関東1都3県に126店舗(2026年5月末時点)を展開するスーパーマーケット(SM)大手のサミット株式会社が、従来の物流体制から大きなコペルニクス的転換を遂げています。
同社はそれまで3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者に「一任(丸投げ)」していた物流管理体制から完全に脱却し、2022年4月の機構改革において、商品部に付随していた物流機能を独立させた「物流部」を発足。自社が主体となってサプライチェーン全体の負荷や現場の課題を精査する体制へと移行しました。
この動きは、2024年問題や2026年の改正物流二法(流通業務効率化法・トラック流通適正化法)の本格施行を控えた「運べなくなる時代」に対する、小売業としての強い危機感の表れです。
かつては「コストセンター」として外注先に管理を任せきりにしがちだった小売物流を、企業の持続可能性を担保する「経営基盤」へと昇華させるサミットの取り組み。それは、日本の小売業界全体が向かうべき新たな「物流ガバナンス」の時代を象徴しています。
126店舗を支える「サミット」が挑む「物流丸投げ」からの脱却
日本の小売業、特に生鮮・チルド品を多頻度小口で配送するスーパーマーケット業界において、物流は極めて複雑で負荷の高い領域です。
サミットが2022年4月に断行した「物流部」の独立は、それまでの「運んでもらえることが当たり前」という神話が崩壊しつつある現状に対する、実効的なカウンタープランでした。
従来の「丸投げ」が生んでいたブラックボックス
2022年以前のサミットにおける物流は、グロサリー部門を主管する「物流・グロサリー業務部」が担っていました。しかし、実質的な管理業務は委託先である3PL事業者に一任されており、社内からはサプライチェーンのどこにボトルネックがあり、現場やドライバーにどのような負荷がかかっているのかがほとんど見えない「ブラックボックス状態」にありました。
また、生鮮部門については、青果・水産・食肉といった各部門のグループが、それぞれ独自に物流拠点を設け、個別に運営や配送の契約を行っていました。この縦割り(サイロ化)の構造が、物流全体の最適化や効率的なアプローチを阻む要因となっていたのです。
「運べなくなる時代」が変えた経営層のマインド
この「変えたいけれど、変えきれない」という業界特有の膠着状態を打ち破る契機となったのが、トラックドライバーの時間外労働上限規制(2024年問題)です。
「総論としては物流効率化に賛成だが、自社の納品条件やリードタイムの変更など各論になると反対される」という小売業界の悪しき商慣行に対し、サミットは自社主導でメスを入れることを決断しました。物流の管理・精査を他社任せにせず、自らがサプライチェーン全体の司令塔(コントロールタワー)となるために、2022年4月に独立した「物流部」を創設したのです。
現在、物流部を率いるのは、店舗の水産部門やバイヤーを歴任し、2023年に執行役員に就任した武田哲志氏です。武田氏は物流部のみならず、一般食品部やデイリー部、家庭用品部、グロサリー業務部も管轄。生鮮品から日用品にいたるまで、同社の全サプライチェーンを一括して管理・統括する体制を構築しました。
なぜ「物流部」を独立させたのか?事実関係と拠点体制
サミットが敷く現在の物流体制は、3PL事業者との高度な連携と、自社による厳しいガバナンス(精査・管理)のハイブリッド型です。
同社が関東圏に張り巡らせている主要な物流拠点の配置と、それぞれの役割は以下のように整理されます。
サミットの主要物流拠点と管理体制
温度帯・品目
拠点名(所在地)
対象・カバー範囲
主な役割と管理体制
生鮮品(3温度帯)
新砂物流センター(東京都江東区)
全126店舗向け
全店舗向けの保管・配送。生鮮部門を横断して物流部が統合的に運用。
グロサリー
草加物流センター(埼玉県草加市)
1拠点あたり40〜50店舗をカバー
草加、所沢、川崎の3拠点で関東圏の店舗網を分散配置し配送を効率化。
グロサリー
所沢物流センター(埼玉県所沢市)
1拠点あたり40〜50店舗をカバー
3PL事業者へ運営を委託しつつ、物流部が運用の実態を適宜確認・精査。
グロサリー
川崎物流センター(神奈川県川崎市)
1拠点あたり40〜50店舗をカバー
委託先と密に話し合い、現場の負荷や配送ルートの課題を日々解決。
冷凍食品
所沢冷凍センター(埼玉県所沢市)
全126店舗向け
温度管理の厳しい冷凍食品に特化した専用拠点。
衣料品
衣料品専用センター(埼玉県富士見市)
衣料品店「コルモピア」全店
サミットが展開する衣料品事業専用の物流・仕分け拠点。
サミットの物流拠点運営は、基本的に3PL事業者に委託されています。しかし、従来のように契約内容や日々の配送業務を「丸投げ」するのではなく、新設された物流部が日々の運用データ(荷待ち時間、積載率、配送ルートの効率性など)を適宜確認し、共同で現場の負荷削減に向けた話し合いを日々行う体制へ移行しました。
また、外部人材の登用によって社内に専門的なノウハウを獲得。さらに物流DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することで、データの可視化と配送計画の最適化を同時に進めています。
サミットの自立がもたらす業界3大プレイヤーへの影響
サミットが「丸投げ物流」を脱却し、荷主としての主導権を握ったことは、単に自社のコスト削減や効率化に留まりません。食品小売のサプライチェーンに関わる全てのステークホルダーに対し、連鎖的な地殻変動をもたらしています。
1. 小売業者(競合):物流を経営のコアに据える「組織再編」の波
これまで、多くのスーパーマーケットや小売企業において、物流部門は「商品部」の下請け的な位置づけ、あるいは単なる「コストカットの対象」として扱われてきました。しかし、サミットの「物流部独立」という姿勢は、物流を経営戦略の核心として捉え直す好例であり、競合他社に対しても同様の組織改革を迫るものとなります。
特に2026年5月に本格施行される「改正物流効率化法(物流二法)」により、一定の輸送量を超える特定荷主には、役員クラスの「CLO(最高物流責任者/物流統括管理者)」の選任や中長期計画の策定、国への進捗報告が義務化されます。
サミットのように、いち早く物流部門を独立させ、全社最適な判断ができる権限を付与する組織構造を構築できた企業こそが、運送事業者から選ばれ、持続可能な店舗供給網を維持できるのです。
参考記事: 2026年CLO義務化の波を乗りこなす『物流ファースト経営』3つの実践ステップ
2. 3PL・倉庫事業者:単なる「作業代行」から「戦略的パートナー」への進化
荷主である小売企業が物流の実態をデータで細かく把握するようになると、3PL事業者や倉庫事業者の役割も変わります。
従来のように、「言われた通りにモノを動かすだけで、現場のブラックボックス化を容認する」ような付加価値の低い外注業務は、今後淘汰されていくでしょう。
これからの3PL事業者には、自社が持つ車両動態データや庫内作業データを荷主にオープンに開示し、共に改善計画を策定する「戦略的パートナーシップ」が求められます。サミットが外部人材を登用してノウハウの内製化を進めているように、荷主のITリテラシー向上に対応できる高度な提案力(WMS/TMSの統合や、バース予約システムの導入など)を持つ事業者だけが、強固な信頼関係を築くことができます。
参考記事: 3PL(サードパーティ・ロジスティクス)完全ガイド|基礎知識から導入メリット・失敗しない選び方まで
3. 製造業者・食品メーカー:小売主導の「納品条件緩和」による車両手配の安定
サミットが進める物流改革は、川上に位置する食品メーカーや卸売業者にとっても大きなメリットをもたらします。
これまでは、小売側の「当日朝発注・翌朝店舗納品」といった極端に短いリードタイムや、細かな時間指定、手荷役(バラ積み・バラ降ろし)の要求が、メーカー側の配車や倉庫現場を疲弊させてきました。
しかし、サミットが物流部を独立させ、現場の負荷を可視化したことで、「納品条件の標準化」や「パレット納品の拡大」、「リードタイムの延長」といった具体的な改善策が、メーカーとのフェアな話し合いのもとで進められるようになりました。
結果として、メーカーや卸売業者は、計画的な生産と配車が可能になり、突発的なスポット便の手配コスト削減や、ドライバーの確保(実車率・積載率の向上)に繋がっています。
参考記事: 共同調達とは?物流コスト削減を実現する仕組みと導入の進め方
【LogiShiftの視点】「物流ガバナンス」の時代とSM物流研究会が描く未来
サミットの取り組みをマクロな視点から分析すると、これは単なる「一企業の成功事例」ではなく、物流における「コストセンターから価値創造の源泉へ」という構造的パラダイムシフト、すなわち「物流ガバナンス(荷主による物流統治)」の時代の到来を告げています。
「名ばかりCLO」を生まない、サミットの組織設計
多くの荷主企業が陥りやすい最大の罠が、2026年の法制化に向けて「とりあえず既存の役員にCLOの肩書きだけを与え、実態は商品部や営業部の要求に振り回され続ける」という形骸化です。
サミットが極めて先進的なのは、武田哲志執行役員が「物流部」だけでなく、「一般食品部・デイリー部・家庭用品部・グロサリー業務部」といった商品調達の根幹となる部署までを横断的に一括して管轄している点にあります。
これにより、
– 「仕入れコスト(商流)が下がっても、それによって物流コスト(物流)が跳ね上がれば、全社利益はマイナスになる」
– 「営業の都合による無理な即日配送や過剰なプロモーション物量を、物流部がトップダウンで調整する」
といった、真の「全体最適」をデータに基づいて迅速に意思決定できる体制が整っています。この組織再編の深さこそ、他社が学ぶべき最大のポイントです。
参考記事: 選任が迫る物流統括管理者と改正物流総合効率化法2026年への必須対応
「SM物流研究会」が掲げる「荷待ち2時間超ゼロ」へのコミット
サミットが参画する、首都圏の主要ライフラインを担う競合他社(マルエツ、ライフ、ヤオコー、イトーヨーカ堂など)で構成される「SM物流研究会」の活動も見逃せません。
同研究会は、2026年度中に「物流センターでの荷待ち・荷役作業が2時間超となるトラックを完全に0台にする」という、極めて野心的な目標を掲げています。
SM物流研究会「2026年度方針」の主要ターゲット
- CLOの選任・中長期計画策定: 2026年5月のCLO選任、同年10月の中長期計画届出の義務化へ完全対応。
- 3温度帯(チルド・生鮮・冷凍)への対象拡大: これまで手付かずだった温度管理の厳しいセンターの時間集計・改善を開始。
- 4つの専門分科会アプローチ: 「パレット納品拡大」「共同配送」「生鮮物流効率化」「チルド物流改善」を競合の枠を超えて協議。
サミットはこの中で、東急ストアとともに「生鮮物流の効率化」分科会を担当しています。生鮮品は温度管理や消費期限が極めてシビアで、標準化や自動化が最も遅れている「難易度マックス」の領域です。ここにサミットが自らメスを入れ、青果物のリードタイム延長や水産物流の課題解決をリードしている事実は、日本の食品物流全体の「新たなスタンダード(業界標準)」を創り出す試みと言えます。
参考記事: 荷待ち2時間超ゼロへ!SM物流研究会の2026年物流変革と3つの影響
競合から「協調」へ。インフラ維持のためのデータ共有
日本の輸送力は、2030年には約25%(約7.2億トン分)が不足すると国(総合物流施策大綱)から警告されています。もはや、「自社の店舗網さえ維持できれば良い」という部分最適や、ライバル会社を出し抜くための個別配送網の維持は不可能なフェーズに入っています。
花王や三菱食品ら大手9社が立ち上げた共同配送コンソーシアム「CODE(Cargo Owners’ Data-driven Ecosystem)」のように、商材や商圏の異なる異業種・同業他社がデータ基盤を共有し、配送枠をシェアする取り組みが急速に進んでいます。
サミットがSM物流研究会を通じて他社との共同配送や空きトラックの有効活用(ラウンド輸送など)を模索している動きは、物流を「競争領域」から「協調領域」へとアップデートし、社会インフラとしての流通網を全員で守るという高次元の経営戦略(ESG/BCP)に直結しているのです。
参考記事: 花王・三菱食品ら9社が挑む!共同配送「CODE」が支線配送にもたらす3つの影響
まとめ:持続可能なサプライチェーン構築への「明日からの3大アクション」
サミット株式会社による「丸投げ物流」からの脱却と、自社主導のSCM(サプライチェーンマネジメント)改革は、2026年の完全法制化時代を生き抜くための最も強力なロードマップを提示しています。
この大きな変革期において、小売、卸、メーカー、そして物流事業者が明日から自社の現場で意識し、実行すべきアクションは以下の3点です。
- 自社物流の「丸投げ度合い」を可視化・点検する
- 委託先3PLや運送会社に対して「条件通りに運ばせる」だけになっていないか、実際の待機時間や積載率、ドライバーへの付帯作業負荷をデータ(バース予約システム等の導入)を用いて客観的に把握する。
- 経営直結の「CLO体制」と「商物分離」の組織設計を急ぐ
- 物流部門を商品部や営業部から独立させ、役員クラスのCLO(物流統括管理者)を据える。仕入れや営業の都合による不合理な物流負荷に介入し、全体最適を指示できる「改善命令権」を明文化する。
- 競合との「協調領域(共同配送・標準化)」へ一歩踏み出す
- 業界の「総論賛成・各論反対」の空気を自社から打破する。T11型などの標準パレットの採用、ASN(事前出荷情報)を活用した検品レスの導入、他社との共同配送研究会への参画など、平時から「Plan B(代替ルート)」となる共有ネットワークを構築する。
「運べなくなるリスク」は、もはや目前に迫った現実です。物流を単なる「コスト」として買い叩くのではなく、企業の生き残りを賭けた「最大の戦略的インフラ」として能動的に再定義し、自立的な改革へと舵を切る時が来ています。サミットが示した「経営的覚悟」をモデルケースに、今すぐ最初のアクションを起こしましょう。
参考記事: 【2026年義務化】CLO(物流統括管理者)設置で企業価値を高める3つの対策
出典: カーゴニュースオンライン


