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ニュース・海外 2026年5月4日

DHLの航空網拡充に学ぶ!東南アジアシフトを制する自己管理型物流3つのポイント

DHLの航空網拡充に学ぶ!東南アジアシフトを制する自己管理型物流3つのポイント

物流業界の最前線で今、これまでの常識を覆す巨大な地殻変動が起きています。

DHLグローバルフォワーディングは2024年6月1日より、東南アジア(ベトナム・ハノイ)と米国を結ぶ航空貨物専用便を週3便体制に拡大しました。このニュースは、単なる一物流企業のサービス拡充にとどまりません。米中対立や地政学リスクを背景とした「脱中国」の動きと、東南アジアへのサプライチェーン分散(フレンド・ショアリング)が、物理的な輸送ネットワークの再編として具現化した象徴的な出来事です。

日本の経営層やDX推進担当者がこの海外トレンドを直視すべき理由は明確です。長年構築してきた「中国一極集中」のサプライチェーンは既に限界を迎えており、今後は東南アジアの分散した製造拠点をいかに確実かつスピーディにつなぐかが、グローバル市場での競争力を決定づけるからです。

本記事では、DHLの最新戦略をケーススタディとして解剖し、アジア・米国間で起きている物流の劇的な変化と、日本企業が生き抜くための「次世代サプライチェーン構築のヒント」を徹底解説します。

アジア・米国間で加速する物流の地殻変動

DHLが新たな航空ネットワークの起点として中国の上海や深センではなく、ベトナムのハノイを選択した背景には、グローバルな調達ルートの明確な変化が存在します。

データが実証する東南アジアへの製造拠点シフト

米国の巨大小売チェーンや大手テクノロジー企業は、関税リスクや供給網の途絶を回避するため、製造拠点を中国からASEAN諸国へ急速に移管しています。

米調査機関デカルト・データマインの2025年最新統計によると、アジア発米国向け海上コンテナ輸送量において、シェア首位の中国発が前年比で大幅な減少(18.3%減)を記録しました。その一方で、代替生産地である「Alt-Asia(オルト・アジア)」諸国からの輸出が爆発的に増加しています。特にベトナムは前年比37.0%増、マレーシアに至っては68.8%増という驚異的な伸びを示し、ハイテク製品やアパレル、家具などの生産移管がデータ上で完全に裏付けられました。

参考記事: 「中国発18%減」の衝撃。東南アジア急伸が迫るサプライチェーン再編

一般便の不確実性と「自己管理型キャパシティ」の台頭

これまでの航空貨物輸送は、旅客機の床下スペース(ベリースペース)や、複数企業の荷物を混載する一般貨物便に依存するケースが主流でした。しかし、生産地が東南アジアのインフラ未成熟な地域へ分散したことで、集荷の遅れやハブ空港での積み残し(ロールオーバー)リスクが急増しています。

そこで現在の海外物流トレンドとなっているのが、「自己管理型キャパシティ(Self-controlled capacity)」の確保です。自社でコントロール可能な専用貨物機やチャーター便を長期的かつ独占的に運用することで、他社の荷動きや旅客便のスケジュール変更に左右されない、極めて高い定時性と信頼性を荷主に提供するアプローチです。

先進事例:DHLが構築する強靭な専用ネットワーク

DHLグローバルフォワーディングは、親会社の強固なインハウス航空網を最大限に活用し、アジア・米国間における自己管理型キャパシティの拡充に踏み切りました。その戦略的な動きを深掘りします。

ボーイング777を活用した広域ネットワークの構築

2024年6月1日から開始された新サービスでは、パートナー企業であるカリッタ・エア(Kalitta Air)が運航を担い、最新鋭のボーイング777型貨物専用機が投入されています。

この専用便は、ベトナムのハノイを起点に、台北(台湾)、アンカレッジ(米国アラスカ州)を経由し、米国中西部の巨大物流ハブであるシカゴまたはシンシナティへ到達します。さらに帰路は韓国のソウルを経由してハノイに戻るという、アジア全域の主要拠点を網羅する広域なルーティングが組まれています。

DHLは2018年から2022年にかけて計28機のボーイング777を購入する大型契約を結んでおり、長年にわたるフリート(航空機群)への巨額投資が、現在の強靭な自社ネットワークの基盤となっています。

欧州ルートの拡充と医薬品輸送への特化

DHLの戦略は米国向けにとどまりません。需要が急増するアジア・欧州間においても、3月末にベルギー(リエージュ)と香港を結ぶ路線を開設し、6月1日には上海とドイツ(ライプツィヒ)を結ぶ新サービスを開始しました。

さらに注目すべきは、高付加価値商材への特化戦略です。厳格な温度管理が求められる医薬品輸送に特化した専用ネットワークを新たに構築し、ブリュッセルと米国のシンシナティを結ぶ路線で優先運用を開始しました。この専用網は今後、ドイツ、インド、シンガポール、そして日本へも拡大される予定です。単にモノを運ぶだけでなく、「品質を担保したインフラ」を自前で用意することで、荷主からの圧倒的な信頼を獲得しています。

世界主要国・地域における物流アプローチ比較

各地域におけるサプライチェーンの変化と、それに伴う物流戦略の特徴を整理しました。

地域・国 物流トレンドの特徴 具体的な事象と課題 企業の対応戦略
米国 リスク回避と調達分散 対中関税強化による中国発貨物の減少。 フレンドショアリングの推進。
ベトナム 次世代の輸出ハブ化 電機やアパレル産業の流入による輸送量急増。 専用航空便やインフラ投資の拡大。
欧州 高付加価値品の保護 医薬品など厳格な温度管理を要する需要の増加。 自社専用ネットワークによる品質担保。
日本 既存ルートの形骸化 アジアから北米への直行便増加による日本素通り。 調達ルートの複線化とDXによる可視化。

日本企業への示唆:脱中国と物流レジリエンスの確保

DHLの先進的な取り組みと東南アジアの台頭は、日本企業に対して「現状維持はリスクでしかない」という強い警鐘を鳴らしています。今すぐ取り組むべき具体的なアクションを3つの視点から提示します。

「日本パッシング」リスクへの危機感とルートの複線化

かつてのアジア発北米向け物流は、中国で生産された製品が日本の主要港や空港を経由して米国へ向かうルートが一般的でした。しかし、ベトナムやマレーシアの生産キャパシティが拡大し、DHLのような巨大フォワーダーが「東南アジアから直接北米へ飛ぶ専用便」を増発することで、日本を経由しない「日本パッシング(日本素通り)」が加速しています。

日本企業は、固定化された既存の商流に依存するのではなく、東南アジアの現地サプライヤーを直接北米や欧州へつなぐ独自の調達ルート(デュアル・ソーシング)を開拓し、複数のキャリアと契約を結ぶ「キャリア・ダイバーシティ」を推進する必要があります。

参考記事: 中国離れが数字で判明。ベトナム33%増が示す「物流地図の激変」

コスト至上主義からの脱却と「確実性」の追求

日本の物流部門では長らく、「いかにスポット運賃を安く買い叩くか」が担当者の評価基準とされてきました。しかし、市場環境が不安定な現代においては、運賃の安さよりも「指定した納期に確実に届くこと(レジリエンス)」の方がはるかに重要です。

  • 専用スペースの長期的確保
    • 繁忙期でも荷物が止まらないよう、特定のフォワーダーと長期的なパートナーシップを結び、安定したキャパシティを確保する。
    • 単なる外注先としてではなく、サプライチェーン全体を共に設計する戦略的パートナー(物流のオーケストレーター)としてフォワーダーを活用する。

参考記事: フォワーダーとは?国際物流の実務担当者が知るべき基礎知識と最新トレンド

サプライチェーンの可視化とデジタル連携の徹底

生産拠点がベトナム、マレーシア、インドへと多国間に分散すれば、従来のExcelやメールによるアナログな在庫管理・輸送管理は完全に破綻します。

米国や欧州の先進的な荷主企業は、デジタル・コントロールタワーを導入し、発注(PO)単位で世界中の貨物の動きをリアルタイムに追跡しています。「ベトナムの港が混雑しているから、急ぎのロットだけDHLの航空便に切り替える」といった動的でアジャイルな意思決定を行うためには、自社の基幹システム(ERP)とフォワーダーのシステムをAPIで連携させるなど、徹底した物流DXの推進が不可欠です。

まとめ:適応力が勝敗を分ける時代へ

DHLグローバルフォワーディングによるアジア・米国間の専用便拡充は、物流業界が「安く運ぶ時代」から「インフラを自ら管理し、確実性を売る時代」へ移行したことを告げています。

2024年以降のグローバルビジネスにおいて、サプライチェーンの強靭さは企業の生命線そのものです。中国依存の脱却、東南アジア拠点の開拓、そしてデータを駆使した物流ネットワークの可視化。これらを実行する「適応力」と「アジリティ(俊敏性)」を持つ企業だけが、不確実な世界情勢を乗り越え、新たな市場での成長を手にすることができるでしょう。


出典:
– FreightWaves (DHL Forwarding to expand Asia-U.S. air cargo capacity in June)
– Descartes Datamyne: Global Shipping Data and Trends
– Kalitta Air Official Website

監修者プロフィール
近本 彰

近本 彰

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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