- キーワードの概要:排出量可視化とは、企業活動やサプライチェーン全体(原材料調達から配送、廃棄まで)で発生する温室効果ガス(CO2など)の量を計測し、数値として明らかにする取り組みのことです。物流初心者でも全体の環境負荷を視覚的に理解するための第一歩となります。
- 実務への関わり:物流部門においては、輸送中の燃料消費データをもとにCO2排出量を算定します。どこで多くの排出が発生しているかを特定することで、積載率の向上や配送ルートの見直し、モーダルシフトなど、具体的な環境対策とコスト削減を両立させる実務アクションが可能になります。
- トレンド/将来予測:国内外の法規制や取引先からのScope3開示要求が急速に強まっており、手作業での算定からITツールによる自動連携(APIやIoTなど)への移行が進んでいます。今後は、排出データの可視化と正確な情報開示が取引継続の必須条件となる時代が到来します。
サプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量を算出・開示する「Scope3」の対応要請は、グローバルで数万社規模に達しています。これまで主流であった「自社内での削減努力」を示す段階は終わり、現在は原材料調達から製造、配送、廃棄に至るバリューチェーン全体を対象としたLCA(ライフサイクルアセスメント)の視点が不可欠です。国際基準であるGHGプロトコルに基づき、信頼性の高いデータを開示することが、企業の市場における生存条件となっています。
- 企業のサステナビリティ開示を加速させるCO2排出量可視化の背景と法規制
- 改正省エネ法やTCFD提言、CBAM(炭素国境調整措置)が日本企業に迫る開示義務
- サプライチェーン(Scope3)の開示を怠ることで生じる「選別」と企業価値毀損のリスク
- GHGプロトコルに準拠したCO2排出量算定の4ステップとScope1・2・3の定義
- Scope1・2・3の定義と物流部門における該当領域
- 信頼性を担保するCO2排出量算定の4ステップ
- 手作業の限界を突破するカーボンニュートラルITツールの選定基準
- データ収集を自動化するシステム連携(API・IoT・EMS)の実装有無
- 製品単位の排出量管理(LCA:ライフサイクルアセスメント)への対応力と将来性
- 情報開示(TCFD・SBTi)に耐えうる第三者保証とベンダーの伴走サポート体制
- 国内主要CO2排出量可視化ツール・クラウドサービスの徹底比較
- サプライチェーンや製造・物流プロセスに強みを持つ主要クラウドツールの特徴
- 代表的ツール(Zeroboard、e-dash、アスエネ)の機能・独自強み比較
- 自社の算定フェーズと予算規模に応じた費用(コスト)の考え方
- 可視化から削減へ:Scope3(特に物流・配送部門)の排出量を削減する実務アクションプラン
- モーダルシフトや積載率向上による物流起因CO2の具体的な削減手法
- 運送パートナー等から「プライマリデータ(実測値)」を円滑に回収するための対話ステップ
企業のサステナビリティ開示を加速させるCO2排出量可視化の背景と法規制
環境情報開示を求める国際的な潮流により、企業活動から発生する温室効果ガス(GHG)排出量の可視化は、任意の取り組みから企業実務における必須義務へと急速に変貌を遂げています。特に、原材料調達から生産、製品出荷、さらには廃棄・リサイクルに至る全ライフサイクルを一貫して評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の視点が、製造業や物流事業者には欠かせません。GHGプロトコルに準拠した算定・開示を実行することは、企業の市場価値を左右する極めて実質的な経営課題です。
改正省エネ法やTCFD提言、CBAM(炭素国境調整措置)が日本企業に迫る開示義務
国内では2023年4月に施行された「改正省エネ法」により、一定以上のエネルギーを使用する特定事業者に対し、非化石エネルギーへの転換計画の作成と、それに伴う温室効果ガス排出量の報告が義務付けられました。これにより、従来のエネルギー消費量だけでなく、再エネ導入を含めた具体的な排出削減実績が問われるようになっています。
さらに、金融市場からの要請も法的に制度化されています。東京証券取引所のプライム市場上場企業に対しては、国際的な情報開示の枠組みである「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」提言に沿った気候変動リスクの開示が実質的に義務化されました。これには、自社の活動だけでなく、原材料調達や輸送に伴う「Scope3」の排出量も含まれます。
海外への輸出事業を行う企業にとって、最も直近かつ具体的な規制がEU(欧州連合)の「CBAM(炭素国境調整措置)」です。2023年10月から移行期間が始まっており、2026年1月からは本格適用が開始されます。
| 規制・フレームワーク名 | 対象となる主な企業 | 求められる対応と開示内容 |
|---|---|---|
| 改正省エネ法(2023年4月施行) | 日本国内の特定事業者(年間エネルギー使用量1,500kl以上等) | 非化石エネルギーへの転換目標の設定、およびエネルギー使用量・CO2排出量の定量的報告。 |
| TCFD提言に基づく開示義務 | 東京証券取引所 プライム市場上場企業 | ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標(Scope1, 2, 3排出量を含む)の財務情報に準じた開示。 |
| EU CBAM(炭素国境調整措置)(2026年本格適用) | EU域内へ特定の鉄鋼、アルミニウム、セメント、電気などを輸出する企業 | 製品の製造プロセスにおける直接・間接のCO2排出量の報告、および必要に応じた炭素価格(課徴金)の支払い。 |
CBAMの本格適用により、対象製品をEUに輸出する企業は、厳密なCO2排出量 計算方法を用いて製品単位の排出量を算出し、第三者監査に耐えうる正確なデータとして報告しなければなりません。これが担保できない場合、EU域内での販売が許可されない、あるいは高額な炭素価格の支払いを課されることになり、価格競争力を喪失します。
サプライチェーン(Scope3)の開示を怠ることで生じる「選別」と企業価値毀損のリスク
こうした法規制の影響は、大企業や直接の輸出企業だけに留まりません。サプライチェーン全体を包括するScope3 算定の要請は、そこに関わる中堅・中小企業を含むすべてのサプライヤーに及びます。なぜなら、グローバル企業が自社の排出削減目標を達成するためには、自社が購入する部品の製造や、外部委託している物流に伴う排出量を削減しなければならないためです。
例えば、月間1,000件の部品出荷を大手製造業に納品している中堅部品メーカーや3PL事業者の場合、主要な取引先から「製品単位の排出データ」および「輸送時の排出データ」の提出を要求されます。この要求に対して、客観的な算定データを提示できない場合、調達先リストから除外されるリスク(取引排除)が現実化しています。
また、企業の財務・資金調達環境も排出量データの開示有無に左右されます。主要な金融機関や機関投資家は、ESG評価を融資条件や投資判断の基準に組み込んでいます。GHGプロトコルに準拠した適切な情報開示が行われていない企業は「気候変動リスクの管理が不十分な企業」と判定され、資金調達金利の上昇や、投資引き揚げによる株価下落、企業価値の大幅な毀損を招く要因となります。
このような実務上の課題を解決するため、表計算ソフトを用いた手作業でのデータ収集から脱却し、各部門やサプライヤーからデータを一元的に収集して計算を自動化するカーボンニュートラル ITツールの導入が急速に進んでいます。業務効率を落とさずに、対外的な開示・監査に耐えうる正確性を担保するには、まずは排出量の対象区分である「Scope1, 2, 3」の正しい定義と算定ルールを理解することが不可欠です。
GHGプロトコルに準拠したCO2排出量算定の4ステップとScope1・2・3の定義
国際基準であるGHGプロトコルでは、企業が排出する温室効果ガスを「Scope1」「Scope2」「Scope3」の3つの区分に分類しています。この区分に基づいてサプライチェーン全体の排出量を正確に把握するためには、標準的な4つのステップに沿って算定実務を進める必要があります。
Scope1・2・3の定義と物流部門における該当領域
各Scopeの定義を明確に区分することは、算定ミスの防止において最初の基礎となります。特に物流部門においては、自社保有車両での配送か、外部委託した配送かによって該当するScopeが異なるため、実務上の整理が必要です。
| 区分 | 定義 | 物流・サプライチェーンにおける具体例 |
|---|---|---|
| Scope 1(直接排出) | 事業者自らによる温室効果ガスの直接排出。 | 自社が所有・管理するトラックや営業車が消費する燃料(軽油、ガソリン等)の燃焼、自社倉庫の非常用発電機の稼働。 |
| Scope 2(間接排出) | 他社から供給された電気、熱、蒸気の使用に伴う間接排出。 | 自社が管理する物流センター、倉庫、オフィスで消費する、電力会社から購入した電気の使用。 |
| Scope 3(その他の間接排出) | Scope1、2以外の、バリューチェーンの上流および下流で発生する他社の排出。 | 外部の3PL事業者や運送会社に委託した製品の輸送・配送(カテゴリ4、9)、従業員の出張や通勤、原材料の調達。 |
信頼性を担保するCO2排出量算定の4ステップ
排出量の算定は、第三者監査に耐えうる客観的なプロセスで行う必要があります。具体的には、以下の4つの手順を実行します。
- ステップ1:算定範囲(バウンダリ)の設定
グループ会社や対象とする国内外の拠点、対象期間(事業年度)を明確に定義します。資本関係や支配力基準に基づいて、どの範囲までを自社の対象とするかを決定します。 - ステップ2:排出活動の特定
バウンダリ内において、どの活動(電気の使用、車両の運行、廃棄物の処理など)がどのScopeおよびカテゴリに該当するかを洗い出します。 - ステップ3:活動量データの収集
電気使用量(kWh)、燃料消費量(L)、輸送量(トンキロ)などの「活動量」を収集します。可能な限り請求書や運行実績から得られる一次データ(実測値)を集めます。 - ステップ4:排出量の算出(活動量×排出原単位)
収集した活動量に、政府や国際機関が公表する「排出原単位(活動1単位あたりのCO2排出量)」を掛け合わせて排出量を算出します。
手作業の限界を突破するカーボンニュートラルITツールの選定基準
表計算ソフトを用いた「手作業でのデータ収集」は、拠点数や取引先数が増えるにつれて限界を迎えます。特に、収集・集計・転記といった一連の作業に数百時間を費やす実務担当者にとって、データの正確性と作業効率の双方を成立させるためには、システムによる自動化が不可欠です。社内の意思決定者や経営層を説得し、稟議を通すために確認すべき具体的なITツールの選定基準を解説します。
データ収集を自動化するシステム連携(API・IoT・EMS)の実装有無
拠点数の多い製造業や、複数の配送パートナーと協業する3PL事業者において、毎月のエネルギー使用量や輸送実績データを手動でExcelに転記する運用は、入力ミスやデータの遅延を引き起こす要因となります。データ収集フェーズの工数を削減し、高精度な一次データをシームレスに集約するためには、システム連携機能の充実度を評価する必要があります。
選定時に重視すべき連携機能と、それによって削減される実務工数の関係は以下の通りです。
| 連携対象システム | 具体的な連携データ | 実務上の削減効果 |
|---|---|---|
| エネルギー管理システム(EMS) / スマートメーター | 各工場の電力使用量、ガス消費量など(リアルタイム) | 毎月の検針票回収と、手入力による転記作業の不要化 |
| 基幹システム(ERP) / 運行管理システム | 拠点間の輸送距離、配送重量、燃料消費量(軽油・ガソリン) | 物流会社からの報告データ待ち時間の解消、即時集計の実現 |
| API連携(外部プラットフォーム) | 航空・海運の運行データ、公共交通機関の利用実績 | 出張旅費精算システムと連動した自動算出 |
例えば、全国に30の倉庫を展開し、月間5,000便のチャーター便を手配する荷主企業の場合、EMSや運行管理システムとAPI連携が可能なカーボンニュートラル ITツールを導入することで、データ回収にかかる工数を従来比で約80%削減できます。自動連携によって転記エラーが排除され、監査にも耐えうる一貫性のあるデータセットが自動構築されます。
製品単位の排出量管理(LCA:ライフサイクルアセスメント)への対応力と将来性
企業の温室効果ガス排出量は、企業全体の活動を対象とする「組織単位(Scope1, 2, 3)」から、特定の製品やサービスの一生を評価する「製品単位(カーボンフットプリント:CFP)」へと要求が細分化しています。特に欧州市場へ進出している製造業や、自動車部品サプライチェーンに属する企業では、取引先から製品ごとの詳細なデータ開示を求められるケースが増加しています。
ツール選定においては、単に組織の総排出量を算出するだけでなく、原材料調達から廃棄・リサイクルに至るプロセスをカバーするLCA(ライフサイクルアセンメント)に対応しているかどうかが重要な選定基準となります。製品の構成要素(BOM:部品表)データを取り込み、製品1点あたりのCO2排出量 計算方法を柔軟にモデル化できるツールを選択しなければ、将来的な取引先からのデータ開示要求に対応できなくなります。
具体的な確認ポイントとして、以下の3点が挙げられます。
- 製品の原材料調達(Scope3 カテゴリ1)から製造、出荷、廃棄までの各プロセスを階層的に管理できるか。
- 製品の仕様変更や調達先の変更に応じた、排出シミュレーション機能が備わっているか。
- 国際規格(ISO 14040/14044、ISO 14067)に準拠したLCA算定エンジンを搭載しているか。
このように、組織全体の排出量だけでなく、個々の製品に紐づくデータを紐解いて計算できるLCA機能の有無は、長期的な競争力を維持するための必須要件です。
情報開示(TCFD・SBTi)に耐えうる第三者保証とベンダーの伴走サポート体制
サステナビリティ開示制度への対応において、最も重要なのは「開示データの客観的信頼性」です。どれほど高度なITツールで集計しても、その算定ロジックがGHGプロトコルに準拠していなければ、第三者からの保証(監査)を受けることはできません。
特に、サプライチェーン排出量であるScope3 算定は、サプライヤから回収するデータのばらつきや、業界平均値である「二次データ」の選定基準が曖昧になりがちです。そのため、導入するツールがISAE 3000(国際保証業務基準)等の第三者保証を得ている、またはその保証手続きを円滑に進めるための証跡保存機能(算出に使用した排出原単位のソースコードや、計算過程のログがすべて保存・トレースできる機能)を備えているかを確認する必要があります。
また、ツールの提供ベンダーが、単なる「ソフトウェアの操作説明」に留まらず、次のような専門的な伴走支援を提供できるかも稟議書における極めて重要な検討項目です。
- SBTi(Science Based Targets initiative)への目標認定申請時に必要なデータ形式への出力支援
- CDPやTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への回答書作成に向けた、算定範囲(バウンダリ)の再定義サポート
- 新規取引先を巻き込んだ、サプライチェーンデータ(一次データ)の回収説明会の共同開催
実務担当者の負担軽減と対外的な信頼性獲得を同時に達成するためには、システム自体の適合性と、国際的な開示フレームワークに精通したベンダーのサポート体制が揃っていることが不可欠です。
国内主要CO2排出量可視化ツール・クラウドサービスの徹底比較
サプライチェーンや製造・物流プロセスに強みを持つ主要クラウドツールの特徴
物流や製造業のサプライチェーンは、拠点が多岐にわたり、複数の輸送事業者やサプライヤーが介在するため、CO2排出量 計算方法が極めて複雑になります。特に荷主企業や3PL(サードパーティ・ロジスティクス)事業者が直面するのが、Scope3のカテゴリ4(上流の輸送・配送)およびカテゴリ9(下流の輸送・配送)の算定におけるデータ収集の難しさです。
サプライチェーンや製造・物流プロセスに強みを持つクラウド型カーボンニュートラル ITツールは、こうした「輸送データ」の処理に特化した計算ロジックや外部システムとの連携機能を備えています。GHGプロトコルが定義する「トンキロ法」や「改良トンキロ法」「燃料法」に対応しており、トラック、鉄道、船舶、航空といった輸送モードごとの正確な排出係数を自動で適用可能です。
例えば、年間1万回以上の配送トラックを手配する中堅物流事業者の場合、各便の「輸送重量」「輸送距離」「車種」のデータを手作業で集計しExcelで計算するのは、実務的に困難を極めます。物流に強いツールでは、配送計画システム(TMS)や基幹システム(ERP)から出力される運行実績データをCSV等でインポートするだけで、各輸送ルートのCO2排出量を自動で瞬時に算出します。さらに、調達から廃棄に至る製品1単位あたりの環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の算出機能を備えたツールもあり、製造業におけるサプライチェーン全体の環境付加価値の向上を支援します。
代表的ツール(Zeroboard、e-dash、アスエネ)の機能・独自強み比較
国内で多くの導入実績を持つ主要3ツールの機能および独自強みを整理しました。自社の事業特性や、どの Scope の算定に比重を置くべきかに応じて、適合するツールが異なります。
| ツール名 | 主な強み・特徴 | 物流・Scope3 算定(カテゴリ4・9)の対応 | 想定ユーザー規模 |
|---|---|---|---|
| Zeroboard(ゼロボード) | サプライチェーン(Scope3)や製品単位のLCA(ライフサイクルアセスメント)算定に強みを持つ。多言語対応や多様な外部システム連携(API)が充実している。 | 非常に高い。輸送モード別、荷主別、ルート別の輸送データを取り込んで自動算定する物流特化の計算エンジン(「Zeroboard for Logistics」等)を構築している。 | 製造業、グローバル展開する大企業、複雑なサプライチェーンを持つ物流企業 |
| e-dash(イーダッシュ) | 請求書をアップロードするだけで、電気・ガス等のインフラ使用量からScope1・2の排出量を自動算出する簡便さが強み。導入ハードルが低い。 | 標準機能でのScope3対応は可能だが、物流分野の精緻なトンキロ法対応などは、別途データの個別連携やカスタマイズ、外部パートナー支援を要する場合がある。 | 中堅・中小企業、まずはScope1・2の自動化からスモールスタートしたい企業 |
| アスエネ | 直感的で使いやすいUI/UXと、専任コンサルタントによる手厚いサポート体制。調達先(サプライヤー)への排出量調査・回収をスムーズに行う機能が充実。 | Scope3の全カテゴリに対応。輸送データに基づく算定にも対応しており、サプライヤーを含めた連携を重視するサプライチェーン全体の可視化に適している。 | 中堅〜大企業、Scope3のサプライヤー連携を強化したい企業 |
自社の算定フェーズと予算規模に応じた費用(コスト)の考え方
可視化ツールの導入にかかる総コスト(TCO:Total Cost of Ownership)を評価する際は、ツールのライセンス費用(初期費用+月額料金)だけでなく、「データ収集と登録にかかる社内人件費(運用工数)」を合算して検討する必要があります。
費用対効果(ROI)を最大化させるためには、自社の「算定フェーズ」に合致した投資規模を見極めることが重要です。
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フェーズ1:Scope1・2の簡易算定と可視化(初期段階)
国内数拠点のみを保有し、まずは自社のエネルギー消費(電力・ガス・ガソリン)の集計から始める段階です。このフェーズでは、月額数万円程度から利用できるe-dashなどの「請求書スキャン型ツール」が適しています。初期投資を抑えつつ、手作業によるExcel転記ミスを撲滅することで、年間数十時間の作業工数を削減できます。 -
フェーズ2:サプライチェーン全体のScope3 算定(本格展開段階)
ESG開示や取引先からの要請に基づき、輸送や原材料調達を含むサプライチェーン全体の排出量を算出する段階です。月額十数万〜数十万円規模のライセンス費用が発生しますが、Zeroboardやアスエネのような、データ連携機能が豊富でサポートが手厚いツールの導入を検討すべきです。例えば、月間3,000件の製品出荷を行うメーカーが手作業でScope3 算定(カテゴリ4)を行う場合、専任担当者1名の月間工数の半分(約80時間)が費やされるケースがあります。これをITツールによるデータ自動連携でシステム化すれば、月間の作業時間を数時間程度にまで圧縮でき、人件費削減効果がツール費用を上回ります。 -
フェーズ3:LCA対応およびグローバル開示(高度化段階)
欧州等の海外規制(CBAM等)への対応や、製品1個あたりの排出量を算出して環境価値を顧客へ訴求する段階です。ツール自体のライセンス費用に加え、社内の基幹システムや生産管理システムとのAPI連携開発費、さらには第三者保証やコンサルティング費用として、初期に数百万円規模の予算が必要となる傾向にあります。この段階では、GHGプロトコルに完全準拠し、監査法人等の第三者保証を取得しやすい信頼性の高いシステムを前提に選定する必要があります。
データ連携の自動化度合いが低い安価なツールを選んでしまうと、データの確認や修正に多大な人件費がかかり、結果として総コストが高くなるリスクがあります。自社が保持しているデータの形式(紙の請求書か、電子化されたCSVか、API対応可能か)を事前に整理した上で、削減できる「人件費(運用工数)」を試算に組み込んでシステムを選定してください。
可視化から削減へ:Scope3(特に物流・配送部門)の排出量を削減する実務アクションプラン
物流・配送部門におけるサプライチェーン排出量(Scope3)の削減は、単に算定数値を把握するだけでは進みません。GHGプロトコルに準拠したScope3 算定で自社の「排出源のホットスポット」を特定した後は、物流現場の実務に落とし込んだ具体的な削減アクションを実行する必要があります。特に、製品のライフサイクル全体における環境負荷を評価するLCA(ライフサイクルアセスメント)の視点において、輸送フェーズの排出量削減は、企業の脱炭素経営の成否を分ける極めて重要なプロセスです。
モーダルシフトや積載率向上による物流起因CO2の具体的な削減手法
物流起因のCO2排出量を実務レベルで削減するためには、輸送モードの転換(モーダルシフト)と、運行効率の極大化(積載率向上・共同配送)を組み合わせたシミュレーションと実行が必要です。以下に、現場で即実践できる2つのアプローチを示します。
1. 幹線輸送におけるモーダルシフトのシミュレーション
長距離のトラック輸送を、CO2排出原単位の低い鉄道や船舶へと切り替えるアプローチです。例えば、東京〜福岡間(約1,100km)の幹線輸送において、10トントラック1台(輸送量10トン)での運行を、JR貨物の5トンコンテナ2個を用いた鉄道輸送へとシフトする場合、以下のような削減効果が算出されます。
| 輸送手段 | 排出原単位(g-CO2/トンキロ) | 総輸送量(トンキロ) | CO2排出量(算出値) |
|---|---|---|---|
| 営業用トラック | 216 | 11,000 | 約2.38トン-CO2 |
| 鉄道 | 22 | 11,000 | 約0.24トン-CO2 |
国土交通省が公表する輸送機関別のCO2排出原単位を基に計算すると、鉄道へのモーダルシフトにより、1運行あたり約2.14トン-CO2(約90%)の排出削減が達成可能です。実務においては、リードタイムが半日〜1日程度延伸することや、集荷・配達時の横持ちトラックの手配など、運行ダイヤと連携したLCAの再設計が必要となります。
2. 共同配送と積載率向上の仕組み化
自社単独での輸送ではなく、配送ルートや納品先が重複する近隣企業と連携した「共同配送」を構築することで、トラックの走行台数そのものを削減します。例えば、毎日積載率50%で運行していた2台の4トントラックを、同業他社との共同配送により、積載率90%の1台の10トントラックに統合・大型化した場合、全体の走行距離を削減し、燃費法に基づくCO2排出量 計算方法において直接的な削減メリットを創出できます。これを実現するためには、納品頻度の緩和や、配送ルートの最適化を支援するITシステムの活用が有効です。
運送パートナー等から「プライマリデータ(実測値)」を円滑に回収するための対話ステップ
Scope3 算定の精度向上において最大の課題となるのが、自社で直接コントロールできない外部の運送会社から、推計値(二次データ)ではなく、実際の燃料消費量や走行距離といった「プライマリデータ(一次データ)」をいかに回収するかという点です。下請け・孫請け構造が複雑な物流業界において、一方的なデータ開示請求はパートナー関係の悪化を招きます。以下の3つの対話ステップを踏むことで、現場に負担をかけずに高精度なデータを回収する体制を構築します。
ステップ1:荷主・運送会社双方における「データ提出の目的」の共有とメリット提示
説明会を開催し、GHGプロトコルに準拠した情報開示が自社(荷主)の事業継続に不可欠であること、そして将来的には環境対応レベルの高さが運送会社の選定基準(グリーン調達)になることを説明します。パートナーとしての長期的な取引継続というインセンティブを提示し、共通の目標として位置づけます。
ステップ2:運行日報等から転記可能な「フォーマットの統一と簡素化」
運送会社の事務負担を最小限に抑えるため、記入フォーマットは極力シンプルに設計します。運送会社が日々作成している「運行日報」や「給油台帳」から、そのまま数字をコピー&ペースト、またはCSV出力できる形式に揃えます。必要とするデータ項目は以下の3点に絞り込むことが実務上現実的です。
- 対象期間中の総走行距離(km)または対象貨物の輸送トンキロ
- 使用した燃料の総量(軽油・ガソリン等のリットル数、または燃料割当計算値)
- 実走行時の積載率(推計平均値でも可)
ステップ3:カーボンニュートラル ITツールの共同利用によるデータ自動連携
手作業でのExcel管理を脱却するため、運送パートナー側からも直接データをWeb入力、あるいは一括アップロードできるカーボンニュートラル ITツールを荷主負担で導入・提供します。これにより、運送会社側の計算工数はほぼゼロになり、入力されたデータから自動的に適切な排出原単位が適用され、算定・レポート作成までをワンストップで完了できるようになります。データの可視化を運送会社側にもフィードバックすることで、相手方のエコドライブ推進や燃費改善活動の成果確認ツールとしても役立ててもらうという協調体制が、プライマリデータの継続的な回収を成功させる要諦です。
よくある質問(FAQ)
Q. CO2排出量の可視化(GHG排出量可視化)とは何ですか?
A. CO2排出量の可視化とは、企業が事業活動やサプライチェーン全体で排出する温室効果ガスの量を計測し、数値等で明確に示すことです。原材料の調達から製造、配送(物流)、廃棄に至るまでのバリューチェーン全体(LCA)を対象とし、国際基準である「GHGプロトコル」に基づいて算出します。法規制対応や企業価値の維持・向上に向け、現在多くの企業で義務化や対応が進んでいます。
Q. Scope1、Scope2、Scope3の違いは何ですか?
A. Scope1は自社での燃料使用による「直接排出」、Scope2は他社から供給された電気等の使用による「間接排出」です。これに対しScope3は、原材料調達や輸送(物流)、廃棄など「他社のサプライチェーン全体での間接排出」を指します。近年は、改正省エネ法や国際的な情報開示基準(TCFDなど)への対応として、特に物流部門を含むScope3全体の可視化が強く求められています。
Q. CO2排出量可視化ツールはどのように選べばよいですか?
A. 選定基準は主に3つあります。1つ目はデータ収集を自動化するシステム連携(APIやIoT等)の有無、2つ目は製品単位の排出量を管理するLCA対応力、3つ目は開示に耐えうる第三者保証とサポート体制です。国内では「Zeroboard」「e-dash」「アスエネ」などの主要ツールがあり、自社の製造・物流プロセスの特徴や、サプライチェーン開示の目的に適したツールを比較選定することが重要です。