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事例・インタビュー 2026年9月2日

キユーピーのCLO改革!荷役時間を50分から5分に削減するSCM戦略

キユーピーのCLO改革!荷役時間を50分から5分に削減するSCM戦略

度重なる運賃値上げや長時間のドライバー荷待ちにより、従来の現場任せの物流管理は限界に達しています。キユーピーが実践する物流統括管理者(CLO)主導のSCM改革は、物流部門を経営戦略の中核へと刷新し、荷役時間を50分から5分へ激減させつつ強靭な供給網を構築する道筋を示します。

キユーピーが推進するCLO主導のSCM改革とは

加工食品業界において先駆的な物流構造改革を牽引してきたキユーピーは、2026年4月に執行役員ロジスティクス本部長の前田賢司氏を物流統括管理者(CLO)に任命しました。同社は物流を単なる「コストセンター」や「下請け的組織」から、貸借対照表(BS)や損益計算書(P/L)を改善する「経営戦略の土台」へと位置づけ直しています。

同社が掲げる「2025-2028年度中期経営計画」では、旗印である「Change & Challenge」のもと、「ポートフォリオ変革とSCM生産性向上」を最重要戦略として明記しています。

物流部門の変遷と経営直結の組織体制

キユーピーにおける物流組織は、2000年時点の「情報物流本部」からスタートしました。当時は明確な配送基準がなく、欠品防止のために過剰在庫を抱える状況が常態化していました。

そこで前任の藤田正美氏(現・Fujita Office代表)や前田氏らが中心となり、営業や生産部門と折衝を重ねて在庫削減に着手しました。その後、組織は「ロジスティクス推進室」を経て、2013年に「ロジスティクス本部」へと改組されました。

現在では流通、販売、消費に至るサプライチェーン全体(SCM)を統括し、グループ全体の需要予測や在庫適正化を指揮する中核組織へと進化を遂げています。

SCM生産性を引き上げる2大アプローチ:S&OPとDFL

キユーピーのSCM改革を支える車輪が「S&OP」と「DFL」の2つの手法です。

戦略手法 定義と役割 キユーピーにおける具体策 期待される経営効果
S&OP 営業と製造・調達を同期化する経営管理手法 需要予測と物流能力を突合し、AIで需給計画を最適化 欠品防止、過剰在庫削減、利益率の最大化
DFL 商品の企画・設計段階から物流効率を組み込む手法 パレット積載効率や店頭陳列を考慮した外箱・容器設計 積載率の大幅向上、輸送・荷役コストの低減

S&OP(Sales and Operations Planning)では、販売予測と工場の生産能力、さらに運送事業者の輸送キャパシティをリアルタイムに突き合わせます。自社の「デジタル推進部」を中心に社外ITベンダーと連携し、AIエージェントの自社開発を進めています。2026年中に主力であるドレッシングカテゴリーから順次運用を開始する計画です。

一方のDFL(Design for Logistics)は、商品の企画段階からカートン(段ボール)の寸法やパレット積載効率を逆算して設計する取り組みです。2024年頃に着手し、2027年には全社的な設計標準化が完了する見通しです。

キユーピーのSCM改革を支える主要年表

キユーピーが長年積み重ねてきた物流改革の経緯は以下の通りです。

年代・年月 主な出来事・取り組み 改革の狙いと詳細
1925年3月 日本初となるマヨネーズの製造・販売を開始 創始者の中島董一郎氏が栄養改善を目指し創業(2025年に100周年)
2013年 加藤産業との検品レス実証実験を開始 東日本大震災を契機に、リードタイム延長と荷役効率化を模索
2016年5月 食品物流未来推進会議(SBM会議)が発足 キユーピー、キッコーマン、F-LINE参画企業等8社で課題共有を開始
2019年末 リードタイム延長(LT2)の恒久化を宣言 翌日納品から翌々日納品への完全移行を取引先へ要請
2026年4月 前田賢司氏が物流統括管理者(CLO)に就任 改正物流効率化法に基づき、全社SCMを統括する体制を確立
2026年6月 レンタルパレットへの完全移行を計画 ドライバーの手荷役を全廃し、荷待ち・荷役時間を極小化

参考記事: 生産主導の脱却へ!花王が国内31拠点を新体制で統括しSCM改革が加速

なぜ今キユーピーのSCM改革が注目されるのか

物流業界は、労働力不足の深刻化と法規制の厳格化という歴史的な構造転換点にあります。個社の枠に閉じこもった改善では、商品の安定供給を維持できません。

改正物流効率化法の全面施行と特定荷主の責務

2026年4月1日、改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)が全面施行されました。年間貨物取扱重量が9万トン以上の「特定荷主」に対し、役員クラスの物流統括管理者(CLO)の選任と中長期計画の提出が義務化されています。

計画未達や改善命令への違反には最大100万円の罰金や企業名の公表が科されます。キユーピーの取り組みは、法対応を単なるコンプライアンスにとどめず、企業の競争力強化へと昇華させた先行モデルとして業界から強い関心を集めています。

商習慣の壁を破る「製配販連携」とSM物流研究会

加工食品業界では長年、厳しい納品期限や前日発注・翌日納品(LT1)といった商習慣がドライバーの長時間拘束を生む要因となっていました。

キユーピーは2018年からリードタイム延長(翌々日納品=LT2)の交渉を開始しました。当初は取引先全体の約5割しか合意が得られず、持分法適用関連会社で主要な物流を担うキユーソー流通システム(キユーピー持株比率約42〜43%)からも運用の難しさを指摘されました。

しかし、2020年に経産省などが主導した「製配販連携協議会ロジスティクスWG」を通じて対話を継続しました。現在では加工食品卸大手6社を含む全納品先の9割強でLT2化を達成しています。

さらに、ライフコーポレーション、サミット、マルエツ、ヤオコーの首都圏スーパー4社が発足させた「SM物流研究会」は、関西エリアへも拡大し参画企業は24社(売上合計約6兆5,000億円、食品スーパー市場の約3分の1)に達しています。キユーピーはメーカーの立場からオブザーバーとして参画し、以下の改善を推進しています。

  • 定番商品の発注前倒し
  • 特売商品のリードタイム6営業日確保
  • 納品期限の「2分の1ルール」への統一(従来の3分の1ルール緩和)

2040年を見据えたフィジカルインターネットへの接続

経済産業省と国土交通省は、2040年に向けた「フィジカルインターネット・ロードマップ」を推進しています。これはインターネットのパケット通信のように、標準化されたコンテナやパレット、データ基盤を用いて複数企業の荷物を最適に混載・共同輸送するオープンな物流ネットワークです。

キユーピーの前田CLOは「フィジカルインターネットの実現には、届け先コードや商品データの標準化が不可欠である」と指摘します。製配販が一丸となったデータ基盤の整備を主導し、将来の究極の共同配送インフラを見据えた布石を打っています。

参考記事: フィジカルインターネットセンターが示す2026年4月CLO義務化への必須対応

ASN検品レスと協調物流がもたらす定量的成果

キユーピーが推進するSCM改革は、現場の作業負担軽減とコスト削減の両面で劇的な数値成果を叩き出しています。

荷役時間を50分から5分へ圧縮する「ユニット型検品レス」

キユーピー改革の最大の目玉が、ASN(事前出荷情報)を活用した「検品レス」の高度化です。

従来の加工食品物流では、賞味期限の混在を防ぐため「1パレット・1商品・1日付」での納品が求められていました。この運用では、少量多品種の出荷時にパレット上で段ボールが段ごとに分かれる「ミルフィーユ積み」が発生し、積載効率が著しく低下していました。

同社は商品バーコードとASNデータを連携させ、複数商品が混載されたパレットでも一括で入庫処理ができる仕組みを構築しました。

【従来の納品フロー(個別目視検品)】
トラック到着 ──> 荷下ろし ──> 1ケースずつ賞味期限・数量を目視確認 ──> 入庫(合計所要時間:約50分)

【ASN検品レス導入後の納品フロー】
トラック到着 ──> パレットごと一括荷下ろし ──> ASNデータ突合(バーコード読取) ──> 即時完了(合計所要時間:約5分)

この検品レスの導入により、1納品先あたりの荷役作業時間は従来の約50分から約5分へと90%削減されました。また、納品エラー件数ゼロを維持しながら、トラックの接車待機時間をほぼ解消しています。

共同配送の拡大とパレット完全移行による輸送最適化

キユーピーは自社単独の輸送にとどまらず、異業種荷主との共同配送ネットワークを構築しています。

連携施策 連携パートナー 取り組み内容 創出された効果
異業種モーダルシフト サンスター、日本パレットレンタル(JPR)等 飲料・トイレタリー製品との混載による海上船舶輸送 長距離輸送の脱炭素化、トラックドライバー不足の緩和
VANデータ連携 キユーソー流通システム、ファイネット 共配物流会社からVAN会社へASNデータを直接送信 他社荷主を含めた共同配送先での検品レス拡大
工場荷待ち時間削減 自社全工場・納品先 バース管理システムの導入と荷待ち時間の可視化 120分以内の目標に対し90%以上の拠点で達成
荷役完全パレット化 レンタルパレット事業者各社 2026年6月までに全拠点の手荷役を廃止し完全移行 ドライバーの身体的負荷ゼロ、車両回転率の向上

共同配送を担うキユーソー流通システムを通じてVAN会社のファイネットへデータを直結させたことで、他社の商品と混載した状態でも検品レスを適用できる基盤が整いました。

参考記事: 物流コスト20%削減に直結するSUBARUのCLO主導改革

他社がCLO体制とSCM改革を成功させる3つの実践ステップ

キユーピーの成功は、単なるツールの導入ではなく組織と取引慣行の抜本的な見直しによるものです。他社がSCM改革を推進する際の実践ステップを解説します。

ステップ1:物流を経営会議の直属アジェンダへ昇格させる

物流改革が進まない最大の原因は、物流部門が営業部門や生産部門の下位に置かれている組織構造にあります。

  • 取締役会直属の専任組織として「ロジスティクス本部」や「SCM統括部」を設置する
  • CLOに対し、他部門への「物流改善命令権」や納品条件変更の決定権を付与する
  • 特急便運賃や過剰保管コストを発生元の営業・生産部門へP/L配賦するルールを策定する

経営トップが「物流効率化なくして企業の存続はない」という明確なメッセージを発信し、権限を与えることが改革の前提条件となります。

ステップ2:ファクトデータに基づくデジタル基盤とS&OPの構築

感情論や現場の苦労話ではなく、客観的なデータを用いて他部門と共通言語を形成します。

  • WMS(倉庫管理システム)や動態管理システムから待機時間・積載率・配送コストを抽出する
  • 需要予測データと工場の生産スケジュール、輸送能力を同期化するS&OPプロセスを設計する
  • AIツールやダッシュボードを導入し、欠品リスクと物流コストのトレードオフを経営陣へ可視化する

ステップ3:協調領域を定義しオープンな業界連携へ踏み出す

個社最適の限界を認め、競合他社や流通プレイヤーと手を組む「外交官」としての役割をCLOが担います。

  • 自社独自の仕様(専用パレットや個別伝票)を捨て、業界標準規格(T11型パレット等)へ準拠する
  • ASNデータの送受信フォーマットを共通化し、卸・小売との検品レスをスモールスタートする
  • SM物流研究会のような業界コンソーシアムや勉強会に積極的に参画し、共同配送パートナーを開拓する
【CLOが推進すべき変革ロードマップ】
[フェーズ1: 社内統合] 組織改編・権限付与 ──> S&OP運用・データ可視化
      │
[フェーズ2: 取引先連携] LT2化・納品条件適正化 ──> ASN検品レス導入
      │
[フェーズ3: 業界協調] 異業種混載・共同配送 ──> フィジカルインターネット参画

参考記事: CLO必見!2026年10月末の計画提出へ向けた日清食品の実践策

持続可能なサプライチェーン構築への次なるアクション

改正物流効率化法が施行された今、物流は「モノを運ぶ現場」から「企業の命運を握る戦略部門」へと決定的な変貌を遂げました。キユーピーが示した改革の軌跡は、社内のサイロを壊し、製配販が手を携えることで、荷役時間の9割削減と供給網の強靭化を両立できることを証明しています。

持続可能なSCM構造を確立するため、直ちに以下のアクションに着手してください。

  1. 自社の年間輸送物量と特定荷主該当性を精査する

自社およびグループ全体の年間取扱貨物量(トン数)を正確に把握し、CLO選任および中長期計画の策定義務の有無を確認します。

  1. 荷待ち時間・荷役作業の実態をデジタルデータで可視化する

倉庫バース予約システムやトラック動態管理を活用し、自社拠点および納品先での待機時間と手荷役時間を正確に測定します。

  1. 業界標準パレットの採用と検品レスに向けた取引先対話を開始する

自社仕様の運用を見直し、T11型レンタルパレットへの移行やASNデータの活用による検品レス化について、主要な卸・小売企業との協議の場を設定します。

参考記事: CLO義務化と年9万トン基準:経営層が挑む循環型物流の構築実務


出典: 物流(ロジスティクス)ニュース LNEWS
出典: LOGISTICS TODAY
出典: 内田洋行 物流ITコラム
出典: 流通ニュース
出典: ハコベル ウェビナーレポート

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監修者プロフィール
松本 章

松本 章

大手コンサルティングファームにてSCM(サプライチェーン・マネジメント)改善に従事。 その後、物流系スタートアップの経営メンバーとして事業運営に携わり、業界の課題解決を目指してLogiShiftを立ち上げ。 現在は物流DXメディア「LogiShift」を運営し、現場のリアルとテクノロジーを融合させた視点から情報発信を行っている。

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