日本貨物航空(NCA)は2026年8月10日、同年8月16日から適用される日本発国際航空貨物燃油サーチャージの改定額を発表しました。8月前半の改定からわずか半月で主要路線が大幅に引き上げられ、北米・欧州向けが1kgあたり35円増の163円に達するなど、お盆明けの国際物流コストを直撃する急速な上振れを見せています。
2026年8月後半における燃油サーチャージ改定の全容
日本貨物航空(NCA)が発表した2026年8月16日以降の日本発国際航空貨物燃油サーチャージ(燃料価格変動調整金)は、全対象地域において前期間(8月1日〜15日)から大幅な増額改定となりました。
今回の改定において最も上昇幅が大きいのは、北米・中南米をカバーする「TC1」ゾーンおよび欧州・アフリカ・中近東をカバーする「TC2」ゾーンです。いずれも1kgあたり128円から35円引き上げられ、163円/kgに設定されました。また、アジア域内を対象とする「TC3」ゾーンにおいても、東南アジア宛の遠距離路線が15円増の106円/kg、東アジア宛の近距離路線が10円増の87円/kgへとそれぞれ引き上げられています。
適用路線の改定額と前期間対比
以下は、2026年8月16日より適用される向け地別の燃油サーチャージ適用額および前期間との比較です。
| 向け地 | 2026年8月1日適用額 | 2026年8月16日適用額 | 増減幅 |
|---|---|---|---|
| TC1(主に北米・中南米) | 128円/kg | 163円/kg | +35円/kg |
| TC2(欧州・アフリカ・中近東) | 128円/kg | 163円/kg | +35円/kg |
| TC3遠距離(東南アジア) | 91円/kg | 106円/kg | +15円/kg |
| TC3近距離(東アジア) | 77円/kg | 87円/kg | +10円/kg |
この改定金額は、2026年8月16日以降に発行される航空運送状(AWB:Air Waybill)を対象として適用されます。
直近におけるNCA燃油サーチャージの推移
今回の改定で特筆すべき点は、その引き上げスピードの速さにあります。2026年5月以降、NCAの燃油サーチャージは下落傾向にありましたが、8月に入り潮目が大きく変化しました。
| 適用開始日 | TC1 / TC2 宛 | TC3遠距離(東南アジア) | TC3近距離(東アジア) | トレンド |
|---|---|---|---|---|
| 2026年5月16日 | 198円/kg | 121円/kg | 97円/kg | 値下げ |
| 2026年6月16日 | 142円/kg | 121円/kg | 97円/kg | 値下げ |
| 2026年7月1日 | 135円/kg | 121円/kg | 97円/kg | 値下げ |
| 2026年7月16日 | 107円/kg | 82円/kg | 71円/kg | 値下げ |
| 2026年8月1日 | 128円/kg | 91円/kg | 77円/kg | 4か月ぶり値上げ |
| 2026年8月16日 | 163円/kg | 106円/kg | 87円/kg | 大幅値上げ |
5月中旬に198円/kgを記録した後は7月後半にかけて107円/kgまで下落していたものの、8月1日の改定で4か月ぶりに値上げ(+21円)へ転じました。そして、そこからわずか15日後の8月16日改定において、さらに35円もの上振れが断行されたことになります。1か月間で合計56円/kgものコスト上昇となり、国際航空輸送を利用する事業者にとっては極めて短期間での対応が迫られる状況となっています。
国際物流実務におけるフレートやサーチャージの詳しい計算構造や仕組みについては、以下の解説記事で詳しく扱っています。
参考記事: フレート(運賃)の仕組みと計算方法を解説|サーチャージやコスト最適化のポイント
燃油サーチャージ急騰をもたらす構造的要因
航空貨物燃油サーチャージの金額は、各航空会社が独自に定める基準表(マトリクス)に基づき、指標となるジェット燃料市況の価格に連動して決定されます。
シンガポールケロシン市況との連動メカニズム
NCAを含む多くの航空会社では、基準指標として「シンガポールケロシン(ジェット燃料)の市況価格」を採用しています。今回の8月16日適用額は、原則として前月半ばから後半(7月後半)にかけてのシンガポールケロシン市況の半月平均価格に基づいて算出されています。
7月後半にかけて、地政学的リスクの高まりや原油需給の引き締め観測を背景にケロシン市況が急反発しました。航空燃料は原油から精製される精留生成物の中でも高い品質が求められるため、原油価格の上昇に加えて精製マージン(クラックスプレッド)の拡大がそのままダイレクトにサーチャージ金額へ反映された格好です。
為替相場(円安)と航空運賃全体の二重苦
日本の荷主事業者にとって事態をより深刻にしているのが、為替相場の円安推移です。航空燃料市況は米ドルベースで取引されるため、仮にケロシン価格自体の上昇が限定的であったとしても、円安が進行すれば日本円建ての改定額は膨らみます。
輸入事業者や日本発の輸出荷主にとっては、基本運賃(Net Rate)に加算されるサーチャージの日本円換算額がダブルで跳ね上がることになり、輸送費全体の押し上げ圧力となっています。
参考記事: 燃料サーチャージ推移グラフ_なぜ下がらないのか?今後の見通しと対策【2026年最新】
主要プレイヤーごとの影響と課題
わずか半月で1kgあたり35円増という急激な値上げは、サプライチェーンに関わる各プレイヤーにそれぞれ異なるインパクトをもたらします。
製造業者・メーカー:特急輸送や大型重量物の採算悪化
自動車部品、精密機械、電子材料などの製造業者にとって、北米・欧州向け1kgあたり163円というサーチャージ水準は深刻な直接原価の増加を意味します。
特に、サプライチェーンの遅延を取り戻すために船便から急遽切り替えた「特急輸送(エクスプレス便)」や、重量のある製造装置・部品の輸送では、1回の出荷で数十万〜百万円単位のコスト増が発生します。
メーカーが直面する具体的な課題
- 輸送予算の短期間での超過: 7月時点の試算(107円/kg)から大きく乖離し、半期予算の上限を突破する懸念
- 製品価格への転嫁難: 現地顧客との売買契約が固定化されている場合、輸送費の増加分を即座に製品価格へ上乗せできず、自社の営業利益率が直接圧迫される
- 輸送モードの再検討: 船便への書き戻しや、中間拠点での在庫積み増しといった構造的な見直しが急務
越境EC・流通事業者:送料設定と利益率の板挟み
海外向け販路を拡大している越境EC事業者やアパレル・日用品流通企業にとっても、航空貨物サーチャージの跳ね上がりは大きな脅威です。
越境ECでは、エンドユーザーに対して「送料無料」や「固定送料」を提示しているケースが多く、航空サーチャージの上昇分をエンドユーザーに転嫁するハードルが非常に高く設定されています。
越境EC事業者が直面する具体的な課題
- 利益率の急速な削り込み: 1商品あたりの粗利益が薄い低価格帯のアイテムほど、サーチャージ値上げのインパクトが大きく、出荷すればするほど赤字になる構造に陥る
- 配送キャリアの見直し作業: 国際宅配便(クーリエ)や郵便系サービス、混載便とのコスト比較・切り替え作業が現場の負荷となる
航空貨物混載業者(フォワーダー):価格転嫁と説明責任の過重
荷主と航空会社の間をつなぐフォワーダー(利用航空運送事業者)や国際陸上運送事業者にとっても、半月ごとの大幅改定は実務上の大きな負担となります。
航空会社からの仕入れ価格が即座に上昇する一方で、荷主への見積もり提示や請求への即時反映には交渉時間がかかります。
運送事業者・フォワーダーが直面する具体的な課題
- 荷主への説明責任: なぜ半月でこれほどの値上がりになるのか、市況データに基づいた根拠を示しながら迅速に説明する必要がある
- 差額負担(持ち出し)リスク: サーチャージの適用タイミングと荷主との契約条件にタイムラグが生じた場合、一時的に中間事業者がコスト増分を被るリスクが発生する
トラック運送業界を含めた日本国内の価格転嫁問題やサーチャージ運用の課題については、以下の記事も参考になります。
参考記事: 燃料高で利益28%減!物流業が価格転嫁の壁を突破する3つの対策
LogiShiftの視点:変動常態化時代における3つの物流防衛策
今回のNCAによるわずか15日間での大幅再値上げ(TC1/TC2向け35円増)は、単なる一時的な燃料高騰ではありません。国際物流コストにおける「ボラティリティ(変動性)の常態化」を強く印象づける出来事です。
従来の物流管理では、運賃やサーチャージを年単位・期単位の「固定的な予算」として捉える傾向がありました。しかし、市況価格に基づいて半月単位でダイナミックに変動する現在の環境下では、国際物流コストを「市場連動型の変動費」としてリアルタイムに管理・コントロールする運用へとマインドを切り替える必要があります。
企業が取るべき具体的な防衛策として、以下の3点が挙げられます。
1. 輸送モードの複線化と「Sea & Air」の活用
航空輸送だけに依存するサプライチェーンは、サーチャージの急騰や空間供給(スペース)のタイト化に対して極めて脆弱です。
リードタイムに一定の余裕がある貨物については、従来の純粋な航空便(All Air)から、海上輸送と航空輸送を組み合わせた「Sea & Air(海空複合輸送)」へのシフトや、近隣国までの船便+現地からの航空便といったハイブリッド型ルートの策定が有効です。これにより、輸送コストをAll Air比で20〜40%抑制しつつ、純粋な船便より早いリードタイムを確保できます。
2. 容積重量(ボリュームウェイト)の最適化による課金重量カット
航空貨物運賃および燃油サーチャージは、実重量(Actual Weight)と容積重量(Volumetric Weight)のいずれか大きい方(課金重量:Chargeable Weight)に対して適用されます。
1kgあたりのサーチャージ額が163円まで高騰している状況下では、梱包サイズのわずかな圧縮がそのまま大きなコスト削減に直結します。
– 過剰包装の見直しとダンボールサイズの最適化
– 緩衝材の削減による容積の小型化
– 圧縮梱包の導入
これらの取り組みによって課金重量を10%削減できれば、サーチャージ増額分を相殺することが可能です。
3. 動的なコスト計算ツールの導入と荷主・取引先との自動連動
Excelなどによる手動計算から脱却し、燃料価格インデックスや航空会社の最新サーチャージマトリクスと連携したTMS(輸配送管理システム)や見積計算ツールを導入すべきです。
サーチャージ改定が発表された瞬間に、自社の出荷予定データと突き合わせてコスト影響額を自動算出し、即座に社内稟議や荷主・購入者への価格改定交渉に繋げられる体制を整えることが、持ち出し損失を防ぐ唯一の手段となります。
サーチャージの基本的な仕組みや荷主・運送会社間での交渉手順については、以下の解説記事をご確認ください。
参考記事: 燃料サーチャージの仕組みと計算方法|運送コスト高騰を乗り切る価格転嫁の交渉ステップ
明日から国際物流担当者が意識すべきアクション
エネルギー市場および為替の不透明感が続く中、今回の改定を機に明日から取り組むべき実務対応を整理します。
- 出荷予定貨物の影響額試算
8月16日以降に出荷が予定されている北米・欧州・アジア向け貨物について、改定後のサーチャージ額(米欧163円/kg、東南アジア106円/kg、東アジア87円/kg)を適用した場合のコスト増分を直ちに算出する。 - 梱包仕様の緊急点検
主力出荷製品の容積重量比率を確認し、無駄な空洞や過剰な外箱サイズがないか現場チェックを実施する。 - 顧客・社内関係者への早期アナウンス
8月後半以降の輸送コスト上昇に伴い、販売価格への反映や輸送モード見直しの必要性について、営業部門や海外現地法人へファクトベースで迅速に情報共有を行う。
出典: 物流ニュース LNEWS
出典: 日本貨物航空(NCA)プレスリリース



