2026年10月末の「中長期計画」提出期限が迫る中、社内に前例のない物流統括管理者(CLO)の役割や数値目標の置き方に頭を抱える現場リーダーは少なくありません。
この難局は、日清食品やSUBARUが実践するように「誰もが初代CLOであり、自らが手本となる」という決意のもと、経営の大義を掲げて社内外の知見を結集する「チームCLO」を確立することで突破できます。
物流統括管理者(CLO)と中長期計画の基礎知識
2026年4月に本格施行された改正物流効率化法により、大手荷主企業には経営レベルでの物流管理体制の構築が義務付けられました。
これに伴い、特定荷主に対して選任が義務化されたのが役員クラスの「物流統括管理者(CLO:Chief Logistics Officer)」です。
従来の物流部長とCLOの決定的な違い
CLOは、従来の「現場管理やコスト削減を担う物流部長」とは本質的に役割が異なります。
全社的なサプライチェーン最適化を主導するため、生産、調達、営業などの他部門に対して強い権限を発揮する経営責任者です。
| 比較項目 | 従来の物流担当部門長 | 物流統括管理者(CLO) |
|---|---|---|
| 役職・権限レベル | 部長級(現場管理・実行) | 役員級(経営判断・改善命令) |
| 主な活動目的 | コスト削減・輸配送の手配 | サプライチェーンの持続性担保 |
| 管轄領域 | 物流部門・自社倉庫 | 調達から製造・営業・販売まで |
| 外部連携の視点 | 個社最適・運送会社への発注 | 異業種混載・業界標準化 |
中長期計画で求められる主要KPI
特定荷主が2026年10月末までに提出を求められる「中長期計画」では、単なるスローガンではなく具体的な数値目標(KPI)の設定が必須となります。
行政が求める主な管理指標は以下の通りです。
- 荷待ち・荷役時間の削減: トラックの待機および荷役作業時間を合計で原則「2時間以内」に短縮する取り組み。
- 積載率の向上: 車両の積載効率を引き上げ、無駄な運行台数を抑制する施策。
- 商物分離と納品条件の適正化: リードタイムの延長や発注ロットの標準化による輸送負荷の平準化。
- モーダルシフトと共同物流: 鉄道・内航海運の活用や異業種混載による運行効率の最大化。
参考記事: 物流総括管理者設置義務とは?2026年施行に向けた選任基準と企業が備えるべき実務対策
なぜ今「自らが手本となる決意」が求められるのか
物流改革をめぐる環境は、法規制の強化と構造的な労働力不足により、抜本的な転換期を迎えています。
改正物流効率化法がもたらした規制環境の激変
2024年5月に公布された改正物流効率化法は、段階的な施行を経て特定荷主への法定義務を課しています。
施行スケジュールの推移と特定事業者が直面する法定義務は以下の通りです。
| 年月 | 法的フェーズ | 対象事業者 | 主な義務・取り組み内容 |
|---|---|---|---|
| 2025年4月 | 第1段階施行 | 全ての荷主・物流事業者 | 荷待ち削減や積載率向上に向けた努力義務の発生 |
| 2026年4月 | 第2段階施行 | 年間貨物取扱量9万トン以上の特定荷主 | 役員級CLOの選任、物流統括管理体制の構築 |
| 2026年10月末 | 初回提出期限 | 指定を受けた特定荷主3,200社超 | 中長期計画書の作成および主務官庁への電子申請 |
計画の策定を怠ったり是正命令に従わなかったりした場合には、最大100万円の罰金や「企業名の公表」という社会的ペナルティが科されます。
参考記事: 改正物流効率化法と野村総合研究所が示す輸送費34%増への必須対応
301人のアンケートが浮き彫りにした現場の苦悩
2026年8月24日に開催された「第9回物流議論×第4回CLOサロン」の事前アンケート(有効回答301人)では、多くの企業が抱えるリアルな課題が明らかになりました。
- 数値目標(KPI)の置き方: 45.2%
- 自社努力の限界・外部連携: 35.2%
- 手本がなく何から手を付ければよいか分からない: 11.0%
回答者の7割以上が「KPIの設定」や「自前主義の限界」に直面しています。
さらに、初代CLOの多くは物流の専門家ではなく、営業や生産、経営企画などを歩んできたジェネラリストです。
社内にロールモデルが存在しないからこそ、「誰もが初代CLOであり、自らが手本になる」という当事者意識が成否を分ける要因となっています。
先進企業が示すCLO主導の変革と具体的メリット
日清食品やSUBARUといった先行企業は、「物流の素人」であることを逆手に取り、社内外の垣根を越えた改革を推進しています。
日清食品:データ分析と着荷主連携による全体最適
日清食品の深井雅裕専務取締役CLOは、「2時間ルールや積載率はゴールではなくKPIにすぎない」と提言しています。
かつて手書きだったトラックの入退場記録をデジタル化し、待機時間が発生する原因構造をデータで可視化しました。
さらに、JAグループとの帰り便活用や飲料・ビールメーカーとの異業種混載、大手食品卸の三菱食品との協業を展開しています。
納品時間の見直しや商習慣の改善について、コスト構造を共有しながら着荷主と共に最適化を進めることで、積載効率の大幅な向上を実現しています。
参考記事: 2026年4月法改正へ日清食品のCLO選任後アクションで物流効率化が加速
SUBARU:荷役内製化と「選ばれる荷主」への進化
ジャストインタイム(JIT)生産を徹底するSUBARUの村田眞一執行役員CLOは、「選ばれる荷主になる」ことを明確な目標に据えています。
運送会社やドライバーに過度な負担をかけないため、新設の物流倉庫や工場においてフォークリフト荷役作業を自社要員で担う「荷役の内製化」を試行しました。
既存工場への横展開を進めることで、ドライバーの拘束時間を短縮し、運送事業者との強固な信頼関係を築いています。
参考記事: 物流コスト20%削減に直結するSUBARUのCLO主導改革
物流施設デベロッパーによる共有インフラの活用
自社努力だけで対応しきれない課題に対しては、物流プラットフォームの活用が有効です。
野村不動産の「Techrum(テクラム)」では、150社を超えるパートナー企業と連携し、自動化機器の導入検証から拠点選定までを包括的に支援しています。
物流施設を「単なる床の賃貸」から「課題解決の共有プラットフォーム」へと進化させることで、荷主企業の迅速なKPI達成を後押ししています。
| 企業名 | 推進体制 | 具体的な取り組み施策 | 得られた定量的・定性的成果 |
|---|---|---|---|
| 日清食品 | 深井雅裕 専務取締役CLO | バースデータ可視化、JAや三菱食品との連携 | 待機原因の特定、共同混載による積載率向上 |
| SUBARU | 村田眞一 執行役員CLO | 荷役作業の自社内製化、生産と物流の同期化 | ドライバー負担軽減、選ばれる荷主化の推進 |
| 野村不動産 | Techrumパートナーシップ | 150社以上の機器検証、共有インフラ提供 | 個社投資の抑制、自動化・標準化の迅速な実装 |
参考記事: 改正物流効率化法10月末計画提出に日清食品など3000社超が挑む必須対応
中長期計画を形骸化させない実践の3ステップ
中長期計画を「役所向けの提出書類」に終わらせず、企業の競争力へ変えるための実践的なアプローチを整理しました。
ステップ1:大義を掲げて社内の全部門を巻き込む
物流改革を進める際、営業部門の「即納対応」や生産部門の「押し出し生産」との間で利害対立が生じがちです。
各論での摩擦を防ぐには、「なぜ今サプライチェーンの強靭化が必要なのか」という全社的な大義を経営レベルで共有することが不可欠となります。
- 共通目的の明文化: 運送能力不足による出荷停止リスクを定量的に提示する。
- 改善命令権の付与: CLOの権限を社内規程に明記し、部門横断の意思決定力を担保する。
- コストの発生部門配賦: 営業部門の突発的な特急便手配にかかる費用を営業部門のP/Lへ反映する。
ステップ2:完璧を求めず「6割の完成度」でアジャイルに始動する
すべてのルートや取引先との合意を待っていては、計画は一歩も前に進みません。
まずは主要な拠点や特定の調達ラインに絞り、迅速に改善サイクルを回すことが成功の近道です。
- スモールスタートの徹底: 1つの配送ルートでバース予約システムを試験導入する。
- ダッシュボードによる可視化: 待機時間や積載率をデータ化し、月次で関係者へフィードバックする。
- 小さな成功体験の横展開: 特定拠点で得られたコスト削減実績をもとに、他部門や他工場へ拡大する。
ステップ3:一人に頼らない「チームCLO」を組織する
CLO一人に全ての課題解決を委ねる「スーパーマン型」の体制は破綻を招きます。
社内外の知見を柔軟に統合するチーム体制の構築が必要です。
- 社内複合チームの編成: 物流部門だけでなく、財務、IT、法務、営業のキーマンを参画させる。
- 外部専門家の積極登用: シンクタンクやコンサルタントの知見を中長期計画の策定に活用する。
- オープンな企業間対話: 異業種が集うサロンや勉強会へ参加し、共同配送のパートナーを開拓する。
明日から取り組むべきアクションプラン
2026年10月末の中長期計画初提出に向けて、経営層および現場リーダーは直ちに以下の行動を開始してください。
-
自社の年間取扱物量の精査と荷待ち実態の把握
自社およびグループ全体の物量が9万トン以上の「特定荷主」に該当するか確認し、現場の荷待ち・荷役時間を測定してデジタルデータ化します。 -
CLOを支える横断的タスクフォースの立ち上げ
経営企画、営業、調達、IT部門の代表者を集め、法対応を経営戦略へ昇華させるための「チームCLO」を社内に組織します。 -
外部プラットフォームや勉強会への参画
自前主義の限界を認め、デベロッパーの共有インフラ活用やCLOサロンのような企業間交流の場へ飛び込み、協調領域での連携を模索します。
物流を単なる「コスト」として扱う時代は終わりました。
自らが初代CLOとして手本となり、持続可能なサプライチェーンを築くための第一歩を踏み出しましょう。
出典: LOGISTICS TODAY
出典: 野村不動産Landport
出典: 経済産業省
出典: 全日本トラック協会
出典: 大和総研


