アセンド株式会社などの共同調査で、運送原価の上昇分を半分以上価格転嫁できたトラック運送事業者が27.3%にとどまる実態が判明しました。車両保有数による規模の維持から、データに基づくミクロな原価可視化と荷主交渉を行う情報活用力への移行が、今後の事業継続を左右します。
トラック運送業界における原価高騰と価格転嫁27.3%の実態
かつての物流現場では、配車指示、運行記録、請求書発行に至るまで、電話やFAX、紙伝票による個別管理が常態化していました。しかし2026年現在、人手不足とコスト高騰が一段と深刻化するなかで、業界内には「デジタルツールを活用して案件ごとの収益性をリアルタイムに可視化できる企業」と「従来の個別管理から脱却できずコスト増を自己吸収し続ける企業」との間に巨大な二極化、すなわち「DX格差」が生じています。
この格差を鮮明に浮き彫りにしたのが、アセンド株式会社(東京都新宿区)をはじめとする5社が2026年8月4日に公表した「運送会社の原価活用・コスト上昇対応に関する実態調査」です。同調査によると、直近1年間で運送原価が上昇したと実感している事業者が9割に迫るなか、上昇分の半分以上を荷主へ価格転嫁できた企業はわずか27.3%(54社)に過ぎませんでした。
単にITシステムを導入するだけでは経営は好転しません。得られたデータから自社のコスト構造をミクロな視点で解剖し、荷主との価格交渉や不採算業務の撤退といった経営判断へ繋げられるかどうかが、各社の明暗を分けています。
コスト高騰と原価管理に関する最新データ整理
アセンド社等の共同調査(調査期間:2026年6月9日〜6月30日、対象:実運行を行うトラック運送事業者198社)における主要なファクトを整理すると、コスト高騰の凄まじさと、原価管理の「解像度(粒度)」が価格転嫁の成否に直結している事実が浮かび上がります。
| 分析項目 | 調査結果の具体的数値 | 業界における実務的意味合い |
|---|---|---|
| 運送原価の上昇実感 | 5%以上上昇が89.9%(うち10%以上上昇が50.5%) | 燃料費・人件費・車両維持費のトリプル高騰がほぼ全事業者を直撃。 |
| 価格転嫁の成功率 | 原価上昇分の半分以上を転嫁できた企業は27.3% | コスト増の大半を自社の利益削りや自助努力で吸収せざるを得ない現状。 |
| コース・案件別の原価計算実施率 | コース単位で算出している企業ほど転嫁成功率が上昇(35.2%) | 大まかな営業所単位(16.1%)と比較し、転嫁成功率に2倍以上の開きが発生。 |
| 原価データの経営活用状況 | データを分析・経営改善まで「活用できている」企業は27.3% | データを取得するだけでなく、意思決定のインフラとして運用できているかが鍵。 |
特に注目すべきは、原価管理の把握単位による価格転嫁成功率の格差です。全社単位や営業所単位など「大まかな丼勘定」で原価を把握している企業の価格転嫁成功率が16.1%にとどまるのに対し、配送コース別や案件別単位で詳細な原価計算を実施している企業では35.2%と、2倍以上の差が開いています。
参考記事: CUBE-LINX調査、中小運送会社の42.2%が収益悪化|正直者が報われない2024年問題の必須対応
中小企業庁調査で浮き彫りとなるトラック運送業の厳しい立ち位置
運送事業者が直面する価格転嫁の難しさは、公的機関のデータからも裏付けられています。中小企業庁が公表した「価格交渉促進月間 フォローアップ調査(2026年3月期調査・6月公表)」によると、全業種平均の価格転嫁率が54.2%であるのに対し、トラック運送業の価格転嫁率は発注側集計で34.5%、受注側集計で36.9%となり、全32業種中で最下位水準に沈んでいます。
この背景には、多重下請け構造によって元荷主との直接の交渉機会が得られにくいことや、他社への切り替え(相見積もり)を示唆された際に対抗する客観的なデータを持たないという、構造的な弱点が存在します。
参考記事: 15万社対象の公正取引委員会による大規模調査開始でデータでの価格交渉が必須に
システム導入の目的が「帳票電子化」から「戦略的経営インフラ」へ進化
かつての物流IT投資は、紙の伝票をPDF化する、あるいはデジタコ(デジタルタコグラフ)で運行記録を自動保存するといった「単なる業務の電子化(ペーパーレス)」が主流でした。しかし、現在求められている「真の物流DX」とは、デジタル化によって収集されたデータを活用し、自社の配車効率や業務フローを抜本的に再設計することです。
具体的には、以下のようなシステムの連携とデータの統合が進んでいます。
1. バース予約システムと動態管理システムの連動
トラックの待機時間をリアルタイムで計測し、どの荷主のどの拠点で無償の待機が発生しているかを数値化する。
2. 輸配送管理システム(TMS)と原価計算エンジンの統合
走行距離、消費燃料、人件費、固定費(車両減価償却費等)を1運行・1コース単位で自動配賦し、個別案件の粗利益を自動算出する。
3. 客観的エビデンス(データ)の自動生成
荷主に対する値上げ交渉や条件変更の提案時に、改ざん不能な実運行ログを提示する。
このように、原価管理は事務作業の領域を完全に脱し、激動の時代を生き抜くための「戦略的経営インフラ」へと進化を遂げています。
参考記事: 2028年度に1万1500拠点へ、矢野経済研究所が示すバース予約システム導入加速
サプライチェーンの主要プレイヤーに及ぶ具体的影響
価格転嫁率「27.3%」が示す二極化と原価管理のデータ化は、運送事業者だけでなく荷主企業や業界全体の構造にまで大きな影響を及ぼしています。
運送事業者:規模の経済から「自社コストをデータで語る能力」へのシフト
これまでのトラック運送業界では、「保有車両数」や「拠点数」という物理的な規模の大きさが競争力の源泉でした。大量の車両を抱えることでスケールメリットを効かせ、大口案件を低運賃で受注するビジネスモデルが成り立っていたためです。
しかし、人手不足と燃料・車両価格の高騰が同時に押し寄せる現在、単に規模が大きいだけの経営は危険を伴います。原価構造をミクロの視点で把握できていない企業は、走らせれば走らせるほど赤字が膨らむ「不採算案件」を大量に抱え込み、黒字倒産のリスクに直面します。
今や運送事業者の最大の武器は、自社の提供価値とコスト構造をデータで詳細に提示できる能力です。「特定の配送ルートにおいて、燃料高騰と長時間の荷待ちによって利益率がマイナス〇%になっている」という事実を科学的に解剖・説明できる企業だけが、荷主に対して適切な運賃改定や待機時間削減の条件変更を迫り、適正な利益を獲得できます。
参考記事: 燃料高で利益28%減!物流業が価格転嫁の壁を突破する3つの対策
製造業者・荷主企業:データを持つ対等なパートナーとしての共同改善
サプライチェーンの上流に位置する製造業者や流通業者(発荷主・着荷主)にとって、運送事業者を「単なる実務の代行者」として扱い、一方的に低運賃を強いる時代は終わりました。
運送会社が原価データを武器に科学的な経営判断を下すようになったことで、荷主企業側も客観的なデータに基づく対等な対話に応じる姿勢が求められます。運送会社からの値上げ請求や条件変更の申し出に対し、「従来の商慣習だから」「予算がないから」と取り合わずに据え置きを続ければ、運送会社から採算の合わない取引として撤退(契約解除)されるリスクが劇的に高まります。
トラック運送能力が逼迫するなかで自社の製品を運べなくなる「物流難民化」を防ぐためにも、荷主企業は運送会社を「データを持つ対等なパートナー」と認識し、バース待ち時間の削減やパレット化の推進、リードタイム緩和などの効率化を共同で進める姿勢が不可欠です。
参考記事: 日本経済新聞報道の相談1万2000件から見る荷主の業績悪化が運賃転嫁難航に直結
構造の変化:「経験と勘」の労働集約型から「情報集約型産業」への変質
物流業界全体としては、長年続いた「ベテラン配車マンの経験と勘」に依存する労働集約型産業から、データを経営判断の核とする「情報集約型産業」への構造的変化が進行しています。
配車計画や運行管理が電子化され、個々の案件の採算性がリアルタイムで可視化される環境が整ったことで、経験の浅い経営層であってもデータに基づいた的確な意思決定を下すことが可能になりつつあります。この産業構造の変化に適応し、自社内にデータを蓄積・分析・活用するサイクルを構築できた企業が、次の時代における市場の主導権を握ることになります。
LogiShiftの視点:コース別原価解剖による「撤退と交渉」の戦略的判断
アセンド社の調査データが示した「コース別原価管理を実施している企業の価格転嫁成功率が35.2%に跳ね上がる」という事実は、物流経営における極めて重要な示唆を含んでいます。経営者が向き合うべき本質は、システムを導入することそのものではなく、算出された数字をもとに「どのような経営判断を下すか」という決断力にあります。
詳細な原価計算によって、例えば「A荷主のBルートは、一見すると売上規模が大きいものの、現地での2時間の荷待ちと帰り荷の不在によって完全に赤字である」と判明したとします。このとき、経営層に求められるアクションは以下の3つに集約されます。
- データに基づく定量的交渉: 根拠となる原価データと待機時間のログを提示し、納得感のある適正運賃への改定を迫る。
- 作業条件の変更提案: 運賃そのものの値上げが難しい場合、バース予約の導入による待機時間削滅や、着荷主側での附帯作業の解消など、原価を下げるための運行条件変更を対話で引き出す。
- 戦略的不採算撤退: 協議に応じず赤字を垂れ流し続ける案件からは思い切って撤退し、得られた車両とドライバーのリソースを、適正運賃を支払う健全な案件へ再配置する。
国土交通省が進める「適正原価」の議論や原単価方式への移行を見据えても、自社の実発生コストを可視化できていない企業は、法制度の手厚い保護を受けることすらできません。「データで自社の価値と原価を証明し、不採算な取引を断ち切る覚悟を持つこと」こそが、価格転嫁率27.3%の壁を突破し、生存競争を勝ち抜くための唯一の道筋です。
参考記事: 国土交通省の適正原価策定で実車率50%見直しへ!運賃半減を防ぐ経営管理
明日から取り組むべき3つのアクション
物流企業の経営層や現場リーダーが、データに基づく情報活用力を高め、持続可能な経営体制を構築するために明日から取り組むべき具体的なアクションは以下の通りです。
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自社の原価管理を「営業所単位」から「コース・案件単位」へ細分化する
全社や営業所の平均値によるどんぶり勘定を直ちにやめ、デジタコや配車データ、燃料消費量を紐付け、運行コースや案件ごとの「1運行あたりの実発生原価」を算出する仕組みを構築しましょう。 -
客観的運行データを基にした「価格転嫁・条件変更」の交渉テーブルを設ける
「燃料代が上がって苦しい」というお願いベースの交渉を排し、自社のコース別原価データや待機時間ログを提示しながら、適正運賃への改定や荷待ち削減に向けた協議を荷主へ定期的に申し入れましょう。 -
採算ラインを明確化し、不採算取引からの戦略的撤退・再配置を決断する
自社で許容できる最低利益率(採算ライン)を設定し、改善協議に応じない赤字案件については、車両とドライバーを他案件へシフトさせる「戦略的撤退」の意思決定を速やかに行いましょう。
出典: topics.smt.docomo.ne.jp
出典: PR TIMES


