福山通運株式会社と株式会社T2は、神奈川県と兵庫県を結ぶ約510kmの中継輸送区間に、T2の自動運転トラックを組み込んだ実証的な運行を2026年8月26日より開始した。東名高速道路の綾瀬スマートICから中国自動車道の西宮北ICまでの約470kmでレベル2自動運転を実施し、将来のレベル4実装時に見込まれる輸送能力2倍化を視野に、24時間以内の往復運行成立可否を検証する。
福山通運とT2による中継輸送への自動運転トラック導入の全貌
福山通運とT2が開始した今回の取り組みは、長距離幹線輸送におけるドライバー不足や労働時間規制への対応策として運用されている中継輸送スキームに、自動運転フリートを直接組み込む試みである。
運行ルートと実証運用の詳細概要
本実証の運行区間、自動運転の適用範囲、検証対象となる地上拠点などの基本情報は以下の通りである。
| 項目 | 詳細内容 | 物流実務における意義・補足 |
|---|---|---|
| 運行開始日 | 2026年8月26日(2026年9月7日発表) | 実商流ネットワークを対象とした運用検証の開始 |
| 全体運行区間 | 藤沢支店(神奈川県)~加西支店(兵庫県) 約510km | 関東と九州・中四国を結ぶ長距離中継幹線ルート |
| レベル2自動運転区間 | 綾瀬スマートIC~西宮北IC 約470km | 高速道路巡航区間(全工程の9割以上)をシステム主導で走行 |
| 有人・無人切替拠点 | トランスゲート綾瀬、トランスゲート西宮北 | インターチェンジ近郊での乗り継ぎ・運行切替手順の確認 |
| 検証テーマ | 24時間以内の往復運行成立、福山通運通常便との連携 | レベル4実現時の「輸送能力2倍化」に向けた工程検証 |
本運行の対象ルートは、神奈川県藤沢市の福山通運藤沢支店と、兵庫県加西市の加西支店を結ぶ約510kmである。加西支店は、九州や中四国エリアから関東向けに集約される大量の貨物が中継される重要な結節ハブとして機能している。
このうち、東名高速道路の綾瀬スマートIC(神奈川県綾瀬市)から中国自動車道の西宮北IC(兵庫県西宮市)に至る約470kmの高速道路区間において、ドライバー監視のもとでシステムが加減速や操舵を支援する「レベル2自動運転」を実施する。料金所や一般道などの複雑な環境下では同乗するドライバーが運転操作を行い、高速道路の巡航区間では自動運行装置を活用する運用体系をとっている。
切替拠点「トランスゲート」を活用した運用フロー
今回の実証運行において重要な役割を果たすのが、T2が高速道路インターチェンジの至近に整備した無人/有人運転切替拠点「トランスゲート」である。
本行程では、東名高速道路に隣接する「トランスゲート綾瀬」および中国自動車道に隣接する「トランスゲート西宮北」へ立ち寄る運用が組み込まれている。これらの拠点は、将来的なレベル4(特定条件下における完全無人運転)の幹線輸送が認可された際、高速道路上の「無人自動走行」と、一般道における「ドライバーによる有人運転」をスムーズに引き継ぐための物理的な離着陸ステーションとなる。
実証では、トラックが切替拠点へ進入し、ドライバーの乗降や運行管理データの引き継ぎ、安全確認などを行う一連の手順が検証される。高速道路と一般道の境界となるIC周辺で生じるハンドオーバー(引き継ぎ)の作業フローを平準化し、定期運行に耐えうるオペレーションモデルの確立を図る。
今回の取り組みに至る経緯と資本提携のタイムライン
福山通運とT2は、これまで段階的に自動運転技術の社会実装に向けた連携を深めてきた。福山通運は広島県福山市に本社を構え、西日本から東日本へ向かう「上り便」が貨物全体の6〜7割を占めるという路線網の特性を持つ。長距離運行の持続可能性を確保するため、同社はT2への出資を含む深いパートナーシップを構築してきた。
両社の連携に関する主な経緯は以下の通りである。
| 年月 | 出来事・取り組み内容 | 意義・詳細 |
|---|---|---|
| 2024年12月 | 関東・関西間高速道路の一部区間における公道実証に参画 | セイノーホールディングスとともにT2の実証実験に参加 |
| 2025年7月 | 国内初のレベル2自動運転トラック商用運行へ参画 | 初期ユーザー5社の1社として商用フェーズでの活用を開始 |
| 2025年8月 | 福山通運がT2のプレシリーズBラウンドで出資を実施 | 総額50億円(T2累計110.7億円)の調達に引受先として参加 |
| 2026年4月 | T2が切替拠点「トランスゲート綾瀬」を開設 | 東名高速・綾瀬スマートIC近郊に有人・無人切替拠点を整備 |
| 2026年6月 | T2が「トランスゲート西宮北」を開設・料金所自動通行に成功 | 左右マージン約25cmの料金所自動走行と関西拠点を整備 |
| 2026年8月 | 藤沢支店〜加西支店間(約510km)での中継輸送検証を開始 | 通常トラックとの連携および24時間以内往復運行を検証 |
| 2027年度以降 | 高速道路上でのレベル4完全無人幹線輸送サービスの開始目標 | ドライバーなしの幹線自動運行による抜本的な生産性向上 |
2024年12月の公道実証参画を経て、福山通運は2025年7月にT2が国内で初めて事業化したレベル2自動運転トラックの商用運行に初期ユーザーとして参加した。さらに翌8月にはT2への直接出資を実施し、資本・業務の両面から自動運転プラットフォームの開発を後押ししてきた。今回の加西支店〜藤沢支店間における中継輸送の検証は、両社が蓄積してきた実証データをベースに、実際の特別積合せ(特積み)幹線ネットワークへ自動化技術を組み込む具体的な運用テストである。
参考記事: 株式会社T2が国交省自動運転支援事業に採択|2027年度の幹線レベル4実装が加速
労働時間規制と輸送能力不足推計を背景とする構造課題
本実証の背景には、トラックドライバーの労働環境改善を目的とした法令改正と、それに伴う長距離幹線輸送の維持困難という構造的な問題が存在する。
2024年4月1日より、働き方改革関連法に基づき自動車運転業務に対して年間960時間の時間外労働上限規制が適用された。これと同時に「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」が改正され、1年の拘束時間は原則3,300時間以内、1日の急速期間は継続11時間を基本とし9時間を下回らないこと、さらに連続運転時間は4時間以内(または4時間経過直後に30分以上の休憩)といった厳格なルールが義務付けられている。
これらの規制により、関東から関西・中四国方面へ向かう長距離幹線輸送において、ドライバー1名体制での日帰り運行や往復運行は物理的に不可能となった。片道の運行だけで1日の許容拘束時間に達するため、宿泊を伴う運行形態をとらざるを得ず、車両と人員の拘束時間が長期化して稼働効率が著しく低下していた。
株式会社NX総合研究所の推計によると、改善基準告示の改正等に対して有効な対策を講じなかった場合、2024年時点で営業用トラック輸送全体の14.2%(約4.0億トン相当)の輸送能力が不足し、2030年度には需要に対して34.1%(約9.0億トン相当)が不足するという需給ギャップが生じると予測されている。
また、政府は2021年度より経済産業省・国土交通省の「RoAD to the L4(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト)」を推進しており、2025年3月からは新東名高速道路の一部区間で自動運転車優先レーンを用いた実証を行うなど、幹線物流の無人化に向けた法整備とインフラ構築を加速させている。福山通運とT2の取り組みは、こうした法改正と政策方針に歩調を合わせ、実効性のある運行スキームを民間の実運送現場で具体化させる動きである。
参考記事: 中継輸送とは?長距離運行の日帰り化を実現する仕組みと導入ステップ
幹線自動化がもたらす物流主要プレイヤーへの影響
自動運転トラックが既存の中継輸送網に組み込まれ、将来的なレベル4運行への移行が進むことは、運送事業者、現場ドライバー、テクノロジーベンダーのそれぞれに明確な業務変革をもたらす。
運送事業者:往復運行による輸送能力2倍化と車両回転率の向上
運送事業者にとって、高速道路区間の自動化は「ドライバー1人あたりの生産性の壁」を打破する手段となる。
現行の労働法規下では、関東〜関西間(片道約500km)の幹線輸送を1名のドライバーで運行する場合、片道走行後に現地で休息期間を取得しなければならず、1台のトラックが1日に行える輸送は「上り」または「下り」の片道1運行にとどまる。車両とシャーシは現地で停留し、翌日以降に復路を運行する運用が一般的である。
しかし、高速道路本線が無人走行となるレベル4が実現すれば、ドライバーの拘束時間制限に縛られることなくトラックを連続稼働させることが可能となる。藤沢支店と加西支店の間を24時間以内に往復運行できれば、同じ車両台数であっても輸送能力は少なくとも2倍に跳ね上がる。車両の減価償却効率や運行コスト当たりの積載トン数は大幅に改善し、長距離特積み輸送のネットワークを少ないフリート数で維持できるようになる。
参考記事: 三井倉庫ロジとT2、456km自動運転実証で産業機械の定期輸送を検証
ドライバー:長距離車中泊からの解放と地場運行・日帰り勤務への転換
現場のトラックドライバーにとっては、就業環境の抜本的な改善と働き方の選択肢拡大に直結する。
従来の長距離幹線ドライバーは、深夜帯の連続走行や高速道路SA・PAでの車中泊を余儀なくされ、身体的な疲労や拘束時間の長さが常態化していた。自動運転トラックと中継拠点を組み合わせた運行モデルが定着すれば、高速道路の長距離巡航はシステムが担うため、ドライバーの主業務は「拠点からトランスゲートまで」および「トランスゲートから納品支店まで」の一般道区間(ファーストマイル・ラストマイル)に限定される。
運行範囲が各地域のIC近郊に集約されることで、長距離乗務員であっても日帰り勤務が可能となり、夜間拘束や連泊運行が解消される。拘束時間が明確に管理されるホワイトな労働環境が整うことで、若年層や女性、地元志向のドライバーの確保が容易になり、深刻化する担い手不足の抑止につながる。
参考記事: 王子物流とT2が関東―関西約510kmで自動運転商用輸送を開始、幹線省人化が加速
SaaS・テクノロジーベンダー:自動運転フリートと拠点オペレーションを同期する調停基盤の商機
物流系システムを開発するSaaSベンダーやITプロバイダーにとっては、自動運転車両と有人運行をシームレスに同期させる新たな管理システムの需要が拡大する。
高速道路区間が無人化されたとしても、トランスゲートでの乗り継ぎや荷役作業においてタイムロスが生じれば、24時間以内の往復運行は成立しない。そのため、テクノロジーベンダーには以下のような高度な機能を提供するシステム基盤の開発が求められる。
- 自動運転トラックの動態情報と到着予定時刻(ETA)を高精度に算出する運行管理システム(TMS)
- トランスゲートにおける有人ドライバーの待機時間や乗り継ぎスケジュールを自動最適化する配車アルゴリズム
- 運送事業者の基幹システムと自動運転運行プラットフォームを接続する標準API連携モジュール
- シャーシやスワップボディコンテナの脱着ステータスをリアルタイムで追跡するアセット追跡基盤
自動運転車単体の制御にとどまらず、地上拠点、有人ドライバー、荷主の出荷指示を統合してオーケストレーション(調停)するフリートマネジメント基盤の構築が、今後の物流IT市場における主要な競争領域となる。
参考記事: 株式会社T2が左右25cmの隙間を自動通行、無人輸送実現に直結
LogiShiftの視点:幹線輸送の「パイプライン化」と標準インターフェースへの構造転換
福山通運とT2による中継輸送への自動運転トラック導入は、日本の幹線物流網がドライバー個人の労働力に依存するモデルから、高速道路を巨大な「物理パイプライン」として活用する装置産業型モデルへと転換し始めたことを明確に示している。
物理的制約の解消とハイブリッド型運行の不可逆性
長年、運送事業者が直面してきた最大のボトルネックは、改善基準告示による「人間の拘束時間」という生物学的な物理限界であった。1日9時間以上の休息期間や連続運転時間の制限は、交通安全の観点から不可欠である一方、関東〜関西・九州間という長距離のサプライチェーンを維持する上では輸送キャパシティを直接的に削る要因となっていた。
今回の取り組みが提示した本質的な解法は、高速道路の幹線区間を「システム主導の無人・省人パイプライン」として切り離し、複雑な市街地走行や顧客対応が発生する一般道区間のみに「人間の労働力」を集中的に投下するハイブリッド型運行の確立である。
高速道路をコンベヤベルトのように機能させ、インターチェンジ至近のトランスゲートをハブとして有人トラックと接続するこの形態は、労働時間規制を遵守しながら幹線輸送量を最大化するための極めて合理的な帰結である。長距離区間を1台のトラックと1名のドライバーが通しで走行する従来の形態は、コストと労働力の両面から維持が困難となり、パイプライン接続型の中継モデルへと構造的に集約されていく。
24時間往復モデルを成立させる「荷役分離」の絶対条件
本実証において「24時間以内の往復運行完了」が検証テーマに据えられている点は、実務上極めて重い意味を持つ。自動運転トラックが高速道路をどれほど遅滞なく巡航したとしても、発着支店やトランスゲートでの荷役・待機時間が長引けば、24時間以内の往復スケジュールは瞬時に崩壊するためである。
自動運転フリートの稼働率を極限まで高めるためには、車両が拠点に到着した瞬間に荷物の受け渡しが完了する「荷役分離(アンバンドル化)」が前提条件となる。
具体的には、パレット輸送の標準化(T11型パレット等の導入)によるバラ積み作業の完全排除や、トラクターヘッドと荷台を迅速に切り離せるスワップボディコンテナ、セミトレーラーを活用した「ドロップ&フック」運行の定着が不可欠である。手作業による荷降ろしに数時間を費やすような旧来の現場運用を残したままでは、高額な自動運転車両の投資対効果(ROI)を回収することはできない。荷役分離を完了させ、自動運転パイプラインの運用ダイヤに物理インターフェースを適合させた事業者のみが、輸送力2倍化の恩恵を享受できる。
参考記事: 株式会社T2が国交省事業に採択、2026年1月からの共同実証で幹線無人化が加速
まとめ:明日から意識すべきアクション
福山通運とT2による510km中継輸送の実証開始は、2027年度以降のレベル4幹線無人輸送が、実験室の議論を終えて既存の路線網へ組み込まれる段階に入ったことを示している。自動化される幹線物流インフラへの適応に向けて、物流関係者が明日から取り組むべきアクションは以下の3点である。
- 自社幹線ルートの運行データ棚卸しとトランスゲート接続性の検証
現在運行している長距離便の運行ダイヤ、実走行時間、休憩・荷待ち時間をデータとして可視化し、既存の中継拠点やIC周辺の切替拠点(トランスゲート等)を経由した運行スキームへ再編可能かをシミュレーションする。
- 荷役分離を前提とした積載形態の標準化推進
幹線便に投入する貨物のパレット化比率を引き上げ、手作業によるバラ積みを削減するとともに、スワップボディやトレーラーシャーシを活用した切り離し運用(ドロップ&フック)への適合性を検証する。
- 運行管理システム(TMS)のAPI連携要件の確認
自社で利用している運行管理システムや動態管理システムが、外部の自動運転プラットフォームや中継ハブの入出退管理システムとデータ連携(API接続)できる仕様になっているかを確認し、システム改修の要件定義に着手する。
出典: プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES
出典: T2 プレスリリース(プレシリーズBラウンド資金調達)
出典: T2 公式note(福山通運インタビュー)
出典: NX総合研究所(物流の2024年問題・2030年問題推計)



