物流業界においてM&A(企業の合併・買収)は、規模拡大とネットワーク網を構築するための強力な成長戦略として定着しています。しかし、事業規模が急激に拡大する裏側で、多くの企業が頭を悩ませているのが、買収先ごとに異なるITシステムの乱立と、それに伴うインフラ管理の複雑化です。
こうした中、積極的なM&Aで非連続的な成長を遂げてきた国内物流大手のSBSホールディングス(以下、SBSHD)が、双日テックイノベーションの提供するITインフラ運用アウトソーシングサービス「NCPF」を導入し、本格稼働を開始したというニュースが業界の注目を集めています。同社は本導入により、月間約120時間に及ぶ業務負荷の削減に成功し、社内のITリソースを「守りの保守」から「攻めのDX」へとシフトさせる体制を構築しました。
本記事では、規模拡大を続ける物流企業が直面する「技術的負債」と「人材不足」という二大課題に対し、外部パートナーの活用がいかに有効な解決策となるのか、その詳細と業界への影響を徹底解説します。
SBSHDにおけるNCPF導入の全貌と成果
SBSHDは、東芝ロジスティクスやリコーロジスティクスなど、大型M&Aを次々と成功させ、国内外に数多くの拠点を抱えるメガ物流グループへと成長しました。しかし、その急速な成長の代償として、社内のITインフラ管理は限界を迎えつつありました。まずは今回の導入に関する事実関係を整理します。
導入の背景と直面していた課題
SBSHDのグループITインフラ統括部が抱えていた最大の課題は、M&Aに伴う管理対象デバイスの爆発的な増加と、それに伴う運用の属人化でした。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 導入企業 | SBSホールディングス株式会社 |
| サービス提供者 | 双日テックイノベーション株式会社 |
| 導入サービス | 運用アウトソーシングサービス「NCPF」 |
| 管理対象規模 | サーバー500台以上、PC7,000台以上に到達 |
| 直面していた課題 | M&Aによるシステム環境の複雑化と慢性的なIT人材不足による業務の属人化 |
グループ会社間のシステムを融合させるPMI(買収後の統合プロセス)を進める一方で、日々の仮想サーバーの構築やVPNユーザーのアカウント登録といった定常業務に追われ、IT部門は疲弊していました。さらに、特定の担当者しか運用ルールを把握していない「属人化」が進行し、担当者の異動や退職がそのままシステム運用のリスクに直結するという脆弱性を抱えていたのです。
NCPFによる運用プロセスのアウトソーシング化
この状況を打破するために採用されたのが、双日テックイノベーションの「NCPF」です。NCPFは、企業が管理・運用しているITインフラやサービスの業務内容を専門家がヒアリングして網羅的にマニュアル化し、実際の運用を代行するマネージドサービスです。
SBSHDは2023年12月に要件定義を開始し、2024年1月から3月にかけて緻密な運用設計を実施しました。同年4月の本格稼働以降、以下のような劇的な改善効果を生み出しています。
| 改善項目 | 具体的な効果と変化 |
|---|---|
| 業務負荷の削減 | 定型的な運用業務をアウトソーシングし月間約120時間分の工数を削減 |
| 属人化の解消 | 業務プロセスの網羅的な文書化により特定担当者に依存しない体制を確立 |
| 障害対応の迅速化 | 窓口の一本化と運用体制の整理により突発的なインシデントにもスムーズに対応 |
| リソースの再配置 | 創出された時間を新規システム導入やM&Aに伴うIT統合などのコア業務へ集中 |
業界への波及効果|IT部門の役割はどう変わるか
SBSHDの事例は、単なる一企業の業務効率化にとどまらず、物流業界全体が直面するIT人材不足に対するひとつの解答を示しています。この取り組みが各プレイヤーに与える影響を分析します。
M&A推進企業におけるPMIの高速化
運送会社や倉庫会社のM&Aが活発化する中、買収後のシナジーをいかに早く創出できるかが経営の鍵を握っています。しかし、現実にはネットワークの統合やセキュリティ基準の統一といったIT基盤の整備(IT-PMI)がボトルネックとなり、想定通りの統合効果を得られないケースが多発しています。
SBSHDのようにインフラの保守・運用といった「定常業務」を外部の専門ベンダーに切り出すことで、社内の限られた優秀なITエンジニアを「統合プロジェクトの推進」に専念させることができます。結果として、買収先のシステム環境を迅速に自社標準へ引き上げることが可能となり、M&A戦略全体のスピードと確実性が飛躍的に向上します。
参考記事: 運送会社立ち上げは新規許可よりM&A?「想定していなかった負債が」を防ぐ配送内製化の秘策
荷主企業が享受するサービス品質の安定
物流を委託する荷主企業(メーカーや小売業)にとっても、物流事業者のITインフラが安定稼働していることは極めて重要です。昨今、ランサムウェア等のサイバー攻撃による物流システムの停止がサプライチェーン全体を麻痺させる事件が相次いでいます。
双日テックイノベーションのような強力なSE支援サービスと連携し、エンドポイント対策からBCP(事業継続計画)対策までを包括的にカバーする運用体制が構築されている物流事業者は、荷主企業から見て「安心して荷物を預けられるパートナー」として高く評価されます。ITインフラの堅牢性は、もはや裏方の業務ではなく、営業上の強力な差別化要因になりつつあるのです。
LogiShiftの視点|「均整ある成長」を支えるIT基盤の戦略的価値
ここからは、物流ジャーナリストの視点で、SBSHDがこのタイミングでITインフラの抜本的改革に踏み切った背景とその戦略的意味を深く考察します。
新中計「Harmonized Growth 2030」との符合
SBSHDは最近、2026年度から2030年度に向けた新中期経営計画「Harmonized Growth 2030」を発表しました。この計画の最大の眼目は、これまでのM&A主導による急激な規模拡大から、成長と利益のバランスを重視する「質的成長」への転換です。具体的には、現在2%台に低迷している物流事業の営業利益率を4.5%へと倍増させるという野心的な目標を掲げています。
この利益率の倍増を実現するためには、グループ内に散在する重複拠点の統廃合や、輸配送ネットワークの共有化が不可欠です。そして、それらの物理的な統合を下支えする大前提となるのが「ITシステムの標準化」です。今回のNCPF導入によるインフラ運用の定型化・標準化は、まさにこの新中計における「質的成長」を実現するための不可欠な地ならし作業であったと言えます。
守りから攻めへ|ITリソースの再配置が競争力を決める
物流業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の最大の障壁は、最先端のシステムがないことではなく、既存の古いシステム(レガシーシステム)の維持管理にリソースを奪われ、新しい挑戦ができないことにあります。
今回の事例で最も注目すべきは、月間120時間の削減という定量的な成果以上に、「IT部門の役割が変化した」という定性的な成果です。これまで「サーバーが止まらないように見張る」「社員のアカウントを発行する」といった守りの業務に忙殺されていた人材が、新規システムの導入企画や、EC物流の自動化、AIの活用といった「ビジネスの成長に直結する攻めの業務」へシフトできるようになった点に、このプロジェクトの真の価値があります。
IT人材の獲得競争が全産業で激化する中、自社でインフラエンジニアを抱え込む自前主義は限界を迎えています。SBSHDのように、「外部に任せるべき定型業務」と「自社で知見を蓄積すべきコア業務」を明確に切り分け、適切なアウトソーシングを活用できる企業だけが、次世代の物流競争を勝ち抜くことができるでしょう。
参考記事: 経営課題首位は「人材強化」90.2%|TDB調査が示す物流DXの急所
まとめ|明日から意識すべき3つのアクション
SBSHDによるNCPFの導入事例は、規模拡大を続けるすべての物流企業に対し、ITインフラ管理のあり方を見直す強烈なメッセージを発しています。
明日から経営層やIT部門のリーダーが意識すべき具体的なアクションは以下の通りです。
- 社内IT業務の棚卸しと可視化
- 自社のIT部門が「何にどれだけの時間を割いているか」を正確に把握する。特に、アカウント管理やパッチ適用といった定常業務の比率が高すぎる場合は、アウトソーシングの余地があると判断する。
- 属人化リスクの徹底排除
- 「あの人しか分からない」という暗黙知の業務プロセスを放置せず、外部ベンダーの力を借りてでも網羅的なマニュアル化と文書化を断行する。
- 攻めのDXへ向けたリソースシフト
- 創出した時間と人員を、コスト削減のための業務ではなく、M&Aの早期統合(PMI)や現場の自動化、データ活用といった、利益率向上に直結する戦略的プロジェクトへ優先的にアサインする。
物流の2024年問題を契機に業界の再編が加速する中、ITインフラは企業を統合する神経網としての役割を担っています。この神経網をいかに健全かつ効率的に維持できるかが、今後の企業の成長スピードを決定づける最大の要因となるでしょう。
出典: 双日テックイノベーション、SBSホールディングスへITインフラ/サービス運用アウトソーシング「NCPF」を導入(zakzak)
出典: 双日テックイノベーション株式会社 導入事例ページ


