果的に船の回転率が落ちているのです。

  • ③ 環境対応による船腹量の減少:

    カーボンニュートラルを目指すESG投資の要請から、古いディーゼルエンジンを積んだ老朽船が退役を迫られています。しかし、鋼材や代替燃料対応エンジンの価格高騰により新造船への投資が進まず、一時的な輸送キャパシティの目減りが発生しています。

政府の次期物流大綱では「積載効率を現状の40%未満から44%へ引き上げる」という目標が掲げられました。船へのシフトだけを叫ぶのではなく、船に積む前の「共同配送」や「パレット標準化」が伴わなければ、この統計のダウントレンドを反転させることは不可能です。トラック側の積載効率改善に向けた最新の実情については、【2026年最新】国内トラック輸送の需給バランスと積載効率の動向も合わせてご参照ください。

現場への影響:荷主・運送会社・ドライバーはどう動くか

前年比8割台という輸送量の落ち込みは、サプライチェーンの最前線で激しい摩擦を引き起こしています。トラックから船へ切り替えようにもスペースが確保できず、各プレイヤーは事業モデルの抜本的な再構築を迫られています。

荷主企業への影響

最大の打撃は「リードタイムの強制的な延長」です。これまでトラックのチャーター便で「翌日納品」を約束していた営業戦略は通用しなくなりました。海上輸送へ切り替えた場合、港での待機時間や天候による欠航リスクを織り込み、「+1日〜2日」のバッファを持たせた安全在庫の再設計が不可欠です。また、ESG経営の観点からカーボンニュートラル(Scope3削減)に向けて内航海運を利用したいものの、フェリーやRORO船のスペースが常に満杯で予約できないというジレンマに直面しています。これに対応するため、荷主は港湾後背地に位置する「港湾隣接型物流センター」を確保し、在庫の分散化(クロスドック機能の活用)を急ピッチで進めています。

運送会社への影響

長距離幹線輸送を担ってきたトラック事業者は、「港をハブとした中短距離輸送」への事業転換を急いでいます。ある消費財・小売メーカーが長距離トラックからフェリーの無人航送(シャーシのみを船に載せる方式)へと切り替えた事例が報じられています。これにより、運送会社は港への搬入・引取(ドレージ)のみに特化でき、ドライバーの労働環境を劇的に改善できました。しかし、ここでの課題は「片道空のシャーシを運ぶ無駄(空走リスク)」です。往路はA社の荷物を、復路はB社の荷物を運ぶといった「ラウンドユース」の仕組みを港湾ヤード内で構築できるかどうかが、運送会社の新たな競争軸となっています。地方港を起点とした最新のネットワーク構築動向については、地域別・品目別輸送構造の変化:地方物流の現状と2024年問題の影響で詳しく分析しています。

現場ドライバーへの影響

長距離・車中泊が常態化していた過酷な働き方から、近距離・日帰り運行中心のシフトへと変わりつつあります。国交省が「自動物流道路」の構想を打ち出すなど、幹線輸送の自動化・無人化が進む中、ドライバーの役割は「ラストワンマイルの高品質な配送」や「高度な荷役機器を扱うオペレーター」へと進化(リスキリング)していくことが求められています。

今後の影響・予測とウォッチすべき指標

激動の2025年以降、物流網を崩壊させないために、企業はどのような視座を持つべきか。以下の3つのアプローチで中長期のロードマップを描く必要があります。

① 短期〜中期の影響予測(3〜12ヶ月)

  • 【悲観シナリオ】:内航船員とドレージドライバーの不足が閾値を超え、港湾ターミナルでの貨物滞留が慢性化します。これにより内航船の定時運航率が著しく低下し、輸送トン数およびトンキロの前年割れが常態化。結果として、トラック・海運・鉄道のいずれのモードでも荷物が運べない「完全な物流クライシス」に陥り、サプライチェーンの分断による企業倒産が急増します。
  • 【楽観シナリオ】:世界初のレベル4自動運航船「げんぶ」のような海運DXの実装効果が表れ始め、船員の負担軽減と運航効率の向上が実現します。同時に、荷主企業が「翌日納品」を見直し、出荷日を分散させることで港湾の処理能力が平準化され、徐々に輸送分担率の回復と海上輸送の安定化へと向かいます。

産業別・品目別のより具体的な荷動きの変動リスクについては、主要産業別・品目別の荷動き分析:サプライチェーンの変化と景気予測も参考に、自社の事業計画へ反映させてください。

② ウォッチすべき指標・政策・スケジュール

経営判断の遅れを防ぐため、以下の指標と政策動向を定期的にトラッキングする体制を構築してください。

指標名 確認元 確認頻度 活用目的
内航船舶輸送統計(輸送トン数・トンキロの推移) 国土交通省 毎月 海上輸送スペースの需給逼迫度合いの予測
「総合効率化計画」の認定状況(物流効率化法) 国土交通省 随時(四半期毎) 競合・他業界の共同配送・シフト動向の把握
次期総合物流施策大綱のKPI(積載率目標など) 関連省庁合同会議 半期〜年次 自社の物流KPIと国策とのアラインメント確認

③ 先行事例と活用すべき公的支援

厳しい環境下でも、他社との連携によって壁を突破している企業の事例が存在します。

  • 事例1:飲料メーカー間の「競合から協調へ」の転換

    積載重量の制約が厳しい飲料業界において、競合関係にあるA社とB社がシステムをAPI連携し、共同でコンテナやフェリーの枠を確保。発注リードタイムを「翌々日納品」に延長するよう卸売業者と合意し、トラックから鉄道・船舶へのモーダルシフトを強力に推進しました。

  • 事例2:化学品物流でのAIマッチング共同配送

    個社最適の限界を打破するため、AIを用いたマッチングシステムを導入。行きの重い荷物と帰りの軽い荷物を組み合わせることで積載率を劇的に向上させ、空車回送を撲滅しました。

【活用すべき支援制度】
政府はモーダルシフトや共同配送を強力に後押ししています。「物流効率化法」に基づく総合効率化計画の認定を取得すれば、中継拠点の固定資産税の特例措置や、「モーダルシフト等推進事業費補助金」による実証実験経費・設備導入費の補助が受けられます。また、環境対応を証明する「エコレールマーク」「エコシップマーク」の取得は、企業のブランド価値向上にも直結します。

まとめ:今後の対策に向けたアクションプラン

2025年12月の内航船舶輸送量が約2,393万トンへと落ち込んだ事実は、「トラックから船へ切り替えれば問題は解決する」という安易な期待を完全に打ち砕きました。受け皿となる内航海運自身がキャパシティの限界に直面する中、企業は単なる輸送モードの変更を超えた「構造的かつ全社的な物流改革」に踏み出さなければなりません。

この難局を乗り切るため、今すぐ実行すべきアクションは以下の通りです。

【荷主企業向けアクション】

  • 営業・生産・物流部門を横断したS&OP会議を立ち上げ、顧客への「リードタイム延長(+1〜2日)」の合意形成を最優先で進める。
  • 輸送時のデッドスペースをなくすため、パレットの標準化を推進し、同業他社や異業種との「共同配送」の枠組みを構築する。

【物流会社向けアクション】

  • 長距離幹線輸送から、港湾ターミナルをハブとした「中短距離ドレージ(ショート・ミドルホール)」へと経営資源をシフトさせる。
  • シャーシの「ラウンドユース(往復利用)」を実現するため、情報プラットフォームや動態管理システムを導入し、港湾近郊のクロスドック体制を強化する。

まず最初の一手として、今日から「自社の全輸送ルートにおける実積載率とCO2排出量」の可視化に着手し、競合他社へ『共同輸送の協議』を持ちかけるアクションを起こしてください。 自前主義に固執する企業から市場を退場していく時代において、オープンな連携とデータの共有こそが、企業の生存を確約する最強の武器となります。


出典: 統計ID: 0003422274(政府統計の総合窓口 e-Stat) / 統計最終更新: 2025年12月

よくある質問(FAQ)

Q. モーダルシフトが進まない理由は何ですか?

A. 主な理由は3つあります。1つ目は内航海運業界での深刻な船員不足と高齢化です。2つ目は、港から目的地へ貨物を運ぶドレージトラックや港湾荷役作業員の不足による海陸連携の断絶です。3つ目は、環境対応(ESG投資)による老朽船の退役が進む一方、新造船への投資が追いつかず、一時的に船腹量(輸送キャパシティ)が減少している点です。

Q. 2024年問題でトラックから船へ切り替えるメリット・デメリットは何ですか?

A. メリットは、長距離運転手の労働時間削減に繋がり、ドライバー不足に対応できる点や、CO2排出量を大幅に削減できる点です。一方デメリットは、海上輸送への切り替えによるリードタイムの延長(+1〜2日)や、天候による欠航リスクへの備え(安全在庫の積み増し)が必要になる点、港から先のドレージ手配が困難な点が挙げられます。

Q. 物流危機を乗り切るための「共同配送」とはどのような取り組みですか?

A. 共同配送とは、複数企業が輸送トラックやコンテナのスペースをシェアして荷物を運ぶ仕組みです。例えば、競合する飲料メーカー同士がシステムを連携し、同じフェリーや鉄道で荷物を輸送する事例があります。これにより、これまで空気を運んでいたデッドスペースを解消し、実積載率を飛躍的に高めることが可能です。政府も補助金等で強力に支援しています。

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。