2024年の「改正物流効率化法」の成立により、物流業界のルールは根底から覆りました。これまで現場の努力や運送会社への「お願い」に依存してきた物流課題が、荷主企業のトップマネジメントが直接責任を負う「法的義務」へと格上げされたのです。特に、一定規模以上の荷主企業に対して義務付けられる「CLO(物流統括管理者)」の選任は、企業のサプライチェーン戦略を大きく左右する分岐点となります。
こうした激動の只中において、物流専門メディアであるLOGISTICS TODAYが新連載「The CLO」をスタートさせました。本連載は、単なる法制度の解説にとどまらず、各社のCLOが直面する生々しい意思決定の現場に迫るものです。特に注目を集めているのが、日清食品の深井CLOによる「(業界全体の)6割も進めば十分」という、実効性を重んじる提言です。
本記事では、この連載から読み解くCLOの真の役割と、物流を「コストセンター」から「成長戦略の核」へと転換させるための実践的なアプローチを、物流ジャーナリストの視点から徹底解説します。
改正法とCLOがもたらす「経営課題としての物流」
物流2024年問題による深刻なドライバー不足と輸送力低下を背景に、国はついに強力なトップダウンの規制強化に踏み切りました。その中核となるのがCLOの存在です。
「名ばかりCLO」か「変革の主役」かの分岐点
2026年の全面施行に向けて、年間取扱貨物量が一定基準(国の議論では年間3000万トンキロなどが目安)を超える「特定荷主」は、役員クラスからCLOを選任し、物流効率化に向けた中長期計画の提出と定期報告を行う義務を負います。
しかし、多くの企業が陥りやすいのが、既存の物流部長やSCM担当役員に「CLO」という肩書きだけを付与する形式的な対応です。LOGISTICS TODAYの連載「The CLO」が警鐘を鳴らすのはまさにこの点であり、CLOが単なる法規制逃れのお飾りになるのか、それともサプライチェーン変革の主導権を握るのか、企業間で早くも明暗が分かれ始めています。
日清食品・深井CLOが語る「6割で十分」の真意
連載の中で特に目を引くのが、日清食品の深井CLOの主張です。法規制への対応となると、業界全体で「100%の完璧な足並み」を揃えようとするあまり、議論が膠着し、実行が遅れるケースが多々あります。
深井氏は「6割も進めば十分」と述べ、業界全体での数合わせの普及よりも、強い意志を持つ先行企業がアジャイルに実効的な成果を出し、モデルケースを示すことの重要性を強調しています。この発言は、完璧な計画作りに固執して身動きが取れなくなる企業に対し、「まずは現場を動かし、結果で証明せよ」という強烈なメッセージとなっています。
CLOに求められる3つの主要任務
法制化の文脈を超え、実務においてCLOが果たさなければならない任務は、主に以下の3点に集約されます。
- デジタル技術を用いた現場の可視化
- WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)、バース予約システムなどのデータを統合し、どこに無駄や待機時間が発生しているのかを客観的な数値で把握する。
- 聖域なき部門横断の調整
- 営業部門の「売上至上主義による無理な特急便手配」や、調達部門の「在庫極小化を狙った多頻度小口納品」に対してメスを入れ、全社最適の視点で業務フローを改める。
- 荷主・物流業者間での適切な便益配分の設計
- 物流効率化によって浮いたコストや利益を自社だけで独占するのではなく、協力してくれる運送会社に適正な運賃や条件緩和として還元し、持続可能なパートナーシップを築く。
参考記事: 【徹底解説】物流統括管理者(CLO)の選任が4月から義務化|荷主企業が直面する経営変革と対策
サプライチェーン再編が各プレイヤーに与える影響
CLOの権限が確立されることで、長年固定化されていた物流業界のパワーバランスと商慣行が劇的に変化します。
業界への具体的な影響と変化
それぞれのプレイヤーにどのような変革が迫られるのか、以下の表に整理しました。
| 対象プレイヤー | 従来の実態(課題) | CLO導入後の変化・影響 |
|---|---|---|
| 荷主企業(営業・製造) | 顧客の要望を優先し、物流部門へしわ寄せ(特急便・手荷役) | CLOの「物流改善命令権」により、非効率な納品ルールやリードタイムが強制的に見直される |
| 荷主企業(経営層) | 物流費を「削るべき販管費」として一括で処理し、ブラックボックス化 | 部門・顧客ごとの物流コストが可視化され、物流投資が「成長戦略」として決裁される |
| 元請・3PL事業者 | 荷主の現場担当者レベルでは運賃交渉や改善提案が通らない | 荷主側のCLOと「経営対経営」の交渉が可能になり、適正な運賃や待機料金の収受が進む |
| 実運送事業者 | 長時間の荷待ちや無償の付帯作業によるドライバーの疲弊 | 荷主側の計画的な出荷とバース予約により労働環境が改善し、より良い荷主を選ぶようになる |
「商物分離」と「サイロ化」の打破
荷主企業において、これまで最も高い壁となっていたのが社内の「セクショナリズム(サイロ化)」です。営業部門にとって物流部門は「言われた通りに運ぶ下請け」であり、両者のKPI(重要業績評価指標)は常に相反していました。
CLOは、経営トップの信認を背景にこの壁を打ち壊します。「商流(受発注の商取引)」と「物流(モノの物理的な移動)」を切り離す「商物分離」を徹底し、営業担当者が属人的に配車係へ無理を強いるようなルートを遮断します。これにより、サプライチェーン全体の合理性が担保されるのです。
参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた対象基準と実務対応を徹底解説
LogiShiftの視点:先行逃げ切り戦略とデータ駆動型経営
LOGISTICS TODAYの連載と日清食品の事例を踏まえ、LogiShiftは今後の企業が取るべき戦略について以下の通り提言します。
「6割の完成度」で走り出すアジャイル型改革の推奨
「2026年の施行までに完璧な中長期計画を作らなければならない」と身構える企業が多い中、深井CLOの「6割で十分」という言葉は、極めて実践的な真理を突いています。
サプライチェーンは自社だけで完結するものではなく、顧客や運送会社、システムベンダーなど無数のステークホルダーが絡みます。100%の合意形成を待っていては、物流クライシスのスピードに飲み込まれてしまいます。まずは自社の主要拠点や特定の大口顧客に絞って、「リードタイムの延長」や「標準パレットの導入」をテスト的に導入し、その成果(物流コストの削減額や積載率の向上幅)を社内外に示す「先行逃げ切り型」のアプローチが最も効果的です。
「名ばかりCLO」を防ぐ職務権限の明文化
改革を失速させないための最大の防御策は、CLOに対する「職務権限規定」の明文化です。
肩書きだけのCLOでは、営業部長や工場長からの反発を押し切れません。人事部や法務部を巻き込み、「CLOの承認なしに基準外の特急配送を契約してはならない」「物流コストの超過分は、発生原因となった営業部門の損益(P/L)から差し引く」といったルールを公式に制定し、評価制度と連動させることが不可欠です。
データがなければ改革は始まらない
そして、これらすべての改革の土台となるのが「客観的なデータ」です。「営業が無理を言うから」「運送会社の質が落ちたから」といった感情論を排除し、事実に基づいた経営判断を下すためには、物流DXソリューションへの投資が欠かせません。
- トラック予約受付システム(バース予約システム): 拠点での正確な荷待ち時間・荷役時間を記録し、国交省への報告エビデンスとする。
- サプライチェーン可視化プラットフォーム: WMSやTMSのデータを統合し、経営陣がリアルタイムで物流コストとCO2排出量(スコープ3)をモニタリングできるダッシュボードを構築する。
これらのデジタル基盤があって初めて、CLOは「経営を動かす機能」として真価を発揮します。
参考記事: CLOが担う「物流の経営課題化」と組織改革のステップ【2026年04月版】
まとめ:明日から意識すべきアクションプラン
改正物流効率化法によるCLO選任の義務化は、日本企業が物流を「コスト」から「競争優位性の源泉」へと再定義するためのラストチャンスです。LOGISTICS TODAYの連載「The CLO」が克明に描くように、条文の理解を超えた「生々しい意思決定の現場」での戦いがすでに始まっています。
明日から直ちに取り組むべきアクションを以下の通りまとめました。
- 自社の立ち位置と対象ルールの把握
- 自社の年間取扱貨物量(トンキロベース)を早期に算出し、「特定荷主」に該当するかどうかのシミュレーションを行う。
- 経営会議での物流アジェンダの定例化
- 物流課題を現場の報告事項として終わらせず、経営会議の最重要アジェンダとして扱い、CLO候補となる役員の選定と権限移譲の準備を進める。
- 「6割」の完成度でのスモールスタート
- 全社一斉の改革を狙うのではなく、まずは特定の事業部や路線で「納品条件の緩和」や「バース予約システムの導入」を試験的に開始し、成功のモデルケースを作る。
物流の未来は、法律の条文ではなく、現場で汗を流し、社内の壁を壊すリーダーたちの決断によって創られます。先行する他社の事例に学び、自社のサプライチェーンを強靭化する第一歩を今すぐ踏み出しましょう。
出典: LOGISTICS TODAY
出典: 国土交通省 流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律等の改正について


