住友倉庫は2026年8月24日、国際規格に準拠して物流温室効果ガス(GHG)排出量を可視化し、企業のサステナビリティ情報開示を支援する新サービス「SWAN-ECO」の提供を開始した。荷主企業におけるScope3(サプライチェーン排出量)開示への要請が世界的に高まる中、輸送モード別の実態把握と脱炭素施策の立案を同時に推進できる基盤として注目される。
国際規格に基づく物流GHG可視化サービス「SWAN-ECO」の全貌
サプライチェーン全体での脱炭素化が企業価値を左右する現在、物流分野における環境負荷の算定と開示は避けて通れない経営課題となっている。住友倉庫が提供を開始した「SWAN-ECO」は、荷主企業から受領した輸送データを基に、国際基準に準拠したロジックを用いてGHG排出量を正確に算定するソリューションである。
「SWAN-ECO」の主要機能と算定メカニズム
「SWAN-ECO」の最大の特徴は、出発地・到着地・輸送重量といった基本的な運行情報から、船舶・航空・トラック・鉄道という4つの輸送モード別にGHG排出量を精緻に算出できる点にある。
単一の拠点間輸送にとどまらず、グローバルに広がる複数拠点間のサプライチェーン全体を網羅した排出量算定に対応している。これにより、自動車、化学・素材、電子部品、消費財などのグローバル製造業をはじめとする荷主企業は、海外取引先への報告や有価証券報告書、サステナビリティレポートに耐えうる透明性の高いデータを整備できる。
| 項目 | SWAN-ECOの仕様・特徴 | 実務上のメリット |
|---|---|---|
| 算定ロジック | 国際規格に準拠した算出モデル | 海外取引先や監査に耐えうる客観的データの確保 |
| 対象輸送モード | 船舶、航空、トラック、鉄道の4モード | モードごとの環境負荷比較とルート最適化の検証 |
| 対象範囲 | 国内外の複数拠点にまたがるサプライチェーン | グローバル輸送網のScope3排出量を一元把握 |
| 入力データ | 出発地、到着地、輸送重量などの基本運行データ | 荷主側の過度なデータ収集負担を軽減 |
既存システム基盤とDX展開の連動
住友倉庫はこれまで、基幹オープン系システム「SWIFT」(Sumitomo Warehouse Worldwide Integrated system with Flexibility and Traceability)や、Web型グローバル管理プラットフォーム「SWAN」(Sumitomo Warehouse Advanced Network system)を中核に据え、物流DXを推進してきた。通関デジタル化システム「i-Clearance」やデータ連携プラットフォーム「SWAN+」などを展開してきた経緯があり、今回の「SWAN-ECO」もこれら既存のデジタル基盤を活用した付加価値サービスの一環として位置づけられる。
同社単体におけるScope1・Scope2の排出量実績(マーケット基準)は、2018年度の22,932 t-CO2 eq.から2024年度には15,631 t-CO2 eq.へと約32%削減されている(売上高原単位0.162 t-CO2 eq./百万円)。自社施設の脱炭素化を推し進めると同時に、荷主側のScope3削減を支援するプラットフォームとして「SWAN-ECO」が投入された形だ。
関連する法規制と国際的開示フレームワーク
物流GHG排出量の可視化が急務となっている背景には、国内外の法規制とESG開示基準の厳格化がある。
| 枠組み・法規制 | 概要と物流分野への要求事項 | SWAN-ECOとの関連性 |
|---|---|---|
| GHGプロトコル | Scope1〜3の算定基準を定めた国際標準。サプライチェーン排出量の算定基盤となる。 | 国際基準に沿った算定ロジックにより海外企業とのデータ連携に対応。 |
| 改正省エネ法 | 特定事業者等に対し、中長期で年平均1%以上のエネルギー消費原単位削減を義務付け。 | モード別・拠点別のデータ集計により定期報告書作成の実務を効率化。 |
| 温対法 | 排出係数に基づき事業活動に伴う温室効果ガス排出量の算定・報告を求める。 | 正確な排出係数の適用により法令適合性の高いデータ作成を支援。 |
| TCFD/ISSB基準 | 気候関連リスク・機会の財務的影響およびScope3排出量の開示を求める国際枠組み。 | 有価証券報告書等でのサステナビリティ開示に必要な根拠データを提供。 |
参考記事: 排出量可視化とは?改正省エネ法やScope3に対応する算定ステップと物流現場の削減実務
荷主・3PL・運送事業者に及ぼす業界インパクト
「SWAN-ECO」の登場は、荷主企業だけでなく、物流サービスを提供する倉庫事業者や実運送事業者にも大きな波及効果をもたらす。
製造業者・メーカーへの影響:取引維持のための非財務データ整備
グローバル展開を行うメーカーにとって、サプライチェーン全体のGHG排出量データは、欧米を中心とする海外メガサプライヤーや大手バイヤーとの「取引継続の前提条件」になりつつある。製品単体のカーボンフットプリント(CFP)開示が義務付けられる中、物流工程で発生するGHGの算定根拠が曖昧であれば、サプライチェーン全体での競争力を損ないかねない。
「SWAN-ECO」のように船舶、航空、トラック、鉄道の各モード別排出量を定量比較できる基盤が整うことで、メーカー側は「トラックから鉄道・内航船へのモーダルシフト」を実施した場合のGHG削減量とコスト差を精緻にシミュレーションできるようになる。これにより、ESG投資家への開示にとどまらず、社内での意思決定や投資対効果(ROI)の検証が大幅に迅速化する。
参考記事: Scope 1, 2, 3とは?物流・サプライチェーン実務担当者が知るべき基礎知識と算定ガイド
倉庫事業者・3PLへの影響:荷役・保管から「非財務データ管理」への進化
大手総合物流事業者である住友倉庫がGHG算定ソリューションを本格展開したことは、3PL業界全体のビジネスモデル変革を象徴している。従来の3PL事業者は「保管・荷役・輸配送」というオペレーションの効率化やコスト削減を主軸に競ってきたが、今後は「荷主の非財務指標(ESGデータ)を預かり、削減提案まで行うコンサルティング能力」が受注の決定打となる。
独自に算定システムを持たない中堅・中小3PL事業者にとっては、荷主からのデータ提出要請に対応できない場合、サプライチェーンから排除されるリスクが高まる。物流DXとGX(グリーントランスフォーメーション)を融合させた付加価値サービスの提供が、3PL事業者の選定基準として定着しつつある。
運送事業者への影響:輸送モード転換圧力と連携の再構築
実運送を担うトラック運送事業者にとっては、荷主による輸送モードの見直しが加速する契機となる。トラック単体での長距離輸送はGHG排出原単位が高いため、モード別データが可視化されるほど、長距離便を中心に鉄道コンテナや内航フェリーへのモーダルシフト圧力が強まる。
一方で、鉄道や船舶を利用する場合でも、発着地と貨物ターミナルを結ぶ「ファーストマイル・ラストマイル」のトラック輸送は不可欠である。運送事業者は、自社車両のEV化・ハイブリッド化を進めて排出原単位を引き下げるとともに、モーダルシフトの受け皿となる複合一貫輸送の連携ネットワークを構築することが求められる。
参考記事: カーボンニュートラル物流とは?GHG削減の算定方法からEV・DXを活用した実務推進策まで解説
LogiShiftの視点:物流データが企業の「投資価値」を左右する構造転換
住友倉庫による「SWAN-ECO」の提供開始は、物流データが単なる「コスト管理の対象」から、企業の「投資価値を左右するESG情報」へと完全に昇格したことを示している。
住友倉庫自身、FTSE Russell社が算出する「FTSE JPX Blossom Japan Index」に2年連続、「FTSE JPX Blossom Japan Sector Relative Index」に3年連続で選定されるなど、ESG投資の市場評価を高めている。自社のサステナビリティ推進実績をサービス化し、顧客企業のサプライチェーン管理へと展開する動きは極めて合理的だ。
物流業界におけるGHG削減は、これまで「概算値の算定」で満足するフェーズにあった。しかし、ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準への準拠や有価証券報告書での開示義務化が進む現在、求められるのは「監査に耐えうる粒度のデータ」である。船舶・航空・トラック・鉄道という4つのモード別に実態を把握できるツールが存在することは、可視化の先にある「具体的な削減アクション(モーダルシフトや共同配送の実行)」への移行を決定づける。
企業にとって、排出量データの可視化はゴールではなくスタートラインに過ぎない。可視化されたデータをテコに、どの輸送ルートを切り替え、何トンのCO2を削減できたかという「実行実績」こそが、荷主企業および物流事業者の真の競争力となる。
まとめ:明日から物流実務者が取り組むべきアクション
物流におけるGHG排出量開示の流れは、大手企業だけでなくサプライチェーンを構成する全事業者に波及している。実務担当者が明日から着手すべきアクションは以下の3点である。
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自社の輸送データ(発着地・重量・輸送モード)のデジタル一元化
まずは自社が手配・委託している全輸送案件について、出発地・到着地・実重量・利用モードが正確に記録されているかを確認し、算定ツールに入力可能なデータ形式を整備する。 -
輸送モード別の排出量シミュレーションとモーダルシフトの優先順位付け
可視化ツールを活用して現状の排出構造を把握し、排出原単位の高い長距離トラック輸送区間を特定した上で、鉄道や内航船への切り替え可能性をコストとリードタイムの両面から検証する。 -
物流パートナーとの連携によるScope3開示データの共有体制構築
委託先である3PLや運送事業者に対し、排出量データの算出基準や連携フォーマットを共有し、サプライチェーン全体で整合性の取れたサステナビリティ開示体制を整える。
出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: 住友倉庫公式ウェブサイト(情報システム)
出典: 住友倉庫公式ウェブサイト(気候変動への取組み)
出典: 住友倉庫公式ウェブサイト(サステナビリティデータ)


