キッコーマン食品とネスレ日本は2026年6月、関東〜関西間における長距離トラック輸送を、RORO船を活用した海上輸送と両社による共同ラウンド輸送へと転換しました。片道約610kmにおよぶ陸送区間を劇的に短縮し、1運行あたりのCO2排出量を約5割削減する本取り組みは、深刻化するドライバー不足と環境対応に挑む国内物流の先行モデルとして大きな示唆を与えています。
キッコーマン食品とネスレ日本による異業種共同ラウンド輸送の全貌
国内物流における長距離幹線の維持が限界を迎える中、食品大手であるキッコーマン食品株式会社とネスレ日本株式会社は、関東〜関西間の東西物流において、内航船(RORO船)を用いた共同ラウンド輸送を本格稼働させました。
これまで両社は、自社の主力拠点から相手方の需要地へ向けて、それぞれ個別でトラックによる長距離輸送を行っていました。しかし、荷物を届けた後の復路ではトラックが空荷(空車回送)となる非効率が発生しており、長距離ドライバーの確保難や環境負荷の高さが大きな経営課題となっていました。今回の連携は、競合関係にない異業種のメーカー同士が共通の輸送ルートを相互利用することで、往復の実車率を極限まで高めた点に最大の特徴があります。
千葉〜兵庫間における新旧輸送スキームの定量比較
従来の個別トラック輸送と、今回導入された海上共同ラウンド輸送のスペックを比較すると、走行距離および環境負荷の双方において顕著な削減効果が確認できます。
| 比較項目 | 従来(個別の長距離トラック輸送) | 今回(海上共同ラウンド輸送) | 改善効果・変化 |
|---|---|---|---|
| メイン輸送手段 | 大型トラック(全区間陸送) | RORO船(海上)+近距離トラック | モーダルシフトの達成 |
| トラック走行距離(片道) | 約610km | 150km〜180km | 約70%〜75%短縮 |
| 海上輸送距離 | 0km | 678km(千葉港〜堺泉北港) | 長距離区間の脱トラック化 |
| 空荷走行距離(片道) | 長距離の空車回送が発生 | 約20km | 空荷走行の極小化 |
| CO2排出量削減率 | 基準値(100%) | キッコーマン:約52%削減、ネスレ日本:約47%削減 | 温室効果ガス排出の約半減 |
| 運行頻度 | 個別手配 | 週1回往復(定期運用) | 循環パターンの確立 |
従来の陸上輸送では、1回の運行ごとに片道約610kmの全区間をトラックが走行していました。新スキームでは、千葉港から堺泉北港(大阪府)までの678kmをRORO船で代替することにより、トラックの走行距離を150〜180km程度に短縮。さらに、積込先と荷降先を近接させるオペレーション設計により、片道の空荷走行距離をわずか約20kmにまで圧縮しています。
参考記事: モーダルシフト完全ガイド|導入メリットと補助金・成功事例まで徹底解説
郵船ロジスティクスが主導した海上モーダルシフトの運行プロセス
本施策を影で支えたのが、グローバルフォワーダーである郵船ロジスティクス株式会社です。同社は両社の物流データを分析・照合し、東西間で反転する貨物動線を一本の循環ループに統合するオーケストレーター(調整役)として機能しました。
本取り組みに関わる主要企業と各拠点の役割、および一連の運行プロセスは以下の通りです。
| 役割・手順 | 企業・施設名 | 所在地 | オペレーションと取扱品目 |
|---|---|---|---|
| 1. 往路出荷 | キッコーマン食品(N-DC) | 千葉県流山市 | 拠点から調味料を出荷し千葉港へ陸送。RORO船にシャーシを積載。 |
| 2. 海上輸送 | 千葉港 〜 堺泉北港 | 千葉県 / 大阪府 | 内航RORO船により678kmの区間を海上輸送。 |
| 3. 往路納品 | キッコーマン食品(高砂DC) | 兵庫県高砂市 | 堺泉北港で荷揚げ後、高砂DCへ陸送し調味料を納品。 |
| 4. 近距離回送 | 横持ち区間 | 兵庫県高砂市〜姫路市 | 荷下ろし完了後、約20km離れたネスレ日本姫路工場へ空車回送。 |
| 5. 復路出荷 | ネスレ日本(姫路工場) | 兵庫県姫路市 | 姫路工場でコーヒー等の飲料製品を同一車両に積載。堺泉北港へ陸送。 |
| 6. 復路納品 | ネスレ日本(野田物流センター) | 千葉県野田市 | 堺泉北港から千葉港へ海上輸送後、野田物流センターへ配送し完結。 |
| 統括管理 | 郵船ロジスティクス株式会社 | 東京都千代田区 | スキーム全体の設計、船舶・ドレージ手配、運行進捗の統合管理。 |
このように、キッコーマン食品の調味料(重量物・関東発)と、ネスレ日本の飲料(重量物・関西発)という、一見接点のない二つの商材が、港湾を介したひとつの循環モデルとして接続されています。
参考記事: 郵船ロジスティクスが6月10日開始の共同東西ラウンド輸送でモーダルシフトを加速
2026年6月に始動した東西共同物流の時系列と実施背景
本プロジェクトの発表から運用開始に至るタイムラインは以下の通りです。
- 2026年6月4日: キッコーマン食品およびネスレ日本が、関東〜関西間における海上共同ラウンド輸送の開始を共同発表。
- 2026年6月5日: キッコーマン食品側の往路(千葉県流山市 → 兵庫県高砂市)における第1便が稼働開始。
- 2026年6月9日: ネスレ日本側の復路(兵庫県姫路市 → 千葉県野田市)における第1便が稼働開始。
- 2026年6月10日: 郵船ロジスティクスが、本ラウンド輸送スキームの一貫手配・統括管理を担当した旨を公式発表。
本施策が実施された背景には、2024年4月から適用されたトラックドライバーの時間外労働上限規制(年960時間規制)があります。関東〜関西間(約610km)の長距離輸送は、従来であればドライバー1人による日帰り運行が不可能な距離であり、労働時間規制の厳格化に伴って輸送枠の確保自体が極めて難しくなっていました。
加えて、荷主企業に課せられたサプライチェーン全体の温室効果ガス(CO2)排出削減(Scope3対応)の要請も、モーダルシフトを後押しする強い要因となりました。トラック単体での長距離輸送を維持することは、コンプライアンスおよび環境負荷の観点から双方の企業にとってリスクとなっており、内航船の大量輸送能力と実車率向上を組み合わせた新スキームへの移行が急務であったと言えます。
サプライチェーン各プレイヤーに及ぼす波及効果
独立した大手メーカー2社と3PL・フォワーダーが強固なインフラ協調に踏み切ったことは、製造業、運送事業者、そして物流ITを支える各プレイヤーに広範な波及効果をもたらしています。
荷主企業(メーカー):自前主義からの脱却と「非競争領域での協調」
荷主企業にとって本事例は、「自社専用の物流網を個社で維持する」という従来の自前主義モデルからの脱却を象徴しています。
醤油とコーヒーという異業種マッチングが生む実車率の向上
かつて食品・飲料メーカーは、自社製品の納品リードタイムや配送品質をコントロールするため、自社専用の物流ルートを個別に構築してきました。しかし、単独で片道の荷物を運ぶだけでは、帰路のトラックを空車のまま走らせざるを得ず、運賃コストの上昇や配車拒否のリスクに直面します。
キッコーマン食品(調味料)とネスレ日本(コーヒー・飲料)は、製品の味や販売促進といった商流(競争領域)では全く異なる市場でビジネスを展開していますが、輸送という物流(非競争領域)においては、「関東発・関西着」と「関西発・関東着」という反転したベクトルを持つ完璧なパートナーです。商材が異なっていても、容積や重量、納品スケジュールの適合性をデータで検証することで、往復の実車率を100%近くまで引き上げられることが証明されました。
CO2排出量大幅削減によるScope3対応とESG経営の加速
1運行あたりのCO2排出量をキッコーマン食品で約52%、ネスレ日本で約47%削減するという実績は、非財務情報(ESGデータ)の開示を求められる上場企業にとって大きなインパクトを持ちます。
トラックから内航船へのモーダルシフトは、単位輸送量あたりのCO2排出量を大幅に抑えることができます。単一企業での努力では限界があった環境目標の達成が、異業種との協調によって飛躍的に進むこととなり、今後の荷主企業における物流戦略の意思決定に強い影響を与えると考えられます。
運送事業者・内航海運:長距離運行から港湾ドレージ・地場配送への役割シフト
実運送を担うトラック事業者や内航海運会社にとっても、ビジネスモデルと現場オペレーションの構造転換が進んでいます。
長距離ドライバーの拘束時間削減と労働環境の劇的改善
本スキームの導入により、トラックドライバーが何日もかけて関東〜関西間を往復する過酷な長距離運行が不要になりました。
トラック事業者に求められる役割は、以下の2点に特化していきます。
- 港湾ドレージ・シャトル輸送: 千葉港や堺泉北港と、各拠点(流山N-DC、野田物流センター、高砂DC、姫路工場)との間をピストン運行する近距離輸送。
- エリア内の地場配送: 港やデポに届いた貨物を最終納品先へ届けるラストワンマイル輸送。
走行距離が150〜180kmに抑えられることで、ドライバーは「日帰り勤務」が可能となり、長時間拘束や車中泊の負担から解放されます。労働環境の改善は、若手や女性ドライバーの採用活動においても強力な強みとなり、運送会社の持続可能性を高めます。
参考記事: 6月15日開始の日本通運新ルート、無積替コンテナで長距離輸送維持に直結
3PL・フォワーダー:単なる手配屋から「サプライチェーンのオーケストレーター」へ
本件で重要な役割を果たしたのが、輸送全体のコーディネートを担った郵船ロジスティクスです。
従来の3PLやフォワーダーの役割は、荷主からの依頼に基づいてトラックや船のスペースを手配する「受託者」にとどまりがちでした。しかし、本事例において同社は、複数企業の出荷データや走行ルートを自ら預かり、最適な組み合わせを発見して提案する「オーケストレーター(統括調整者)」としての機能を果たしています。
今後、荷主に選ばれる物流事業者の条件は、単に車両を安く確保できることではなく、異なる荷主同士の動線をデータ主導でマッチングさせ、陸海空のモーダルをシームレスに組み合わせる高度な構築力へと明確にシフトしていきます。
参考記事: 鴻池運輸とダイキン工業が年間250台削減の共同輸送を開始、物流効率化に直結
LogiShiftの視点:協調領域の拡大とフィジカルインターネットの社会実装
キッコーマン食品とネスレ日本、そして郵船ロジスティクスによる本プロジェクトは、国内物流が「個社専用の個別最適モデル」から「社会全体で共有するインフラモデル(フィジカルインターネット)」へと進化するプロセスの具体的な到達点と言えます。
この構造変化の先に存在する課題と、企業が取るべき中長期の方向性について独自の視点で考察します。
データ主導のマッチングと「便益配分(ゲインシェア)」の設計課題
異業種間の共同物流を永続的に機能させるうえで、今後最大の鍵となるのが「発生した便益(コスト削減効果・環境価値)と負担したコストをどのように公平に配分するか」というルール設計(ゲインシェア)です。
今回の事例では、往路と復路で荷主が異なり、拠点間の移動距離(横持ち区間)や荷役時間にも微妙な不均衡が存在します。例えば以下のような事態への考慮が必要です。
- 一方の拠点(例:キッコーマンのDC)での積み込み作業に遅延が発生し、もう一方(例:ネスレの工場)の運行スケジュールやドレージ手配に影響を及ぼした場合のコスト負担。
- 海上輸送のコンテナ・シャーシ利用における、貨物の重量・容積比率に応じた運賃の客観的案分。
日清食品のCLOなどの先行事例でも議論されている通り、一方が不利益を被るスキームは長期的に破綻します。中立的なアグリゲーターである3PLが介在し、走行距離、荷役時間、CO2削減枠などをデータに基づいて客観的に算出し、透明性の高い精算精度の運用を確立することが、アライアンスの持続可能性を担保する鍵となります。
内航海運モーダルシフトにおけるリードタイム・気象リスクの克服
内航船を活用したモーダルシフトは、トラック輸送に比べてCO2削減や労務負荷軽減の面で極めて優れている反面、「リードタイムの長期化」と「天候不順・シケによる欠航リスク」という固有の脆弱性を抱えています。
全区間をトラックで走れば翌日配送が可能な区間であっても、船便を挟むことで納品までに2〜3日を要する場合があります。また、台風や濃霧によって船が停泊を余儀なくされた場合、幹線がストップする懸念があります。
この課題を克服するためには、以下の二力条の取り組みが不可欠です。
- 商流側のリードタイム緩和: 発注から納品までのリードタイムを「翌日」から「中2日〜3日」へ変更するよう、着荷主(卸・小売業)との間で商慣習の是正を進めること。
- マルチモーダル制御(バックアップ体制)の確立: 船舶の運休が予測された際、即座に鉄道コンテナや緊急チャーター便へシームレスにルートを切り替える、デジタルを活用した動態管理とバックアップ計画の標準装備。
荷主企業と3PLが協力し、サプライチェーン全体に「時間のゆとり(バッファ)」を組み込むマインドセットが求められます。
参考記事: 2030年の輸送力34.1%不足を打破するJR貨物等の共有戦略
2026年改正物流効率化法下の特定荷主に求められる「持続可能なロジスティクス」
2026年4月に本格施行された改正物流効率化法では、一定規模以上の荷主企業(特定荷主)に対して役員級の「物流統括管理者(CLO)」の選任が義務付けられ、長時間の荷待ちや低積載率の改善が法的な責務となりました。
ネスレ日本のように、配車管理システム(MOVO Vista等)を導入して7,000人規模の委託先ドライバーと動態データを連携させ、現場の稼働実態を可視化する「直接統治型」の取り組みが進む中で、今回のような東西ラウンド輸送データも一元管理・活用されていくことになります。
自社の物流データを可視化し、他社との共有インフラへ接続できる企業だけが、2030年に懸念される深刻な輸送力不足の時代においても「モノが運べない」というリスクを回避し、持続可能なサプライチェーンを維持できるのです。
参考記事: ネスレ日本が約7000人のドライバーと直接連携し物流持続可能性を強化
参考記事: 総合物流施策大綱が示す2030年度輸送力25%不足に荷主の経営改革が必須
まとめ:持続可能なサプライチェーン構築に向けた明日からの3つのアクション
キッコーマン食品とネスレ日本が実現した異業種間での海上共同ラウンド輸送は、2024年問題以降の輸送力不足を克服し、脱炭素社会を実現するためのきわめて実践的な解を示しています。
この変化を自社の好機へと変えるために、経営層や物流部門のリーダーが明日から取り組むべき3つのアクションを提示します。
- 自社トラックの実車率と空車回送(空走り)の距離・時間データを完全に数値化する
自社の輸配送ネットワークにおける空車区間や未利用の車積スペースを正確に可視化し、自社単独での運行効率の限界点を客観的に把握してください。 - 競合・異業種を問わず「非競争領域(物流)」における共創パートナーの探索を始める
「ライバル企業だから」「取扱商品が違うから」という固定観念を捨て、自社と輸送方向が反転している企業や、重量・容積の補完関係にある企業とのアライアンスを3PLや業界団体を通じて模索してください。 - 納品リードタイムの緩和とパレット等の標準化に向け社内・取引先との協議を開始する
モーダルシフトや共同輸送のスケジュールに自社の配送を適合させるため、突発的な翌日配送の見直しや標準パレット(T11型)の採用など、商慣習の適正化を経営トップ主導で進めてください。
自前の物流網に固執する時代は終焉を迎えました。インフラを「共創」し、自社のサプライチェーンをオープンに接続していく姿勢こそが、激動の時代を生き抜く最大の力となります。
参考記事: 物流2026年問題とは?2024年問題との違いや法改正、実務で必要な対策を徹底解説
出典: Merkmal(メルクマール)
出典: LOGI-BIZ online
出典: 物流ニュース LNEWS
出典: 郵船ロジスティクス株式会社 公式プレスリリース



