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ニュース・海外 2026年4月23日

Pandora事例!世界2500店舗の在庫可視化とWMS刷新を成功させた2つの手法

Pandora事例!世界2500店舗の在庫可視化とWMS刷新を成功させた2つの手法

物流業界が直面する労働力不足やコスト高騰といった課題は、日本国内にとどまらずグローバル共通の深刻な問題となっています。特に日本では「物流の2024年問題」や「2026年問題」が目前に迫る中、多くの企業が物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を掲げています。しかし、現実には老朽化したレガシーシステムの壁に阻まれ、思い描いたような生産性向上が実現できていない現場が少なくありません。

こうした状況下において、既存システムの刷新は不可避ですが、現場の業務を一斉に切り替える「ビッグバン導入」はパニックや出荷停止といった致命的なリスクを伴います。いかにしてリスクを抑えつつ、高度な物流システムを実装すべきでしょうか。

本記事では、世界最大のジュエリーブランドの一つであるPandora(パンドラ)が、繁忙期の直前という極めてリスクの高いタイミングで物流システムの刷新を成功させた事例を紐解きます。海外の最新トレンドを踏まえ、日本企業が今すぐ取り入れるべき「在庫可視化」と「システム統合」の実践的なアプローチを徹底解説します。

参考記事: 在庫可視化とは?真の定義から現場・経営のメリット、失敗しないツール選びまで徹底解説

グローバルな物流システムの最新トレンドと直面する課題

海外の物流現場、特に米国や欧州では、Eコマースの爆発的な成長と消費者の要求水準の高度化により、かつてない「超高負荷時代」に突入しています。この過酷な環境を生き抜くため、各国の先進企業はテクノロジーへの投資戦略を大きく転換させています。

サイロ化からの脱却とシステムエコシステムの構築

2026年の海外物流トレンドにおいて、倉庫管理システム(WMS)は単なる「在庫の出入りを記録する台帳」としての役割を終えました。現在求められているのは、WMSがサプライチェーン全体をつなぐ「情報ハブ」として機能することです。

従来のオンプレミス型システムでは、倉庫はWMS、本部の販売管理はERP、配送部門はTMS(輸配送管理システム)というように、システムが部門ごとに分断(サイロ化)されていました。しかし最新のクラウド型WMSは、オープンAPIを通じてこれらの外部システムとネイティブに連携し、巨大なエコシステムを形成します。ECサイトでの注文発生から、倉庫内のロボットへのピッキング指示、そして最適な配送キャリアの選定までがミリ秒単位で同期されるアーキテクチャが、海外では標準となりつつあります。

参考記事: 【欧米WMS事情】クラウド型倉庫管理システムの進化と2026年の要件【2026年04月版】

現場の混乱を避けるフェーズドアプローチの推奨

もう一つの重要なトレンドが、システム導入手法の変化です。海外の最前線では、巨大なシステムを一括で入れ替えるアプローチはすでに時代遅れとされています。急激な変化は現場の作業員に強い心理的抵抗と混乱をもたらすためです。

代わりに主流となっているのが、基本業務の自動化から着手し、現場の習熟度に合わせて段階的に高度な機能を拡張していく「フェーズド・アプローチ(段階的な近代化)」です。この戦略的アプローチこそが、後述するPandoraの成功を支えた最大の鍵となります。

【先進事例】Pandoraの在庫可視化とシステム統合プロジェクト

デンマーク発祥のジュエリーブランドであるPandoraは、世界100カ国以上に2500以上の店舗を展開する巨大なグローバル企業です。同社がいかにして複雑なサプライチェーンを最適化したのか、その軌跡を深掘りします。

グローバル成長戦略を阻むレガシーWMSの限界

Pandoraのサプライチェーンは極めて複雑であり、同社のグローバルオペレーション・計画テクノロジー担当副社長であるDawn Swackhamer氏によれば、最大の課題は「在庫の可視化」でした。

従来のWMSは拡張性に乏しく、増加し続ける顧客需要や多様化する製品ラインナップに対応できなくなっていました。さらに、タイに主要な製造拠点を持ち、ベトナムにも新たな工場を開設するという同社のグローバルな成長戦略に対して、古いシステムはイノベーションの足かせとなっていました。このままでは、欠品による販売機会の損失や、過剰在庫による保管コストの増大といったリスクが避けられない状況にありました。

Hardis Supply Chainと構築した強力なテクノロジースタック

この課題を根本から解決するため、Pandoraは物流を単なる「コストセンター」ではなく「成長戦略の最前線」として再定義しました。市場の複数の大手プロバイダーを比較検討した結果、フランスに本社を置くHardis Supply Chain社との提携を決断します。

選定の決め手となったのは、単なる在庫可視化の機能だけでなく、成長戦略に合わせた「シームレスな統合力」でした。同社はHardis社のWMSを中核に据え、基幹システムであるSAP(ERP)、さらには新規のTMSを完全に統合した強固なテクノロジースタックを構築しました。これにより、工場での生産から店舗への配送に至るまで、モノの動きがデータとして完全にトラッキングされる状態を実現したのです。

参考記事: ERP(基幹業務システム)とは?図解でわかる基礎知識と導入の成功ポイント

繁忙期直前の高リスクを打ち破った段階的リリースの軌跡

このプロジェクトで最も特筆すべきは、極めて難易度の高いタイミングで行われたシステム導入の手法です。

プロジェクトは2023年、欧州のB2B向け配送センター(DC)からスタートしました。そして2025年7月、Pandoraのサプライチェーンにおいて最も複雑とされるタイの物流センターでの導入に踏み切ります。驚くべきことに、この時期は年間で最も出荷量が増加する「ピークシーズン(繁忙期)のわずか2週間前」でした。通常であれば、システム移行によるトラブルを恐れて絶対に避けるべきタイミングです。

しかしPandoraは、すべての機能を一度に稼働させるのではなく、段階的なリリースを採用しました。最初に「コア機能(中核となる基本機能)」のみを稼働させ、現場が新しいシステムと運用に慣れた2週間後に「セカンダリ機能(二次的な拡張機能)」をリリースするという緻密なスケジュールを組んだのです。

結果として、このタイ拠点でのSAPおよび新TMSを含む同時導入は、大規模なインシデント(システム障害や出荷遅延)を一切起こすことなく「トラブルなし」での安定稼働に成功しました。さらに2026年1月には、同拠点で追加機能の実装も完了させており、継続的な機能拡張を無事故で成し遂げています。

日本企業への示唆:海外事例から読み解く実践的アプローチ

Pandoraの成功事例は、日本の物流企業や荷主企業にとって多くの学びを含んでいます。この海外の先進事例を、日本の商習慣や現場環境にどのように適用すべきか解説します。

物流システム導入アプローチのグローバル比較

まず、海外の最前線と従来の日本企業のアプローチの違いを明確にします。

比較項目 欧米の最新トレンド(Pandora事例) 日本の従来型アプローチ 日本企業が得るべき示唆
システム連携 APIを通じたWMS・ERP・TMSの統合 部門ごとに独立したサイロ化システム 全体最適を見据えたシステム基盤の構築
導入手法 機能を分割した段階的リリース 稼働日にすべてを切り替えるビッグバン導入 リスクを分散するフェーズドアプローチの採用
投資の目的 成長戦略の最前線としての拡張性確保 現状の課題解決と単なるコスト削減 ビジネス拡張に耐えうるスケーラビリティの重視
稼働タイミング 繁忙期直前でもリリース可能な柔軟性 閑散期や長期休暇に限定した保守的計画 システムの安定性と現場の習熟度を軸にした計画

ビッグバン導入の回避とモジュール型アプローチの推奨

日本のITシステム導入においては、期首や連休明けに合わせてすべてのシステムと業務を一斉に切り替える「ビッグバン導入」が好まれる傾向にあります。しかし、複数のシステムが複雑に絡み合う現代の物流環境において、この手法は現場のパニックを引き起こす最大の要因となります。

Pandoraが繁忙期の2週間前という過酷な条件下で成功を収めたのは、コア機能とセカンダリ機能を明確に切り分けたからです。日本企業も「まずは入荷と在庫管理の基本機能だけを新システムに移行し、高度な自動ピッキング制御や輸配送連携は次フェーズに回す」といった、モジュール型のアプローチを積極的に採用すべきです。これにより、現場スタッフの心理的負担を軽減し、教育コストを抑えながら確実なDXを推進できます。

部門間の壁を越えるデータ連携と可視化の重要性

日本の物流現場におけるもう一つの壁が「部門間の分断」です。倉庫内はWMSで管理されていても、荷物がトラックに積み込まれた瞬間に情報が途絶え、本部のERPや営業部門から「荷物は今どこにあるのか」という問い合わせが現場に殺到するケースが後を絶ちません。

Pandoraの事例が示す通り、真の在庫可視化はWMS単体では実現しません。ERPとTMSをシームレスに統合することで、生産・保管・配送というすべてのプロセスが一本の線でつながります。日本の物流現場においても、単なる倉庫内の在庫管理にとどまらず、輸配送ステータスも含めたエンドツーエンドの可視化基盤を構築することが、これからの時代における絶対的な競争力となります。

参考記事: 輸配送ステータス可視化とは?現場の課題解決と物流DXの始め方

まとめ:物流を「コストセンター」から「成長戦略の最前線」へ

Pandoraのシステム刷新プロジェクトは、物流オペレーションが企業のグローバルな成長を支える強力な武器となることを証明しました。

日本の物流業界は、2024年問題や深刻な人手不足により、極めて厳しい経営環境に置かれています。しかし、古いシステムや商習慣にしがみついていては、変化の激しい市場を生き残ることはできません。一気にすべてを変える必要はありません。Pandoraのように、明確なビジョンを持ち、自社の現状データを冷静に分析したうえで、システムと現場の業務を段階的に近代化していくこと。それこそが、不確実な未来を切り拓くための最強の生存戦略となるでしょう。


出典: SupplyChainBrain
出典: PathGuide Technologies: Five Trends Every Distribution Leader Should Know About in 2026

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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