伊藤忠建材は、パスコの輸配送管理システム「LogiSTAR Geospatial LINKS」のOEM提供を受け、建築・土木業界に特化した配車計画システム「ICK LogiSTAR」の提案を開始した。車格制限や上棟便など住宅物流特有の複雑な現場ルールをデジタルに落とし込み、2026年4月に施行された物流統括管理者(CLO)選任義務化を受け、配車業務の属人化解消と標準化を支援する。
建築・土木物流における配送の難題と「ICK LogiSTAR」の概要
住宅や建築資材の物流は、数ある産業物流の中でもトップクラスに複雑な輸配送運用が求められる領域だ。都市部の狭い道路事情に合わせた「車格制限(2t・4t車等の限定)」や、重量物・長尺物を搬入するための「ツーマン配送(2人乗務)」、さらには建築工程の進捗に直結する「上棟便は必ず朝一番に納品する」といった現場ごとの厳格なローカルルールが数多く存在する。
これまで、これらの複雑な制約条件をクリアする配車計画の策定は、長年の経験と勘を併せ持つ「ベテラン配車担当者」の個人的なノウハウに依存してきた。複雑なパズルを組み合わせるような計画作成は多大な業務負荷を生むだけでなく、ノウハウがブラックボックス化し、次の世代に業務を引き継ぐことができないといった問題が表面化してきている。
この課題に対し、建材流通大手の伊藤忠建材株式会社が、空間情報技術・TMS(輸配送管理システム)で実績を持つ株式会社パスコからOEM提供を受けて販売を開始したのが「ICK LogiSTAR(アイシーシーケイ・ロジスター)」である。
協業の体制と提供システムの基本構成
本取り組みは、建材総合商社としてのネットワークを持つ伊藤忠建材と、2003年からTMSを開発・提供してきたパスコの強みを融合させたシステム展開となっている。
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 発表主体・協業体制 | 伊藤忠建材株式会社(販売・提案・導入支援)/株式会社パスコ(OEMシステム基盤提供) |
| 基盤システム | パスコ「LogiSTAR Geospatial LINKS」(クラウド型輸配送管理システム) |
| 対象業界 | 建築資材メーカー、建材・木材・土木業界の卸・流通企業 |
| システムの核となるアプローチ | 完全自動AI配車ではなく、「配車担当者の判断基準」をシステムに落とし込み自動配車と手動調整を組み合わせる |
| 背景となる法改正 | 改正物流効率化法(2025年4月施行済み・2026年4月特定荷主義務化) |
参考記事: TMS(輸配送管理システム)とは?機能から導入メリット・選び方まで完全解説
法制度の変更とサービス開始のタイムライン
住宅・建材業界においても、物流関連法改正に伴う法的義務や努力義務への対応は避けて通れないデッドラインとなっている。本サービスの開始背景には、法規制の段階的な施行スケジュールが存在する。
| 年月 | 法律・業界の主な動き | 住宅・建材物流への影響と要請 |
|---|---|---|
| 2003年 | パスコがTMS(輸配送管理システム)の開発・提供を開始 | 輸配送管理のデジタル化・自動配車機能の基礎が確立される |
| 2024年5月 | 改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)が公布 | 荷主企業における物流改善への法的枠組みが整備される |
| 2025年 | 伊藤忠商事によるパスコへの資本参加 | パスコが伊藤忠グループの一員となり、伊藤忠建材とのグループ間連携が強固に |
| 2025年4月 | 改正物流効率化法の第1段階施行 | すべての荷主・物流事業者に対して物流効率化の努力義務が課される |
| 2026年4月 | 改正物流効率化法の第2段階施行(本格義務化) | 特定荷主等に対し「物流統括管理者(CLO)の選任」や「中長期計画策定」が法的義務化 |
| 2026年7月 | 「ICK LogiSTAR」の正式ローンチおよび提案開始 | 法義務化を見据えた建材流通・メーカー向け標準配車システムの提供開始 |
参考記事: 改正物流効率化法が2026年に義務化、9万トン超の荷主が取るべき必須対応
「AI完全自動」に頼らない柔軟な現場適応型アプローチ
「ICK LogiSTAR」の最大の特徴は、一般的なAI自動配車ツールのように「AIが弾き出した解をそのまま適用する」のではなく、既存の配車担当者が長年培ってきた「判断基準」や「現場の優先順位」をシステムルールとして設定する点にある。
AI完全自動配車と「ICK LogiSTAR」のアプローチ比較
- AI完全自動配車の特徴
- 走行距離や総運行時間の最短化など、数理的な効率性を最優先してルートを算出する。
- 「現場の職人の気質」や「時間指定の微妙なニュアンス」といった定性的な現場ルールを取りこぼしやすく、配車担当者による大幅な再調整が必要になる場合がある。
- 「ICK LogiSTAR」のアプローチ
- 熟練担当者が持つ「この現場は2t車しか入れない」「上棟便は朝一配達が前提」「この荷下ろしはツーマン体制が必要」といった判断基準をシステムにプリセットする。
- システムによる条件付き自動計算と、直感的なUIでの手動調整を組み合わせることで、配車計画の精度向上と標準化を両立させる。
都市部の狭隘(きょうあい)道路や施工現場の受入態勢といった制約をデジタルデータとして蓄積・反映することで、誰が配車を担当しても現場の混乱を引き起こさない「再現性のある配車計画」を迅速に作成できる仕組みを実現している。
流通・メーカー・SaaSベンダーへ及ぶ業界インパクト
「ICK LogiSTAR」のローンチは、住宅・建材サプライチェーンに関わる各プレイヤーに大きな影響を及ぼす。2026年4月からの特定荷主義務化を受け、配車計画のデジタル化は単なる現場の作業改善を超えた経営課題となっている。
卸・問屋・建材流通業者:配車業務のブラックボックス解消が経営の最優先課題に
建材流通業者や卸・問屋にとって、配車業務の属人化は事業継続を脅かすボトルネックとなっていた。ベテラン配車担当者の退職や休業によって配送網が機能不全に陥るリスクを抱えていたからだ。
また、2026年4月からは一定規模以上の事業者に「物流統括管理者(CLO)」の選任や中長期計画の策定が義務付けられている。自社の配送網で「どれだけの車両が効率的に稼働し、待機時間や空車走航がどれだけ発生しているか」をデータで客観的に可視化できなければ、国への計画提出や定期報告に対応できない。
配車計画を標準化・デジタル化することは、ベテラン頼みからの脱却とコンプライアンス遵守の両立を可能にする。
建築資材・住宅設備メーカー:複雑な納入条件のシステム化による配送品質向上
壁紙、木材、住宅設備などを扱うメーカー側にとっても、施工現場や納入先における過酷な手下ろしや激しい荷待ち時間、複雑な指定条件はドライバーから敬遠される要因となっていた。
あらかじめ配送条件や制約をシステム化し、適正な車両選定と到着管理を行うことで、運送会社やドライバーに対して無理のない運行指示を出すことが可能になる。不揃いな荷姿や特殊な配送条件を持つ建材物流において、配送品質を維持しつつトラックを安定確保するための必須基盤となる。
参考記事: サンゲツが推進する荷待ち時間2時間以内と積載率20%向上の必須対応
SaaS・テクノロジーベンダー:「判断基準のシステム化」が商習慣の強い産業での解となる
物流DXを推進するテクノロジーベンダーにとって、本取り組みは商習慣や現場ルールが強く残る産業におけるシステム定着の好事例となる。
汎用的なAIによる全自動化を押し付けるのではなく、現場のノウハウをデジタルルールに置き換える「人×デジタルの協働モデル」こそが、複雑な業界における現実的なDXの最適解であることを示している。今後は他産業におけるTMS展開でも、現場の判断基準を取り込むアーキテクチャが主流となっていくと考えられる。
LogiShiftの視点:現場ルールを肯定するデジタル化が拓く物流ガバナンス
これまで住宅・建材物流の領域では、「現場の制約が複雑すぎるため、デジタル化や標準化は不可能」と諦められがちであった。しかし、改正物流効率化法や2026年の特定荷主義務化は、そうした例外を作らせない強い法的強制力を持っている。
「ICK LogiSTAR」が示す重要な示唆は、「標準化とは現場ルールを切り捨てることではなく、現場の判断基準をデジタルデータとして形式知化することである」という点だ。
住宅物流のデジタル化がもたらす構造的変化
住宅・建材業界における配車計画のデジタル化は、以下の3つの価値を企業にもたらす。
暗黙知の形式知化によるサステナビリティ向上
ベテランの頭の中にしかなかった「現場の注意書き」や「配送先の慣習」をシステムに登録・共有可能にすることで、突発的な人員交代や事業承継の際にも配送クオリティを維持できる。
ガバナンス構築と対外的な透明性の確保
配車基準が可視化されることで、運送会社に対する無理な配送依頼やコンプライアンス違反(過積載や制限時間超過など)をシステム上で未然に防止できる。これは2026年4月以降、特定荷主が求められる「健全化措置」や「実運送体制の把握」を裏付けるデータとしても機能する。
流通網全体での協調・共同配送への土台作り
自社の配送計画がデジタルデータとして標準化されれば、同一エリアへ向かう同業他社や異業種との「共同配送」や「帰り便の相互利用」といった高度な物流効率化へのデータ連携が容易になる。
参考記事: ロジテック25アプリで2026年義務化の実運送体制管理簿作成を効率化
伊藤忠建材のような商社が主導し、既存の流通ネットワークへシステムを一括提供する動きは、業界全体の標準化スピードを爆発的に加速させる可能性を秘めている。
住宅・建材物流の持続性を高めるための実務アクション
2026年の法改正義務化を受け、建材メーカーや流通企業の経営層・現場リーダーが直ちに取り組むべきアクションは以下の通りである。
- 自社の配車業務における「暗黙知(ベテラン頼みの判断ルール)」を全件抽出する
自社の配車担当者がどのような基準で車格選定、時間指定、人員配置(ツーマン等)を判断しているのかを洗い出し、テキストやデータとして可視化する。 - AI完全自動化に固執せず、「現場のノウハウをルール化できるTMS」を選定・検証する
自社の複雑な配送条件に対応可能か、手動調整がスムーズに行えるインターフェースを備えているかを基準にシステムを比較・評価する。 - 配車データを基盤として、2026年4月の特定荷主(CLO選任)義務化への対応計画を策定する
単なる配車業務の効率化で終わらせず、車両稼働率や荷待ち時間のデータを集計し、中長期的な物流効率化計画の策定・報告体制へ繋げる。
現場のノウハウをデジタルへ正しく移植することこそが、崩壊の危機に瀕する住宅・建材物流網を未来へ繋ぐ唯一の道である。



